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 子どもと私と   第1回インタビュー 

 

写真:森本惠美さん

森本 惠美(もりもと めぐみ)さん
幼稚園園長


プロフィール
1948年生
1969年より幼稚園教諭として勤務
2002年より幼稚園長
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「父母が私に伝えてくれたもの」

Q   小さい頃はどのような環境で過ごされたのですか?

   お寺で生まれ育ったものですから,お墓でかくれんぼをしたり,木の枝を集めてチャンバラをしたりして遊ぶことが多く,おままごとなどはほとんどしませんでしたね。
   お寺というのは365日24時間営業なんですね。職場と住居が同じなので,家族全員がそれぞれするべきことをしなければいけない。朝の本堂のお掃除からお客様が見えたときのお茶出しなど,子どもたちも家の仕事をするのが当たり前でした。土日も法事などで忙しく,家族で出かけることもありませんでした。
   毎日いろんな人がお寺を頼りにこられて,どんな方がこられてもお迎えするのです。三人姉妹の長子ですから,私も小学生の頃から,玄関でお迎えしておりました。そのような環境の中で,社会性が自然と身に付いたと思います。


Q   そのような環境を不満に思われることなどはありませんでしたか? 

   うちの場合は両親も祖母も働いていましたので,それが当たり前だと思って暮らしてきました。両親が子どもの前でぐちをこぼしたり,不満を言ったことがまったくなかったからだとも思います。
   両親は忙しくても,例えば夜のわずかな時間に,一緒にレコードを聴いたり,お寺だけでなく幼稚園もやっていましたから,幼稚園のことなどを夫婦で話し合ったりしていました。小さい子どもには話の内容はわからないのですが,夫婦がとても仲良く,楽しそうに話す様子が心に焼き付いています。両親がけんかをするのを一度も見たことがありません。両親が,夫婦というだけではなく一緒に仕事をするパートナーとしてやっていくのをずっと見て育ったことは,幸せなことだったんだなあと今は振り返っています。



Q   他にご両親から教えられたこと,印象に強く残っていることはありますか?

   僧侶の父は,少年院と刑務所を訪問して教戒師としての役割も果たしていました。また,保護観察期間の少年や刑期を終えた方がお寺に訪ねてくることもありました。時間によっては父が「一緒にごはんを食べていきなさい」といって食卓を囲むことがあり,よく8人とか10人とかでご飯を食べていました。そんなときに父はみんなに分け隔てなく接していましたが,幼い頃は「なぜこんなにうちには家族じゃない人がいるのかな」と不思議に思ったりもしました。
   中学生の頃,父が「どうしてうちに来る子どもたちが罪を犯してしまったのか,どこに原因があるかわかるかい」と私に聞いたんです。父は,「やっぱり両親なんだよ。両親が仲が悪かったり,子どもを邪険にしたり。外の世界に原因はない。家庭の中だぞ。」と言いました。このようにして,子どもを産み育てるのはとても責任が大きいということ,大事に育てるというのは単に贅沢をさせるだけではないことを父を通じて教わりました。


Q   幼稚園のお仕事をされるようになったきっかけは?

   短大を出た後,親の幼稚園に人手が必要だったこともあり,幼稚園の教師になりました。教師という仕事の重責と真の喜びは私も重々わかっていましたが,実は私は本当に進みたい道が別にありました。親も別の道に進むことは賛成で,タイミングを見て,そちらに進めばよいと言ってくれていました。
   しかし,私が20代の時に両親とも相次いで突然病気で亡くなってしまいました。それまで精神的に安定した恵まれた生活を送っていたのが,崩れてしまったんですね。親は年をとって亡くなるものだと思っていたのが,病気でこんなに早くいなくなってしまうんだ,それが自分にもおこるんだ,と。
   本当に進みたいと思っていた道とは結局縁がなく,私も,必死になって家庭と幼稚園での仕事を両立させることとなりました。このような言い方が正しいかどうかわからないのですが,両親が亡くなったことで,さらにいろいろ学ぶ機会を与えてもらったのかな,と今では思います。自分の将来を自分の力でなんとか切り拓いていかなくてはいけないと思い,もうこれだけで進んできたようなものです。


Q   今,「自分がこれからどうしていけばよいかよくわからない」という方がたくさんいますが。

   例えば,私たちの大先輩の中にも,社会に大きな貢献をされた方がたくさんいらっしゃいます。その方々の行動力,しなやかさをお手本にしていくことがよいのではないでしょうか。
   私は同性でとても一所懸命やってこられた方について「どこにそんなエネルギーがあるんだろう」ということに興味をもって,大先輩たちの本をよく読んでみます。みなさんかなりの苦労をなさっているけれど,弱音を吐かずに,努力と工夫をされ,自分にあった方法をうまく見つけて,むずかしい問題を乗り越えられているのです。そのまま自分に応用することはできないでしょうが,いろいろな方法で得た知識を知恵に変換していくことは,見習うべき生き方ではないか,と思います。まだ私も答えを探している途中ですが。
   普段幼稚園の仕事をしている中で,園児のお母さんたちと接する機会が多いのですが,今のお母さんには,目先のことにとらわれるよりも,時節ごとに果たすべき役割をよく考えて行動することを大切にしてほしいと思います。長寿社会なのですから。母親としての役割に重心をおく時期もあるでしょうし,親であり,仕事もするといった二役も三役もこなす時期もあるでしょう。いずれも相当の努力をする覚悟がいります。しかし,努力をすれば多くのものが得られる。先人たちのおかげで恵まれた時代になったという気持ちが強いですね。


Q   これからに向けて一言お願いします。

   大切な子どもたちを幼稚園でしっかりとお預かりするのが私の基本ですが,園児のお母さん,お父さんたちが豊かになる場としても,幼稚園がお役に立てればと思っています。
   そして,お母さん,お父さんたちが,それぞれ個性を生かしながら支えあって生活できる社会が少しでも実現されればよいと思います。そのためには,民間企業の経営者など産業界にも,育児や家族の重要性が届いてほしいですね。