幼稚園における障害のある幼児の受け入れや指導に関する調査研究

福島県大熊町

1.研究テ-マ及び研究の観点

(1) 研究テ-マ「幼児一人一人の心の育ち合いのために」

(2) 研究の観点

  1. 障がいのある幼児の理解と援助の在り方、教育計画の明確化(人とかかわる心)
  2. ともに育ち合うための指導の在り方(感性豊かな心の育ち)
  3. 環境の在り方(ティ-ム保育・人的環境・教材)
  4. 専門機関、幼小の連携、保護者や地域の人々への啓発

(3) 研究の目的

  1. 障がいのある幼児への理解や援助、指導内容を明らかにする。(教師の専門性の向上、幼児の実態と保護者のニ-ズに沿った指導計画を作成)
  2. 障がいのある幼児と障がいのない幼児が共に生活し、育ち合うための支援をする。(障がいのある子や親への支援)

2.地域の概要

 大熊町は公立幼稚園が2園・公立保育所が1所あり、障がいのある幼児を受け入れている。
 「障がいがある」と診断されて入園・入所する幼児や集団生活に困難さを見せる幼児数は、年々増加している。
 また、障がいの重複や重度化に加え、家庭内の要因もあり保育の中で幼児同士が関わりあって集団生活をすることが、ますます難しくなってきている。だが、障がいのある無しに関わらず安心して幼稚園生活を送れる場を確保し、地域や保護者の教育的ニ-ズに応えながら幼稚園教育を進めている。
 このような状況に幼稚園として対応していくため、町教育委員会では平成16年度から、3歳児保育、預り保育の実施を機に、障がい児の状態に応じて補助職員を配置した。
 また数年来、障がいの理解や対応の在り方について講師を招き研修してきていることで、教師の意識や資質向上につながってきている。
 しかし、障がいがあると思われる幼児の保護者の理解を得ることが難しく、専門機関へつなぐことは必ずしも容易なことではない。地域性や諸関連機関が身近にあるという情報が伝わらないことも要因のひとつである。そのことを踏まえて障がいがある、または、あると思われる幼児が増えている今、個々の障がいの状況、保護者や地域への啓発、現在の職員体制や職員の専門性も含めて考え、幼稚園経営を考えていかなければならない。
 本町では幼・小・中共に補助、加配、支援職員が配置され教育に関わっている。
 小学校においては、特別支援学級を置き生活や学習に困難さを見せる子どもの教育に当たっている。また同様に町内には、不登校児を受け入れるための「フリ-スクール」が設置されている。
 そのような現状の中で、障がいのある幼児、あるいは家族が安定した気持ちで生活を進めていくために、公的機関・専門機関・家庭との連携・地域への啓発・幼小連携を図っている。

3.研究協力機関

   公立幼稚園 2園、保育所 1所、小学校 2校
   (県教育委員会・大熊町教育委員会・福島県養護教育センタ-・福島県立富岡養護学校・福島県社会福祉事業協会・大熊町保健センタ-)

4.研究の内容及び方法

(1) 教育課程の編成・・・

 〇 教育課程の見直し
 ○ 幼児の障がいに応じた個別の指導計画の作成(人とかかわる心を育てるために)

  1. 障がいのある幼児とそうではない幼児が共に育ち合うことを目指し、保育を進めるにあたり教育課程編成を見直す必要性を感じた。様々な育ちの在り方を考えると障がいがある幼児に限らず個々の発達を捉え、感性豊かな心を育み多様な個性に対応するために、そして、それぞれが自分の持つ力を十分に発揮するために、教育課程の見直しとともに幼児の実態を把握することに努めた。
  2. 障がいも個性の一つと捉え、個々が持つ「育ち・個性」も同様と考え、幼児一人一人が持つ「良さ」・「自分らしさ」を大切にし、全員がお互いを受け止め合えるような環境を教師が意図的に作りながら、一人一人を大切にし柔軟性をもって対応できるような教育課程編成を目指した。
    幼稚園ではクラス担任ばかりでなく、他の保育者とかかわる機会が多い。複数の保育者の目によって、幼児一人一人の良さや得意なこと、不得手なこと、嫌なこと、興味・関心などの情報が多角的に収集できるという良さがある。また複数の保育者の思いや経験を生かした多くの手だて・対応の在り方が考えられる。
    この連携を個別指導計画作成に活かすことで、さらに幼児の成長を促すことができるものと考える。

(2) ともに育ち合うための指導の在り方 

 ○ 幼児の気になる行動と指導の在り方を探り、幼児に合った手だてを保育の中で実践する。

  障がいを持つ幼児の姿から、周りの幼児へ教師が配慮したり、一人一人の生活や思いを大切にする。

(3) 環境の在り方・・・ 多様な個性に対応するため(ティ-ム保育と教材)

1 ティ-ム保育 

 多様な個性を持つ幼児たちが、育ち合うことを願い、全職員が連携して保育にあたり、また保護者・関連機関・地域との連携を図り、それぞれの役割を明確にしながら、対応に努めることにした。
 このように進めていく中で職員間においては、担任と補助者の役割の在り方を洗い出し、指導について共通理解を図ることができるように、情報の共有や意見の交換を行うように努めた。

2 教材と環境の工夫

 言葉や文字の情報を認識することが不得手な幼児たちに、少しでも行動の仕方や周りの状況を伝えるために、絵を描きながらの具体的な指導や絵本を活用したり、スケジュ-ル表ではその幼児やクラスに合った表示をして、視覚をとおして理解できるようにしたりした。
 大勢でいることが苦手な幼児には、安心して過ごすことができる場を提供した。一人一人が、無理なく自然な形で生活が進められるように、発達や時期に合った教材の作成をした。

(4) 保護者や地域の人々への啓発推進・・・ 幼小中連携・専門機関との連携と保護者、地域への啓発推進

 幼児が様々な人と出会う機会を持つことは、これから人間関係を形成していく上でとても大切なことである。そこで、本園では小学校・中学校・図書館探検・祖父母参観・地域探検・学校へ行こう週間などを通して交流を行ってきた。

5.研究成果及び今後の課題

【研究成果】

(1) 個別の指導計画を作成   

 1 学期、年間、修了時と長期的な見通しができ、目標の設定がはっきりした。
 2 幼児にとって何が課題になっているかが明確になり、教師が対応しやすくなった。また、教師同士が共通の指導をすることができた。
 3 保護者へ伝える時に、幼児の姿(変容)をわかりやすく話すことができ、幼児の実態を保護者と共有することができた。

(2) 環境構成の工夫

 1 幼児の実態を理解し、課題がどこにあるのかを明らかにしたことで、個に添った、教材選びや環境構成を行うようになり、成長を促すことができるようになってきた。
 2 担任・補助者がお互いの良さを認め合い、得意分野を活かして指導にあたり、幼児が安定して過ごすことができるようになってきた。
 3 教師間のつながりを大切にし、話し合う時間を計画的に設けたことで、お互いを受け入れ合い、幼児理解や手だてが共通のものとなり、一貫性のある指導ができるようになった。
 4 幼児たちが、見通しを持って行動できるようになり、それによって周りに目を向け、お互いのかかわりが深くなってきた。

(3) 保護者や地域の人々への啓発推進

 保護者との連携は、日々の記録や連絡によって幼児への理解を深めることにつながり、諸機関との連携においては、専門的な指導の在り方を学ぶとともに実践に活かし、教師の資質向上につながった。
 開かれた幼稚園という体制のもとに地域の人々とのつながりをもつために、行事やボランティア活動、講演会、幼小の交流からネットワ-ク作りをはじめることができ、障がいと障がいのある幼児への理解が深まるとともに、一緒に生活を進めたり遊びに誘ったり言葉を掛ける様子がみられるようになった。

【今後の課題】

(1) 個別の指導計画の活用の仕方では、評価について話し合い、幼児の実態と指導を明確にし、教師・職員が共有できる計画を作成する。
(2) 預り保育担当者との連携を十分に行い、幼児の実態を把握し通常保育とのつながりをもつことができるように指導計画を活用する。
(3) 担任と補助者の分担を検証し、幼児がもつ可能性を引き出すために連携し、手だてを共有して保育にあたるようにする。
(4) 諸関連機関との連携をもち、情報交換を行い、幼児の実態に合った指導を実践し、指導の質を高めていくようにする。
(5) 障がいをもつ幼児の保護者は、不安を抱えていることが多くあるので、保護者の話を十分に聴くことの留意しながら幼児の姿を伝え、信頼関係をもつようにしていく。
 今まで、保護者に啓発してきたことを更に理解を深めてもらうために、講演会や地域との交流活動を行う。
(6) 園外における保育カウンセラ-・コ-ディネ-タ-の充実をはかる。
(7) 幼小連携においては、幼児・児童ばかりではなく、教師間の連携も充実させていくようにする。
(8) 成果を活かし、研修・研究を重ねていくようにする。 

      

参考:研究テ-マのキ-ワ-ド

幼小連携、家庭との連携、特別支援教育、人とかかわる力、基本的生活習慣、豊かな感性、預り保育、自己評価、ティ-ム保育(教師間の連携)、諸関連機関との連携、個別指導計画、教育計画に「人とかかわる心」を位置づけ

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初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --