平成17年度・18年度みんなの専門高校プロジェクト推進事業報告書

都道府県名 北海道
推進地域名 美幌町

1 推進校の概要

(1)専門高校

学校名 北海道美幌農業高等学校
設置大学科 農業
設置小学科 農業科学科・食品科学科・生活科学科
生徒数 249名
所在地 北海道網走郡美幌町字報徳94 電話 0152-73-4136

(2)小・中学校

学校名 美幌町立旭小学校
児童数 6年生63名(平成17年度)、全校354名(平成18年度)
所在地 北海道網走郡美幌町字稲美140 電話 0152-73-4422

2 研究テーマ及び研究において特に重点を置いたところ

「工芸作物−亜麻−の栽培を通した地域社会との交流活動の推進」

 本校は地域住民が楽しみながら栽培することが可能であり、町づくりに結びつけられる花として、かつて美幌町で盛んに栽培されてきた亜麻に着目した。
 北海道において、亜麻は繊維を採取する目的で明治初期に導入され、美幌町に広く栽培され、3つの製糸工場があった。戦後の化学繊維の普及とともに亜麻の栽培は衰退していったが、その後も地元有志団体である「亜麻のふるさと研究会」が、亜麻繊維を用いた織物を美幌町の特産品として製造を続けてきた。しかし、その有志団体が高齢化を理由に解散したことから、美幌町から姿を消そうとしていた。
 そこで、本校が中心となり、亜麻の歴史と伝統、技術を継承し、再び美幌の花として蘇させることを目的に亜麻の栽培、利用の研究、及び普及活動を行うこととした。取組の重点は、校内での実践研究にとどまらず小学校との交流学習や地域住民対象の園芸教室の実施などにより、地域社会(外部団体)との交流を重視した活動とした。

3 研究の概要

(1)平成17年度

 本校の圃場で亜麻の栽培を行った。さらに地元小学生を対象に亜麻の栽培・収穫・利用についての学習会を行い、亜麻の歴史と伝統を学ぶことで、農業や食、郷土の歴史に興味関心を持たせることができた。

(2)平成18年度

 昨年に引き続き亜麻の栽培を行った。利用の面では、亜麻種子を用いた加工食品の開発に成功した。また、地域団体との交流活動として、亜麻の街中での栽培を実施したり、第15回全国ハーブサミット北見大会への参加、園芸教室の美幌町フラワーマスター連絡協議会との共催を実施し、亜麻に関するネットワークを広げる活動を行った。

4 推進地域協議会の構成及び活動状況など

(1)構成

氏名 所属・職名
岡崎正昭 北海道美幌農業高等学校 校長(平成17年)
古屋接雄 北海道美幌農業高等学校 校長(平成18年)
清水良哲 美幌町立北中学校 校長
長塚良和 美幌町立旭小学校 校長
松永光弘 北海道美幌地区農業改良普及センター
桑原庸子 美幌町フラワーマスター連絡協議会 会長
亀井百合子 美幌町亜麻のふる里研究会 元監事(注)
  • (注)亜麻のふるさと研究会自体は平成17年4月に解散。

(2)活動状況

1)平成17年度

5月 旭小学校との交流学習会についての打ち合わせ
7月 亜麻のふる里研究会の活動についての聞き取り
9月 旭小学校との交流学習会について中間報告と今後の活動の検討
11月 繊維採取についての打ち合わせ
12月 平成17年度の活動のまとめと次年度に向けての活動方針の検討
2月 亜麻の種子を用いた商品開発についての検討

2)平成18年度

5月 亜麻の播種計画についての打ち合わせ
6月 全国ハーブサミット北見大会への参加に関する打ち合わせ
10月 園芸教室開催についての打ち合わせ
11月 平成18年度の活動のまとめと今後の課題の検討

5 推進校における活動の実施状況等

(1)活動前の地域との打ち合わせ

 旭小学校との交流学習会、園芸教室の美幌町フラワーマスター連絡協議会との共催についてと打ち合わせを行った。

(2)活動概要

1)活動のねらい

 小学生との交流学習会や地域団体との交流活動において、亜麻の栽培法や利用法などを広く理解して頂くと同時に、高校生が多様な年齢層の人々と関わることを通して、コミュニケーション能力を高めることや本校の教育活動についての理解を深めていただくことをねらいとした。

2)活動内容

1亜麻の栽培

 平成17年度に本校の圃場0.6a(アール)で亜麻栽培を開始した。また、採取した種子を小袋に入れ無料配付と、亜麻栽培に関する掲示を、町内の道の駅、温泉、物産館、本校アンテナショップ等にて行った。現在800袋以上の種子が無料配付されている。
 平成18年度には、目的に応じた栽培方法を検討するために、栽培試験を行った。その結果、花を長く楽しむための方法や種子を多く採取するための方法が明らかになった。今後はこの結果をJR美幌駅、峠の湯や美幌峠などに掲示して亜麻の栽培方法を地域の方々に広く伝えていきたいと考えている。


栽培試験のまとめ
2亜麻の利用法の検討

 亜麻の繊維を用いた織物は美幌の特産品として有名であったが、繊維の採取には大変な手間と時間、そして技術を必要とすることや中心的な役割を果たしていた「亜麻のふる里研究会」が解散したことから、現在は、販売されていない状態である。今後はその技術を有する元研究会会員や繊維を採取するための機械を保存している美幌農業館と協力して実施していきたいと考えている。
 また、亜麻の新しい利用法として、実を生花やドライフラワーとして利用することを考えた。生花としての利用については、平成17年10月に日本学校農業クラブ全国大会フラワーアレンジメント競技において亜麻を作品中に取り入れ、優秀賞を獲得し、美幌亜麻をPRする場となった。ドライフラワーの利用については、平成17、18年度ともにドライラワーアレンジメント講師「クッカー端野の水口さん」を講師に亜麻を使ったアレンジメント講習を受講した。
 今後は、亜麻製品のアンテナショップでの販売や、フラワーアレンジメント講習会など、地元へ積極的にPRを実施予定である。

 さらに亜麻種子は、亜麻仁油のサプリメントが登場するなど、近年保健機能が注目されていることから、加工食品への利用についても検討した。平成17年度には、本校食品科学科において、パウンドケーキに亜麻を添加したものを試作した。改良を加えるために、平成18年度には北海道立オホーツク圏地域食品加工技術センターの職員に相談に乗って頂き、種子を粉末化して利用するなどの方法を検討した。

 最終的に、マフィン、クッキー、食パンの3つの食品が完成し、美農ショップ、本校の学校祭、全国ハーブサミット北見大会などで販売し、好評を博している。今後は、3つの商品の定期的な製造・販売や新商品の開発を進める予定である。

3交流・普及活動及びネットワーク作り

 平成17年度には小学生を対象に、年間を通した交流学習会を実施した。交流学習会を実施するに当たり、町内の小学6年生、中学2年生、高校2年生計99名に日常生活での植物と接する機会についてアンケート調査を実施した。その結果から、年齢が上がるにしたがって植物を育てた経験が少なくなっていることがわかった。さらに「育てた経験がない」と回答した児童・生徒は、条件が整えば育てたいとした回答が全体の37パーセントおり、潜在的に植物に対する興味があることがうかがえた。

Q今年1年間で何か植物を育てたことがありますか?

 交流学習会の対象は旭小学校6年生63名である。交流学習前のアンケート調査によれば、ほとんどの児童が美幌の亜麻栽培の歴史やその存在についても知らないことが明らかになった。亜麻の栽培や種子を使ったお菓子作り、ドライフラワーを使ったアレンジメントなど計9回の交流学習会を実施した。交流学習会では、初めはお互いにぎこちなさがあったものの、次第に高校生に対して積極的に発問をする姿が見られた。体験終了後は小学生に対してアンケートを実施し、それに基づいて改善を加えていった。

 平成18年度には、地域との交流を広げるため、学校圃場だけでなく、老人保健施設アメニティ美幌、JR美幌駅の花壇、シルバーハウジング、フラワーマスター連絡協議会の圃場に亜麻を播種した。アメニティー美幌、シルバーハウジングでは、普段、あまり接することのないお年寄りとの交流し、豊かな心を育てる良い経験になったと考えられる。次年度以降も亜麻を通した活動を続け、生徒が異年齢集団と交流できるような場を設ける予定である。

 更に、平成18年度には亜麻に関するネットワークを広げるため、第15回全国ハーブサミット北見大会への参加、美幌町フラワーマスター連絡協議会と協力して町民対象の亜麻についての園芸教室を開催した。
 第15回全国ハーブサミット北見大会では、ハーブプロモーションコーナーにおいて亜麻種子入り加工品の販売と種子の無料配付を行い好評を博した。その後、会場の大型モニターを用いたプロモーション活動を行ない、来場者に広く本校の活動をPRすることができた。この様子は、北海道新聞を通じて広くPRされ、より多くの人々に本校の亜麻普及の取り組みを理解して頂けたものと思われる。


 美幌町フラワーマスター連絡協議会と共催した園芸教室では、亜麻の栽培方法や種子の機能性についての発表、種子の無料配付、種子入り加工品の試食、一般的な草花の育て方の説明などを行った。終了後のアンケートでは、高い評価が寄せられた。参加した生徒も発表後には、自信に満ちた表情をしていた。今後もフラワーマスター連絡協議会をはじめとする市民団体と連携・協力し、本校での研究成果を地域に還元していきたいと考えている。

3)教育課程上の位置づけ

  • 高等学校
    • 3年2単位「課題研究」
    • 2年2単位「総合実習」
  • 小学校
    • 6年2単位「総合的な学習の時間」

4)連携先の概要

美幌町立旭小学校
 本年度で開校24年目となる。普通学級12、特殊学級3が設置されている。校訓は「旭小は、心の故郷、学びの城」である。教育目標は「ぐんぐんのびる旭の子」であり、知育、情意、意欲、体力を育む教育を展開している。

6 活動の成果

 2年間の活動により、栽培分野では目的に応じた栽培方法の確立、利用分野では亜麻種子を用いた加工品の開発、フラワーアレンジメントの花材として有用な可能性を確認をすることができた。また、交流・普及分野では街中の花壇や圃場で亜麻を栽培するだけでなく、研究成果発表会の実施や地元報道機関の利用により、本校での取り組みを多くの方々に理解していただくことができた。
 これらの活動を通じて、地域から「亜麻を育てたい」という声や旭川市や陸別町などの遠隔地からも問い合わせがあり「美幌亜麻」のイメージが再び定着しつつあることが実感された。さらに、街中の花壇や圃場で亜麻を栽培するだけでなく、地域の小学校、又は地域団体との交流を行うことにより、相手のことを考える思いやりの心、異年齢集団とのコミュニケーション能力の向上といった成果がみられた。
 こうした交流会は生徒の豊かな心を育てるという観点から、教育的な効果が大きいと考える。次年度以降もさまざまな団体と連携・協力し、亜麻を通じたネットワークづくりを広め、普及・啓発に努めていく予定である。

7 2年間の研究の全体的な評価

 この2年間の交流学習会などの活動を通して、生徒たちは他人を思いやる心や地域への愛着の気持ちを育むとともに、自らが栽培・管理・利用を体験することで、植物を育て、それを活用することへの興味・関心を高めることができた。また、美幌町に亜麻栽培を普及する利点として以下の点が明らかになった。


亜麻の認知度の調査

8 今後の課題及びこれからの取組

今後の課題としては、

(1)栽培分野

  • 町内会の花壇等への働きかけ
  • 誰の目にも止まる町の中心部に亜麻の花畑を設置
  • 手軽に栽培できるプランターによる栽培試験
  • 連作障害の検証

(2)利用分野

  • 開発に成功した亜麻種子入り加工品の定期的な製造
  • 販売と新製品の開発
  • 繊維採取・製糸技術の習得
  • 生花、ドライフラワーともにアレンジメント材料としてのPR

(3)普及・交流活動分野

  • 町内保育園との共同栽培、町内小中学校への亜麻を用いた総合学習の提案・協力
  • 町民を対象とした亜麻のフラワーアレンジメント教室の開催
  • 亜麻の実お菓子作り教室の実施
  • 町のイベントへ参加しての亜麻のPR活動

などがあげられる。
 さらに地域での亜麻栽培のサポートをするとともに、地域内外へ広くPRするために、本校ホームページの利用にも取り組んでいきたい。各団体との情報交換や共同研究を行い、町内のみならず北海道全域を視野に入れたネットワーク作りを目指していく。


亜麻のふるさとネットワーク構想