学校におけるいじめ問題に関する基本的認識と取組のポイント

 いじめの防止等は、全ての学校・教職員が自らの問題として切実に受け止め、徹底して取り組むべき重要な課題である。
 いじめをなくすため、まずは、日頃から、個に応じたわかりやすい授業を行うとともに、深い児童生徒理解に立ち、生徒指導の充実を図り、児童生徒が楽しく学びつつ、いきいきとした学校生活を送れるようにしていくことが重要である。
 また、いじめを含め、児童生徒の様々な問題行動等への対応については、早期発見・早期対応を旨とした対応の充実を図る必要があり、関係機関との連携を図りつつ、問題を抱える児童生徒一人一人に応じた指導・支援を、積極的に進めていく必要がある。
 以上を踏まえつつ、特にいじめ問題への対応については、下記1の基本的認識に基づき、下記2のポイントについて遺漏なきを期しつつ、これを推進する必要がある。

1  いじめ問題に関する基本的認識

 
 いじめについては、「どの子どもにも、どの学校においても起こり得る」ものであることを十分認識するとともに、特に、以下の点を踏まえ、適切に対応する必要があること。

1. 「弱いものをいじめることは人間として絶対に許されない」との強い認識を持つこと。
   どのような社会にあっても、いじめは許されない、いじめる側が悪いという明快な一事を毅然とした態度で行きわたらせる必要がある。いじめは子どもの成長にとって必要な場合もあるという考えは認められない。また、いじめをはやし立てたり、傍観したりする行為もいじめる行為と同様に許されない。

2. いじめられている子どもの立場に立った親身の指導を行うこと。
   子どもの悩みを親身になって受け止め、子どもの発する危険信号をあらゆる機会を捉えて鋭敏に感知するよう努める。自分のクラスや学校に深刻ないじめ事件が発生し得るという危機意識を持つ。なお、いじめの件数が少ないことのみをもって問題なしとすることは早計である。

3. いじめは家庭教育の在り方に大きな関わりを有していること。
   いじめの問題の解決のために家庭が極めて重要な役割を担う。いじめの問題の基本的な考え方は、まず家庭が責任を持って徹底する必要がある。家庭の深い愛情や精神的な支え、信頼に基づく厳しさ、親子の会話や触れ合いの確保が重要である。

4. いじめの問題は、教師の児童生徒観や指導の在り方が問われる問題であること。
   個性や差異を尊重する態度やその基礎となる価値観を育てる指導を推進する。道徳教育、心の教育を通してかけがえのない生命、生きることの素晴らしさや喜びなどについて指導することが必要である。

5. 家庭・学校・地域社会など全ての関係者がそれぞれの役割を果たし、一体となって真剣に取り組むことが必要であること。
   いじめの解決に向けて関係者の全てがそれぞれの立場からその責務を果たす必要がある。地域を挙げた取組も急務である。

  「いじめの問題に関する総合的な取組について(平成8年7月 児童生徒の問題行動等に関する調査研究会議(報告))」より

2  いじめに関する取組のポイント

1  学校における取組の充実
 
(1)  実効性ある指導体制の確立
 
a)  学校を挙げた対応
 
1  いじめの問題については、その件数が多いか・少ないかの問題以上に、これが生じた際に、いかに迅速に対応し、その悪化を防止し、真の解決に結びつけることができたかが重要となるものであり、各学校及び教育委員会は、相互の連絡・報告を密にしつつ、いじめの発生等についてきめ細かな状況把握を行い、適切な対応に努めること。

2  各学校において、校長のリーダーシップの下に、それぞれの教職員の役割分担や責任の明確化を図るとともに、密接な情報交換により共通認識を図りつつ、全教職員が一致協力して指導に取り組む実効性ある体制を確立する必要があること。

3  校長、教頭、生徒指導主事等は、いじめの訴え等に基づき、学級担任等へ対応を指示したり、情報を伝達したりした場合には、その対応状況等について、逐次報告を受けるなど、その解決に至るまで適切にフォローすること。

4  いじめの訴え等を学級担任が一人で抱え込むようなことはあってはならず、校長に適切な報告等がなされるようにすること。

b)  実践的な校内研修の実施
 
1  各学校において、いじめの問題についての教職員の共通理解と指導力の向上を図るために、全教職員の参加により、事例研究やカウンセリング演習など実践的な内容を持った校内研修を積極的に実施する必要があること。

(2)  適切な教育指導
 
a)  全ての児童生徒への指導
 
1  「いじめは人間として絶対に許されない」という意識を一人一人の児童生徒に徹底させなければならないこと。いじめをはやし立てたり、傍観したりする行為もいじめる行為と同様に許されないという認識、また、いじめを大人に伝えることは正しい行為であるという認識を、児童生徒に持たせること。

2  いじめられる児童生徒や、いじめを告げたことによっていじめられるおそれがあると考えている児童生徒を徹底して守り通すということを、教職員が、言葉と態度で示すこと。
 特に、いじめられている場合には、そのことを自分の胸の中に止めて悩み抜いたりせず、友人、教師、親に必ず相談するようにすること(まして、自分を傷つけたり、死を選んだりすることは絶対にあってはならないこと)を、メッセージとして伝えること。

3  学校教育活動全体を通して、お互いを思いやり、尊重し、生命や人権を大切にする態度を育成し、友情の尊さや信頼の醸成、生きることの素晴らしさや喜び等について適切に指導すること。特に、道徳教育、心の教育を通して、このような指導の充実を図ること。
 また、奉仕活動、自然体験等の体験活動をはじめ、人間関係や生活経験を豊かなものとする教育活動を取り入れることも重要であること。

4  学級(ホームルーム)活動や児童(生徒)会活動などの場を活用して、児童生徒自身がいじめの問題の解決に向けてどう関わったらよいかを考え、主体的に取り組むことは大きな意義があること。

b)  いじめる児童生徒への指導・措置
 
1  いじめを行った児童生徒に対しては、心理的な孤立感・疎外感を与えることがないようになど、一定の教育的配慮の下に、いじめの非人間性やいじめが他者の人権を侵す行為であることに気付かせ、他人の痛みを理解できるようにする指導を根気強く継続して行うこと。

2  いじめを行う児童生徒に対しては、一定期間、校内においてほかの児童生徒と異なる場所で特別の指導計画を立てて指導することが有効な場合もあること。
 さらに、いじめの状況が一定の限度を超える場合には、いじめられる児童生徒を守るために、いじめる児童生徒に対し出席停止の措置を講じたり、警察等適切な関係機関の協力を求め、厳しい対応策をとることも必要であること。特に、暴行や恐喝など犯罪行為に当たるようないじめを行う児童生徒については、警察との連携が積極的に図られてよいこと。

3  上記2の措置を講ずることについて、教育委員会や保護者との間に、日頃から十分な共通理解を持っておくことが大切であること。

c)  いじめを許さない学級経営等
 
1  児童生徒の成長にとって必要な場合もあるといった考えは認められないものであり、個々の教師がいじめの問題の重大性を正しく認識し、危機意識を持って取り組まなければならないこと。
 また、教師の何気ない言動が児童生徒に大きな影響力を持つことに十分留意すし、いやしくも、教職員自身が児童生徒を傷つけたり、他の児童生徒によるいじめを助長したりするようなことがないよう留意すること。

2  グループ内での児童生徒の人間関係の変化を踏まえ、学級経営やグループ指導の在り方、わけても班別指導について不断の見直しや工夫改善を行う必要があること。

3  いじめが解決したと見られる場合でも、教職員の気づかないところで陰湿ないじめが続いていることも少なくないことを認識し、そのときの指導により解決したと即断することなく、当該児童生徒が卒業するまで、継続して十分な注意を払い、折に触れて必要な指導を行うこと。

(3)  いじめの早期発見・早期対応
 
a)  問題兆候の把握等
 
1  教師が児童生徒の悩みを受け取るためには、まず何よりも、全人格的な接し方を心がけ、日頃から児童生徒との心のチャンネルを形成するなど深い信頼関係を築くことが不可欠であること。

2  児童生徒の生活実態のきめ細かい把握に努めるとともに、いじめを見つけるための積極的な取組を行うこと。また、いじめの把握に当たっては、スクールカウンセラーや養護教諭など学校内の専門家との連携に努めること。

3  児童生徒や保護者からのいじめの訴えはもちろんのこと、その兆候等の危険信号は、どんな些細なものであっても真剣に受け止め、すみやかに教職員相互において情報交換するなどにより、適切かつ迅速な対応を図ること。

4  児童生徒の仲間意識や人間関係の変化に留意しつついじめの発見や対応に努めるとともに、特に、種々の問題行動等々が生じているときには、同時に他にいじめが行われている場合もあることに留意すること。

5  いじめの問題解決のため、いじめを把握した際には、速やかに教育委員会に報告するとともに、必要に応じ、教育センター、児童相談所、警察等の地域の関係機関と連携協力を行っているか。

b)  事実関係の究明
 
1  いじめを受けている児童生徒等の心理的圧迫感をしっかりと受け止めるとともに、当事者だけでなく、その友人関係等からの情報収集等を通じた事実関係の把握を正確かつ迅速に行う必要があること。

2  いじめの兆候を発見した場合において、いじめられる児童生徒からの訴えが弱いことを理由に問題を軽視したり、いじめる側といじめられる側の主張に隔たりがあることを理由に、必要な対応を欠くこととがないようにすること。

(4)  いじめを受けた児童生徒へのケアと弾力的な対応
 
a)  心のケア等
 
1  児童生徒に対する親身な教育相談を一層充実させるため、スクールカウンセラー等の活用や、養護教諭等との連携を積極的に図ること。
 また、教育相談について全教職員が参加する実践的な校内研修を積極的に実施すること。

2  教育相談室を生徒指導室とは別の場所に設けたり、部屋が相談しやすい雰囲気になるよう工夫するなど、児童生徒にとって相談しやすい環境を整えること。

b)  いじめを継続させないための弾力的な対応
 
1  いじめられる児童生徒には、いじめの解決に向けての様々な取組を進めつつ、児童生徒の立場に立って、緊急避難としての欠席が弾力的に認められてよいこと。その際、保護者と十分に連携を図るとともに、その後の学習に支障を生ずることのないように工夫するなど十分な措置を講ずる必要があること。

2  いじめられる児童生徒又はいじめる児童生徒のグループ替えや座席替え、さらに学級替えを行うことも必要であること。また、必要に応じて児童生徒の立場に立った弾力的な学級編制替えも工夫されてよいこと。

3  いじめられる児童生徒には、保護者の希望により、関係学校の校長などの関係者の意見も十分に踏まえて、就学すべき学校の指定の変更や区域外就学を認める措置について配慮する必要があること。この場合、いじめにより児童生徒の心身の安全が脅かされるようなおそれがある場合はもちろん、いじめられる児童生徒の立場に立って、いじめから守り通すため必要があれば弾力的に対応すべきこと。

4  上記1から3の措置を講ずることについて、学校、教育委員会、及び保護者は、日頃から十分な共通理解を持っておくことが大切であること。

(5)  家庭・地域社会との連携
 
1  いじめの問題については、学校のみで解決することに固執してはならないこと。学校においていじめを把握した場合には、速やかに保護者及び教育委員会に報告し、適切な連携を図ること。保護者等からの訴えを受けた場合には、まず謙虚に耳を傾け、その上で、関係者全員で取組む姿勢が重要であること。

2  学校におけるいじめへの対処方針、指導計画等の情報については、日頃より、積極的に公表し、保護者等の理解や協力を求めるとともに、各家庭でのいじめに関する取組のための具体的な資料として役立ててもらえるような工夫が必要であること。

3  いじめ等に関して学校に寄せられる情報に対し、誠意を持って対応すること。
 また、いじめの問題に関し学校と保護者や地域の代表者との意見交換の機会を設ける、特にPTAと学校との実質的な連絡協議の場を確保するなどにより、家庭・地域社会との連携を積極的に図る必要があること。

4  実際にいじめが生じた際には、個人情報の取扱いに留意しつつ、正確な情報提供を行うことにより、保護者や地域住民の信頼を確保することが重要であり、事実を隠蔽するような対応は許されないこと。

2  教育委員会における取組の充実
 
(1)  学校の取組への支援と取組状況の点検
 
a)  恒常的支援
 
1  いじめの問題の解決に向けて、各学校の実態に応じつつ、例えば、校内研修の講師として指導主事や教育相談の専門家を派遣するなど、各学校の取組を積極的に支援する必要があること。

2  各学校における教育相談機能の充実に資するよう、スクールカウンセラーの派遣等により、適切な支援を行うこと。

b)  個別事件への支援
 
1  学校や保護者等からいじめの報告があったときは、その実情の把握を迅速に行うとともに、学校への支援や保護者等への対応を適切に行うこと。特に、困難ないじめの問題を抱える学校に対しては、早急に担当指導主事等を派遣するなど、問題の解決と正常な教育活動の確保に向けた指導・助言に当たること。

c)  学校における取組状況の点検
 
1  いじめの問題に関する国や教育委員会の通知などの資料が、具体的に学校でどのように活用されたか、その趣旨がどのように周知・徹底されたのかなど、学校の取組状況を点検し、必要な指導、助言を行って、学校の積極的な取組を促す必要があること。また、いじめの問題に関する校内研修や児童生徒に対する具体的な指導内容などについての点検も必要であること。

(2)  効果的な教員研修の実施
 
1  できる限り多くの教師がいじめの問題に関する実践的な研修を受けることができるよう配慮するとともに、管理職や生徒指導主事、養護教諭など、受講者の区分に応じたきめ細かで効果的なプログラムを用意する必要があること。
 また、初任者研修における学級経営や生徒指導・教育相談に関する研修を一層充実させていくことも重要であること。

2  研修内容・方法について、心理、医療等の様々な分野から講師を招いたり、講義形式のみに偏らない事例研究やカウンセリング演習を実施するなど、受講者が目的意識を持って実践的な知識・経験が得られるよう工夫することが必要であること。

(3)  組織体制・相談体制の充実
 
1  都道府県や市町村の教育委員会においては、学校指導事務担当課だけでなく、広く関係する部課においてもいじめの問題を自らの課題として取り組み、教育委員会が一丸となってこの問題に対する取組を進めていく必要があること。また、私立学校担当課と情報交換をはじめ十分な連携を図りながら取組を進めていくことが必要であること。

2  教育相談員の配置を積極的に進めるなど、教育委員会や教育センター等の相談体制の整備・充実を図るとともに、利用者の相談ニーズに配慮し、相談時間を延長するなど相談窓口の開設時間の工夫等を行うことが必要であること。教育センター等の相談員や臨床心理士などの指導助言の下に、教員養成学部の学生など児童生徒に比較的年齢の近い者を相談相手とする方策なども検討されてよいこと。

3  適応指導教室や民間の施設との指導面でのより一層緊密な連携を図るとともに、校内研修や教育委員会が実施する教員研修への講師の派遣について協力を求めることも大切であること。児童福祉、人権擁護、警察、医療等の関係相談機関と定期的な情報交換・研究協議の機会を設けるとともに、研修会の講師など機関相互における人材の有効活用等の工夫を行うなどして、これらの機関と学校との一層緊密な連携を図る必要があること。

(4)  深刻ないじめへの対応
 
1  深刻ないじめを行う児童生徒に対しては、他の児童生徒の教育を受ける権利を保障するという観点から、やむを得ない措置としての出席停止を含む毅然とした厳しい指導が必要な場合があること。なお、出席停止を命ずる場合は、児童生徒及び、保護者に対し出席停止の趣旨について十分説明するとともに、事前に児童生徒及び保護者の意見を聴取することに配慮すること。また、出席停止の期間が著しく長期にわたることがないよう配慮し、その期間中にも必要な指導を行うこと。

2  いじめられる児童生徒を守るための方法の一つとして、就学すべき学校の指定の変更や区域外就学を認める措置を講じることについて、時機を逸することのないよう留意すること。
 この場合、保護者の希望により、関係者の意見等も十分に踏まえ、いじめにより児童生徒の心身の安全が脅かされるような場合はもちろん、いじめられる児童生徒の立場に立って、いじめから守り通すため必要があれば、弾力的に対応すべきこと。

(5)  家庭教育に対する支援
 
1  家庭教育を支援するため、様々な学習機会や情報の提供、相談体制の整備、ボランティア活動など親子の共同体験の機会の充実、父親の家庭教育への参加支援など家庭の教育機能の充実を図る施策を計画的に推進すること。その際、家庭教育の意義に関心を示さない、あるいは、学校との連携に協力的でない保護者などへの方策について、子育てのネットワークづくりの推進などきめ細やかな施策が望まれること。

-- 登録:平成21年以前 --