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奈良市教育委員会 研究概要

幼稚園教員等の資質向上 ―子どもの遊び・行動の見取りと評価―

1  研究の目的

 本研究の目的は、幼稚園教員等保育者が子どもの発達の姿を見取り、自らの保育を評価し改善していく力量を形成することを通して、幼児教育の改善・充実を可能とする保育者の資質向上が図られることを明らかにすることである。具体的には、自園、他園の保育研究会において、実践者と参観者の立場を往還させながら、対話を通した省察の経験を積むことを通して、いかに新たな視点を得るようになるかということを明らかにする。

2  研究の内容及び方法

 本研究は、下記に示す「保育研究会」「幼保合同保育研修」「子どもの発達の姿の見取り(作業部会)」「先進地視察」「研究集会」を実施し、実践側-参観側の保育者同士の意見交流や、学識経験者や推進委員からの指導助言に基づく対話を行い、繰り返し、子どもの姿の見取りと、保育の評価の経験を積んでいった。
 保育研究会では、直接推進委員から指導助言を受ける「公開保育研究会」と公開保育研究会で学んだことを自分の園で実践する「園内保育研究会」とに分けられる。「幼保合同保育研修」は、3日間連続した公開保育研修を行うことに特徴がある。推進委員や作業部員に加えて、市内の保育者に参加を促し、取り組んでいる実践の広がりを狙った。「子どもの発達の姿の見取り」は作業部会で取り組んだ実践である。「先進地視察」と「研究集会」は、本研究のテーマに関連した先進的な取組や保育方法について学び、その成果を自らの実践に生かしていくものである。
 本研究における研修の重点は、「公開保育研究会」と「幼保合同保育研修」(公開)においた。これらは、実践側の振り返りと、参観者側の振り返り、学識経験者等による指導助言が交流され、省察が緻密に行われる場である。作業部員は、これらの参観に加えて、自園での園内保育研究会や「子どもの発達の姿の見取り」の部会、先進地視察、研究集会など、様々な方法の研修に参加し、自らの見取りや評価を見直す機会を得た。

(1) 保育研究会

1. 公開保育研究会

 公開保育研究会では、実施園は、実施前と実施後に「研修内容アンケート」を行い、保育の現状に対する課題意識を明確化させた上で、公開保育研究会に臨み、研究会後に自己評価を行った。すなわち、園が設定した研修の重点を、実践者も参観者も認識した上で、実際の保育がなされた。
 作業部員は、観察記録を作成し、見取りや評価を記述し、自園での実践や園内保育研究会で活用することが求められた。
 保育後、参加者が一堂に会して、カンファレンスが行われた。実施園の保育者がその日の保育の意図と振り返りを行い、作業部員や一般の参観者が見取りや感想などを述べ、推進委員から指導助言を受けた。この過程で、種々の意見交流がなされた。実施園は、話し合いの実際やカンファレンスから得られた成果を上記の「研究内容アンケート」に記載した。
 公開保育研究会は、幼稚園15園、保育園8園の23園により計25回(2園が2回実施)実施された。

2. 園内保育研究会

 市内の全幼稚園において本調査研究事業が活かされていくように、園外からは指導主事のみが参加する園内保育研究会の開催を奨励した。園内保育研究会は、1学期のべ23幼稚園、9月以降のべ14幼稚園、計のべ37幼稚園が実施した。9月以降の実施園が1学期より少ないのは、上記の17園が公開に切り替えたためである。
 作業部員は、他園の参観や作業部会による研修「子どもの発達の姿の見取り」などで得られた知見について、自らの園内保育研究会で報告し、実践に活かすこととした。 

(2) 研究協力園による幼保合同保育研修

 奈良市立六条幼稚園・奈良市立京西保育園による合同保育の実践開発の研修を年間6回開催した(3日間連続させ、6月28~30日と11月7~9日に開催)。3日間連続して合同保育を行うことで、その日の子どもの活動の見取りや評価を次の日の保育に活かすことができ、保育の日々の展開を研修することができた。推進委員・作業部員に加えて、市内全園に教員・保育士の参加を呼びかけ、6日間でのべ171名と多くの保育者が参加した。また、7月27日には六条幼稚園教員が、京西保育園での一日保育実習援助を行い、保育所の保育や養護の実践の内容と方法について学び、11月の合同保育に向けての幼児たちの様子を知ることができた。

(3) 子どもの発達の姿の見取り

 作業部会は、幼稚園教員9名、保育士6名の計15名で構成された。作業部員は、公開保育研究会や園内保育研究会、幼保合同保育研修、先進地視察に参加し、保育の実際を記録し、子どもの遊びや行動を見取り、保育の評価を記述している。保育研究会や幼保合同研修では、カンファレンスに参加し、自らの見取りや評価を交流、交換させてきている。これらの研修経験は、自園で報告し自園の保育に活かすと共に、その際には、自園の状況に応じた再省察が起こり、研修の意義を見直す機会を得ている。
 このように、繰り返し省察が行われ、記録や見取りや評価が蓄積されていることをふまえ、作業部員のみの作業部会をもち、これまでの見取りや評価をメタ的に検討する研修を行った。内容としては、3歳児・4歳児・5歳児の3グループに分かれて、これまでの自他園の記録や見取り、評価に基づき、遊びの事実に基づく幼児の発達の姿の見取りとしてまとめた。

(4) 進地視察

 先進的な取組を行っている幼稚園の保育内容・環境の構成・保育者の援助等について、作業部員(幼稚園教員4名・保育所保育士4名)・推進委員4名・指導主事1名の合計13名で鳴門教育大学附属幼稚園の視察を行った。
 先進地視察の目的は、第一に、優れた保育を参観し、奈良市の幼児教育の特徴や課題を相対的に捉えること、第二に、他園とはいえ市内のなじみのある保育文化のなかでは自明となっていることを、異なる保育文化の場に立つことで明らかにすること、第三に、幼児教育における子どもの発達の可能性や、そのための保育援助や環境構成の在り方を理解し、見取りや評価の可能性をひらくこと、にある。
 視察先の園の環境やエピソード記録の採り方、評価の在り方など、多くの収穫を得た。作業部員はその後の記録や見取りや評価に影響を受け、自園の保育の充実にその成果を活かしていった。

(5)研究集会

 市立幼稚園・私立幼稚園・市立保育所の保育者を対象に、研究集会を実施した。研究集会には、幼稚園教員53名、保育士26名、学校教育課指導主事5名が参加した。
 前半は、研究報告として、事務局から1年間の本研究の取組の概要と成果を報告した。幼保合同研修については、実施に至る経緯と今年度の経過を中心に、研究協力園の園長より報告を行った。
 後半は、幼児教育実践の研究者を招聘し講演会を行った。
 研究集会後、参加者全員に、研修会アンケートを実施した。「意欲的に取り組んだ」「講師の話は十分理解できた」「内容は、自己の課題の解決に役立つものであった」「内容は、今後の教育活動に活用できる」「本日の研修(講演会)は、全体的にみて満足であった」の5項目について、4件法で回答を求めたところ、全5項目とも「あてはまる」と「十分当てはまる」とを合わせて100%となる結果を得た。研究成果の共有と普及において、大変有意義な集会であった。

3 研究の成果と今後の課題

 本研究においては、子どもの遊びや行動を見取り、保育を評価する力量の形成に重点をおき、幼稚園教員等の資質の向上を図った。研修としては、1.保育研究会、2.幼保合同保育研修、3.先進地視察、4.研究集会、という、規模と形態の異なる機会を活用し、日常の保育を見直すための位相の異なる場に多くの保育者が参加した。
 本研究の特徴は、一つには、保育者の力量形成や資質向上に向けて、「見取りと評価に課題を焦点化し、集中的に質の高い省察の経験を積むことにある。二つには、そのために、自園での実践と他園での参観を往還しつつ、自らの見方や保育の構えを意識化し、その特徴や意味を考えることにある。三つには、「観察-記録-見取り-評価」といった保育者が個別に省察を深める局面と、カンファレンスや研究集会など相互交流において自らの見方を試し新たな課題に気付く局面との交互作用を定着させ、研究課題の追究と同時に研修システムの構築を図っていったことにある。

(1) 成果

1. 保育研究会における実施園の課題の明確化と事後評価の徹底

 公開・園内とも保育研究会の実施園は、研修の前後に研修内容アンケートに回答した。研修前には、保育とカンファレンスにおける課題を設定し、研修後には、研究会を振り返り、その成果と今後の課題を意識化することが、徹底された。
 今回の取組においては、「子どもの姿の見取り」「活動の援助」「環境構成」を課題とする園が多く、カンファレンスでは研修前に設定した課題の8割以上が取りあげられた。一方で、事前に未設定であっても、カンファレンスで取りあげられた課題が3割あり、参観者によって、普段、自園では気付かれない課題を意識化することができた。
 課題の捉え方は、研修の前後で園なりの変化があった。その課題意識の変化は、カンファレンスで参観者とのやりとりの過程で園独自の課題が可視化されることで生じていた。すなわち、事例に見るように、カンファレンスでは、「子どもの思いの実現と保育者の援助」とか、「子どもの発達の応じた保育の在り方」とか、「異年齢の交流における遊びの充実と環境共生の在り方」とか、焦点化された課題に園の独自性が見られた。いずれも、実施園の保育者と、参観者との見方の違いから焦点化が進んだ。
 公開保育研究会を開催する際には、環境や活動の構成、指導案の方向性、子どもの姿の普段の見取り方などについて、園の保育者間でよく協議されていた。研究会後は、改めて園で課題を共有し、それに取り組む姿勢がつくられていた。周到な準備はカンファレンスで活かされ、参観者からの質疑や研究者からの指導助言を事前の課題と結びつけて自らの保育を評価し、応答していた。研修が実質化し、同僚の保育者間の協働を促した。

2. 保育参観における子どもの姿の見取りと保育の評価の徹底

 他園の研究会や保育参観に臨む参加者の姿勢にも変化が見られた。実践者の環境構成の意図や援助のポイントをよく理解しつつ、子どもの発達の姿に応じた環境や援助となっているか、子どもの姿を見取りながら、適切な評価を行うようになった。また、カンファレンスにおいては、幼稚園教員と保育士の捉え方の違いは多少あるものの、幼児教育という共通の観点にたち、互いの気付きを出し合い、意見を交流させることができた。加えて、中堅やベテランの保育者は、他の参観者に保育内容や子どもの姿を解説し、環境や援助の意味を伝える姿も見られた。「見取りと評価」という明確な研修課題があり、交流の場が用意されることで、予想以上に、保育者が相互に「学びあう」姿が見られるようになった。
 また、本研修への参加は、記録や見取り、評価の技能習得に留まらず、保育者自身が直面している成長課題の解決にも資することとなっていた。つまり、本研究は見取りと評価に研修課題を焦点化していたが、保育参観などで保育者が交流し学び合う研修システムをとったことで、研修成果は自園に積極的に還元され、自園の保育者を刺激し、相対的に保育の改善が図られ、結果的に、保育者自身の成長を促したと考えられる。

3. 幼保合同保育の実践開発

 同じ小学校区内にある近接の幼稚園と保育所による合同保育研修は、奈良市にとって先駆的な実践の開発の機会となった。まず、事前の打ち合わせと事前保育に始まり、本実践当日の保育実践、保育後の反省と翌日の保育計画に至るまで、合同保育の実施過程自体が開発された。さらに、6月と11月の2回にわたり実践がなされ、より適切な保育形態や保育内容、保育者の援助が探究された。
 2園の保育者の保育実践力は回を重ねるにつれ高まった。自らの評価観や保育観を互いに交流させ、本音で協議し取り組むことができた。6月では子どもの関わり合い自体が問題となり、保育者の言葉かけが援助の課題となった。11月には、いずれの保育者も、子どもが幼稚園、保育所のいずれに在籍するかに区別なく言葉かけや見守りを続け、援助の課題が解決すると共に、遊びの充実や深まりが新たな課題となっていた。1年間の取組によって、まず、振り返りと話し合いによって、子どもの姿の捉え方が変わり、保育の質が向上した。次に、2回の本実践によって保育者間の協働が進み、課題の発見と解決が短期的、中期的になされ、援助の仕方が改善した。さらに、幼稚園、保育所の別、年齢間で子どもの発達が違うことに気付くと共に、幼稚園と保育所のカリキュラム観や援助観など双方で大事にしていることの違いに気付いた。
 幼保合同保育研修には、多くの保育者が参観した。実践者ばかりでなく、参観者も豊かな環境や的確な援助によって、子どもの姿が劇的に変わっていくことに驚くと共に、大いに刺激を受けていた。 

4. 保育記録に基づく子どもの発達の姿の見取り

 作業部員や推進委員においては、自園、他園の数多くの保育研究会に参加し、記録をとり、その記録をもとに子どもの姿を見取り、保育の評価を行った。その過程で、記録の精度があがるとともに、子どもの遊びや行動の事実に基づき、発達の見取り、保育の評価につなげられるようになった。また、カンファレンスや作業部会において、自らの見取りや評価を互いに交流させ、共通の子どもの姿を描くことができるようになった。交流によって、自らの見方に自信をもつ姿も見られた。

5. 研修システムの構築と定着

 本研究の数々の試みにより、参加した保育者自身の実質的な資質向上がなされたばかりでなく、公開保育のシステムや、実践開発のシステム、研修成果の波及といった、幼稚園と保育所に共通の研修システムが構築されてきた。例えば、公開保育研究会の開催に前向きになった。他園の保育参観が繰り返され、「記録-見取り-評価」という一連の作業や、カンファレンスにおける交流が定着した。幼保合同保育研修に立ち合い、実践開発の過程や意義について理解が深まった。他園の公開保育の参観や先進地視察、研究集会の内容などは、参加者は自園において報告し、研修の成果が園で共有された。報告と共有は、参加者には、再度、自らの保育を省察する機会となった。

(2) 今後の課題

 最後に、今後の課題について、2点ほどあげておきたい。
 一つには、今回構築された研修システムを継続させ、全市的な取組にしていく必要があるだろう。特に、公開保育研究会については常態化を図るとともに、カンファレンスを定着させ、確実に研修成果を得られるようにしていきたい。また、専任、時間講師の区別無く、多くの保育者が他園の保育参観が可能となるよう、環境整備を図っていきたい。実践開発のよい機会となる幼保合同保育研修についても、実践を蓄積するためにも、別の地域の園が取り組めるよう努力したい。
 二つには、今年度の研修成果をより波及させるために、保育者自ら研修の企画・運営を行えるようにする必要があるだろう。幼稚園、保育所における幼児教育の質の向上は喫緊の課題である。今年度の保育参観や幼保合同保育研修に見られるように、実践に即して共に語りあい、学びあう研修は必須である。そのためには、講義・演習型の研修では限界があり、それぞれの地域や園で、研修を立ち上げられなければならないだろう。今後は、保育のデザインや研修企画についての研修も開かれてもよいだろう。

お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成24年08月 --