学校教育の情報化に関する懇談会(第8回) 議事概要

議事概要

1 日時

平成22年7月28日(水曜日)13時~15時

2 場所

如水会館

3 委員出席者(敬称略)

 天野一、新井紀子、安西祐一郎、五十嵐俊子、市川寛、馬野耕至、小城武彦、陰山英男、重木昭信、関口和一、玉置崇、千葉薫、中村伊知哉、西野 和典、堀田龍也、三宅なほみ、宮澤賀津雄、村上輝康、若井田正文

4 文部科学省出席者

 鈴木文部科学副大臣、清水文部科学審議官、山中官房長、板東生涯学習政策局長、川上審議官(生涯学習政策局担当)、前川審議官(初等中等教育局担当)、戸渡審議官(文化庁)、安間教育研究情報センター長、齋藤参事官(学習情報政策担当)、増子参事官付情報政策室長、森初等中等教育局教科書課長、斎藤特別支援教育課長

5 議事概要

(1)齋藤参事官より、資料1(教育の情報化ビジョン(骨子)【案】)及び資料5(学校教育の情報化に関する懇談会の検討体制について(案))に基づき、説明。

【陰山委員】
 第1章に、「教科内容のより深い理解が得られると考えられる」という記述があるが、双方向なので、「表現」という文言を入れておく必要があるのではないか。文言については、「教科の内容のより深い理解と、高度な表現が得られる」とし、表現に情報化の活用をしていく視点を入れておく必要があるのではないか。
 全体的に「検討を要する」や、「考えられる」という表現が多いように感じる。特に、スクール・ニューディールで、実際に多くの機材が入っているところについては、着実な進歩を国民にアピールしていかなければ、今後多くの予算を措置することにはつながらないのではないか。「早急に実現する」という文言でも良いので、本当は「1年以内に」といった年限を切ったようなことも入れた方が良いのではないか。
 教員への支援のあり方について、教員養成学部の中で、教育実習や教育研究の役割を果たしてきている附属校についての記述があるが、このような教育実習や教育研究を行っているのは、教員養成学部に付随した附属学校だけではない。立命館小学校でも立命館大学の学生をはじめ多くの教育実習も受け入れているし、公立学校対象の研究会も自主的に行っている。それから現在、少し大き目のICTを使った実証実験も既に二、三動いている。私たちも積極的にその役割を果たしていきたいという意思を持っているので、そういうポジションが得られるような文言にしてほしい。

【千葉委員】
 情報化の影への部分への対応について、注釈では「学校では家庭と連携しながら」という表現になっているが、現実的には学校と家庭だけでは問題解決はできないし、現状でもいろいろな地域、関係機関も関係して、いろいろな問題に当たっているかと思うので、ここで地域や関係機関といったものを入れたほうが良いのではないか。

【堀田委員】
 情報活用能力の育成をするということは旧来から言われていることであるので、このことが章を立てて改めて語られるということに意味を感じる。今回、この懇談会では子どもたちにさらに21世紀に対応できるような能力を育成するために、学習者用のデジタル教科書等も含めて、前向きに大きくパラダイムシフトしようとしているので、「これから必要になる情報活用能力の新しい形を改めて検討する」ということを書いた方が良いのではないか。具体的にどうするかは、何年かかけて検討していくことかもしれないが、姿勢は示しておくべきではないか。
 第七章の総合的な推進体制の構築については、韓国のKERISやイギリスのBECTAの例を使って、わが国もNICERを強化するということが書かれており、このことは良いのだが、この分野の研究者として見ていて、KERISやBECTAがやっていることで一番効いていると思うのは、政策の動向等を学校現場向けに具体的に解説する機能を持っていることである。政策をパンフレット化したり、周知徹底するようなセミナーを行ったり、普及啓発につながるような授業を行っている。場合によっては、NICERの強化とともに普及啓発の機能を持たせてはどうか。これを今の文部科学省内でどうするかという話になると、非常に難しいことかもしれないが、そうしないと、国のビジョンが十分に行き渡らず、また予算が中途半端な形で使われて、整備が十分でないという形が繰り返されるのではないかと懸念している。

【安西座長】
 現場で着実に教育を進めていただくというのは非常に大事なことで、一方で時代が変わって、新しい理念ということも出していかなければならない。その両方をできれば入れてほしい。

【重木委員】
 第三章のデジタル教科書、その後にデジタル教材、情報端末と分けて書いていただいて非常にわかりやすくなったが、通して見ると、おそらくデジタル教科書と情報端末が全く別の物ではなくて、情報端末の上でデジタル教科書を利用することを念頭に置くのだと思うが、若干両者の考え方の整理がうまくいっているのかよくわからないところがある。例えば、学習者用デジタル教科書のところで、インターネットの接続や、教員と子どもたちとの間で双方向性が確保されるということだが、デジタル教科書のところだけで双方向性が確保されるというよりも、デジタル教材とか、指導者用デジタル教科書も含めての話であろうと思われるので、書いてある内容に異論があるわけではないが、情報端末のところで書く部分をもう少し整理をした方がわかりやすくなるのではないか。

【安西座長】
 デジタル教科書は、それだけで使うというよりは、他の様々な機材、ネットワークとともに使われて有効になってくると思う。

【玉置委員】
 情報端末の項に表記してあることだが、子どもたちが日々の学校生活のあらゆる場面において、協力し合いながら活動するために情報通信技術を活用することについては私も賛成である。さらに情報端末は学習者用デジタル教科書を使うためだけに限らないほうが良いと考えている。子どもたちが情報端末を学校生活の中で常に持っていることが良いと考えている。脚注にはウェブサイトを活用した学校のニュースを発信する例が書かれているが、より協働的な学びを体験するためには、授業だけではなく日常的な場面で子どもたちが経験していくことが大切なことだと思う。
 さらに例を出すと、学校専用サイトで、自分の疑問に思っていることを書き込む。それを校内の子どもたちがその疑問の解決に向けてさらに書き込むなどの協働的な活動をしたり、学校版「熟議カケアイ」を立ち上げて、子ども同士が論議することも考えられる。また、教育行政は、子どもたちの学びを豊かにするいろいろな催し物や企画をしており、その情報を個人の情報端末に流すことで、子どもたちが日常的に情報端末を使う良さを大いに感じることと思う。
 子どもたちをいきなりネット社会に出すのではなく、まず顔を見ようと思えば見られるような環境の中で、つまり学校の中で、きちんとしたコミュニケーションが取れるように教育を進め、子どもたちの世界を徐々に広げていくことが大切だと考える。このような経験を踏まえてこそ、社会人となっても協働的な学びを続けるのではないか。このような考えから、脚注には、さらに例を増やしていただきたい。ウェブサイトを活用した学校のニュース発信のほかに、いろいろな活用が広がるような例を加えていただきたい。

【五十嵐委員】
 情報端末は、端末のハードウエアとしての機能とその中にある基本的なソフトウエアとしての機能、コンテンツであるデジタル教科書の機能との役割分担を明確に記載したほうが良いのではないか。
 デジタル教科書について、私が重要だと考えることは、基礎的・基本的な知識・技能の習得に効果をもたらすということ、学び合いによる知の創造や問題解決を支援するということである。
 デジタル教科書でできそうなことの具体的な部分は、この後ワーキンググループがつくられるということなので、そこで検討されることになるであろうが、端末としての機能とソフトウエア、コンテンツの機能は、役割分担をきちんとしておく必要があると考える。
 デジタル教科書を使うことで、明らかに21世紀の学びというものが変わっていくと考える。骨子案は、授業について、簡単に「わかりやすい授業の実現」という言葉で述べられている。確かにそのとおりだと思うが、それだけで良いのか。学び合って深まるという話が、この懇談会の中でも随分話題として出たように思うので、例えば「わかりやすく深まる授業」という記述にするなどしてほしい。
 特別支援教育の部分について、特別支援学校だけで行われるものではないことから考えると、そのようなことを視野に入れた表現にしたほうが良いと思う。
 附属学校の役割については、教員の養成・採用という中で、骨子案の中ではここがリードしていくような話であったので、牽引的な役割ということは落とさず、これから教員になる人たちにとっては大きな学びの場でもあるので、もう少し強く書くべきではないか。

【三宅委員】
 骨子案には、指導者用デジタル教科書は、任意箇所の拡大、文章の朗読、動画などによって内容を「わかりやすく」するだけでなく、わかりやすくした上で学習を「深める」授業に資するという文脈がある。他方、骨子案の概要では、この文脈が全く取れて、今の授業がわかりやすくなれば良い、そのためにICTを使うのだという形にしか読めなくなってしまっているので、概要だけを読むと誤解されるのではないか。

【安西座長】
 デジタル教科書は、どうしても教科書という名前がついているので、授業の中で先生が使うものだという感覚で矮小化されがちだが、こういう情報環境はもっと広い教育の場のサポートであるということが、全体の認識としてあるのではないか。

【新井委員】
 デジタルコンテンツは、本来私たちがその場に行って観測や実験したりできないことに関して、まるで手にとるようにモデル化して見せることが可能となるというタイプのものなので、それを見ると、数式やデータを見るよりはわかりやすくなるという社会一般の認識があるように思うが、それは多分、逆であろうと思う。今の科学が自然等を解明するときに、実際に惑星に行ったり、脳の中に入って見ているわけではなく、間接的に観測する機器を発明したり、モデルと数式から実際の状況を考えている。したがって、デジタルコンテンツを見て「脳の中もこうやって物差しではかれるのだ」と思ったらとんでもないことである。わからなさ、困難さというのを理解して、少しだけ観測できる何か間接的なデータを基にモデル化をする能力が21世紀で最も求められるが、それはパッシブなデジタルコンテンツでは多分代替は不可能で、悪化させるであろう。よって、骨子案の概要については、21世紀を生きるために必要な授業であるというような適切な文言が必要であろうと思う。

【村上委員】
 みんながネットワークでつながっていて、デジタル機器を持ってデジタル教材を使っている、先生が電子黒板で教えているというところまでのイメージは容易にできるが、そこで児童生徒が何を学んでいるのかという授業のイメージが、説明がわかりやすくなるということ以外には、具体的に見えないのではないか。
 20世紀から21世紀に変わって情報化がもたらした機器やツールを、教育でどう使うかというところについては明確に書き込まれていると思うが、同時に情報化はこれからの子どもたちにグローバル競争というとんでもない状況をもたらしている現実がある。膨大な情報がネット空間にあっても、それを能動的に仮説を持って取りに行かないと何の意味もないが、そのような行動を取る子どもたちが世界中の同じ競争の場に現れたという大きな環境変化がある。そこで求められる力というのが、生きる力という言葉で表現されているものだと思うが、それがデジタル機器によってわかりやすい授業をするということだけで生み出せるのかという疑問がある。ゆとり教育で情報が足りない、コンテンツが足りないからと言ってそれを増やしてもあまり意味がない。膨大な情報は外に出ていきさえすればある。それを仮説を持って使いこなすことができるような生き方を伝えることが一番大事ではないか。
 情報教育を拡張して「グループ・情報」という新しい教科を設けて、それをカリキュラムの2割ぐらい常にやっているというような授業の姿が、教育の情報化の一つのあるべき姿ではないか。これは、情報サイドにかなり強くコミットした意見ではあるが、そういう意見を教育の観点から解釈し直して、子どもたちが受ける授業の姿として書き込むことが非常に重要である。

【陰山委員】
 学校教育の情報化が、将来的に日本の学校をどのように変えていくのかということに大きく関わっていると思う。骨子案は、さまざまな情報端末や電子黒板といったものを現在の学校教育の中に置くとどうなるのかということについて、かなりわかりやすく書いてある。そういう点では、現時点のものとしてはタイムリーかもしれないが、情報端末が全部そろってきて、子どもたちがデジタル教科書を持ち、先生方はそれを全部提示できる電子黒板があり、高速にネットワークに接続されている、加えて電子カメラが登場するとなってくると、友達同士の話し合いではなく、世界の子どもたちを相手に語り合うというようなことがごく自然にできるようになってくる。ここで英語教育が成功してくれば、それはさらに加速される。
 デジタル教科書を子どもたちが手にして、小学校から高等学校までの教科書が一つの端末の中に入れば、それだけで学びの形は変わってくると思う。それぞれの個に応じた学びというものが、教材面で土台ができてくるので、情報端末、デジタル機器、ネットワーク等を使ってこれらがシステマチックにどのように生かされるべきなのかを考えていかなければならない。
 韓国等のシンクタンクと、私たちが今後つくっていかなければならないシンクタンクとの違いにおいて、現在あるものを情報機器でどう補うかというところを超えて、将来像を絶えず考えていくような、我々の側のシステムをつくらなければならないのでないか。

【三宅委員】
 骨子案には今後、工程表を踏まえて必要な措置を講じて、懇談会のワーキンググループにおいてさらに検討を行って、本年度中にビジョンを出すということが書いてあるが、この場を共有してこなかった人たちにも議論の内容がわかるような形であると良いのではないか。

【西野委員】
 第二章として「情報活用能力の育成」という章が入って、教育の情報化の方向性がはっきりしたと思うが、情報活用能力がきちんと育成されているかどうかの達成度の調査が必要ではないか。小学校、中学校は現状ではまだ教科としての「情報科」がない。これでは、果たして子どもたちが学んでいるのかがわからない。子どもたちも、評価されることによって学習するという面があると思う。達成度と言うと当然評価基準もつくらなければならないが、もちろん情報活用能力の育成の今までの3つの観点プラス、新たな21世紀に求められるような力、例えば自然現象とか社会現象をモデル化する力、こういったものも評価基準できちんと据えて評価をしていくということが必要ではないか。詳細は、ワーキンググループ等で話し合いがされると良いと思う。
 高等学校において、数年前に世界史の未履修問題があったが、実は2番目に未履修が多かったのが情報であった。それから、改善されているとはいえ、3年間を通じて2.24単位程度しか高校生は学んでいない。高等学校では90単位程度修得するので、3年間で2.5%である。依然として学ぶ時間が非常に少ない。OECDが行っている国際成人力調査の中に、例えばICTを使った問題解決能力があるかどうかという項目が入るようだが、将来、PISAの15歳の調査の中にも入っていくとすると、本当に情報活用能力の育成がきちんと達成されているかという調査、評価が必要だと思う。

【安西座長】
 情報手段ということをイメージするときに今までの情報手段をイメージするのか、何年か後の情報手段をイメージするのか、それによって大分評価の仕方は違うのではないか。

【堀田委員】
 デジタル機器の部分についてであるが、スクール・ニューディールで入った教室の情報共有のための電子黒板等の機器について、教えるだけではなく、子どもたちの情報共有にも使われると書いてある。「すべての教室で活用できるようになることが望ましい」と書いてある部分は、「急ぎそのようにすべきである」のような書き方にしてほしい。なぜなら、子どもたちがこれから端末を持つようになって、情報共有をするときや、世界に出て行くときに、いきなり世界の人と話せるわけではないので、練習のようなことをする、それが学校教育の役割であるからである。例えば、いきなり海で泳げるわけではないのでプールがあり、そこで指導をするのが学校の役割になる。子どもたち同士がまず教室で情報を発表し合ったり共有したりすることがあって初めて教室を出て行くと考えると、教室でその情報を共有するための仕組みが必要である。現行のスクール・ニューディールで入ったものの整備をきちんと完了する方向に持っていき、数年後に子どもたち向けの端末が入ってきたときに、それが役に立つ道具に見えるように整備の接続性を重視すべきである。

【市川委員】
 「デジタル教科書・教材」について、忘れがちな視点が、指導者用デジタル教科書は、現在進んでいるものだということである。学習者用デジタル教科書は、これからの話ということになると思うが、デジタル教科書と言うと、一般的には現在ある教科書の紙面をそのまま端末に移しかえるといった乱暴な意見があり、まずそこを払拭すべきではないか。
 この懇談会でずっと検討してきたこれからの教育のねらい、つまり、個への対応やコミュニケーション、コラボレーション、それを通してクリエーションを生み出し、最終的には、生きる力、21世紀型のスキルをつけた子どもたちをこれから育成していくという観点に立てば、学習者用デジタル教科書というのは、今までの紙の教科書の概念を離れなければならない。学習者用デジタル教科書の定義の中に、「今までの紙の教科書とは全くコンセプトの異なる、新しい学習者用デジタル教科書の開発が求められる」という文言を入れたらどうか。

【小城委員】
 100万人を超える先生がICTを活用するというところに行くためには、現状から相当教育現場が変わるということだと思う。現場のリーダーシップがないとなかなか変わらないのではないか、と民間企業の経営経験から思う。社長自身がICTを理解し、リーダーシップを持って現場にICTの活用をエンカレッジしていく会社は成功したが、そうでない会社はほとんど失敗している。したがって、「管理職が学校CIO」と書いてあるが、大丈夫であろうかと思う。現場の長がICTを理解して、さまざまな課題やトラブルがあってもやっていくというリーダーシップを発揮していかないと、なかなか現場で進まないのではないか。

【宮澤委員】
 このプロジェクトにおいて、フィードバックがかかる仕組みをつくっておくべきではないか。行う過程の中で改善が見られるようなフィードバックループをきちんと最初から組み入れるべきである。
 教員のサポート体制の中で、教育CIOや学校CIOの話があったが、教員サポートの体制のあり方をつくる前に、サポート体制をつくるためのサポートについて考えておかないと、実際に教育委員会が動けるか心配であるし、学校の管理職がすぐにCIOになれるかということも心配なので、そこについての配慮を一定程度入れてほしい。

【五十嵐委員】
 学校CIOは大丈夫かという話があったが、教員CIOときちんと連携を図れば大丈夫である。教育委員会や自治体のビジョンが重要である。自治体のビジョンや教育委員会のビジョンがあって学校に行くということがきっちりすれば間違いなく動く。具体的にICT支援をどう活用して、どのように持っていったかという事例は多くあるので、それがもう少しきちんとわかるように普及していくことが必要ではないか。学校CIOの役割について、それを普及していくための努力の必要性を感じた。

【中村委員】
 第七章のソフト・ヒューマン・ハードの総合的計画的推進や、総合的な推進体制の構築といった部分の、具体的にどのようなアクションをとるのかということが非常に重要になってきているのではないか。教育の情報化ビジョンという広いタイトルで、議論の中身としては学校教育の問題に集中して議論を行っているが、情報化という観点から見ると、より広い動きになってくるであろうと思う。そうであれば、学校以外にも関係業界、あるいは地域、家庭も巻き込んで、国民的な理解を得ながら運動を推進していく必要があるだろう。

【堀田委員】
 学校現場でも、ICT活用や校務の情報化がうまくいっているところは、管理職研修がうまくいっているような印象がある。したがって、管理職に対してどのようにICT活用の啓発あるいは研修を行うかが重要ではないか。また、市区町村の教育委員会の指導主事等に政策を含めて正確に理解してもらう必要がある。そうでないと、各地方における予算の起案は行われないからである。管理系の立場にいる人の理解を促進するような何か動きが必要だということを記載してはどうか。

【馬野委員】
 前回の懇談会で配付されたバージョンと同様に、今回のバージョンも中身は決して薄くないが、世界最先端のIT国家を目指してきた国の教育の情報化ビジョンにしては、骨子とは言え、いささか淡白な印象を免れない。その理由は、なぜ今教育の情報化ビジョンが必要なのかという背景や時代状況の説明が不足しているからではないか。1ページ「はじめに」において「教育の情報化は、我が国の子どもたちが21世紀の世界において生きていくための基礎となる力を形成するために大きな意義を有している」という記述があるが、既に21世紀に入って10年が過ぎた今となっては、これだけでは説得力があるとは言えないと思う。教育の情報化は、その必要性を1980年代の臨教審のころから既に指摘されてきて、これまでにもいろいろな施策が展開されてきた。それにもかかわらず、必ずしも十分な成果を上げていないのはなぜなのか。1980年代、アメリカは、日本よりも一足先に教育改革に着手したが、そのきっかけになったのが、教育の質や学力の低下といった当時のアメリカ国内の危機的状況を訴える連邦報告書「危機に立つ国家」であった。これが大きな反響を呼んで、全国的な教育改革運動が展開された。
 一方、日本では、臨教審の教育改革論議が本格化したのが1979年にエズラ・ヴォーゲルの『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が出版された後だったということもあり、ある種の達成感や高揚感、優越感といったムードの中、国民に危機意識はなかった。したがって、教育改革は盛り上がりを欠き、臨教審の答申後も教育の情報化に拍車がかからなかったのだろうと思う。
 この10年間に、日本は国際比較で生徒の学力が低下し、加えて産業の国際競争力も低下している。今何らかの手を打たないと、このままでは沈没してしまうのではないかと懸念している人たちが私を含めて少なくないはずで、教育の情報化を推進していくには、こうした危機感を多くの国民が共有するのが一番である。そのためには、日本における教育の情報化のこれまでの歩み、現状の国際比較を序文に当たる「はじめに」にもう少し書き加えてはどうか。

【関口委員】
 第三者に対して、なぜそういうことをやっているのかというのをもう少し明確にしておく必要があるのではないか。この15年間、20年間の日本の競争力の低下と、日本の教育における競争力、あるいは教育のやり方としての情報化の遅れというのは密接な関係があると思うので、今までの教育のやり方を変えていくことによって、日本の競争力を高めていくというところをもう少し入れるべきではないか。
 使用されている用語に関し、「教育の情報化ビジョン」という名称についてであるが、一部報道でも「学校教育の情報化ビジョン」といった具合に名称がまちまちになっているが、正式にどちらかというのを確認したい。また、「デジタル教科書」という文言も、一般的には「電子教科書」と呼ばれていると思うが、用語的になぜデジタルなのか、それを電子と読みかえても良いのか。

【齋藤参事官】
 電子かデジタルかについては、明確な区別を今のところは特にしていない。

【関口委員】
 黒板について電子黒板と記載されているが、なぜデジタル黒板と言わないのか。

【鈴木副大臣】
 10年前ぐらいにWTOの議論の中で、デジタライズド・コンテンツという言葉があった。おそらくコンテンツについてはデジタライズド・コンテンツという用法が多分一般的であると考える。電子黒板はエレクトロニック・デバイスである。あるいは電子辞書ぐらいになってくると、辞書のコンテンツを指しているのか、ディスプレイ等を指すのかということだと思うが、いずれにしてもそういう用法はWTOの中であった。

【関口委員】
 韓国が来年からすべての学校に義務づけると言っているのは、CD-ROMベースのデジタル教科書である。多分ここで議論しているのはネットワークにつながるものを想定していると思うので、そこに違いがある。どちらの言葉を使っても良いが、はっきりとわかるようにしてもらう必要がある。CD-ROMベースならば、随分前からそれに近いものが辞書のようなものなどあるので、そういったものとは違うというところをぜひ強く打ち出してほしい。

【鈴木副大臣】
 メディアの専門家からすると、どちらだと強く打ち出される印象になるのか。

【関口委員】
 それは定義づけの仕方である。ただ、一般論としてメディアの立場で言うと、言葉は短いほうが良いというのと、デジタルという文言はもう何年も使われてきているので、今さらというところがある。電子と言うと、より汎用的な言葉ではあるが、逆にもっとわかりやすいかもしれない。

【鈴木副大臣】
 新聞としては電子の方が良いということか。WTOの議論は、CD-ROMやDVDに保存されたコンテンツはグッズなのかサービスなのかということで、WTOの物のGATTの協定の中に入るのか、あるいはサービス協定のGATSの協定に入るのかということであった。フランスは、サービス協定については文化制限条項というのが適用されるので、サービスにしたいと主張しており、アメリカはグッズだと主張していた。こういう論争で、結局グッズでもサービスでもないので、新たにデジタライズド・コンテンツという第3のカテゴリーをつくって、そのトレードについて議論しようということになった。
 ただ、これはもちろんWTOフレームなので教育とは別の話であるので、改めてここで議論をし直せば良いと思う。そのときはまさに、ネットワーク流通にも供するということになる。そうなった場合には、むしろサービス的、放送的要素が大きくなり、それはサービスかもしれないということになる。

【関口委員】
 ネットにつながる教科書ということで、短縮するとネット教科書だと思うが、それがまた別なものを思い起こさせる部分があるので、本来は、このネットとデジタルと包含した概念でなければならない。そういう意味で言うと、一番平たい言葉で電子教科書と言っても問題はないと思う。

【板東生涯学習政策局長】
 以前、デジタル化、ネットワーク化というのが新しい情報化の流れとして出てきた時に著作権にどういう影響を与えるかという議論がされたことがあったが、デジタル化というのは、コピーをしても情報が劣化しない、あるいは加工が容易にできて蓄積もできるという性格を持っている。それにネットワークが加わってきたときに情報が非常に多様な形で使われてきたり、情報を得たりすることができるという意味で、電子とデジタルというのは違いがあると思うが、似たようなことを表現しようとして電子教科書と言ったり、デジタル教科書と言ったりということだと思う。どういう言葉を使うのが一番適当かについては、我々のほうも精査をしたいと考えている。

【安西座長】
 以前、電子と言っていたのが、インターネットのデジタル、パケット通信をベースにしたコミュニケーションのようなこと、それから副大臣から発言のあったデジタライズド・コンテンツ、そういうことが前面に出てきた結果としてデジタルという言葉が広まったのではないか。

【鈴木副大臣】
 デジタル教科書や電子教科書と言ったときに、ハードのデバイスのことだと思って誤解をした議論が進行しつつあることを懸念している。デジタライズド・コンテンツというのは、教科書コンテンツのデジタル化である。それはネットワークを通じて配信できるし、当然CD-ROMあるいはDVDにも収録できる。デジタライズド教科書や教材というのは、デジタライズドされたコンテンツの話をしている。
 電子と言ったときに、少なくとも情報端末とデジタライズド教科書は完全に書き分けているつもりであるので、端末の議論を惹起するのではということを懸念することなく世の中に理解を広めることに協力いただけるということであればそれで良いが、デバイスとコンテンツが混同したままになるのではという懸念がある。

【関口委員】
 現在、書籍において電子書籍と言ったときには、当然、ネットワークでサービスを受けているものを一般的には言っていると思う。それならば電子教科書と言ったほうがネットにつながっているというイメージがあるような気がするが、この件については事務局にお任せしたい。

【中村委員】
 政府全体の中でも、知財計画でも新たな情報通信技術戦略でもデジタル教科書、教材という言葉が使われているので、「デジタル」を「電子」とされると、全体の調整が必要ではないか。
 2020年をイメージするとして、学校の情報化がどういう状況になっているのかという議論のほうが本質的ではないか。この場で我々は、ブロードバンドを前提として議論をしてきたのであって、そういった情報環境をどうしていくのかという議論をしていることを書き加えたほうが良いのではないか。

【安西座長】
 文部科学省で政府全体のことも考えて決めれば良いということでよろしいか。あとは、学校教育と教育の違いについてはどうか。

【齋藤生涯学習政策局参事官】
 脚注にもあるように、対象としているのは学校教育。主として学校教育の情報化についての議論をしていただいている。

【安西座長】
 教育の情報化ビジョンは、内容的には学校教育を中心としているということでよろしいか。文部科学省側はどうか。

【鈴木副大臣】
 これについても、相談する。

【安西座長】
 これからの時代のことを考えると、もう少し明確に日本の危機ということを書いてはどうかと意見についてはいかがか。

【宮澤委員】
 賛成である。徐々に、勝つか負けるかではなく、生き残れるかといった話になってきているので、ぜひ書いてほしい。

【市川委員】
 私は反対である。日本の国際競争力が落ちたということを強調すべきではないのではないか。これから未来の中で、どういう子どもたちをつくっていくかを述べるべきである。

【陰山委員】
 私は大阪府の教育委員をやっているが、大阪府では教育権の平等と地方の分権というのが、財政的な問題を含めて非常に大きな足かせになってくる。特に府教委は義務教育の設置者ではないので非常に立場が微妙である。日本の義務教育制度の基本的な弱点が出てくることがすごく懸念される。教育CIOのところについては、都道府県教委の責任、市区町村教委の責任、校長の責任がわかりやすく整理されて現場に伝えられるようにする制度を伝えていく道筋を考えるべきである。

【新井委員】
 数学は、20世紀のうちから学力の表面的な低下ではなく深いところでの低下ということに関して大変心配をしてきた。その危機感について書くことは構わないが、そういった状況を変えなければという状態は一番危険で、ドリルを数多くやる、デジタルコンテンツを数多く見せるということになると、表面的には、例えば小学校6年生時点での学力が維持できるかもしれないが、多分その後の学力が大きく低下することを多くの科学者は心配していると思う。変えなければという意識がどう変えるかということにきちんと結びつかないような危機感のあおり方は良くない。

【重木委員】
 情報活用能力の育成が一番最初の出発点、生き抜く力と同時に掲げられているが、デジタル教科書・教材を使用する教育が、それに直接結びつくのかという点が少しわかりにくい。また、情報そのものを活用するという視点が弱いような気がするので、もう少しその点を強調してその先へつなげることが大事ではないか。

【安西座長】
 このテーマは半ば研究としてきたが、そういう目で見ると、子どもたちのこれからの学びは、学び合い教え合うということも含めてどうあるべきかということと、2020年ごろの情報環境、非常に広い意味での情報環境の技術的な発展と流布、普及の仕方の課題もある。そういう中でデジタル教科書がどういう姿をしているのかについて明確にイメージができていないと思う。本日出てきた意見を踏まえ、文部科学省側でより突っ込んでほしい。

【西野委員】
 私は、かつて高校の理科の教員をしていたときに理科教育振興法というものがあって、実験器材等を買うときに大変助かった。戦後、日本の理科教育を推進していくぞ、という国としてのメッセージがその理科教育振興法だったのではないか。そう考えると、21世紀、日本として情報教育をメッセージとして発信するときに、国として情報教育をしっかりやっていくというメッセージとしての法律を制定できないか。そうなると、法律の中でいろいろと計画的に器材の購入等が可能となり、もちろん教育の情報化すべてがその中に込められているという意味で力強いと思う。
 情報化教育にはICTを使う教育と使わない情報教育があると言われているが、どうしても前面に出てくるのはICTを使う教育である。必ずしも情報機器を使わなくても、コンピュータはどのような仕組みで情報を処理していくのか、ネットワークはどのような仕組みで情報を届けるのかといった教育もきちんと行うことが評価される教育が、これからは求められるのではないか。

【堀田委員】
 情報活用能力の育成であるが、今日の時代に合わせた形で再度見直すということをもっと強く書くべきではないか。そのために、例えば教育課程をどのようにしていくのか等もきちんと示してほしい。それは今日の段階では明らかになっていない基本的な課題として認識し、これから検討していくということを書くことが必要である。

【新井委員】
 子どもたちの学習履歴の管理について、この骨子の中に複数回出てくるが誤読されると管理教育という話になりかねない懸念がある。協働教育の部分に学習履歴を把握するということを入れておけば良いのではないか。
 「教育の情報化ビジョン(骨子)」ポイントにある「教員への支援の在り方」の現職教員の研修の整理について、中心となるのは大学等よりも教育委員会、教育センターにおけるICT活用指導力向上のための研修等の実施であるので、そのように書いてほしい。

【五十嵐委員】
 現職教員の研修は大学等よりは教育委員会、それから教育センターという話について、研修の実施主体としてはその通りであるが、大学の専門家の力も非常に重要であるので、記述は削除しないでほしい。

【玉置委員】
 子ども同士が教え合い学び合う協働的な学びは、今後さらに詰めて、最終的な案の中には具体的にイメージが出されてくるという認識で良いのか。

【安西座長】
 文部科学省に対する期待として一番大事なことは、これからの時代、情報技術が発展していく中で、これからの子どもたちが良い人生を送れるような学びのあり方を、ある意味で危機感を持って考えてもらうことを期待している。

【五十嵐委員】
 教科指導における情報通信技術の活用について、授業のイメージとして協働学習のことが触れられていない。また、全体にかかわることとして、第一章の「21世紀にふさわしい学びと学校の創造」で、何らかの形で示したほうがわかりやすいのではないか。

【村上委員】
 教員が開発したものを教員同士で学び合うというプラットフォームが重要ではないか。授業そのもののノウハウを共有するプラットフォームであり、授業そのものがそのまま動画で共有できるようなプラットフォームを生みだすことが、授業のノウハウやコンテンツの蓄積のスピードアップには不可欠だと思う。また、学び合う場というのは、何か物理的な場であるようにも聞こえるので、学び合う情報プラットフォームというような表現のほうが明快に伝わるのではないか。

【鈴木副大臣】
 まず、御礼を申し上げる。まだ骨子であり、4合目あるいは5合目といったところではあるが、これまで委員の皆様方には、お忙しい中、精力的に議論に参加をいただき、また大変貴重な知恵をたくさんいただいた。この分野は、悩みながら、走りながら考えるものであると思う。したがって、ここでのいろいろな議論自体が我々にとっても非常に良い指針になった。
 言うまでもないが、「情報」という言葉は極めて多義的であり、特に日本語においては、データとインフォメーションとナレッジとインテリジェンスとウィズダムの違いもなく使っているので、その都度、確認をしていくということが大変大事である。そのことをこのメンバーでは十分共有できているが、これから世の中全体に対して、どのようなコミュニケーション、あるいは説明をしていけば、ここでの議論がきちんと広がっていくのか、大変難しい問題であるが、大変大事な課題で、そのことが情報化の意義・意味、そして可能性と見解、そして適切な展開ということにつながっていくと思っている。
 本日いただいた意見は、若干の議論があった点については、基本的に意見を踏まえた形できちんと骨子案に反映する。そして、委員の皆様方の尽力もいただきながら、現場をイメージしたワーキンググループをつくって、このことの意義・意味というものはどのように具体的に展開をしていくのか、どのようにやっていくとスムーズに適切な理解をもって広がっていくのかということを議論いただき、またこの場に、その成果を持ち寄っていただいてビジョンをまとめていく。既にさまざまなトライアルがなされているものについて参考にしながら、来年度に向けて実証研究、あるいは研究開発学校など、この懇談会と思いを連動した形で学校現場でのトライアルに移っていきたいと思っている。まずは、その一里塚、1つの節目で、皆様方の多大な尽力をいただいたことに心から感謝を申し上げる。いよいよこれからなので、引き続きよろしくお願い申し上げたい。

【齋藤生涯学習政策局参事官】
 まず、教員支援ワーキンググループ、情報活用能力ワーキンググループ、デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループの3つのワーキンググループを設置する予定である。
 教員支援ワーキンググループは、教員のICT活用指導力や、校務の情報化について取り扱う予定。情報活用能力ワーキンググループは、今後21世紀を生きていくための力をどう教育するのかについて議論をいただく予定。デジタル教科書・教材、情報端末ワーキンググループは、概算要求をする実証研究を念頭に置いた内容について議論をいただく予定。
 メンバーについては、懇談会からも委員に参加していただき、そのほかにも必要に応じて、懇談会以外の方々、専門的・技術的な見地から企業の方等にも参加いただく予定である。スケジュールや具体的な委員の選定については、別途整理してお知らせをする。それから、ワーキンググループについては非公開としたいと考えている。
 懇談会も引き続いて開催する予定であるが、それについては改めて連絡をする。

(以上)

お問合せ先

初等中等教育局情報教育・外国語教育課

(初等中等教育局情報教育・外国語教育課)

-- 登録:平成23年03月 --