幼稚園における教育課題に対応した実践的調査研究

岐阜県本巣市

1 研究テーマ及び研究の観点

(1)研究テーマ

  道徳性の芽生えを培う活動 -心豊かにたくましく生きる力の育成-

(2)研究の観点

  1. 思いやりの心や生命を尊重する心の育成
  2. 自分の思いを自分なりに表現する活動の工夫
  3. 保護者や地域との連携による開かれた園経営
  4. 教職員の道徳性を磨く研修

(3)研究の目的

 幼児の実態を踏まえ、幼児の道徳性の芽生えを培うために必要な指導や園経営について、計画に基づく指導や活動を実践し、その成果や課題をふまえて計画を改善するPDCAのサイクルに基づいた実践的な調査研究を行い、その方法を明確にする。

2 研究協力機関

(1)研究協力園     (平成20年1月1日現在)

幼稚園名 本巣市立真正幼稚園
所在地 岐阜県本巣市下真桑443の2
  3歳児 4歳児 5歳 合計
学級数 2 2 2 6
園児数 61 61 52 174
教職員数 園長1 教諭4 講師7 合計12

 

 (2)研究協力者会議(真正地域道徳教育推進会議・幼稚園部会)

  岐阜女子大学家政学部所属の梶浦恭子先生を代表に、地元の小学校長、民生委員、自治会長、PTA会長等をメンバーとして、年4回の会議を通じて、園の研究について、指導・助言を行った。

3 研究方法及び内容

(1)思いやりの心や生命を尊重する心の育成

 1 道徳性の芽生えを培うための全体計画及び年間指導計画の作成

  幼児の実態を踏まえ、道徳性を培う教育を実践するための5つの視点と教師の役割、指導の重点を示した全体計画を作成した。
  また、年間指導計画では、前年度実践をしていく中で、各年次の年間はスムーズにつながるが、各期における年次間のつながりに疑問がでてきた。そこで、小学校へのつながりも考慮し、3歳~6歳(小学校1年生)まで見通した計画とした。

 2 『のびのび活動』年間指導計画及び教育経営簿の見直し

  本園の中心となる午前中の『のびのび活動』が道徳性の芽生えを培う大切な場であると考え、そこでの活動の【ねらい】【願う子どもの姿】をより明確にし、教師が意図性をもった保育に取り組めるようにするために、この時間に道徳性の芽生えを培う観点から次の3つの力を育てるために年間指導計画の見直しを行った。

  ア 自分の思いを伝えながら、相手の思いにも気付いて遊ぶ力
  イ 約束やルールを守ることの大切さを知って遊ぶ力
  ウ 自然や生き物を通して命を大切にしながらかかわる力

  また、『のびのび活動』において見られた道徳性の芽生えを培うことにつながる具体的な幼児の姿や教師の指導援助を記録し、その日の反省を確実に明日につなげ、保育の連続性が明確になるよう教師が毎日の計画や反省を記載する教育経営簿の見直しをした。 

 3 道徳的視点から捉えた『のびのび活動』の計画表の作成

  各年次間や園全体として『のびのび活動』の中で、具体的に幼児にどのような道徳性を培っていくのか、そのために教師はどのような遊びの環境を工夫し、どういった援助やかかわりをしていくのかをより明確にするために月毎・年次毎の『のびのび活動』の計画表を作成した。

(2)自分の思いを自分なりに表現する活動の工夫

 1 道徳性の芽生えを培うための造形活動指導計画の作成

  道徳性の芽生えを培うためには、幼児が自分の目で見、感じたことを色や形で表現する造形活動の充実を図ることが大切だと考え、毎月、クラス毎に造形活動を通して培いたい道徳性を明確にした指導計画を作成した。
  実践後、教師がより意図性をもった造形活動に取り組めるように表現活動と道徳性を培う観点からそれぞれ、ねらい、環境の構成について反省と考察を行い、活動の中で見られた具体的な幼児の姿やことばを記録するようにした。
  こうして作成した造形活動指導計画や記録を教師全員で見合い「表現活動における指導事項と道徳性の芽生えを培う観点からの指導・援助事項は明確に分かれてとらえられているか」、「こうしたねらいに対しての環境の構成はそれでいいのか」、「その表現活動を通して培おうとした道徳性は適しているのか」など評価の観点を明確にして話し合うこととした。こうすることで他の教師の計画を参考にしながら、より確かな観点から指導計画が作成されるようになった。

(3)保護者や地域との連携による開かれた園経営

 1 保護者との連携

  保護者に幼児の道徳性とはどういうことなのか、日々の生活の中のどういう場面でどのような幼児の姿を捉えていけばいいのか理解してもらい、園と同じ視点で幼児とかかわっていけることが大切だと考えた。
  そこで、園行事(家庭教育学級・保育参観日・運動会など)の際には、その日の活動に中で大切にしたい道徳性の芽生えについての視点を具体的に示した『見えたかな?こんな姿』と題したアンケート等を実施した。
  また、具体的な幼児の姿を伝える『えんだより』の発行に心がけ、幼児の生活の中の些細なことも道徳性の芽生えを培うことにつながっていることを保護者が理解し、幼児の園生活や家庭生活により関心をもつことができるようにした。

 2 地域との連携

  多くの地域の方々に幼稚園を理解していただくとともに、家族や教師以外の人とのかかわりが幼児の世界をより広げるとの思いから、地域の方や幼児の祖父母に保育への参加を呼びかけ、実施した。また、幼児が地域の運動会で演技したり、文化祭に出品したりして地域の方々の幼稚園への理解と関心を高めた。地域のボランティアの方も積極的に受け入れた。こうした地域の方とのふれあいを通して、「ありがとう」と自然にお礼の言葉が言えるような幼児の思いやりなどを育む機会を多くもつことができた。
  また、幼稚園評議員を設け、保育参観や教師の自己評価の公開を行い、学校関係者評価を受け、その結果を園運営に生かすようにした。

 3 小学校との連携

  小学校教師の幼稚園教育理解のための『幼児理解研修』参加や、幼稚園教師が小学校の授業研究や校区道徳研究・学校評価会議などに参加するなど、連携を図るとともに教師の研修の機会とした。また、小学校長と年長児保護者が語る会を実施し、親子で入学を楽しみにし、幼小間の滑らかなつなぎができるようにした。

(4)教職員の道徳性を磨く研修

 1 実践交流会・年次間保育内容の打ち合わせ

  行事や活動に取り組む際、各年次、全年次でその活動を通して育てたい道徳性や大切にしたい幼児の姿、教師のかかわり方などについて全教職員が共通理解できるように詳細な打ち合わせをし、その後には、視点を明確にした反省会を行い、次の計画に生かせるようにした。

 2 園内研究会・造形研究会・小学校授業研究会への参加

  指導者を招き、他園の教師や本園の教職員も参加して『思いやりや生命を尊重する心を育てる』ことを視点とした公開保育や研究会を行った。
  また、造形研究会を開催し、幼・保・小学校からの参加のもと、幼児の絵を見ながら、幼児の思いが絵に形や色使いとしてどのように表出されているのかについて、自分らしさを表出できるための幼児の作品への評価の仕方についてなど指導を受けた。また、小学校の授業研究会に参加し、幼児期から児童期に移行するときの道徳性の芽生えについて学ぶ機会をもった。

 3 教職員の自己評価の実施

  従来の自己評価表に、新たに道徳性の芽生えを培う観点からの項目を加えた評価表を作成し、事前に全職員が評価の観点を共通理解するための話し合いをおこない、評価を実施した。 

4 成果と課題

(1)成果

 1 思いやりの心や生命を尊重する心の育成

  • 年間指導計画に基づいた挨拶指導等の結果、気持ちのよい挨拶が教師とだけでなく、友達同士やそのお母さん達とも交わせるようになった。
  • 園の年少から年長までのそれぞれのトイレで、幼児に適切な言葉がけを続けたことで、次の人が気持よく使えるように、いつでもスリッパが揃えて脱いでおけるようになった。

 2 自分の思いを自分なりに表現する活動の工夫

  • 五感を通した「造形活動」を実施してきたことにより、目で見たり、心で感じたりしたことを自分なりにのびのびと表現する姿が見られるようになった。
  • 道徳性を培う観点から教師が働き続けたことで、友達と一緒に、工夫したり試したりしながら繰り返し遊ぶ姿が多く見られるようになった。

 3 保護者や地域との連携による開かれた園経営

  • 保護者のアンケート結果から、保護者も幼稚園での幼児の活動を『道徳性の芽生えを培う』という視点で理解し、捉えることができるようになり、園と保護者とが連携のもとに同じ歩調で幼児へのかかわりがきるようになった。
  • 学校関係者評価の実施により、地域の方の幼稚園への理解や関心が高くなったとともに幼稚園の運営や教育の質の向上にそれらの評価を生かせるようになった。

 4 教師の道徳性を磨く研修

  • 全職員が研修に努め、幼児の生活の一つ一つを『道徳性の芽生えを培う活動』として捉え、幼児の気付きや育ちのためのことばがけや、かかわり方の工夫や改善ができるようになった。また、その効果についてPDCAサイクルによって評価し、計画を見直し保育に努めることができるようになった。
  • 各年次や年次間で繰り返し行事や活動内容の打ち合わせをおこなうことで全教職員の共通理解が図れるようになり、全園活動である「なかよし会」や「クリスマス会」では特に『阿吽の呼吸』をもってチーム保育に臨める姿が見られた。
    クラスにおいても、担任と副担任が放課後、毎日その日の反省会の中で、クラス経営や個々の幼児の育ちについて共通理解して保育に臨めるようになり、より効果的なチーム保育ができるようになった。

(2)課題  

  1. 全教職員が幼児の道徳性の芽生えを培う活動は、ある場面でのチャンスを捉えた指導だけではなく、「おはよう」から始まる幼児の園生活の一つ一つの活動全てがそれにつながっていると考え、適切なタイミングと個々の幼児に応じた対応ができるようにより研修を積み重ね、指導力を高める工夫を明らかにする。
    特に、今年度明らかになった「のびのび活動」に加え、クラスの会での道徳性の芽生えの活動の位置付けを工夫する。
  2. 今年度、自己評価結果「生命尊重の心を育てる」の評価が下がった。それは、1学期は草花、小動物など身近な環境として取り入れやすかったが、2学期ではそうしたものが少なくなったにもかかわらず、環境構成の工夫が不十分であったためと思われる。今後、さらに職員は保育者としてのセンスをより磨き、幅広い視野で教材研究や環境構成の工夫に努めていく。
  3. 「道徳性の芽生えを培う活動」について、今後、保護者の関心と理解がさらに深められるような連携の在り方を明らかにする。
  4. 小学校との連携について、学びや育ちの連続性を大切にした幼小間の連携の在り方を明らかにする。

 

参考:研究テーマのキーワード

道徳性の芽生え、学校関係者評価、造形活動、学びの連続性、開かれた園経営

 

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初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --