幼稚園における教育課題に対応した実践的調査研究

宮城県富谷町

1.研究のテーマ及び観点

 「自然体験・社会体験を通して社会性をはぐくむ援助の在り方」

 研究主題を「自然体験・社会体験を通して社会性をはぐくむ援助の在り方」,副主題を「身近な自然や地域の人とのかかわりを通して」とし,各園の実態・地域性・特色などを生かし研究テーマの具現化に向けて園活動を展開してきた。
 特に,人間形成の基礎ともいえる幼児期において,栽培・観察・飼育などの自然体験を友達との協同活動そして地域の人との交流の調和を図りながら,社会性をはぐくんでいきたいと考えた。
 そこで,次の2点を研究推進上の観点とし,5つの研究の視点を設定し,取り組んできた。

(1)動植物の飼育・栽培観察の自然体験活動を通し,生命の尊さに気付かせる。

  視点1 幼児が身近な動植物にじっくりとかかわっていけるような観察の環境を整える。

  視点2 親しみをもって動植物に接することができるように意図的な活動を取り入れる。

  視点3 生命の尊さに気付くような飼育や栽培の方法を工夫する。

(2)友達や地域の人々とのかかわりをもつ社会体験活動を通し,活動する楽しさや人と協力する喜びを味わわせながら社会性を身に付けさせる。

  視点4 幼児が自己表現をし,協調性を養い,思いやりなどをもつことができるような友達や地域の人たちとのかかわり合いの場を設定する。

  視点5 人とのかかわり(コミュニケーション,協調性,思いやり)や善悪の判断,決まりを守ることなどに気付くための友達や地域の人たちとのかかわり合いを工夫する。

2.地域の概要

 当町は宮城県の中央部に位置しており,仙台市に隣接している。以前は国道4号線と旧街道に沿った農村地帯であったが,近年宅地造成が進み人口増加が著しい。また,様々な地域から人が集まり,住民意識が多様化しつつある。住民の平均年齢が若く,子どもの多い町として発展的である。町内には、公立幼稚園が2園と私立幼稚園が3園あり、近隣の私立幼稚園7園への就園もみられる。また,町立の保育所は4施設と認可保育所が1施設で保育環境が充実している。
 保護者の教育に対する関心は高く,幼稚園教育に対しても協力的であり,積極性が感じられる。新興団地の家庭は核家族がほとんどである。未就園児のサークル活動などを通して同年代の幼児とかかわる経験がある幼児もいるが,地域に同年代の幼児は多いものの,近所での付き合いなどに限定される姿も見られるなど,幼児同士でかかわる機会にはかなりの差が見られている。共働きの家庭が徐々に増え,園の預かり保育を利用する家庭も増えてきている。
 このような地域・家庭環境の現状を踏まえて,第1年次は,「社会性をはぐくむための自然体験や社会体験の在り方」をテーマに掲げ,保護者へのアンケートや教師の実態調査から社会性をはぐくむための体験活動の年間計画を作成し,2園で取り組んできた。
 自然体験については,家庭では動植物に触れ合う機会を設けているものの,じっくりと命の大切さなどを幼児に気付かせるまでには至っていない。そこで幼稚園では,一人が一つの植物を育てるなど,動植物に愛着をもたせる工夫をし,命の大切さに気付かせながら,社会性をはぐくんできた。
 社会体験については,幼児がかかわる人やかかわり方が限定されているという実態をふまえ,地域の方との交流の場を設定し,多様な交流ができるように人材の開発と環境構成に取り組み,成果がみられた。

3.研究協力機関

  公立幼稚園   2園(富谷幼稚園・東向陽台幼稚園)

  富谷町立小学校 2校(富谷小学校・東向陽台小学校)

4.研究内容及び方法

(1)研究の内容

 研究目標「自然体験・社会を通して幼児一人一人の社会性をはぐくむためには,どのような環境構成や援助が必要か,実践を通して明らかにする。」に迫るため,以下のとおり進めてきた。
 平成18・19年度と2年間,本主題・副主題および研究目標をもとに,5視点をおさえ、実践研究を推進した。平成18年度末には実態調査を実施し,研究に関する地域や幼児の実態を詳しく分析考察するとともに,1年次の研究の成果と課題を得た。
 2年次は,前年度の成果と課題を明確にし、日々の保育の中で,環境構成や援助をさらに工夫することにより,幼児に社会性を身に付けていく実践を累積し研究協議を重ねた。その結果,2年間の研究の大きな成果と新たな課題を確認することができた。

〈具体の実践〉

  1. 自然体験,社会体験活動における幼児の実態,保護者の期待などの意識調査を実施・分析し,それぞれの効果的にはたらく年間指導計画の作成・実践・評価を行なった。
  2. 自然体験,社会体験活動の開発を進めていき,幼児が協力したり、助け合ったりするための教師の指導・援助の方法を探る。特に経験の少なかった自然現象についても,季節感をはじめ,風などの現象とのかかわり方を探った。
  3. 指導の記録と幼児の変容記録の累積に努め,成果を保護者・地域との共有し、園,家庭・地域が一体となって幼児の社会性をはぐくんでいく方法を探った。
  4. 自然体験活動,社会的体験活動が効果的に展開できるようにするため,地域人材を開発していく。また、幼児の人間関係づくりが豊かになるような地域人材活用のさらなる充実を図った。

 以上の取り組みで得た研究結果は,今後の本町立幼稚園経営の大きな指針と捉えている。

(2)研究の方法

  1. 実践保育の具体案を検討し作成する。
  2. 職員全員で実践保育の内容と方法,指導の在り方について共通理解を図り,計画的に研究を進める。
  3. 幼児の活動の様子を観察し,毎日情報交換の時間を設け,幼児一人一人の行動や問題点を話し合う。幼児の実態を把握し,保育記録,個人記録を累積する。
  4. 計画的,継続的な園内研修によって,幼児の姿をとらえ主題に迫る。
  5. 環境の見直しと援助の在り方について具体的に話し合い,方向性について再検討する。
  6. 実践に基づき,研究のまとめと反省をする。(実態調査:保護者対象)
  7. 地域連絡協議会の構成メンバーに学区内の小学校長と小学校教諭を加え、小学校との連携を図る。 

5.研究成果及び今後の課題

(1)研究成果

<視点1について>

  • 様々な野菜作りをするなど,畑での栽培活動に長期にわたり取り組むことのできる環境を整えたことにより,興味・関心の差は見られたものの,一人一人が栽培物の生長を意識しながらじっくりとかかわることができるようになってきた。
  • かかわりの場を園外まで広げていくことで,幼児の視野に広がりが見られるようになり,季節の変化を感じながら草花や木の実などの自然物や生き物にかかわる姿へとつながってきている。

<視点2について>

  • 幼児が自らの手で手順を追って栽培し,観察する活動を取り入れたことで,栽培物を身近に感じ,愛着をもつことができ,満足感や充実感を味わうことができた。
  • 動植物を観察するだけでなく,実際に手で触れかかわっていく中で,個々の動植物に対する興味・関心が増し,親しみや愛着の気持ちをはぐくむことができてきた。

<視点3について>

  • 幼児が動植物の成長(生長)の過程を実際に見て知ることが出来るよう場の設け方や取り上げ方,幼児への提示の仕方を工夫したことで,驚きや喜び,悲しみなど様々な感情が芽生え,個人差はあるものの生命を少しずつ意識し、生命の尊さに気付き始めたことにより,かかわり方にも変容が見られてきた。
  • 幼児が自ら栽培・収穫にかかわれるような作物を選び,栽培方法を工夫したことで,収穫の喜びや自分たちで育てた野菜のおいしさを実感することができた。その結果,食と生命のつながりを幼児なりに感じることができるようになり,生命のありがたさに気付き始めるなど,食に対する意識に変容も見られてきた。

<視点4について>

  • 学年やクラスの枠をはずし,十分に時間を保障しながら好きな遊びを楽しむことで,同じ遊びに興味をもっている年齢の枠を超えたグループができ,自己表現をしたり協調性を養うことができていた。
  • 飼育・栽培活動の中で,動植物に対する幼児自身の気付きをその都度取り上げ,朝や帰りの会などで幼児自身が伝え合える場を意図的に設けたことで,教師の働き掛けがなくても進んで友達と話し合い,互いの気付きを認め合うなど友達とのかかわりを深めていくような変容が見られた。
  • 回数は限られたものであったが,人権擁護委員の方や畑の先生との交流の場を設定した。栽培や飼育にかかわる交流は幼児に思いやりの気持ちをもたせ,話題も新たに生まれ,かかわりをもつこともできていた。また,動植物の成長(生長)を介して地域の人に対する親しみの気持ちも継続させていくことができた。

<視点5について>

  • 友達や地域の人とのかかわり合いの工夫として,好きな遊びを楽しむ時間を十分に保障することは,自分の気持ちを優先するだけでなく,一緒に遊びを進めていくためのかかわり方や協調性、思いやりなどを幼児同士で学び合うことに有効である。
  • 集団遊びなど友達とかかわる経験を重ねるにつれて,幼児が遊びのルールを守ることの重要性に気付くようになった。また,自分の気持ちを優先するだけでなく,トラブルが生じたときも自分たちで話合い,解決しようとするなど変容が見られた。
  • 4歳児は初めての集団生活であり,教師が物事の善悪や集団生活の決まりを具体的に知らせ,クラスで話し合う場を意図的に設けながら援助をしてきた。しだいに,物事の善悪を自分で判断して行動し,集団生活の決まりを守るなど変容が見られた。

(2)今後の課題

<視点2について>

  • 幼児の動植物に対する関心は個人差が大きいことから,個々の実態を十分に把握した上で,興味・関心を持つきっかけを作ったり幼児の気づきを引き出し広げたり出来るような段階的な援助を工夫していく必要があった。個別な援助や活動内容,取り組み方について見直し,検討していきたい。
  • 幼児が親しみをもって動植物に接することができるようになるには,十分な時間と取り組む中での経過・継続性が大きな要因の一つであった。幼児の興味・関心に添った継続性のある活動内容について今後も探っていきたい。

<視点4について>

  • 地域の人とかかわる機会が少ない幼児にとって,地域の人と一緒に活動する場の設定は,協調性や思いやりの気持ちを育てるには効果的である。幼児が地域の人と積極的にかかわり自己表現をしていけるよう,継続した交流の場の設け方について検討していきたい。
  • 地域の人々との交流活動を進めていく上で,人材活用など連携の難しさを感じたことも少なくない。今後,積極的に交流推進を図っていくためには,地域の人々へ対し,幼児教育へのさらなる理解と協力を求める必要がある。

<視点5について>

  • 友達や地域の人とのかかわりの中で,幼児が互いの思いや考えを伝え合うことができるような教師の仲立ちや援助の在り方について確認し,教師の担う役割について今後も職員間で共通理解を図っていきたい。

 

参考:研究テーマのキーワード

幼稚園と小学校の教員の相互理解、地域との連携、人とかかわる力、自然体験、社会体験、豊かな感性、動植物飼育栽培、社会性、生命の尊さ 

 

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初等中等教育局幼児教育課

-- 登録:平成21年以前 --