幼稚園における障害のある幼児の受け入れや指導に関する調査研究

徳島県吉野川市

1.研究テーマ及び研究の観点

 ○研究テーマ

  一人ひとりのニーズや特性に合わせた幼稚園生活のあり方について
  ~教育的ニーズや特性に応じた指導・支援と、ともに生きる心の育ちを求めて~

  ○研究目標

 幼児期に大切にしたい,人とかかわる力を幼児の姿から見つめ直し,障害のある(個別的な配慮を必要とする)幼児を受け入れる際の園生活の特質や人間関係を大切にして,幼児の全面的な発達のありさまや支援のあり方を明らかにする。

2.地域の概要

 徳島県吉野川市は,「世代を越えて夢紡ぐまち」をめざし,平成16年10月に旧麻植郡4町村が合併した。人口は46,013人(平成20年2月1日現在)で,市内には公立幼稚園14園,私立幼稚園1園,公立保育所11カ所,私立保育所(認可保育所)1カ所がある。市民の教育への期待は大きく,学校教育の充実は重点課題である。小学校就学前の一年については,保育所ではなく幼稚園で学ばせたいという保護者が多く,幼稚園教育の充実が強く望まれているところである。
 近年,障害のある幼児が地元の幼稚園に通うことを希望する場合が多くなっている。また,専門機関の診断は受けていないが,特別な支援を必要とする園児も増えてきている。
 園児の入園については,障害の有無にかかわらず受け入れている。また障害のある幼児については,入園前に情報を収集し,必要に応じて支援加配助教諭を配置している。入園後の指導は専門家の訪問や巡回指導訪問で,具体的な援助の方法などの指導を受けている。

3.研究協力機関

   公立幼稚園 1園

4.研究の内容及び方法

 ○研究の内容

 1年次の研究をもとに,平成19年度は,特別支援教育の本格的なスタートに伴って,新たに副主題を「教育的ニーズや特性に応じた指導・支援と,ともに生きる心の育ちを求めて」として,研究を進めた。

 1 一人ひとりの特性やニーズに応じた適切な保育・指導のあり方について
 

 2 一人ひとりの特性やニーズに応じた支援のあり方について
 

 3 保護者等への理解や協力を得るための啓発のあり方について

 ○研究の実際

 1 特別支援教育は「ともに生きる教育」であるということを基本に捉え,人とかかわる中で,ともに生きる心を培うことをめあてに取り組みを進めた。
 

 2 具体的なてだて
  ア 一人ひとりの特性やニーズに応じるため,「人とかかわる力の育ちと教師のはたらきかけの指標」を作成する。
  イ 「ともに生きる心の育ちをはぐくむ教育課程」を作成する。
  ウ ともに生きる心を培うために,生活や遊びを工夫する。
  エ 保護者・関係機関等の理解・協力を得ながら,人とかかわる力を育成する。
 

 3 個別的な配慮を必要とする幼児の支援について
  ア 「園内支援委員会」を設置し,職員全体で支援を必要とする幼児の実態把握や支援の方法の検討等を行い,共通理解を図った。また,個別の指導計画の作成と活用の仕方を工夫した。そして,保護者の理解・協力を図るための方法,専門機関との連携,相談,保護者・外部機関との連携を図った。
  イ 幼児の具体的な活動内容をとらえ,整理・分析し,幼児の育ちの傾向を把握するために,「幼児の活動の整理シート」を作成した。また,専門機関の相談員の指導を得ながら,幼児の状況から課題を明確にした,「幼児の状態とかかわり方のポイント」を作成し,活用した。
  ウ 「幼児の状態とかかわり方のポイント」をもとに,保護者の理解や協力を得るための教育相談をしたり,専門機関からの指導を受けたりしながら,個別の指導計画を作成した。
  エ 豊かな感情体験を多くさせ,人とかかわる力をはぐくむための時間を「ふれあいタイム」として設定した。その行事の中で見られる人とのかかわりや,それを通してはぐくまれるさまざまな力について考え,個別的な配慮を必要とする幼児の育ちや配慮について考えた。
  オ 幼児が活動の見通しをもち,活動の内容をわかりやすくする必要がある。行事等の場面での活動の流れを事前に確かめたり,予定を変更した時に対応したりできるよう,活動や行事についての絵カード等を用い,視覚的に伝えるようにした。また,さまざまな気持ちを絵と言葉で表した絵カードを用いて,自分の気持ちや感情を表したり,友達の気持ちにも気付いていけるようにした。
  カ 保護者全体に,「子育て懇談会」「子育て講演会」「子育て通信」等を通じて,特別支援教育は「ともに生きる」心の育ちをはぐくむことであり,配慮を必要とする幼児の支援の方法は,すべての幼児にも丁寧で理解しやすく,幼児の成長・発達に効果をもたらすことである等,理解を得られるようにした。
  キ 配慮を必要とする幼児の保護者と連絡をとり,家庭での幼児の様子や保護者の悩みを聞くなど,信頼関係を築いていった。そして,家庭で配慮することと園での支援方法等について共通理解を図り,子育てや保育に生かしていった。また,保護者が「子育て講演会」等の園の行事に参加しながら,特別支援教育がすべての幼児にとって大切な教育であることの理解を深めていった。

5.研究成果及び今後の課題

1 研究成果   

  1. 配慮を必要とする幼児への取り組みは,すべての幼児に対する遊びや生活への配慮につながり,生き生きとした活動につながった。
  2. 保育所児や小学生との交流,また地域の方との交流事業において,継続的にいろいろな人と交流する機会を生かすことで,人とかかわりにくい幼児が,人を信頼することにより,かかわりが深まり,少しずつ自分から人にかかわろうとする姿が見られるようになってきた。
  3. 配慮を必要とする幼児を中心に,保育所・幼稚園・小学校の教職員が話し合いを繰り返すことにより,「同じ地域の子どもを育てる」という共通の意識をもって取り組むことができた。
  4. 特別支援教育を中心にした,子育て懇談会・講演会,園からの通信等によるさまざまな取り組みから,保護者から,本園の特別支援教育や障害児に対する理解や協力も得られるようになってきている。
  5. 障害のある幼児の保護者が,幼児の園での生活の様子や園からの情報発信,教育相談等により,幼児が友達に親しみをもってきていることや,地域の人々や小学生との交流会を楽しみにしていることなどを知り,幼児の成長を感じとり,次第に子どもを受容し,保護者が園や教師に対し心を開いて話すようになった。

2 今後の課題

  1. 教師間で,具体的な事例を検討し,心の育ちや人とのかかわりのとらえを確かなものとして,今後もそれをもとに教育課程を編成し,指導計画を作成していく。
  2. 配慮を必要とする幼児が,自分も他者も理解していけるよう,人とかかわる力をはぐくむ活動や交流体験を計画し,今後も実践していきたい。
  3. 幼児一人ひとりを丁寧に見つめ,さらに幼児への支援のあり方を全職員で共通理解し,円滑な指導体制を作り,取り組んでいきたい。そして,地域に支えられる園となるよう努力していきたい。
  4. 保護者の願いを受け入れ,ともに幼児を育てていくため,特別支援教育に対する正しい理解と,教職員の共通理解の上に立った保育・指導を大切にしていきたい。

 

参考:研究テーマのキーワード

幼・保・小連携、幼稚園と小学校の教員の相互理解、家庭との連携、障害のある幼児、 特別支援教育、人とかかわる力、ともに生きる心、教育的ニーズや特性に応じた指導・ 支援

お問合せ先

初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --