平成17年度・18年度みんなの専門高校プロジェクト推進事業報告書

都道府県名 岐阜県
推進地域名 恵那市・中津川市

1 推進校の概要

(1)専門高校

学校名 県立恵那農業高等学校
設置大学科 農業科
設置小学科 園芸科学科・食品科学科・環境科学科・園芸デザイン科
生徒数 439名
所在地 岐阜県恵那市大井町2625-17 電話 0573-26-1251

2 研究テーマ及び研究において特に重点を置いたところ

(1)研究テーマ

「バイオマス・ニッポン 栗の殻の有効利用」

(2)研究の重点

 推進校が位置する恵那市及び隣接する中津川市は、和菓子処として有名であり、両市には多くの和菓子屋が存在する。それぞれの店において特徴ある和菓子が製造されているが、秋はどの店でも「栗きんとん」など栗を使った和菓子が作られ、全国的にも有名である。栗を使った和菓子を作るためには、栗を丸ごと蒸して中身だけを利用する。そのため、製造後には大量の栗殻が廃棄物となり、どの和菓子屋でもその処分に困っている。そこで、栗殻の有効的な利用法について研究を進め、地域産業のニーズに貢献できる成果を目指した。
 また、研究テーマのバイオマスとは、動植物から生まれた再生可能な有機質資源のことで、平成14年には、国が「バイオマス・ニッポン総合戦略」を策定し、バイオマスの利用促進に向けた取組を行っているところである。本研究においても「バイオマス・ニッポン総合戦略」の目的である、地球温暖化防止・循環型社会の形成を研究テーマのねらいとし、地域に根ざす専門高校の特性を活用して、地域産業の課題を地球環境に負担をかけることなく改善することに重点をおいて取り組むことにした。

3 研究の概要

(1)平成17年度

(2)平成18年度

4 推進協議会の構成及び活動状況等

(1)構成

氏名 所属・職名
原 昶 株式会社恵那寿や 社長
原 加代子 株式会社恵那寿や 副社長
松井 秀樹 株式会社恵那寿や 職人
蒲 典男 県立恵那農業高等学校 校長
川尻 雄一 県立恵那農業高等学校 教頭
伊佐治 信彦 県立恵那農業高等学校 農場長
岩渕 康幸 県立恵那農業高等学校 食品科学科 教諭
大島 さゆり 県立恵那農業高等学校 食品科学科 3年生
北原 ゆか 県立恵那農業高等学校 食品科学科 3年生
原 千絵美 県立恵那農業高等学校 食品科学科 3年生
島崎 聡子 県立恵那農業高等学校 食品科学科 3年生
長澤 めぐみ 県立恵那農業高等学校 食品科学科 3年生
佐藤 一喜 県立恵那農業高等学校 園芸科学科 教諭
永冶 はる香 県立恵那農業高等学校 園芸科学科 3年生
西尾 優子 県立恵那農業高等学校 園芸科学科 3年生
森本 達雄 県立恵那農業高等学校 環境科学科 教諭

(2)活動状況

1)平成17年度

  • 7月 栗殻の廃棄量の調査と有効な利用法の協議
  • 12月 今年度の活動内容の報告

2)平成18年度

  • 10月 活動状況の報告、今後の取組について協議
  • 1月 2年間の研究成果報告
推進協議会の様子

5 推進校における活動の実施状況等

(1)活動前の地域との打合せ

 連携先の「恵那寿や」だけでも年間50トンの栗殻が廃棄物となり、その多くは市のゴミとして焼却処分している。できることなら、環境に負担をかけないように、有効利用してもらいたいという要望があった。
 そこで、牛糞などと混ぜて堆肥化を提案したが、「できることなら栗殻だけで有効利用できるようにしてもらいたい」という意見や、「栗殻をホームセンターなどで配付し、市民の方に利用してもらいたい」などの意見があった。

(2)活動概要

1)活動のねらい

 専門高校の知識・技術や施設・設備を利用して、大量に廃棄される栗殻を、環境に負担をかけないように有効利用する。そのために、廃棄される栗殻の堅く分解されにくいという特徴に着目し、雑草防除や土壌改良材として利用できないかと考え、研究に取り組むことにした。

2)活動内容

<平成17年度>

 「恵那寿や」では、9月から11月までの3ヶ月間で約100トンの栗を原料とし、その内の50トンが殻などの廃棄物となり、別業者が処分している。この50トンの廃棄される栗殻を、どの様に有効利用するか考えた結果、マルチの代わりに雑草防除できないかを試みることにした。廃棄される栗殻は半分に割った状態で、このままでは利用できないので、剪定した木の枝などをチップ化する機械を用いて細かく砕き、畑の通路に撒いてみることにした。

ゴミ袋に入れて廃棄 廃棄される栗の殻 粉砕された栗の殻 粉砕する機械

 畑に撒いてから数日すると、栗殻にカビが発生してきた。そして、数週間もすると殻を撒いたところ一面にカビが発生した。
 廃棄される栗には、まだ多くの実がついており、それが栄養源となりカビが発生したと考えた。そこで粉砕したものを乾燥させてカビの発生を抑制できないかと考え、天日で乾燥させたが、完全に乾燥するまでに至らなかった。逆に、中途半端な環境のもと、微生物の害を受けたのか、あたり一面酸味臭が漂った。

 そこで、チップ化する前に、園芸科学科の温室を使用して乾燥させることにした。粉砕していないため通気性がよく、約一週間くらいで乾燥させることができた。乾燥させた後に粉砕し、自作したフルイで残っている殻と実に分け、殻だけとなったものを畑にまいたところ、カビの発生を抑制できた。
 結果として、栗の殻を撒いた所は、雑草の発生を抑制させることができ、栗殻の雑草防除効果を確認することができた。

<平成18年度>
  • (ア)活動の目的
    • ア)土に混ぜた栗殻が、植物にどの様な影響を与えるか調査する。
    • イ)堅く分解されにくいという栗殻の特徴から、土壌改良材としての効果がないか調査する。
    • ウ)広報活動をする。
  • (イ)取組の内容
     栗殻が植物に与える影響、土壌改良材としての効果を調査するために、栗殻を混合した土壌で栽培実験をすることにした。
    • ア)栽培実験1「ミニトマトの栽培」
      • a 方法
        • (a)施肥済みの栽培土壌に、栗殻を混ぜ込んだ(混合割合0、5、10、20パーセントの4区)土壌により、試験栽培をした。
        • (b)1つのプランターに苗を2つ植える。
        • (c)毎週1回、草丈・果実数・1粒重量・糖度を調査する。
          草丈
          実の合計
          一粒重量
      • b 結果
        • (a)草丈については、栗殻入りのものが殻なしよりも多く成長した。
        • (b)実の合計数では、栗殻なしのものが一番多い。
        • (c)一粒重量では、5パーセントの殻入り区が最も大きなものができた。
    • イ)栽培実験2「栗殻の効果の分析」
       園芸科学科の野菜専攻の生徒が実験に取り組んだ。実験では、殻と実が混ざっている土を使い、土壌中の微生物がカビの発生原因である実を分解し、カビは発生しないだろう予想した。また、カビが発生した場合に植物に与える影響を調査することにした。
      • a 方法
        • (a)プランター全容量の0、30、50パーセントの割合で栗の実が混じった栗殻を入れ、肥料とともに土にしっかりと混ぜこむ。
        • (b)プランターにトマト苗を植える。
        • (c)草丈・葉枚数、果実数、1粒重量を調査する。
      • b 結果
        • (a)予想とは違い、殻と実を入れたものにカビが発生した。
        • (b)草丈、葉枚数においては、0パーセントと30パーセントの違いは特になかった。
        • (c)果実の数では殻の割合が多いほど、実の数が少なかった。カビが土壌中の窒素分を使ったため、実の数に影響したと考えられる。
      葉枚数
      実の数
    • ウ)栽培実験3「水菜・二十日ダイコンの栽培」
       栗殻の影響を調べるために、ミニトマトの実験の時よりも多い割合の栗殻を0、30、50パーセント入れて実験してみることにした。
      • a 方法
        • (a)プランターに対して、0、30、50パーセントの割合で栗殻を入れ、肥料とともに土にしっかりと混ぜこむ。
        • (b)プランターに水菜と二十日ダイコンの種を蒔き、生育を観察する。
      • b 結果
        • (a)栗殻を入れたものは、発芽に時間がかかり、発芽率も悪かった。
        • (b)発芽後の植物体は、栗殻を入れたものの方が良かった。
      発芽の様子 左0パーセント、右50パーセント 発芽後の様子 左0パーセント、右50パーセント

3)教育課程上の位置付け

  • (ア)食品科学科
    • a 科目「課題研究」で、3年生5人が本実験の中心となり研究を行った。
    • b 科目「地球環境化学」で、3年生7人が地球環境問題を考えるために栗殻を教材として、利用方法などについて考えた。
  • (イ)園芸科学科
    • a 科目「総合実習」で、野菜専攻生2人が食品科学科の生徒と連携して、栗殻を用いて野菜を栽培し、その影響などの調査を行った。
       園芸科学科と連携して取り組むことにより、より専門的な知識で栗殻の効果について分析できた。

4)連携先の概要

  • (ア)施設名称
    株式会社恵那寿や(恵那市大井町231-13)
  • (イ)主な商品
    栗きんとん、栗かさね、栗の木、栗万頭、銀寄栗など
  • (ウ)代表者名
    原 昶
  • (エ)創業年月
    1970年5月
  • (オ)従業員数
    男子9人 女子25人
  • (カ)主要取引先
    株式会社東京三越、株式会社名古屋三越
  • (キ)特色
     恵那市内に多くある和菓子屋の中でも最も大きい和菓子屋である。さらに、恵那・中津地域の和菓子屋の中でも東京のデパートと取引をしている数少ない和菓子屋である。
     また、栗菓子専門店として、栗という素材にこだわりを持って菓子づくりをしている。和菓子を次世代に伝承していく役割を担い「手造りでていねいに」を基本としている。

6 活動の成果

7 2年間の研究の全体的な評価

 本事業では、農業学習の特性を活かした2年間の研究を通して、地域の課題解決のために貢献することができた。
 この研究を実施したことにより、多くのマスメディアで紹介され、本校がどの様な学習をしているのかを、地域の方のみならず、広く県民に理解してもらう大変良い機会となった。
 また、地域の多くの方からご意見やアドバイスをいただくことができ、今後の研究の参考とすることができた。
 この2年間の研究を通して、研究に取り組んだ生徒たちは、授業中はもちろん、放課後などを活用して積極的に取り組むなど、教師の指示待ち生徒が多い中で、自分たちで計画、準備、実験を行い、課題解決に向けて責任をもって研究する態度が養われてきたといえる。
 また、そのように一生懸命に研究活動に取り組む先輩の姿を見て、後輩の下級生が本研究の継続を申し出てくるなど、自分たちの学習態度に対し、自信と誇りをもたらせてくれたのではないかと考える。本研究が生徒たち全体に、学ぶ意欲や科学的思考による課題解決法の獲得、また地域との連携がいかに有効であるかを理解させる良い機会となった。
 栗殻の有効活用については、チッパー(粉砕機)を購入できたことが効果的で、ある程度の研究成果を示すことができたと考えるが、まだ課題があり、今後もこれらの課題を解決することで、地域で廃棄される栗殻をすべて有効利用できるようにすることを最終目標としたい。

8 今後の課題及びこれからの取り組み