学校教育の情報化に関する懇談会(第12回)議事概要

1 日時

平成23年4月15日(金曜日)17時~19時

2 場所

文部科学省東館3F講堂

3 委員出席者(敬称略)

天野一、新井紀子、安西祐一郎、五十嵐俊子、市川寛、馬野耕至、小城武彦、國定勇人、重木昭信、関口和一、千葉薫、中村伊知哉、西野和典、野中陽一、堀田龍也、三宅なほみ、宮澤賀津雄、村上輝康

4 文部科学省出席者

鈴木文部科学副大臣、笠文部科学政務官、清水文部科学事務次官、金森文部科学審議官、板東生涯学習政策局長、山中初等中等教育局長、伊藤大臣官房審議官(生涯学習政策局担当)、尾崎大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、德久大臣官房審議官(初等中等教育局担当)、中岡初等中等教育企画課長、平林初等中等教育局教育課程課長、梶山初等中等教育局教育課程企画室長、森初等中等教育局教科書課長、永山文化庁著作権課長、齋藤参事官(学習情報政策担当)、増子参事官付情報政策室長、三谷参事官付企画官、妹尾参事官補佐、神代国立教育政策研究所教育課程研究センター長

5 議事概要

 齋藤参事官より、資料1(教育の情報化ビジョン(案))に基づき、説明。

【馬野委員】

 デジタル教科書の定義について、イメージ図に沿って素直に定義すればよろしいのではないか。つまり、本文には、「デジタル教科書とは、高速無線通信が可能な情報端末向けの教材のうち、既存の教科書の内容と、それを閲覧するためのソフトウェアに加え、編集、移動、追加、削除、採点などの基本機能を備えるもの」と記述し、その上で、脚注に37ページのデジタル教科書・教材イメージ(例)を参照するように書き添えてはどうか。

 「近時、不正行為に情報通信技術を使用した事案が発生しており」とあるが、これは、京都大学での入試の携帯電話を使った不正行為のことだと思うが、そのことがわかるように記述すべきではないか。

 東日本大震災において、インターネット上でデマだとか流言飛語が飛び交ったが、その対策のために関係省庁がワーキングチームを設置したということがあった。情報通信技術の発展によって、あらゆる人が簡単に情報を発信できるようになり、情報発信者としてのモラルやマナーの問題が非常に重要になってきていると考える。このビジョンがどのような時代状況のもとでまとめられたのかを多少なりともかいま見せるためにも、「2011年の大学入試では、受験生による携帯メールを使った不正行為が発覚、東日本大震災では、インターネット上で国民の不安をあおる流言飛語が飛び交った。このため、情報モラル教育の中でも、特に道徳を始め各教科書等での指導を通して、情報社会における基本的なルールやマナー、情報通信技術の安全な活用など、情報を活用する場面での基本的な考え方や態度を育成することが一層重要になってきている」と記述してはどうか。

【千葉委員】  

 モラル教育について、特定の事案だけを取り上げるのはどうかと思う。中学生、小学生、高校生においては、それ以上に様々な例が出ている。ある程度幅広い情報モラル教育という考え方で構成した方がよいと思う。

【関口委員】  

 具体的な明示まではなくとも、大学入試という極めて重要なところで起きたと、読んだ方がすぐ連想できるような形で記述してよいのではないか。1つの例示という形の記述にすればよいと考える。

 大震災の件について、これは明治維新や終戦などに匹敵するぐらいの日本の社会、経済、政治のパラダイムが変わる大きな節目だと思う。前文のどこかにそのことは触れてもよいのではないかと思う。

【重木委員】  

 今回の東日本大震災を踏まえて考えると、避難所として使われているのは学校が圧倒的に多いという事態で、我が社もいろいろ支援物資などを送ったりしようと努力したが、なかなか現地ニーズの情報が入ってこず、情報通信手段が非常に不足していると感じた。避難所として初めから使われることがわかっているのであれば、各避難所となるような学校には、あらかじめかなり太い光ファイバーや、光ファイバーが切れても通信できるようなマイクロ波による通信設備をあらかじめ具備しておき、電気が来なくなっても使えるようにソーラーパネルや燃料電池を配備して、パソコンも被災時に備えて20~30台置いておいてもよいのではないか。決してそれは平時それが無駄になるということではなく、情報教育のことを考えると、平時からそれを有効活用して情報教育に充てていくこともできると考える。

【五十嵐委員】  

 今の意見に賛成である。今回の震災で痛感したのは、学校は地域の中の教育や文化の中心だけではなく、情報基盤にもなるということである。本校には太陽光発電の設備があるが、発電だけで蓄電ができていないという現状もそのときわかった。避難所にもなり得るので、非常時にはきちんと情報基盤ができているという状況を整備しなければならないと思った。学校は地域の情報基盤の根拠地であるという前提のもとの整備がいかに大事かということを感じた。日ごろ子どもたちの学びに使っているパソコンも、いざというときに役立つと感じた。

【堀田委員】  

 東日本大震災のことで申し上げると、ツイッターが役に立ったという話と、それによっていろんなチェーンメール的なものが増幅していったという事実があった。情報通信技術の安全な活用ということも大事なことだが、メディア経由の情報を適切に判断する力が更に必要であり、ICTを活用する力だけではなく、情報を適切に判断する力をきちんと教育していくべきだという文言を本文に加えるべきではないか。

【市川委員】  

 「はじめに」について、国際社会との共存、協力というところの記述が欲しいというのがあるが、おおむね賛成である。

 海外メディアが今回の震災に対して、日本人の節度ある態度を高く評価しているということを聞くのは大変うれしい。これは経済的な基盤があって、日本が成熟した国家であるということだと思う。今回、震災で各国が支援に来ている状況を見ると、やはり国を超えた学び合いや教え合いがあると思った。これにICTが寄与していることは明白だと思う。現場や原発の被災地などにおいても、国や地域を超えた人々のコミュニケーションが正しく進められなければならないという状況が出現していると思う。これからの時代を生きる子どもたちは、このような状況の中で、できるだけ正しい社会的、科学的な知識と、メディア理解のリテラシーを身につけて、適正にコミュニケーションしていく態度とスキルが必要であるということを痛感した。

【三宅委員】  

 思考力・判断力・表現力と主体的に学習に取り組む態度の育成が大事である。今の時代において、世界とのコミュニケーションが大事になってきているということを考えたときに、強調されていてほしいと思うことは、ITが普及して教材が変わり、教育のやり方が変わっていく中で、一人一人がしっかり自分の考えが持てるようになっていくということである。協働学習と呼ばれているものについて、みんなが同じ考えになればよいと読めなくもない記述だけで終わっているのではないか。子ども同士がお互いの考え方の吟味を通して一人一人の学びを確実なものにすること、学校外や海外との交流事業を通じてお互いを高め合う学びを進めることという形にすれば、全体としての整合性がよくなると思う。

【野中委員】  

 図表の整合性について、例えば個別学習(思考を深める活動)と書いてあるが、個別学習が多く記述されているのは基礎的・基本的な知識・技能の習得のところで、思考力・判断力・表現力のところでは「思考を深める」という文言は見当たらない。

 CIOを文部科学省の機能として持たせるというような話が付け加わった。また、以前、教育の情報化に関する総合的・継続的な調査研究及び推進を行う基盤の確保という話があったと思うが、その関連性、例えば、CIOとしての機能として、ビジョンをつくるというのは当然あるわけだが、それはエビデンスに基づくということであれば、その調査・研究の基盤との関係というのが重要だと思う。

【村上委員】  

 震災とこの報告書との関係について、現在の段階でソーシャルメディアも含めて、情報がこの震災の中でどういう扱われ方をして、それに対して我々はどういう評価をすべきかについて、まだ総括できていないと思っている。最初の段階でソーシャルメディアの中でものすごい勢いでデマが出たのは確かだが、ソーシャルメディアの中に関する限り、それを抑止する動きもそのソーシャルメディアの中から出てきたということも事実である。ただ、それを見ていた人と見ていなかった人、見ていてもわかる人とわからない人の間の差は非常に大きかった。そういうものが一体我々の社会にとってどのような意味を持っているかということについては、もう少し突っ込んだ議論が必要であると思う。報告書は後に残るものであるが、震災後の今現在で、適切な書き方ができるかどうかの自信がない。ただ、「はじめに」のところで震災の影響について全く触れないというのもおかしいと思う。ここで議論をすべきなのは、震災後にこの報告書を出すわけであるが、震災前に我々が議論してきたことを、震災後の現在、大きく変えなければいけないのかどうかということだと思う。震災を経ても、我々が議論してきた「教育の情報化ビジョン」の大筋は変える必要はないのではないかと考える。

 議論がスタートしたときのことを思い返すと、よくここまですばらしいビジョンになったと思う。21世紀の教育情報化の具体的な姿も見えるようになり、非常に骨太のストーリーが通っていると思う。全体を読み返してみて思うのは、協働的な学びを真正面から据えてこのビジョンの中に書き込むということは、非常に画期的なポイントだと思っている。ただ、協働的な学びについて、ICTを非常にヘビーに使うことによって実現していく世界は、恐らく教員にとってみると非常に大きなチャレンジであるし、すべてがフロンティアにあるものだという気がする。このビジョン全体として、やっぱり今現在の学びの姿をベースにして記述されており、協働的な学びをベースにして記述しているわけではないと思う。ただ、教員の立場から考えると、自分たち自身が協働的に創意工夫をしていく部分がもっとあってもよいのではないか。

【安西座長】  

 協働学習、特にICTを入れた場合にどうすれば教えられるのかということについての具体的な姿は、教育現場においては見えていないのではないかと思うので、是非そういう問題意識は持ち続けていただければ有り難いと思っている。また、特に大震災が起こったことを踏まえて文章をかなり変えていくべきかどうかということは大事なところなので、意見を伺えればと思う。

【関口委員】  

 大震災については、やはり入れていく必要があるのではないか。先ほど国際競争力の話があったが、なぜ国際競争力をここにうたったかというと、経済活動がグローバル化して、どんどんフラットな世界が出てきている中で、日本の競争力が落ちているのは、それはひとえに情報通信技術がそういう環境を促しているわけで、日本の若い人たちにもそうした情報通信技術を使いこなしてもらわなければならないという意味で、国際競争力の話が出てきたと思う。一方、今回の震災が我々に示唆したことは、情報インフラの有無によって人の生死まで分けてしまう、あるいはインフラがあっても、使いこなせなければ意味がなく、情報リテラシーや情報を共有できるハードを含めたインフラの重要性だと思う。学校を中心にそういったインフラを整備していく必要があるということで言えば、国際競争力と震災というのは並列的に整理できるのではないか。

 ソーシャルメディアについては、まだ評価が難しい。ソーシャルメディアは、広い意味での情報基盤の一部なので、広い意味での情報インフラ、情報リテラシーなどの記述にしたらよいと思う。

【安西座長】  

 個人的には、学校における電力供給、通信ラインは常に確保されているような学校であってほしいと思う。

【中村委員】 

 先日、IT復興円卓会議という官民のシンポジウムを開催した。これは情報通信分野の復興策を、政官産学合わせて50名程度の方々、この懇談会からも複数の委員の方に参加いただいたが、やはり教育の情報化が重要だという複数の指摘があった。それらは、教材やコンテンツをデジタル化し、クラウド化を進めることを、復興策の中でも位置付けていくべきだということ、避難場所としての学校での情報共有方法を整備すること、様々なメディアを使いこなす情報リテラシー教育がこれからますます重要になっていくということである。震災後、我々が議論してきた方向性が変わるということではなく、一層重要性が高まってきているという大きな考え方を「はじめに」のところで記述すればよいと思う。

 日本の復興策が論じられていく中で、教育の情報化は非常に重要なテーマであるということを、このビジョンをプレイアップして推進していくという立場が大事だと思う。

【新井委員】  

 私はやや考え方を異にする。今回の震災で向こう10年くらいは電力が慢性的に不足するということが予想されている中で、本当にデジタル教科書をすべての小中学生に配る方向というのが正しいのかは、電力という意味で検討すべきあると思う。

 学校教育のデジタル化に関して、安心・安全な学校を実現するためのデジタル化ということについては、今まで安心・安全という言葉は、これまで記述されていなかったと改めて思った。今後、例えば災害時、あるいはパンデミックのような際に、学校の情報基盤が複数の経路で確保されていないと学校の安心・安全は確保できないので、その部分をできる限り迅速に情報化してほしいという意見を出したことがあるが、それについては、学校の情報基盤、特に安心・安全ということを考えると、例えば学校ウェブサイト、教員のウェブメール、そして学校グループウェアが完備されていることが何より望ましい。災害時等の緊急時に児童生徒、保護者、教員に対して迅速かつ的確に情報を伝達するための手段を携帯メール、インターネット等複数備えておく必要がある。その中心に、インターネットを用いた教育情報基盤を位置付けるべきであると思う。

 今回、震災対応のこととして、主として入っているのは、情報端末・デジタル環境・ネットワーク環境等の部分である。学校自身に、例えば太いネットワークや、場合によっては自家発電の装置といったものを入れるという話だったかと思う。しかし、学校自体が被災してしまったという場合には動かない。今回の震災において唯一動いたのは、クラウド上に出していた、CMSでつくったウェブサイトとグループウェアであった。それとウェブメールであった。岩手県は、すぐにグループウェアを使って、教育センターの職員が大船渡市等、沿岸にある学校に職員が行って、今どういう状況かということを見てきた状況をグループウェアに書き込み、すべての指導主事がそれを共有するということができた。その際は、ウェブは使えない。結局、携帯になる。したがって、CMSが国内の主要携帯に対応していなければならない。単にCMSということではなくて、国内の主要携帯に対応したCMSであることが非常に重要だったと聞いた。そこで、どういうような情報基盤が整えられれば安心・安全な学校を災害時、あるいはパンデミック等の非常時にでも運用できるかということを資料にまとめて提出した。

 学校と保護者、教員の間の情報共有が迅速に行われてこそ、安心・安全に学校というものが運営できると思っている。したがって、校務の情報化のところにきちんとそのことを書いていく必要があろうと思う。

【安西座長】  

 この「教育の情報化ビジョン」は、単にデジタル機器を入れようといった話ではないので、日本がつくっていくべき21世紀の学校、学びの在り方のモデルにしていっていただきたい。それは安全・安心ということも含めて、この機会に是非取り上げていっていただけないか。教育の情報化ということをわい小化せずに、この大震災をきっかけに、これからの時代の学びの在り方を是非つくっていっていただけないかということが、個人的な思いでもあり、皆様もそう思われることを期待している。

【三宅委員】  

 ネットワーク環境について、ハイスピードであるということが最初に強調されるという形になっているが、必要なときにきちんと稼働することの方が重要である。

【小城委員】  

 21世紀に生きる子どもたちが求められる力が足らないということが主として議論されてきたように思う。今回の震災で我々が気づいたことは、海外から称賛される日本人の在り方である。足らない部分は当然あり、そこは力をつけなければならないので、総じて大きな筋は変わらないと思うが、やはり我々が気づかなかったが持っていたものを、この機会にもう一回考え直す時間があったわけで、そこは是非大事にするという視点を逃してはならないと思う。

 グローバルにコンピートするという視点だけで本当によいのか。それは大事だが、それに加えて、日本人が気づかなかったけれども持っている強みがより強まるような学校情報化、教育の情報化にしないともったいない。地縁、血縁、ローカルというところとグローバルとのバランスをどう取るかは大変難しいと思うが、この震災のこの時期に我々がこの場にいるということは、それをもう一回考えた上で、バランスを取ると思考も必要なのではないかと思っている。やや自信喪失だった日本人が、大変悲劇の中でも少し自分たちに対するよい面と見た機会でもあったので、そこは少しポジティブに取り組み、かつ、この情報化がそれをエンハンスするような形にしたらどうか。

【安西座長】 

 地域によって立つ学校として、学校の教育が安全で安心に、それを情報基盤で支えていけるということは、大震災後に学校を新たにつくっていかなければならないという状況があると思うので、そういう意味でのモデルにしていっていただきたいと心から思っている。

 鈴木副大臣、笠政務官からあいさつをいただければと思う。

【鈴木文部科学副大臣】  

 本日も参加いただき、感謝申し上げる。3月16日にこの懇談会の開催を予定していたが、震災の影響によって予定を変更したことを御理解いただきたい。

 引き続き震災や原発対応に追われているが、今回、福島県新地町の小学校で地デジテレビが避難所の体育館に備えつけられて、非常に役に立った、情報支援員が避難所にいらっしゃって、情報収集が円滑に行えたなど、改めて教育の情報化をやってきたことのよかった側面を痛感している。

 文部科学省では、原子力の20キロ以遠のモニタリングをやっており、文部科学省ホームページに、いろいろなICT関連事業者や大学関係者の御協力を得てアップしているが、改めてデジタルリテラシー、ICTリテラシーの有無で、こういう時期に非常に重要な情報へのアクセスやそれに対する理解が変わってくることをまざまざと見せられた。そういう意味でも、学校教育の情報化、少なくとも現在義務教育、あるいは高校教育で学ぶ若者たちには、生きる力のコアとして、ICTあるいはコミュニケーションについての教育を徹底していくべきであると感じている。

 先ほど校務の情報化のお話もあった。クラウドの問題も大変適切な提案を頂いた。このことについてどのようにしていけばよいのかを考えていたところであったので、大いに参考にさせていただきたい。

 これまでの御尽力に心から感謝を申し上げるとともに、また新しい課題を我々は負ったわけなので、引き続き皆様方のいろいろな形での御指導と御支援をお願い申し上げたい。

【笠文部科学政務官】  

 今日は鈴木副大臣とともに、福島の原発の対応で打合せがあり、遅くなったことをおわび申し上げる。

 3月20日に岩手県、仙台に行ってきた。恐らく今日も議論になったと思うが、学校の校務文書等が学校ごと、教育委員会ごと失われているような状況の中で、改めてこの情報化に関する懇談会でのとりまとめに当たって、危機管理の面からもいろいろな提言を頂いているようなので、参考にしていかなければならないと思っている。

 先ほど安西座長がおっしゃったように、こういう大変なときで、ともすれば、この情報化、あるいは学びのイノベーション事業と、それでなくても若干いろいろな予算に関する折衝の中で厳しく政府の中で見られていたところであるが、東北の復興へ向けて、ある意味新しい学校の再生というものをしていくときに、これはもちろん中身の部分、学ぶ子どもたちの立場に立って、これからの日本のモデルケースになるようなすばらしい学校をつくっていくような応援ができればと思っている。本日がいよいよ最終回の議論であるが、今回まとめていただいたものをしっかりと私どもは受けとめて、今後につなげていきたいと思う。これまでの委員の皆様方の御尽力に感謝を申し上げたい。

【安西座長】  

 鈴木副大臣、笠政務官、文部科学省には、この機会に日本の教育を本当の意味で再生させていくということを是非始めていただきたい。

【國定委員】  

 私たちの町は、新潟県にある三条市であるが、南相馬、双葉、大熊、浪江を中心とした皆様方620人を集団避難ということで受け入れている。4つの避難所を開設して、対応に当たっている。

 私たちは、6年半前に7.13水害という大きな水害で被害を受けた。当時、市の職員であった私は、本当に大変な思いをした。そのときに感じていたのは、今回も感じていることだが、学校は避難所だけではなく、その地域の基盤のよりどころだということである。この重要性は非常に大切にしていくべきだと思っている。

 この「教育の情報化ビジョン」は、平常時にずっと意見の積み重ねをしてきた分野であり、避難所としての学校と、学校としての学校は整理して考えるべきである。その前提で考えると、東日本大震災のことは触れた方がよいと思うが、ドラスティックに内容を変えてまで再構築する必要はないと思う。

 避難所としての学校ということを考えても、情報通信の拠点性をより高く持っていかなければならないことは、疑いのない事実だと思う。私どもが実際に経験したこととして、水害だったので、市役所からふだんであれば車で5分ぐらいの距離の小学校に行くのに、川を渡らなければならないが、川の向こう側が切れてしまったので、人が情報と食料を持って向こう側にたどり着き、帰ってくるまで、初日はほぼ24時間かかってしまったという実態があった。まずは情報をタイムリーにダイレクトに、本部と避難所に置かれる支部との間でしっかりと情報がやりとりできるということは生命線であり、最初の24時間の動きの成否に尽きると思っている。現実の避難所運営は学校の先生方はノータッチである。学校という場所を使っているだけで、現実にまわすのは自治体の職員である。一般事務系の職員や技術屋など、あるいは、その地域の方々が中に入ってやることになる。したがって、建物としての学校と学校現場としての学校は分けなければならない。ただ、そうは言っても、東日本大震災というものを契機として、今回の震災に遭ってのありようについて、提言をしていくべきではないかということもあろうと思う。ビジョンとは別に緊急アピールをこの懇談会としてまとめていくというのはどうか。今回の復興に当たっては、こういうときだからこそ、ビジョンに沿った形での理想的な教育環境づくりをできるハードとしての学校をつくっていくべきではないか。災害時のことを考えたときに、避難所としての機能も大変重要視されるので、電力の確保や情報通信手段の確保などは、これはマストの条件としてやっていかなければならない。それは被災地だけではなく、日本全体の拠点となる小学校・中学校に求められるものだということを別個にアピールしていくことが、今やるべきアクションとして適切ではないか。

【安西座長】  

 そのアピールについては、文部科学省と相談をしなければならないと思う。なお、私が申し上げたのは、大震災にものすごく傾斜して記述するということではなく、学びの在り方、施設、安全・安心な情報基盤ということも含めた学校の在り方を、情報化ということをわい小化せずにきちんと言っていくべきであり、文部科学省も取り上げてほしい。これからの日本のことを考えると、やらなければならないことではないかということである。

【西野委員】  

 12回の懇談会を経て、すばらしい「教育の情報化ビジョン」ができ上がったと思う。あとは、このビジョンをどのように実行していくかだと思っている。

 文部科学省において、教育の情報化に関するCIO機能を設けることも考えられるという記述があるが、きちんと実行されているのかどうかを評価し、改善につなげていくという部分をどのようにしていくのかを考えていくときに、このCIO機能が非常に大事になってくると思う。文部科学省としてこのビジョンを出したわけなので、きちんと実行されているかをチェックしていただき、それを改善して、また10年後に新たな「教育の情報化ビジョン」を出すようなPDCAサイクルを回していくということが大事なのではないか。

 この会議に参加する前に、大学eラーニング協議会の会議に参加してきた。例えば基幹大学を決めて、そこからeラーニングで学んでもらうとすると、その基幹大学がもし震災で機能が麻ひしてしまったらどうするという話になるので、やはりクラウドを使う、堅ろうなシステムのもとでやっていく方がよいのではないかということを話してきた。震災のこの機においては、クラウドの有効性があると考える。

 震災において外国のメディア等で日本人の資質の高さが報道されているようだが、やはり隣の人たちと手を取り合って助け合うということになると、多様性を認め合う教育の精神が出ているのではないかと思う。「一人一人の子どもたちの多様性を尊重しつつ」という記述があるが、これは教育する側からの多様性を尊重するというメッセージであるが、そもそも子どもたちが他者を尊重するという精神をどこかに記述できればと考えている。

【堀田委員】  

 校務支援の充実についてであるが、校務情報のクラウドでの保存・共有があるとしても、安否確認や情報提供も含めて学校ホームページがあるので、そのことに触れたらよいのではないか。また、主として申し上げたいこととして、これからの実証研究の件がある。これは、総務省がこれまで行ってきたフューチャースクールと連携して行うということになっている。フューチャースクール側の構成員として申し上げるが、10校の公立の一般の小学校で数百台のパソコンが児童数分入っており、動くはずのものが動かないというところからスタートし、混乱し、ようやく落ちつき始めた。先生方はこれを前向きにとらえ、努力して実践化しようとしており、地元の企業や教育研究者が学校に入って丁寧に対応し、ようやく軌道に乗り始めている状況である。その中で、ちょうどこの4月から学習指導要領が変わったので、厚くなった教科書をもとに、先生方は平時としての学習指導も行う上に、フューチャースクールも本格稼働になる。そこに実証研究が乗っかっていくということを考えたときに心配なのがこの実証校の過負荷である。もちろん前向きに取り組んでいただくが、過負荷にならないように丁寧に対応を考えていただく必要があると思う。例えば、特に取り組む部分を課題選択していただいたり、地元の研究者が入っているので、そういう方々と連携して、手厚い助言やバックアップ、データ分析はこちらでやるなどということも含めて、場合によってはコストも随分見て対応するなどの体制をきちんとやっていただき、単なる実験の場にならないような形での運営体制が重要だと思う。

【野中委員】  

 デジタル教科書・教材の普及促進について、すぐやるべきことは普及促進のところで、学校設置者が容易に入手できるような支援方策を検討する必要があると記述されているが、まずこれがきちんと普及定着しない限り、その先はないのではないかと思う。日本では、先生方はICTを使わずに個別学習も協働学習も一斉学習もやっており、そのノウハウがある。ICT活用がきちんと普及定着していない状況で協働的な学びでICTを使うという課題をいきなりやりましょうというのはかなりハードルが高い。それは、韓国やシンガポールで長年やってきたところでも、まだ一部の実験校で、それでも授業は変わっていないという報告書が出ている。そういうことを考えると、フューチャースクールにおいて3年程度で方向性が定着することは、日本では難しいと思う。したがって当面やれることは指導用デジタル教科書の普及で、これに関して国が積極的な支援をするということを盛り込んでほしいと思う。

【市川委員】  

 将来学習者用のデジタル教科書をつくるプレーヤーの一つになるだろう教科書会社として、今のことと関連して幾つか申し上げたい。実証校が過負荷になるということがフューチャースクールの中で出てきているということは認識している。その中で、みんなが助け合ってやっていくという意味では、やはり教材開発者、教科書・教材開発者、フューチャースクールの教員、これにかかわるそれぞれの地域の有識者と、何よりも文部科学省の中で担当者を設定していただき、この共同グループがしかるべきお金と時間をかけてやっていくべきだということを痛切に感じている。特に教科書の会社においては、教科の編集長や担当者がこの中に入っていくということが絶対必要であると考えている。

 デジタル教科書をつくるという意味で、我々が課題として感じていることは、著作権に関することである。例えば、「ダウンロード」という文言が入っている部分があるが、著作権者という視点が抜けているように思われるため、現時点ではやめた方がよいと思う。これからは、同意を得ていく必要が非常にある。例えば著作権(者)、著作隣接権(者)等への留意と、著作権制度の改善を進めるという文言も、できれば入れてほしいと思っている。小学校はかなり多くの会社から指導用デジタル教科書が出ているなどの状況があるため、喫緊の課題であると思っている。

 「学習者用デジタル教科書及び情報端末を使用した場合と、紙媒体の教科書のみを使用した場合を比較」という記述があるが、これは非常に難しいところで、紙媒体でも、ある共通の学習目的・指導目的を持って、それぞれの限られた媒体や条件の中で指導方法・学習方法が模索されれば、いろいろな方法が出てくる。したがって、単純にこの2つは比較できないと思うので、比較というよりは、学習者用デジタル教科書を使った場合に、これまでの指導・学習方法では見られなかった方法、効果、メリット・デメリットを追求するという文言に変えた方がよいのではと考えている。

【千葉委員】  

 著作権について、このことについての記述を載せていただいたと思っているが、従来も先生方は著作権について留意しながら授業を進めてきたと思う。ただ、なぜこれを記述しなければならないかと言うと、インターネット上で提示される情報が簡単に入手できる、ソフト等が簡単にコピーできてしまうことがあると考える。デジタル時代における著作権の管理を明確にするべきではないかと思う。

【宮澤委員】  

 「学習履歴」という文言が何回か出てくるが、これは抽象的なイメージがあると思うので、学習者の学習プロセスや理解度を把握するための試験結果などの情報等と、補足をしていただけると有り難い。

【新井委員】  

 学習者用デジタル教科書及び情報端末を使用した場合と、紙媒体の教科書のみを使用した場合の比較については、小中学校はすべての子どもがということになるので、やはり国民の理解を得るためには、この比較は行わざるを得ないだろうと思う。

【堀田委員】  

 指導者用デジタル教科書について、子どもたちの学習者デジタル教科書における学習履歴を把握・分析する機能が指導者用デジタル教科書の機能になっているが、そうである必要はないのではないか。

【安西座長】  

 多少理想的すぎるかもしれないが、指導者用デジタル教科書というときに、これまでの指導者用教科書のイメージを超えて、協調学習やそれをICTサポートで行うときの指導者の指導の仕方を含んでいることを個人的には想定している。

【堀田委員】  

 指導者用デジタル教科書の定義とのずれが気になる。また、このことを持たせなければならないのであれば、現在売られているものは指導者用デジタル教科書とは言えないとなってしまわないかということと、初期の段階の普及の妨げにならないかという懸念等を考えたときに、現実をまず優先していただく方が望ましいのではないか。

【三宅委員】  

 学習者の履歴その他を把握・分析できる機能が、教科書そのものの機能ではなくて、教材の方に付いているということにすると、別に学習者用の方にくっついていてもよいという展開をしてしまうと、今の堀田先生の御懸念とが重なっているような感じがする。

【五十嵐委員】  

 いろいろと具体例を示すと、なかなか難しいところが出てきて、こうでなければならないのかといったこともまた固定化されてしまう恐れもあると思った。議論の中で、一斉指導ができていないのに協働学習は無理なのではないかという発言もあったが、必ずしもそうは思わない。いろいろなことがあったこの時期に出す「教育の情報化のビジョン」が、未来に夢を持とうじゃないか、ICTで子どもたちが頑張っていけるのではないかというような、夢と希望があるものであってほしいと思う。

 学びのイノベーション事業の実証研究がフューチャースクールに過度な負担をかけるのではないかという意見は、フューチャースクールに押しつけるからそうなるのではないかと思う。環境が整っていなくても、非常によい実践で協働的な学びをしている学校は全国にある。このような実証研究をするのであれば、なかなか整備が回らない学校にもチャンスを与えてほしい。やりたい学校は幾らでもあると思う。そういったところで、もっと夢のある実践を増やしていけたらと思っている。

【野中委員】  

 本文できちんと学力の3要素に対応した事業例を整理して書いてほしい。

【安西座長】  

 絵を例示やイメージでもよいので入れた方がいいのではないかと申し上げたのは、私もその一人である。こういう例示があるので、これについて議論ができるようになると思う。この場では本当によい議論を頂いており、理想的な21世紀の学びの姿の意見も多く、現場のことを考えると着実に進めていくべきだという意見も多い中、この文書が作られてきている。両方理解できる部分はあるので、着実に進めながら、これからの時代の学びの姿をできるだけ早く具体的に出してほしいと思っている。

【村上委員】  

 概要と37ページの図が附属資料に入っているというのは、違和感がある。通常の報告書であると、まず報告書があって、それに概要がついている。その概要の附属資料が37ページの絵に当たるものなので、この2枚については、ほかの38ページ以降のものとは全然違うステータスを持っている資料だと思う。したがって、附属資料に入れずに独立したものとして扱えば、この問題はかなり解決できるのではないか。

【安西座長】 

 今日頂いた御意見については、私と文部科学省で相談をした上で、最終的には文部科学省として「教育の情報化ビジョン」を策定し、それを皆様に御報告するということとしたいと思っている。今のような状況であるからこそ、日本のこれからの教育が大事で、その中で教育の情報化をわい小化せずに、これからの時代の教育の在り方ということで、是非取り上げていっていただきたいと考える。

 最後に、鈴木副大臣に挨拶をいただければと思う。

【鈴木文部科学副大臣】  

 これまでの熱心な議論に心から感謝を申し上げる。このビジョン作成のプロセスを通じて、日本の世の中全体の教育の情報化についての議論が様々な場所で、学校現場も含めて広がり、深まったと思う。社会全体のファシリテーションの場になったということに心から感謝を申し上げたい。委員の方々がそれぞれの現場、コミュニティでここでの議論を広めていただき、また現場でのことをフィードバックしていただくという、そういう意味でも非常にオープンネットワークな形でやっていただいたことも大変よかったと思っている。

 いよいよビジョンができたので、先ほどもPDCAというお話があったが、今年度からは実際にやり始めるステージに入ってくる。もちろん学校現場であるので、いろいろな配慮は十分にやらなければならないのは当然であるが、それをやった上で、しっかりと着実に、次の時代に向けた一歩としていきたい。また、やり始めると、恐らくいろいろなことが出てくると思う。そのたびに議論を深め、そのことが日本社会全体の、あるいは日本の教育界全体のノウハウになり、知恵になっていくという思いで一生懸命頑張っていきたいと思う。

 このビジョンはいったん本日でコンクルードするが、是非引き続き我が国の教育の情報化のためにますますの御指導と御鞭撻を賜れれば大変有り難い。この世界は、常に走りながら考えるという分野だと思っているので、またよろしくお願いしたいと思う。

(了)

お問合せ先

初等中等教育局情報教育・外国語教育課

(初等中等教育局情報教育・外国語教育課)

-- 登録:平成24年07月 --