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 子どもと私と   第3回インタビュー 

 

写真:窪山哲雄さん

窪山 哲雄(くぼやま てつお)さん
株式会社ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル代表取締役社長


プロフィール
1948年生
いくつかのホテル勤務ののち
1997年より株式会社ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル代表取締役社長
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「育てるには深い愛情を」

Q   幼稚園の頃はどんなお子さんだったのですか?

   お寺に附属した小さな幼稚園に2年通っていました。博多のど真ん中だったのですが、幼稚園への行き帰りの道の両側に青々とした田んぼが広がっていて,大きなおたまじゃくしがたくさんいました。500円玉くらいの大きさのがうようよいたんですよ。バケツいっぱい取って帰っては、母親に叱られていました。叱られては田んぼに返しに行き、また翌日バケツいっぱいに取ってくるという繰り返しでした。子どもの頃というのは不思議なもので,たくさんあるとうれしくなるんですよね。幼稚園では、遊び場に桜の木がたくさんあり,そこからよく毛虫が落ちてきて,痛かった記憶があります。


Q   自然がとても豊かなところで幼少期を過ごされたのですね。

   そうですね。でも、一方で、こんなこともありました。那珂川という大きな川があったのですが、当時すでに相当汚れていました。とてもいやな化学物質のにおいがしていました。工場の煙突からも煙がたちこめていて、既に公害の走りのようなものがあったのだと思います。美しい自然と人間が破壊しはじめた環境とが共存していた時代ではないでしょうか。それから、動物の死骸がやたらあったのを子ども心に覚えています。後にアメリカで暮らした時、アメリカ人が動物をパートナーとして大切にしているのを目にしましたが、当時の日本ではまだそのような状況にはなっていなかったのですね。



Q   子ども時代の思い出は?

   両親には厳しくしつけられましたが,甘やかされてもいました。小さい頃に大きな病気をして,病院の中にいることが多かったので,両親が不憫に思ったのでしょうか、,私が少しでも頭が痛いなどというと,付録がたくさんついている漫画の本やおもちゃをすぐ買ってきてくれましたので,山ほどおもちゃを持っていました。
   体は弱かったのですが,けっこうやんちゃで正義感が強く,けんかになると自分が前に出ていって,あえてやってしまうことがあったり,感謝されるのがすごくうれしかったりして,小中学校時代はいわゆるガキ大将のままで育ちました。悪さをしては,よく親にひざや手にお灸をすえられました。時にはお尻にお灸をすえられることがあり,見えないものですから一番怖かったです。お尻だけはやめてもらいたいと思いましたね。


Q   今の職業につかれたきっかけはどのようなことですか?

   アメリカの大学に進んだのをきっかけにホテル業界と関わるようになったのですが,そもそも,ホテルマンになるためではなく,英語を勉強するために留学し,後にホテル経営について学ぶことになりました。その後,アメリカのホテルに勤務することになったのですが,入ろうと思って入ったわけではないのです。運命ではないですが,一つ一つの出会いを大事にしてきて,今に至ったという感じです。仕事柄いろいろな方とお会いする機会がありますが,それぞれのご縁を大切にしていると,お会いした時はあまり関係がなくても,何年かたって関係がつながっていたりすることが多いです。


Q   最近関心をお持ちのことは何ですか?

   地雷で足を失った子どもたちに義足を贈る活動を始めたいと考えています。海外では,チャリティー活動は活発ですが,日本では,まだまだ本当の意味で根付いてはいないように思います。地雷で足を失った子どもたちに義足を贈るチャリティーというのは,目的がわかりやすいですよね。自分が寄付したものがほんの少額でも,それがどこの国のなんという名前の何歳の子の義足になるのか,その子がどういう生活をしているのかというのがわかるとうれしいですよね。チャリティー活動では決して見返りを求めてはいけないとは思うのですが,一つだけ,その子が喜んでいる言葉がほしいです。そうなると,もっともっとやる気がでると思うのです。
   日本ではまだ,寄付をすることに慣れていませんよね。公明正大にやらなくてはいけないけれど,話題になって,売名行為だと言われるのはとても嫌ですから,どのようにすれば最もよいか考えています。中国の昔の本に、「陰徳」という言葉があります。陰の徳というのがあって,表に出た瞬間に徳ではなくなってしまうというものです。陰にあって初めて徳になるので,表に出さないで何かできないのか,というのを考えています。
   人間は社会人として成長するということに加えて,死ぬときにまで何をやれたかというのがあるじゃないですか。企業社会の中で,どのくらい企業が大きくなったかいうことも大事ですが,自分がいることによって誰かが救われたということほどすばらしいことはないと思っています。


Q   子育てに関わっている方や若い世代の方に対して,子育てや子どもと大人とのかかわりに対してのアドバイスをお願いします。

   私は,愛情を豊かにするためには愛情をかけることだと思います。子どもというのは,とにかく愛情をかけてかけてかけまくった方がいいと思うのです。我々大人は、自分たちが子どもの頃享受していた自然という大きな恵みを破壊してきました。本来ならば,自然に囲まれることは子どもたちにとって権利であるはずなのに、大人がその権利を奪っています。自然が失われている中で,子どもたちをいわゆる人工構造物のかたまりの中で生活させてしまっている,その中で唯一自然のものというのは愛情だと思います。愛情はやはり浅い愛情ではなくて、深くなってはじめて本当の愛情だと思うんですよ。深い愛情は子どもと一緒に共有できると思います。愛情が深くなると,子どもも親も通じ合えるのではないでしょうか。本当に深い愛情を与えることによって,深い愛情を持った子どもたちが少しでも増えてゆけばよいと思いますね。
   それは,ホテルの仕事でも同じことです。私たちはよいホテルをつくろうとすると,まず従業員に対する愛情を先行させます。従業員が自然にスマイルできるようになる環境をつくることにとても力を入れています。だから技術論というのは後まわしになってしまいます。「こういう技術が足りない,ああいう技術が足りない」というのをお客様によくいわれても,私は割合と平然としているんですね。それはなぜかというと,よく相撲でいう「心・技・体」ってありますよね。あの順番なんですよ。心が豊かになってくると技術はすぐ入ってきて,簡単に従業員たちは技術を身につける。しかし「これやれあれやれ」と愛情のない言い方されて,無理矢理覚えさせられても,すぐ忘れますし,反発心の中からは笑顔も出ません。サービスの中に愛情が加わってくると,相手の感動を呼ぶんですよ。ですから,お客様に感動していただこうとするならば,従業員に愛情を与えないといけません。これは子育てと同じだと思います。
   子育てをする際に反面教師という言い方をすることがありますよね。反面教師というのは本当の意味での愛情にはなりませんから,反面教師なんて,うそぶいている親がいてはだめですよ。仮にそういう人がいるんだったら,自分のためにも子どもたちのためにも絶対やめていただきたい。反面教師によって教わった人というのは,徹底的にその反面教師に対して嫌悪感を持ちますからね。


Q   ホテルを育てるには,まず,愛情をもって人を育てるということですね。

   おっしゃる通りです。ホテルというのは,基本的には人というエッセンスの固まりみたいなところですから,人を横に置いて,単にハードウェアやソフトウェアだけを立派にするだけでは絶対できません。ホテル業で一番大事なことは,どんなことがあってもお客様を傷つけてはいけないということです。火事や事故などが起きる可能性が一番高い時間帯は、人がいない時なんですね。何名かの夜勤者しかいない時に起きやすいです。人手が手薄の時に,事故を防ぐためには,一つの方法しかないんです。それは,いわゆる陰になってホテルを支えている人たちがどれだけお客様に対する愛情を持っているかということです。それさえあれば,いかなる事故も最小限に食い止めることができます。会社に反発していたり,半身で構えていたり,仕事に対して愛情を持っていなかったりと、そういう人がいざという時にどれだけの動きをするかというと,きっとそのような人は一生懸命やらないですよね。我々が考えていかなければいけないことは,人間ビジネスにつきるわけで,やはり,働いている人とマネジメントの間に隔たりがあると,事故が起きた際などは,悪い方向に行く可能性があります。愛情を持って育てた従業員がお客様に対して心のこもったサービスをすることによって愛されるホテルになっていきます。本当に「愛情」が大切だと思います。