幼稚園における障害のある幼児の受け入れや指導に関する調査研究

大阪府枚方市

1 研究テーマ及び研究の観点

 「一人一人が輝いて」 ~就学前の特別支援教育について~

 幼児期から成人して自立し、豊かな生活ができるまでの長期的な視野にたった、障害のある幼児一人一人の課題に対する支援のあり方について研究をする。

2 地域の概要

(1)市町村名  大阪府枚方市
(2)人口 414,940人  (平成20年2月1日現在)
(3)幼稚園・保育所(園)の設置状況(平成19年5月1日現在)
 

  公立幼稚園 私立幼稚園 公立保育所 私立保育所 合計
園(所)数 11 19 17 38 85

 

(4)研究テーマに関する取組

 本市においては、障害のある幼児・児童・生徒の教育は、ノーマライゼーションとリハビリテーションの理念を踏まえ、子どもたちの可能性を十分に引き出し、伸ばすことを大切にしながら、将来自立した生活が送れるよう「共に学び、共に育つ」教育を基本とし、子どもたちが互いに尊重し、受け入れ、共に育ちあうよう努めている。
 幼稚園においては、早期発見及び、早期対応が重要であるという観点に立ち、保護者との面談や関係機関との連携により、子どもの状況・保護者の思い等を把握し、実態に応じて、加配教員を配置するなど、きめ細やかな援助ができるよう努めている。また、各園に特別支援教育コ-ディネーターを指名し、特別支援教育の研修等に参加して、一人一人に応じた適切な支援ができるよう努めている。教育委員会事業としては、「幼児ことばの教室」があり、就学前の幼児を対象に吃音や構音障害等に対する指導・相談を行っている。

3 研究協力機関               

幼稚園研究協力園(平成19年5月1日現在) 

  4歳児 5歳児 合計
幼稚園名 枚方市立香里幼稚園
学級数(園児数) 2(61)*3 2(70)*2 4(131)
幼稚園名 枚方市立桜丘幼稚園
学級数(園児数) 2(46)*1 2(40)*2 4(86)
幼稚園名 枚方市立田口山幼稚園
学級数(園児数) 2(59)*7 2(70)*2 4(129)

*配慮要する幼児数 

研究体制

 研究体制の概略図

4 研究の内容

(1) A幼稚園

研究テーマ

 「幼稚園における特別支援教育の中で」~適切な実態把握と必要な支援のあり方、教師のチームアプローチのあり方、保護者や専門機関との連携のあり方について考える~

1 主体的に生活ができ仲間とのかかわりを深める個別の支援計画(支援計画、実態把握、指導計画、総括評価)の作成と支援

 作成により支援の方法が明確になり、教師間が共通理解をしてチームで支援に取組むことができた。このことにより具体的できめ細やかな支援に結びついていった。また、教師と保護者が何度も支援について話し合い、保護者のニーズを含め作成した。教師と保護者が共通理解をしたうえで、同じ支援を行ったことが、子どもの成長につながった。

2 専門家や専門機関との連携

 障害の特性及び個々に応じた支援について指導を受けたことにより、支援を適切に行うことができた。視覚支援について学んだことが特別な配慮の必要な幼児だけでなく、他の子どもにも生かせるようになり、園での生活や遊びがわかりやすいものとなっていった。

3 子どものスムーズな学校生活への移行のための幼小連携

 小学校の特別支援教育コーディネーターに園での配慮児の様子を見て、子どもをよく知ってもらった後に支援者会議(園長、担任、小学校教頭、小学校コーディネーター、保護者)を行った。幼稚園からは支援してきたこと、保護者からは学校生活の思いや配慮してほしいこと、学校からは入学当初の学校の活動内容や入学までに準備してほしいこと等意見交換をし、支援の引継ぎを行った。
 入学後は、アフター連携会議をもち、授業参観や学校生活について話を聞き、幼稚園で支援してきたことが適切であったか見直すことができた。幼稚園の研究会に小学校の教師に参加してもらうことにより、お互いの教育内容の理解が進み、より教師間の連携が深まった。

(2) B幼稚園

研究テーマ

 「幼児一人一人の発達に応じた適切な援助や環境のあり方を探る」~個別の教育支援計画に基づく指導の実施~

1 個々の課題に応じた環境構成と支援のあり方

 A児(自閉症)の受け入れにあたり保護者と話し合い、障害の特性を理解し見えてきた課題から一日の見通しがもてるよう「スケジュール表」を提示したり、持ち物の始末の仕方がわかるように「手順書」を作る等、環境構成や教材教具について工夫をした。環境にかかわろうとする意志が見られ、変容する姿に適切な支援の重要性を感じた。

2 個別の教育支援計画及び個別の指導計画の作成

 専門家による個別の面談では、保護者が記入した「家族の希望調査表」「好きなこときらいなこと調べ」「生活スキルチェック」などをもとに家庭での様子を聞きながら保護者の思いや願いを受けとめ、目標を設定し個別の教育支援計画を作成した。指導の実施にあたっては、定期的に「評価→計画→実施→再評価」を行い、対象児にとって望ましい支援のあり方を明確にしていくことが重要であることがわかった。

3 教員の専門性を高める研修

 専門家による指導を受け、個々の障害の特性を理解するとともに、それぞれのニーズに応じた適切な支援のあり方を研修し、実施することができた。また、公開保育・研究協議を通して、各園の幼稚園特別支援教育コーディネーターの抱えている問題等出し合い、適切な支援方法を話し合った。

4 保護者との連携及び他の保護者への理解と啓発

 保護者の思いを受け止め、支援の内容や方法等について相互理解を図った。A児の保護者が、「子どもの機関紙」を定期的に配布し、他の保護者と積極的に交流し理解と啓発に努めた。また保護者や地域の方を対象に「一人一人を大切に~発達障害の理解と支援につながる工夫~」と題して専門家による講演会を実施した。熱心に聴講し、質問や事後カウンセリングを受けるなど実施効果があった。

5 幼小連携の支援者会議の実施

 新しい環境で安定して過ごせるよう、支援者会議(市教委、校長、園長、コーディネーター、担任、専門家、保護者)を実施し、園での取組(個別の教育支援計画に基づく保育内容の実践とその姿)を伝え、今後の指導の充実に向けて話し合った。

(3) C幼稚園

研究テーマ

 「友だちとのかかわりの中で、共に育ちあう」~特性に応じた環境や援助のあり方を探る~

1 障害の特性の理解と専門知識の研修

 B児(両下肢まひ)の受け入れに当たり、専門機関で話を聞き、施設の改善、備品の作製等の環境を準備した。理学療法士の話や施設見学を通して、障害の特性を理解し、専門的知識を学ぶ研修をおこなったことは、より子どもを深く理解し、具体的で適切な介助や援助の方法を探るために重要であった。身体面だけでなく、友だちと同じようにしたいという気持ちを大切にし、満足感・達成感につながるよう、教師側の視点でなく、子どもの視点に立って考えていった。このような支援の積み重ねがB児の自己肯定感につながり、失敗を恐れずチャレンジしていく姿勢を育てることに繋がった。

2 特性に応じた環境づくりや支援

 日々の生活の中で、自分の課題に楽しく取組み、達成感を味わうことが出来るよう色々な視覚教材作りや、一人一人の行動の特性や実態に応じた遊具・道具の工夫を重ねてきた。援助の手だてと同様、考えては試し、作っては試して、有効か否かを模索しながら子どもの日々の成長を実感してきた。

3 教師間の共通理解と個別の指導計画の作成

 教師間のその時々での思いや捉え方の違いを共通理解するためには、時間をかけて密な話し合いをすることが必要であった。チーム保育の形態をとる幼稚園教育において全ての子どもについての教師間の共通理解は欠かすことができない。
 ポイントを絞って幼児の姿の観察記録をし、具体的で分かりやすい個別の指導計画を作成し、考察・評価してきた。

4 小学校との連携

 小学校における生活の流れ・学習内容・指導の仕方等具体的に知る為に、相互の参観や保・幼・小の連絡会で話合う場をもった。それぞれの子どもの発達課題に早期に気付くことができ、指導や支援の方向を考える材料となり、小学校へは、個別の指導計画を引き継いだ。

5 共に育ちあう仲間づくり

 友だちの刺激を受けて、自ら行動を起こし、自分たちでトラブルを解決し、困難を乗り越え園生活を楽しめる子どもの姿に、友だち集団の教育力の大きさを感じた。一人一人の気持ちに寄り添いながら教師も共に育ちあう仲間となり、互いに認め合い育ちあうことができた。

5 研究の成果と今後の課題

【研究の成果】

  • 個別の指導計画を作成することで、見通しをもった援助をすることが可能となり、一人一人の自立を支援することができた。また、集団の中で友だちからの刺激を受け、互いのよさに気づいたり、共に楽しさを感じたりするなど集団での育ちにつながった。
  • 継続して講師を招き、研究を積み重ねる中で一人一人の子どもの発達の過程や課題が明確になり、教員の特別支援教育に対する認識が深まり指導力向上に繋がった。
  • 幼小の教員がともに話し合い、実践を交流する機会をもつことで、小学校教員の幼児に対する理解が進み、対象児の教育を連続性のあるものにできつつある。
  • 子どもの育ちについて、保護者同士が理解し支えあうことができるよう、保護者向けの講演会を開催したことで、保護者や地域の方々にも幼児期における特別支援教育の重要性を伝えることができた。

【今後の課題】

  • 特別支援教育コーディネーターの育成と、園内支援体制の整備を図り、専門性の向上を図る研修の取組をし、障害理解を深め指導力の向上を図る。
  • 幼稚園における特別支援教育体制と個別の指導計画の標準様式を作成した。記録された情報が指導に生かされ、幼児一人一人にふさわしい支援が行われるものとなるよう内容とともに、引き続き検討を重ねていく。
  • 幼稚園から小学校へ円滑な移行を図るため、保護者や関係機関・小学校などとの連携を深め、教育を連続性のあるものにしていく。

参考:研究テーマのキーワード

幼小連携、幼・保・小連携、幼稚園と小学校の教員の相互理解、家庭との連携、地域との連携、障害のある幼児、特別支援教育、研修、幼小連携コーディネーター、特性に応じた環境と援助、個別の教育支援計画と指導計画

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初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --