財団法人全日本私立幼稚園幼児教育研究機構 研究概要

 私立幼稚園における学校評価推進のための研修の在り方に関する研究

1 研究の目的

 私立幼稚園における学校評価の実施に当たっては、特に、自己評価者の理解等の一層の推進や、学校関係者評価委員会の評価者の育成・養成が必要である。そこで本研究では、学校評価実施上の理解等を中心とした研修の在り方、方法、手続き等に関して調査研究を行い、その成果をまとめ、各園における具体的な学校運営の改善と教育の質の向上につなげることとした。

2 研究の内容及び方法

 本研究の目的を達するため、「私立幼稚園における学校評価推進のための研修の在り方に関する研究検討委員会」を設置し、私立幼稚園の学校評価に係る課題を抽出・整理し、明確化するとともに、それをもとに各私立幼稚園が実施可能な学校評価の手法、手続き等について検討した。また、第三者評価の手法としての公開保育の実施と分析を行い、これらを合わせて、「私立幼稚園における学校評価推進のための研修の在り方に関する研究」報告を作成した。
 具体的には、以下の研究計画に沿って研究を行った。

(1) 「私立幼稚園における学校評価推進のための研修の在り方に関する研究検討委員会」の設置

  全国規模で「現場の幼稚園園長・理事長」、「学識経験者」等による「私立幼稚園における学校評価推進のための研修の在り方に関する研究検討委員会」を設置した。

(2) 私立幼稚園における学校評価の充実に係る課題の抽出・整理

 学校評価に係るこれまで本財団で行った次の調査研究の成果から課題の抽出・整理を行った。

  • 『私立幼稚園のための学校関係者評価参照書』(平成21年度文部科学省委託「学校の第三者評価の評価手法等に関する調査研究」E.「幼稚園における学校評価の推進に係る調査研究」、平成22年3月)
  • 『私立幼稚園における第三者評価の在り方とその推進に関する研究』(平成22年度文部科学省委託「幼児教育の改善・充実調査研究」、平成23年3月)

  また、複数の学校評価実施園から、面接調査により学校評価実施上の課題を聴き取り、整理を行った。
  これらを通じて明確化された課題を踏まえて、各私立幼稚園が実施可能な、学校評価の手法、手続き等について検討し、その中で、 

  • 重点目標は、課題を広げすぎることなく、園の特色や解決を目指す課題を精選し、設置者の教育に関する方針も踏まえたものとなるようにする。また、園長、主任等だけで行うのではなく、全教職員が参加して定めるようにする
  • 評価項目は、重点目標がどれだけ達成されているかという「成果」をみる視点と、どのように取り組んでいるかという「取組やその過程」を見る視点があり、両方の着眼点から項目を設定するよう心がける
  • 学校関係者評価の人数は、例えば7~8名程度の人数にすることが考えられるが、各園で実施する学校関係者評価の内容や評価委員の負担等を考慮して必要な人数を選定する
  • 学校関係者評価委員会の回数は、自園の概要の説明、課題の提示と保育の様子の参観、課題の達成状況の参観、次年度への課題の提起などを内容とし、年間3~4回程度の実施が適当と考えられるが、各園の実情等に応じて必要な回数を開催する

などを整理した。

(3) 第三者評価の手法としての公開保育の実施と分析

 「私立幼稚園における第三者評価の在り方とその推進に関する研究」によれば、私立幼稚園には、第三者評価の実施については、学校教育や学校運営、幼児教育などに関して専門性を有する者に依頼し、実証的な資料を用いて、評価の客観性を高めたいという願いがあると考えられる。このため、幼稚園における第三者評価としては、「幼稚園における学校評価ガイドライン(平成23年改訂)」に示された「一定の地域内の複数の学校が協力して、互いの学校の教職員を第三者評価の評価者として評価を行う」という実施体制において、「学校運営に関する専門性や幼児教育に関する専門性を有する者」がかかわり実施するものとして公開保育を行うことが考えられる。第三者評価の手法としての公開保育の可能性を探るため、浜幼稚園(兵庫県)、自然幼稚園(京都府)、泉山幼稚園(京都府)、聖光幼稚園(大阪府)、関西学院聖和幼稚園(兵庫県)において公開保育及び保育後に当日の保育についての話し合いを実施し、評価実施上の課題を整理し、分析した。

1 公開保育実施上の配慮点

 今回の調査対象である園の中には、これまで公開保育を実施したことがない園もあることから、本財団の研究研修委員が府県の幼稚園連盟の研究委員と共に事前訪問し、準備や当日の進め方等について、園の園長、主任等と話し合う場をもった。話し合いの中では園側の公開保育に対するネガティブなイメージ(否定的な意見を言われる、苦労が多くして効果が期待できない等)を少しでも払拭し、前向きに取り組んでもらうため、「公開保育並びに当日の話し合いを保育の質向上に生かすため」という視点を共有することに配慮した。以下は準備から当日の話し合いに至るまでの実施上の配慮点である。

<事前準備> 

  • 公開保育の評価者(コーディネーター)が事前に訪問し、園の保育や運営の状況、自己評価の重点や園の課題、公開保育の案内を行う範囲、予想される参加人数、準備物、公開保育当日の予定や司会等について打合せを行う。特に、園の保育者が自分たちの保育の質を向上させるための取組であることを理解し、前向きに取り組んでもらえるように、まず、園長・主任のもつ不安を拝聴することと取組の効果について共有することを心がけた。
  • 公開保育後の話し合いを効果的なものとするために、全体会や学年ごとの分科会の司会(ファシリテーター)を手配し、事前に進め方について打合せを行う。

<用意する資料>

  • 園の概要(定員、実員、教職員の構成)
  • 自己評価公開シート
  • 公開保育当日の保育案(園が実際に使用している形態のもの)
  • 公開保育アンケートシート(話し合いの前に質問事項や感じたよさ、園の課題(参加者に意見を求めている点等)について記入しておく)

<保育後の話し合いの持ち方>

  • 各学年、全体会では事前に決めておいた者が話し合いの司会を努める。
  • 話し合いでは、園の保育について共感できることや優れている点について等、肯定的な視点からの話し合いを心がける。
  • 話し合いの前に司会はアンケートシートから質問等を事前に把握しておき、参加者の積極的な参加に配慮する。
  • 学年ごとの分科会を行う場合は、全体会において各分科会で話し合われた内容について報告を行う。

2  公開保育実施後のアンケート調査の分析

 公開保育後に、幼稚園教諭73 名から、公開保育並びに保育後の話し合いについてのアンケート調査を実施し、回答を得た。

(表1)公開保育後のアンケート結果

 

 

まったくあてはまらない

あてはまらない

どちらともいえない

あてはまる

非常にあてはまる

1

自分の保育がレベルアップした(自分の保育のレベルアップ)

0    

0

4

58

11

0.0%

0.0%

5.5%

79.5%

15.1%

2

自園の保育がレベルアップした(自園の保育のレベルアップ)

0

0

5

53

13

0.0%

0.0%

7.0%

74.6%

18.3%

3

保育者同士の関係がよくなった(保育者同士の関係)

0

1

6

44

22

0.0%

1.4%

8.2%

60.3%

30.1%

4

園の課題が明確になった(課題の明確化)

0

0

13

46

14

0.0%

0.0%

17.8%

63.0%

19.2%

5

園の課題が解決した。解決の手掛かりを得た。(課題の解決)

1

1

25

43

3

1.4%

1.4%

34.2%

58.9%

4.1%

※一部無回答のため回答数が少ない部分がある。

 アンケートの結果から、「非常にあてはまる」、「あてはまる」を合計でみると、「自分の保育のレベルアップ」は94.6%、「自園の保育のレベルアップ」は92.9%、「保育者同士の関係」は90.4%という回答を得ている。一方、園の課題に関しての質問項目を見ていくと、「課題の明確化」が82.2%に対して「課題の解決」が63.0%という結果となっている。 
 また、個々の自由記述での主な回答としては以下のような記述があった。

  • 園内で話し合う機会を多くもてたことがよかった。

  • 職員間で課題を共有できた。

  • 自園のよいところと課題が見えてきた。

  • 資料作りを行う過程で改めて自分の保育を見直し、文章に表すことで、日々見落としていた部分を振り返ることができた。 

  • 当たり前に思っていたことに再度関心を持ち、思いを深めるようになった。

  • 自園で普通に取り組んでいることが他園の先生には普通でないことが分かった。

  • 不安に思っていたことを話し合ったので、とても勉強になった。

  • 分かっていてもできなかったことや気付かなかったことなど、園の中だけではどうにもならなかったことを指摘してもらえてよかった。

  • 自分の保育を客観的に見てもらい評価される経験はほとんどなかったので、今回自分自身の課題が見つかった。

  • 見てもらうことで自分では感じ取れない自園のよさや考えていくべき点に気付かされた。

  • 新たな視点を与えられたり、保育を見直したりするよい機会になった。しかし、それが「レベルアップ」という言葉にふさわしいかは思案するところである。

 一方、今回の5園の内訳は、過去に公開保育を実施した経験がない園が2園、数年に一度定期的に公開保育を実施している園が3園であった。そこで、公開保育の実施経験の有無により別個に集計したものが表2(実施経験無)と、表3(実施経験有)である。

(表2)過去に公開保育を実施した経験が無い園

 

 

 まったくあてはまらない

 あてはまらない

 どちらともいえない

 あてはまる

 非常にあてはまる

1

 自分の保育がレベルアップした(自分の保育のレベルアップ)

0

0

1

21

3

0.0%

0.0%

4.0%

84.0%

12.0%

2

 自園の保育がレベルアップした(自園の保育のレベルアップ)

0

0

2

18

5

0.0%

0.0%

8.0%

72.0%

20.0%

3

 保育者同士の関係がよくなった(保育者同士の関係)

0

0

2

19

4

0.0%

0.0%

8.0%

76.0%

16.0%

4

 園の課題が明確になった(課題の明確化)

0

0

0

17

8

0.0%

0.0%

0.0%

68.0%

32.0%

5

 園の課題が解決した。解決の手掛かりを得た(課題の解決)

0

0

2

22

1

0.0%

0.0%

8.0%

88.0%

4.0%

(表3)定期的に公開保育を実施している園

 

 

 まったくあてはまらない

 あてはまらない

 どちらともいえない

 あてはまる

 非常にあてはまる

1

 自分の保育がレベルアップした(自分の保育のレベルアップ)

0

0

3

37

8

0.0%

0.0%

6.3%

77.1%

16.7%

2

 自園の保育がレベルアップした(自園の保育のレベルアップ)

0

0

3

35

8

0.0%

0.0%

6.5%

76.1%

17.4%

3

 保育者同士の関係がよくなった(保育者同士の関係)

0

1

4

25

18

 0.0%

 2.1%

8.3%

 52.1%

 37.5%

4

 園の課題が明確になった(園の課題の明確化)

0

0

13

29

6

 0.0%

 0.0%

 27.1%

 60.4%

 12.5%

5

 園の課題が解決した。解決の手掛かりを得た(園の課題の解決)

1

1

23

21

2

 2.1%

 2.1%

 47.9%

 43.8%

 4.2%

※一部無回答のため回答数が少ない部分がある。

 2つの表を比較して特徴的なことは、公開保育を実施した経験がない園では、全ての項目で「非常にあてはまる」、「あてはまる」の割合が高く、「自分の保育のレベルアップ」、「園の保育のレベルアップ」、「保育者同士の関係」、「課題の明確化」、「課題の解決」の全ての項目で改善につながっている、あるいはつながる可能性が高いと言える。
 一方、定期的に公開保育を実施している園では、「保育のレベルアップ」、「保育者同士の関係」に大きな差はないものの、「課題の明確化」については「どちらともいえない」の割合が高い。このことは公開保育の実施が課題の明確化につながらなかった、あるいは効果がなかったというよりも、定期的に公開保育を実施していることで、公開保育前から園の課題を把握していたと見るのが妥当であろう。

3 公開保育に関する考察

 今回の5 園の調査では、公開保育を実施した効果としては、「保育のレベルアップ」、「保育者同士の関係」という項目について「非常にあてはまる」、「あてはまる」の合計が9割を超えていた。
 特に、「保育者同士の関係」については「非常にあてはまる」が、30%を超えていた。このことは、事前の準備の段階から園の保育者同士が話し合う機会が増え、多くの参加者から見られ、質疑応答をするという共通体験によるものと思われる。また、自由記述を含めて考えると「保育のレベルアップ」については、自園を第三者の目を通して見つめ直すことにより、課題だけではなく自園のよさを客観的に認識できるようになったという傾向が表れている。ただし、公開保育並びに保育後の話し合いが保育のレベルアップに直結していないという意見もあった。
 一方、園の課題についての項目では、公開保育の実施経験の有無により傾向が大きく異なっていた。定期的に公開保育を実施している園では、「どちらともいえない」と答えた割合は「課題の明確化」の項目については27.1%、「課題の解決」については47.9%となっている。これは、公開保育を実施した経験がない園がそれぞれ、0%、8%であることから、「課題の明確化」と「課題の解決」については公開保育を実施した経験がない園において、今回の公開保育が効果的であったと言えるであろう。
 また、既に課題が明確になっている園については、公開保育及び保育後の話し合いだけでは課題の解決は難しく、やはり第三者評価を実施しているイギリス、ニュージーランドのように専門家による評価後の支援が必要とも考えられる。
 以上のように、第三者評価の手法としての公開保育は保育の質の向上、保育者の関係の改善についての有効性は高い。しかし、準備の段階から公開保育後の話し合い、あるいは事後の支援に至るまで、評価者の役割は非常に多岐にわたっている。また、今回の調査の中でも話し合いの司会の役割が難しいという感想があり、保育の専門性に加えて、話し合いのもち方に関しての専門性をもつことも重要であるし、その後の園の課題解決に向けての取組への支援等のコンサルティングの役割を担うことも必要であろう。
 いずれにしても第三者評価の評価者の役割が非常に重要で、保育の専門性、学校運営の専門性とともにファシリテーションの専門性、園内研修構築の支援に関する専門性等を一人の評価者が全て担うのではなく、チームとして様々な専門性をもった評価者が公開保育にかかわったり、役割を分担したりしていくことが必要であろう。 

3 研究の成果と課題

(1)研究の成果 

 現在、私立幼稚園における学校評価の実施率は徐々に高まりつつあるものの、未だ十分とは言えない状況にある。そこには、幼稚園の規模が小さく、園内の教職員のみの話し合いだけでは議論に行き詰まったり、学校評価そのものの方向性を見失ったりすることなど、他の学校種にない組織上の特色がもたらす課題がある。本研究では、こうした問題を解決し、学校評価を確実に定着させるため、各私立幼稚園が実施可能な学校評価の手法、手続き等についてまとめることができた。

(2) 今後の課題 

 今後の課題としては、まず評価者の専門性について更に具体的に検討を進め、その専門性を身に付けるための評価者養成プログラムを構築することであろう。どのような内容の研修を何時間受講するのかや実習も必須とするのかに加え、その研修を実施する養成機関等について検討する必要がある。
2点目に、教育の質の向上を目指すに当たり、何をもって質の高さとするのかを表す共通の指標(評価項目)の作成について検討することが必要であろう。もちろん、全てを共通の評価項目で評価することは不可能であるし、各園の理念や地域の事情により価値観も異なってくるが、例えば、「幼児理解の方法や記録」、「幼稚園教育要領に沿った教育課程や計画」、「環境の構成」、「保育者のかかわり」、「保育の評価(省察)」、「家庭支援・地域連携」等について、諸外国の第三者評価の枠組みも参考にしつつ検討する必要がある。
 また、評価にかかわる大きな課題として、保護者や地域から幼児教育の質について十分に理解されていないということがある。幼児教育の質について社会と共有していくために評価項目の検討等様々な議論に際して保護者や地域も巻き込んで具体的に話し合うことを検討していくことが必要とも考えられる。

お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成25年03月 --