第2章 第4節 3.第2章のまとめ

  この章では、本研究会議が1年間に展開してきた活動についての報告を行った。次章へのつなぎとして、章全体のまとめと課題の抽出を行う。

  (1)まず、二ヶ所の海外視察によって、あらためて学校が他の行政領域の機関と連携をとる必要性が認識された。いずれの都市においても、スクールソーシャルワーカーはスクールカウンセラーないしサイコロジストとは別の機能として位置づけられており、学校現場が虐待を疑った以降の手続きに責任を負っている。視察によって得られた情報の中には、プログラムとしては日本においても既にある程度準備されていると考えられるものも多く見られた。例えば、学校と警察の連携にしても、日本においても交通安全教育や薬物乱用防止教育という枠組みで実践例が蓄積されている。
  しかし、より早期に、予防的な意味合いで警察と学校が協力した状況把握を行っていたり、虐待を疑った後に子どもから状況を聞き取るための専門的な場を教育行政と警察行政が共用で持っている点など、システムとしての成熟度は大きく異なる。
  スクールソーシャルワークの機能が位置づけられていることで、学校現場の教員は必要以上に家庭に介入したり、危険な状況に踏み込まずに済むことになる。
  その一方で、スクールソーシャルワーカーもまた、あくまでも情報収集と機関連携の要として機能するのであり、調査や捜査については、それぞれの権限を有する専門機関に委ねるなど、専門性の多層的な構造が整備されていることがわかる。
  残念ながら、我が国の学校現場には、まだ職種の多様性も乏しく、児童相談所を始めとする福祉機関のケースワーカーも膨大な数の事例と広域の担当地区を抱えている現状であり、学校現場で複眼的な視点で虐待を早期に察知したり、子どもの言動の背景に虐待を敏感に察知したりする点でも、予防的な早期介入と敏速な機関連携という点でも課題を残しているものと思われる。

  (2)才村委員の調査は、本研究会議の主管ではないものの、密接な連携のもとに実施されたものである。結果については、既に「まとめ」として記載されているが、課題として以下の点が挙げられたと言える。

  1. 学校現場においては、虐待事例に遭遇した場合、事態の進行管理のためのシステムは定着していないこと。学校が単独で対応するケースもやはり多く、この意味では適確なリスクの評価を可能にするような校内体制・教育行政内の体制整備が求められること。
  2. 児童虐待防止法の趣旨などは必ずしも周知が完全という実態にはないこと。ただし、学校という組織が本来的に在籍する子どもを自力で守るという構えが強まって当然という特性を持っていることを考えれば、単に法規の内容を徹底するということだけではなく、学校として、あるいは教職員としてどう考え、行動すればいいのかという視点をもった研修や養成システムが必要と考えられること。
  3. 学校現場が教育行政に望んでいるのは専門性の確保と人的な配置であり、これは14年度調査とまったく同様であること。

  (3)また、本研究会議が主管した教育委員会対象の調査では、課題として以下の点が挙げられた。

  1. 教育委員会がなんらかの形でネットワークに位置づけられることで、教育行政としての虐待対応の取組は確実に前進すると思われること。したがって、教育委員会には学校現場との縦の関係による現場支援の機能だけではなく、他の行政機関との横の関係による現場支援を可能にする力量や仕組みが求められること。
  2. しかしながら、市町村教育委員会では、市町村の規模によって、ネットワークの設置状況に大きな較差が見られること。都道府県教育委員会は、こうした市町村ごとの較差を平準化し、一定水準の研修や助言を提供することが望まれること。

  (4)さて、以上のような課題意識に基づき、今後、我が国の教育行政及び学校現場における虐待対応にとって必要とされる点をまとめることにする。

  1. まず、機関連携や校内連携、あるいは校種間の連携といった各種のネットワークについて、改めて、その意義や各機関の特性についての研修・啓発を徹底する必要がある。ここには、様々な機関の特性や機能についての理解も含まれるが、他の機関に対して学校の特性を周知させることも含まれると思われる。また、学校現場が求める専門性の確保や人的配置のためには教員委員会が学校現場の置かれている状況を正確に把握し、予測できる必要がある。この点では、おそらく私立の比率が圧倒的に高いと思われる幼稚園で、教育委員会への報告が5割にとどまっている現実などからすれば、教育行政内での連携もさらに努力が必要である。さらに、子どもの学年が上がるにつれて虐待の把握率が低下することからすれば、小中高の生徒指導機能にどのように連続性を持たせるかということも課題になろう。ただし、こうした教育行政内・校種間連携もまた、個人情報の取扱いという点から見れば、より広範で法的根拠のあるネットワークの中で実現されていくことが望まれる。
  2. 第二に、虐待事例に遭遇した場合の手続きや、事実確認のための様々なスキルについて、実際的な研修が必要である。「虐待の確証を求める姿勢」の強さは、14年度調査に引き続いて今回も確認されている。しかし、学校や教育委員会が現実に持っている手だては「子どもと話しあう」「保護者と話しあう」ということに尽きると言ってもいい。確証を得るためにもどのような手続きが必要なのかを確実に全教員が知っている必要がある。虐待事例に対する対応力としてのコミュニケーションスキルの向上は、すべての子どもと家庭への対応力の向上につながるという視点で研修が企画される必要がある。
  3. 第三に、実際の事例対応においては様々な形でのスーパーバイズが必要になることから、教員あるいは教育委員会にも一定水準の助言ができる人材を確保していく必要がある。
      このためには、教育行政と他の分野との積極的な人事交流、教職員間の適切な情報交換などの仕組みが求められてくる。

  以上の観点から、次章においては、「学校としての組織的な対応」「教育委員会の支援」「関係機関から学校への支援・連携」という柱で、学校における児童虐待防止のための取組の方向性を述べることにする。そして、最終章では、今後望まれる研修の方向性などについてまとめる。

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-- 登録:平成21年以前 --