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 子どもと私と   第7回インタビュー 

 

写真:増田宗昭さん

増田  宗昭(ますだ  むねあき)さん
カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社代表取締役社長


プロフィール
1951年生
1983年  蔦屋書店を創業
1985年  カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社設立
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「親の惜しみない愛情が子どもの決断を支える」

Q   幼稚園時代はどのような環境で育たれたのでしょうか?

   比較的裕福な大家族で、祖父母を始め、家業に携わる人たちがたくさんいる中、姉と妹にはさまれた一人息子として、特に母親の愛情をめいっぱい受けて育ちました。私に専属的につくお手伝いさんまでいたものですから、幼稚園から帰ってくると、玄関で寝転べば、その後は何でも面倒を見てくれる、という状態に甘んじていました。
      そんなある日、三輪トラックにひきずられるという大きな交通事故に遭いました。白いオーバーコートは血まみれになり、顔はお岩さんのように大きくはれ、右半身が少し不自由になり、後遺症も残りました。前にもまして母は私を大事にし、あちらこちらのお医者さんにも連れて行ってくれました。人を信じるという基盤ができたのは、このような母の愛情があってこそだ、と思います。
        


Q   今の増田さんとはずいぶん違う印象の子ども時代なのですが、転機はいつごろ訪れたのでしょうか?

   中学になっても甘やかされた状況は変わらず、怪我のことが可哀想だからと周りの人たちが何でもやってくれ、だからますます何も自分ではできなくなる、というサイクルにはまりこみ、家の外では近所のいじめっ子の目を避けながらびくびくと生きる、暗い青春時代でした。
   しかし、高校に入って、そんな自分を鍛えようと、ふと決心し、一番きついレスリング部に入部しました。本当に厳しいトレーニングに、よく耐えることができたな、と思います。ぐんぐん体力もつき、身体も成長し、とうとう近所のいじめっ子よりも、結果的に強くなっていたのです。野球でもサッカーでもなく、一番練習の厳しかったレスリング部を選んだというあの決断が、自分を大きく変えることになったのです。
        



Q   企業にお勤めの後、32歳の時(1983年)に、TSUTAYAの前身である蔦屋書店を創業されたアントレプレナー(起業家)でいらっしゃいますが、子ども時代の経験が今のご自身にどのように影響していますか?

   これまでお話したことに加え、やはり“増田家”という存在が大きいです。祖父が裸一貫で立ち上げた増田組(土建業)があり、その2代目であった父は、それなりの資産を持ち、悠々自適の暮らしをしていました。しかし、他の親族がビジネスに挑戦して成功していく中、父は自分で仕事を切り開くこともなく、人がよいので他人のトラブルにまきこまれてしまう状況でした。でも私はそんな父のことを大好きでした。母は、物心とも恵まれた境遇で育った人でしたが、大家族の増田家では相当苦労していた。そんな父母に孝行したい、そのためには普通のサラリーマンではなく、ビジネスを興すくらいのことをしなくては、と大学時代から考えていました。最初に企業に就職したのも、大きな目標のためのステップという気持ちもありましたね。


Q   子育て真っ最中の若い親たちに何かメッセージをお願いします。

   私が、いじめられても人間不信に陥らず、人を信じることができて、自分を変える決断ができる人間になれたのは、無限といえる親の愛情のもとで、いろいろな経験ができて、それが価値観として自分の中に蓄積されたからではないか、と思います。親が子を育てるというのは、単に技術を伝達するのではなく、愛情を注ぐこと、子どもを信頼することであって、子どもの成長を心底信頼していることが子どもに伝われば、どんな子どもでもその信頼に応えようとすると思います。
     私自身をふりかえると、母が常に言ってきた「感謝」と「約束」を大事にする、これは私のビジネスの糧になっています。子どもとの関係では、私自身は育児に携わることはほとんどありませんでしたが、起業当時は生活費をかなりきりつめていましたし、私たち夫婦が協力して必死に働いてきた背中を、子どもは見てきたと思います。子どもは子どもですから、私が思い描くような人生を子どもが歩むわけではありませんが、それは子どもが今過ごしている環境と、私が子どものころに過ごしてきた環境とは全く違いますから当然のことだと思っています。
   決して押し付けではないですが、この子なら必ずやれる、とまで親が子どもを信頼すれば、子どもはその信頼に応えたい、と思うようになりますよね。本当の夢に突き進むエネルギーを親からもらえるのだと思います。好きこそ物の上手なれ、という諺があるように、本当に没頭できるものを子どもが見つけられれば、その子は変われるし、すごいことにチャレンジできるようになり、不可能に見える夢も実現できるようになれると思います。親はそれまでの基礎づくりしか出来ません。