第2章 第2節 1.「保育所、学校等関係機関における虐待対応のあり方に関する調査研究」(平成17年度厚生労働科学研究)の概要

  本調査研究会議の才村委員は、平成17年度厚生労働科学研究「子ども家庭総合研究」の一環として、「保育所、学校等関係機関における虐待対応のあり方に関する調査研究」を実施した。この研究は、全国の幼稚園、小学校、中学校、保育所、放課後児童健全育成事業を実施する児童館を対象に、虐待対応の実態や職員の意識等に関する横断的な調査を実施することにより、関係者の意識や関係機関の対応構造を明らかにし、これらを踏まえた上で、効果的な対応策及び連携方策のあり方に関する各施設向けのガイドラインを策定するものである。
  より総合的な実態把握と効果的な提言を行うため、本調査研究会議による調査及び才村委員の調査は一体的に実施した。また、本調査研究会議の玉井座長は平成14年度~平成15年度、「児童虐待に関する学校の対応についての調査研究」(文部科学省科学研究費補助金)において、学校の対応や教育委員会の取組状況などに関する実態調査を実施しているが(以下、「14年度調査」という。)、本調査研究はこれとの比較・分析も行った。以下、才村委員による調査研究の概要である。

(1)研究の方法

  本調査研究は、平成16年度から平成18年度までの3ヵ年計画で実施されている。平成16年度の予備調査において質問紙調査の調査項目等を確定し、平成17年度は全国の公立・私立幼稚園、公立小学校、公立中学校を対象に調査を行った(5パーセント無作為抽出)。
  調査票は、「1.基本調査」「2.事例調査」「3.意識調査(ビネット調査を含む)」からなる。

  1. 1.基本調査:学校の属性、虐待事例への遭遇状況等
  2. 2.事例調査:(遭遇事例について)虐待の状況、対応状況、機関連携の状況等
  3. 3.意識調査:(各職種・職階を対象に)虐待対応の経験の有無、制度の周知状況、機関連携に対する考え方、通告意思に関するビネット調査

  調査の実施期間は、平成17年6月24日~8月31日である。
  調査結果については、単純集計、クロス集計を行うとともに、有意性の検定を行った。平成18年度には、保育所、放課後児童健全育成事業を実施する児童館を対象に同一項目で質問紙調査を行うとともに、各機関向けの対応ガイドラインを策定する予定である。

(2)調査結果の概要と考察

  以下は、調査結果(単純集計)の一部である(現在、クロス集計及び有意性の検討を行っているところである)。

1.基本調査(回収状況および平成14年4月~平成17年7月における虐待事例遭遇状況)(表1)

  私立幼稚園の回収率が低いのは、調査票について、公立幼稚園、小学校・中学校は文部科学省から都道府県教育委員会から市町村教育委員会から各学校という送付ルートを設定したのに対し、私立幼稚園は才村班から直接送付したことから、調査の趣旨等が十分理解されなかったためと考えられる。

  表1 回収状況および平成14年4月~平成17年7月における虐待事例遭遇状況

  送付数 回収数
(回収率)
虐待事例遭遇状況
あり なし
幼稚園(公立) 282園 238園
(84.4パーセント)
72園
(20.5パーセント)

人数 107人
1園当り 1.7人
263園
(74.7パーセント)
幼稚園(私立) 418園 113園
(27パーセント)
小学校 1,158校 1,013校
(87.5パーセント)
357校
(35.2パーセント)

人数 668人
1校当り 2人
614校
(60.6パーセント)
中学校 515校 439校
(85.2パーセント)
121校
(27.6パーセント)

人数 240人
1校当り 2.1人
301校
(68.6パーセント)

2.事例調査

ア 主たる虐待の種別

  主たる虐待の種別は表2のとおりであるが、全体ではネグレクトが43.9パーセント、身体的虐待が41.9パーセントとほぼ同じ割合となっており、次いで心理的虐待8.6パーセント、性的虐待3パーセントとなっている。施設種別では、幼稚園における心理的虐待の比率が小中学校に比べ高いこと、公立幼稚園におけるネグレクトの比率が高いこと、中学校における性的虐待の比率が高いことなどが特徴的である。
  厚生労働省の「社会福祉行政業務報告」によれば、平成16年度に児童相談所が処理した虐待相談33,408件の内、身体的虐待が44.5パーセント、ネグレクトが36.7パーセント、心理的虐待が15.6パーセント、性的虐待が3.1パーセントとなっており、これと本調査における幼稚園、小学校、中学校全体を比較すると、ネグレクト、性的虐待については厚生労働省調査より本調査の方がそれぞれ7.2ポイント、0.1ポイント高く、身体的虐待、心理的虐待については厚生労働省調査より本調査の方がそれぞれ、2.6ポイント、7ポイント低くなっている。特に、中学校の性的虐待では厚生労働省調査より本調査の方が約2.8倍多くなっている。
  児童相談所よりも今回の調査の方がネグレクトの比率が高いのは、ネグレクトはその態様や程度が特に多様であり、ケースによっては学校独自で解決に向けた努力が払われるとともに、児童相談所以外の関係機関と連携する場合も多いからではないかと思われる。心理的虐待について児童相談所の比率が高いのは、児童相談所では虐待以外の様々な相談を受け付けていることから、性格・行動上の相談などにおいて心理的虐待が発覚することが多いからではないかと考えられる。中学校の性的虐待の比率が児童相談所よりもかなり高くなっているが、その要因については今後詳細な分析が必要であろう。
  また、14年度調査と比較すると、ネグレクトの比率の上昇が顕著であるが、これは学校においてネグレクトが虐待であるとの認識が定着しつつあることの表れととらえることができよう。

表2 主たる虐待の種別
    総数 身体的虐待 ネグレクト 性的虐待 心理的虐待 分からない 無回答
幼稚園 公立 単位:件 61 17 33 0 7 1 3
単位:パーセント 100 27.9 54.1 0 11.5 1.6 4.9
私立 単位:件 34 13 11 0 7 1 2
単位:パーセント 100 38.2 32.4 0 20.6 2.9 5.9
単位:件 95 30 44 0 14 2 5
単位:パーセント 100 31.6 46.3 0 14.7 2.1 5.3
小学校 単位:件 640 285 278 12 49 7 9
単位:パーセント 100 44.5 43.4 1.9 7.7 1.1 1.4
中学校 単位:件 187 71 83 16 16 02.6 1
単位:パーセント 100 38 44.4 8.6 8.6 0 0.5
合計 単位:件 922 386 405 28 79 9 15
単位:パーセント 100 41.9 43.9 3 8.6 1 1.6
児相(厚生労働省調査) 単位:件 33,408 14,881 12,263 1,048 5,216    
単位:パーセント 100 44.5 36.7 3.1 15.6    

主たる虐待の種別

イ 校内(園内)で情報を集約し進行管理した人

  虐待対応では、情報を集約し進行管理すること(ケースマネジメント)が特に重要となるが、その担い手は、公立幼稚園では園長が57.4パーセントと過半数を占めているのに対し、私立幼稚園では園長44.1パーセント、教頭(副園長)14.7パーセント、主任14.7パーセント、小学校では校長42.5パーセント、教頭29.4パーセント、担任10.3パーセント、中学校では児童指導主任36.9パーセント、校長26.7パーセント、教頭13.9パーセントなどと分散している。公立幼稚園では担任がケースマネジメントを行っているところはなかったが、私立幼稚園では2.9パーセント、小学校では10.3パーセント、中学校では7パーセントが、担任がケースマネジメントを行っていた。担任は日常的に子どもの状況等を把握できるが、子どもとの距離感が近いだけに観察や判断において主観的になり易いし、担任に負担がかかりがちである。従って、担任以外の者が客観的立場からケースマネジメントを行うことが求められる。
  さらに、学校だけで虐待ケース全体のケースマネジメントを行うことは無論できないが、学校としても虐待への対応の一翼を担う以上、校園内での進行管理は重要であり、これにはリスクアセスメント(リスクの評価)や危機管理、子どもへの関わりなどに関する基本的な視点やスキル(技術)が求められることから、研修の充実が課題となる。

ウ 対応策についての検討・決定方法

  「職員会議において対応策を検討または決定した」については、幼稚園が最も多く、公立45.9パーセント、私立64.7パーセントとなっているのに対し、小学校では20.5パーセント、中学校では10.2パーセントに止まり、「上司に個別に相談」がそれぞれ50パーセント、55.6パーセントとなっている。虐待対応では学校全体での取組みが求められることから、職員会議で検討・決定するのが望ましいと考えられ、その旨の周知が必要となろう。

エ 対応策の内容(複数回答)

  公立幼稚園では、「担任が経過をみる」(59パーセント)、「担任が保護者への指導など中心的な対応を行う」(47.5パーセント)、「担任が園児への指導など中心的な対応を行う」(26.3パーセント)、「担任以外の教職員が保護者への指導中心的な対応を行う」(29.5パーセント)、「担任が園児への指導など中心的な対応を行う」(36.1パーセント)、「担任以外の教職員が保護者への指導など中心的な対応を行う(31.1パーセント)」、「市町村教育委員会に相談(29.5パーセント)」などが多数を占めており、私立幼稚園では、「担任が経過をみる」(55.9パーセント)、「担任が保護者への指導など中心的な対応を行う」(32.4パーセント)、「担任以外の教職員が保護者への指導中心的な対応を行う」(26.5パーセント)、「幼稚園を挙げて経過を見る」(23.5パーセント)などが多くを占めている。
  小学校では、担任が経過をみる(62パーセント)、担任が児童への指導(45パーセント)、児童相談所に相談(36.5パーセント)、担任が保護者への指導(33.6パーセント)、市町村教育委員会に相談(29.8パーセント)などが多く、中学校では、児童相談所に相談(70.6パーセント)、担任が経過をみる(50.3パーセント)、担任が児童への指導(41.2パーセント)、教育委員会に相談(34.8パーセント)などが多くなっている。全体的に担任中心の対応が多く、「学校(園)を挙げて経過を見る」といった回答は、公立幼稚園11.5パーセント、私立幼稚園23.5パーセント、小学校23.3パーセント、中学校21.4パーセント、「学校(園)を挙げて保護者や子どもへの指導など積極的な対応を行う」は、公立幼稚園16.4パーセント、私立幼稚園2.9パーセント、小学校15.9パーセント、中学校14.4パーセントに止まっている。また、「児童相談所に通告する」は小学校57パーセント、中学校70.6パーセントと高率であるのに対し、幼稚園では公立、私立ともそれぞれ19.7パーセント、20.6パーセントに止まっている。
  学校が遭遇する事例は虐待の疑いから重度の虐待まで様々である。担任が経過を見るケースは虐待の疑いや軽度の虐待であると推測され、このようなケースが多いというのは、それだけ虐待の早期発見がなされているとも考えられるが、虐待の程度や態様と対応策との関連をさらに詳細に分析する必要がある。また、指導は無論のこと経過を観察する場合においても、エでも述べたように、援助に関する基本的な視点と具体的なスキルが必要であり、研修の充実が望まれる。

オ 通告・連絡・相談の有無(表3)

  児童相談所や福祉事務所等への通告・連絡・相談の状況は表3のとおりである。中学校では81.8パーセント、小学校では77.2パーセントの事例が通告・連絡・相談されていた。14年度調査では、全体の39.6パーセントが校内のみの対応という結果であったが、今回の調査結果は、校内での抱え込みの構造が薄れつつあり、関係機関と積極的に連携していこうという傾向が顕著になっているといえる。
  しかし、幼稚園では児童相談所や福祉事務所等に通告・連絡・相談したケースの比率は、公立50.8パーセント、私立50パーセントと小中学校に比べ低く、また、虐待が疑われた場合の対応策として「児童相談所に通告する」比率が小学校、中学校に比して低くなっている。しかし、後述の教職員への意識調査では幼稚園の教職員が他の施設種別の教職員に比べて通告制度の周知率が特に低いわけでもない。ただ、カで述べるように、虐待を確信していたケースが幼稚園では少なく、逆に確信をもてなかったケースが他の施設種別に比して多くなっていることが要因になっているとも考えられるが、詳細な検討が必要である。

表3 通告・連絡・相談の有無

    総数 あり なし 無回答
幼稚園 公立 単位:件 61 31 25 5
単位:パーセント 100 50.8 41 8.2
私立 単位:件 34 17 14 3
単位:パーセント 100 50 41.2 8.8
単位:件 95 48 39 8
単位:パーセント 100 50.5 41.1 8.4
小学校 単位:件 640 494 129 17
単位:パーセント 100 77.2 20.2 2.7
中学校 単位:件 187 153 30 4
単位:パーセント 100 81.8 16 2.1
合計 単位:件 922 695 198 29
単位:パーセント 100 75.4 21.5 3.1

 通告・連絡・相談の有無

カ 虐待の確信の有無

  通告・連絡・相談をした事例について虐待を確信していたかどうかを聞いたが、その結果は表4のとおりである。私立幼稚園において、「確信していた」が少なく、「疑ってはいたが、確信はなかった」が多くなっている。

表4 虐待の確信の有無

    総数 確信していた 疑ってはいたが、確信はなかった 無回答
幼稚園 公立 単位:件 31 17 12 2
単位:パーセント 100 54.8 38.7 6.5
私立 単位:件 17 5 11 1
単位:パーセント 100 29.4 64.7 5.9
単位:件 48 22 23 3
単位:パーセント 100 45.8 47.9 6.3
小学校 単位:件 494 260 207 27
単位:パーセント 100 52.6 41.9 5.5
中学校 単位:件 153 88 63 2
単位:パーセント 100 57.5 41.2 1.3
合計 単位:件 695 370 293 32
単位:パーセント 100 53.2 42.2 4.6

 虐待確信の有無

キ 通告等に先立った教育委員会との協議

  通告・連絡・相談に先立って市町村教育委員会と協議したかどうかについては、「協議した」が公立幼稚園41.9パーセント、私立幼稚園17.6パーセント、小学校47.4パーセント、中学校56.2パーセントと、私立幼稚園を除いて教育委員会と協議したのは全体の5割前後となっている。緊急性を要するケースは別として、教育委員会によるバックアップは重要であり、学校と教育委員会との連携システムの確立が課題であるといえる。
  なお、私立幼稚園において教育委員会との事前協議の比率が低いのは、他の施設と異なり、所管が教育委員会ではなく知事部局であるからではないかと考えられる。今回の調査では私立幼稚園と所管部局との協議状況については聞いていないが、所管部局との連携システムの確立は重要な課題といえる。

ク 通告・連絡・相談先との連携

  通告・連絡・相談先との連携状況は、「連携した」が公立幼稚園96.8パーセント、私立幼稚園88.2パーセント、小学校96パーセント、中学校97.4パーセントで、ほとんどの事例において連携が図られていた。

ケ 通告・連絡・相談をしなかった理由

  公立幼稚園では、「園内で対応が可能と判断された」(64パーセント)、「虐待の程度が軽いと考えられた」(40パーセント)、「虐待であるとの判断に自信が持てなかった」(32パーセント)、「家庭のプライバシーを侵害すると考えられた」(24パーセント)といった回答が多くなっており、私立幼稚園では、「虐待の程度が軽いと考えられた」(64.3パーセント)、「虐待であるとの判断に自信が持てなかった」(42.9パーセント)、「園内で対応が可能と判断された」(35.7パーセント)、「家庭のプライバシーを侵害すると考えられた」(14.3パーセント)などの回答が多くなっている。小学校では、「校内で対応が可能と判断された」(57.4パーセント)、「虐待の程度が軽いと考えられた」(37.2パーセント)、「虐待であるとの判断に自信が持てなかった」(35.7パーセント)、「家庭のプライバシーを侵害すると考えられた」(10.9パーセント)、中学校では、「校内で対応が可能」(60パーセント)、「虐待という自信がなかった」(40パーセント)、「虐待の程度が軽い」(36.7パーセント)、「家庭のプライバシーの侵害」(20パーセント)、「保護者との関係が険悪になるおそれ」(20パーセント)などの順となっている。
  児童虐待防止法は、虐待の確証がなくとも通告するよう規定しているが、「虐待の自信がない」ために通告に至らないケースが3割~4割見られる。また、「家庭のプライバシーの侵害」を理由に通告しないケースも1~2割存在する。虐待ケースといっても多様であり、個々のケースを詳細に分析する必要があるが、もし仮に家庭のプライバシーが重視されるあまり、結果的に児童の安全や権利が保障しきれないという事実があるとすれば、問題があると言わざるをえない。
  なお、「子どもが嫌がると思われた」という回答が、幼稚園2.6パーセント、小学校7パーセント、中学校10パーセントと全体に比率は高くないものの、児童の年齢が高くなるほど比率が高くなっている。通告や他の機関との連携は必ずしも子どもの同意を必要条件とするものではないが、通告や他の機関との連携の必要性、その後に生じると思われる展開等について可能な限り子どもにも十分説明し、不安や不信感を募らせることのないように配慮する必要があり、そのためのスキル等に関する研修も必要となろう。
  14年度調査においても、通告しなかった理由として、「虐待の確証がない」「子どもや家庭との関係が悪化することを恐れる」という回答が上位を占めている。今後の通告意思を尋ねた今回の調査でも同様の傾向が見られ、確証があれば通告するという構えは教育現場において根強く存在している。これは、「軽率に通告することにより、子どもや家庭に迷惑が及びはしないか」といった教職員の責任感の表れともとらえられなくはないが、虐待は対応が遅れると取り返しのつかない事態を招きかねない。また、学校としての立場で虐待の確証を得ることはほとんど不可能というほかなく、できるだけ早期の段階で専門機関に通告・連絡・相談し、連携を図っていくことが求められる。

3.意識調査

ア 回答者の職種

  回答者の職種は、表5-1、表5-2のとおりである。スクールカウンセラーの回答が少ないのは、調査が夏休み期間に行われたことによるものと考えられる。

表5-1 回答者の職種(幼稚園)
    園長 教頭
(副園長)
主任 常勤教諭 常勤助教諭 常勤講師 非常勤教諭 非常勤助教諭 非常勤講師 養護教諭 その他 無回答 合計
公立 単位:人 171 80 152 472 24 84 23 10 12 15 37 18 1,098
単位:パーセント 15.6 7.3 13.8 43.0 2.2 7.7 2.1 0.9 1.1 1.4 3.4 1.6 100
私立 単位:人 41 21 87 356 6 4 12 2 4 2 15 6 556
単位:パーセント 7.4 3.8 15.6 64 1.1 0.7 2.2 0.4 0.7 0.4 2.7 1.1 100
単位:人 212 101 239 828 30 88 35 12 16 17 52 24 1,654
単位:パーセント 12.8 6.1 14.4 50.1 1.8 5.3 2.1 0.7 1 1 3.1 1.5 100

回答者の職種 

表5-2 回答者の職種(小学校・中学校)
    校長 教頭 学年主任 学年担任 児童指導主任・生徒指導主事 養護教諭 スクールカウンセラー その他 無回答 合計
小学校 単位:人 764 857 2,081 6,189 268 841 8 1,727 91 12,826
単位:パーセント 6 6.7 16.2 48.3 2.1 6.6 0.1 13.5 0.7 100
中学校 単位:人 316 377 775 1,424 265 337 52 647 37 4,230
単位:パーセント 7.5 8.9 18.3 33.7 6.3 8 1.2 15.3 0.9 100

 回答者の職種

イ 虐待が疑われる事例に関わった経験

  虐待が疑われる事例に関わった経験を持つ教職員の割合は、小学校32.1パーセント、中学校32.6パーセントであるのに対し、幼稚園は公立20.3パーセント、私立11.3パーセントと低くなっている。また、無回答は公立幼稚園5.4パーセント、小学校2.7パーセント、中学校3.7パーセントであるのに対し、私立幼稚園は22.5パーセントと多くなっている。
  14年度調査では、小中学校の教員で虐待事例に関与した経験があると回答したのは全体の20.1パーセントであったが、今回の調査では小中学校に関してこれを大幅に超えている。これは、虐待そのものの増加に起因すると同時に、学校において虐待を疑う視点が定着しつつあることの表れととらえることができよう。

ウ 通告義務の周知について

  児童福祉法及び虐待防止法は、虐待の発見者に通告義務を課しているが、これを「知っていた」と回答した教職員は、公立幼稚園71.8パーセント、私立幼稚園45.7パーセント、小学校66.3パーセント、中学校60.3パーセント、「知らなかった」と回答した教職員は、公立幼稚園22パーセント、私立幼稚園30.9パーセント、小学校30.6パーセント、中学校36.4パーセントとなっている。
  また、虐待防止法は、虐待の確証はなくとも疑いの段階で通告するよう求めているが、これを「知っていた」と回答した教職員は、公立幼稚園63.6パーセント、私立幼稚園45.9パーセント、小学校61.5パーセント、中学校57.3パーセント、「知らなかった」と回答した教職員は、公立幼稚園30.9パーセント、私立幼稚園31.1パーセント、小学校35.5パーセント、中学校39.5パーセントとなっている。通告義務の存在そのもの及び疑いの段階で通告しなければならないことを知らない教職員が約3割以上いるが、制度の周知に向けた一層の取組が必要となろう。

エ 今後、虐待を発見した場合に通告するか

  「必ず通告する」と回答した教職員は公立幼稚園43.4パーセント、私立幼稚園34パーセント、小学校44.5パーセント、中学校46.3パーセント、「場合により通告する」が公立幼稚園53パーセント、私立幼稚園57.2パーセント、小学校51.8パーセント、中学校49.1パーセントとなっており、「必ず通告する」「場合により通告する」を合わせると、通告に前向きな意見が大半を占めた。
  「場合により通告する」と回答した者について、どのような場合に通告するかを尋ねたが、その結果は表6のとおりである。いずれの施設種別についても、「虐待の確証がある場合」が最多を占めている。虐待防止法は、虐待の確証がなくとも通告するよう規定しているが、虐待の確証のないケースといっても実際には様々なケースがあり、例えば後述のビネット調査のように「親が思春期の異性の子どもと一緒に風呂に入る」、「罰として子どもの頭をつるつるに剃る」などといったケースは、当該行為が子ども対してどんなに深刻な影響を及ぼしているかにもよるし、学校の対応で改善される場合もあるので、判断に悩むところであろう。具体的にどのようなケースが通告されず、そのような場合はどのような対応がなされたのかといったことについて更に詳細な検討が必要になろう。
  なお、所属長や園内・校内全体の了解がある場合に通告するという回答が多くなっているが、了解が得られない場合は通告をしないということになる。虐待事例では組織的対応が重要であり、所属長や組織全体の了解が得られるに超したことはないが、虐待防止法は教職員個人の通告も認めており、了解が得られなくても、必要と認めた場合、個人として通告すべきであろう。ただし、個人として通告する場合、このことが組織に知れはしないかとの不安を持つのは組織に所属する者として当然のことであろうが、虐待防止法は通告者に対する守秘義務を児童相談所等に課している。したがって、個人で通告する場合は、児童相談所等に対しこのような不安を率直に伝え、適切な対応策について話し合うことが重要であり、この旨の周知が望まれる。

表6 場合により通告する:どのような場合に通告するか(複数回答)
    重篤な虐待が認められる場合 虐待の確証がある場合 所属長の了解がある場合 園内・校内全体の了解がある場合 教育委員会の了解がある場合 保護者の了解が得られる場合 子どもの了解が得られる場合 その他 無回答 合計
幼稚園 公立 単位:人 352 443 385 233 144 26 16 8 8 582
単位:パーセント 60.5 76.1 66.2 40 24.7 4.5 2.7 1.4 1.4
私立 単位:人 177 251 159 177 9 21 17   4 318
単位:パーセント 55.7 78.1 50 55.7 2.8 6.6 5.3   1.3
単位:人 529 694 544 410 153 47 33 8 12 900
単位:パーセント 58.8 77.1 60.4 45.6 17 5.2 3.7 0.9 1.3
小学校 単位:人 4,306 4,893 4,794 1,805 658 489 1,034 61 60 6,638
単位:パーセント 64.9 73.7 72.2 27.2 9.9 7.4 15.6 0.9 0.9
中学校 単位:人 1,328 1,485 1,422 457 215 181 526 30 27 2,078
単位:パーセント 63.9 71.5 68.4 22 10.3 8.7 25.3 1.4 1.3

 場合により通告する:どのような場合に通告するか(複数回答)

オ 市町村虐待防止ネットワークの存在の周知

  学校(園)が所在する市町村に虐待防止ネットワークが存在するかどうかを尋ねたが、「存在する」と答えた教職員は、公立幼稚園39.3パーセント、私立幼稚園29.3パーセント、小学校26.5パーセント、「存在しない」と答えた教職員は、公立幼稚園5.3パーセント、私立幼稚園2パーセント、小学校3.9パーセント、中学校5.2パーセント、「わからない」は公立幼稚園51パーセント、私立幼稚園60.8パーセント、小学校67.9パーセント、中学校70パーセントとなっており、虐待防止ネットワークの存在を知らない教職員がいずれの施設種別についても過半数を占めている。周知に向けた取組が必要である。

カ 児童虐待について教育行政に望むもの

  児童虐待について教育行政に望むものは、表7のとおりである。全体的には、虐待対応についての相談できる専門機関の整備、児童虐待についての研修充実、スクールカウンセラー等専門家の配置や派遣、被虐待児童救済のためのサポートチーム作り、児童虐待に対応する教員の加配といった回答が多くなっている(表7)。

キ ビネット調査

  虐待に関する具体的な行為に関し、通告する必要があるかどうかを尋ねるビネット調査(短い事例文に対する回答を得て調査する方法)を実施したが(39問)、一部を抜粋したのが、表8~表12である。幼稚園は公立、私立間でほぼ同じ傾向が認められたため、一括して集計している。「パチンコをしている間、乳幼児を車に残しておく」「親が遊んでいて家に帰らず、食事を作らない」といったネグレクトや、「子どもの話しかけを一切無視して答えない」「罰として子どもの頭をつるつるに剃る」といった心理的虐待は、「明らかに必要がある」「たぶん必要がある」を合わせて過半数を占めており、ネグレクトや心理的虐待に対する理解が進んでいることを示していると考えられる。

表7 児童虐待について教育行政に望むもの(複数回答)

    児童虐待についての研修充実 児童虐待に対応する教員の加配 スクールカウンセラー等専門家の配置や派遣 児童虐待対応のための園・校内の役割分担のシステム化 誤った通告をしても法的責任等がないことを周知徹底すること 園・校内のチームワーク形成に向けた管理職の指導力向上 被虐待児童救済のためのサポートチーム作り 虐待対応についての相談できる専門機関の整備 その他 特にない 無回答 合計
幼稚園 公立 単位:人 549 294 495 73 202 138 299 659 14 11 35 1,098
単位:パーセント 50 26.8 45.1 6.6 18.4 12.6 27.2 60 1.3 1 3.2
私立 単位:人 221 136 186 20 91 59 137 347 14 4 25 556
単位:パーセント 39.7 24.5 33.5 3.6 16.4 10.6 24.6 62.4 2.5 0.7 4.5
単位:人 770 430 681 93 293 197 436 1,006 28 15 60 1,654
単位:パーセント 46.6 26 41.2 5.6 17.7 11.9 26.4 60.8 1.9 0.9 3.6
小学校 単位:人 5,883 3,716 6,102 1,400 3,033 1,867 4,770 6,901 218 89 186 12,826
単位:パーセント 45.9 29 47.6 10.9 2.6 14.6 37.2 53.8 1.7 0.7 1.5
中学校 単位:人 1,945 1,256 1,424 511 924 561 1,576 2,347 97 55 81 4,230
単位:パーセント 46 29.7 33.7 12.1 21.8 13.3 37.3 55.5 2.3 1.3 1.9

 児童虐待について教育行政に望むもの

ビネット調査

(3)まとめ

  本調査研究は3ヵ年事業の2年目である。最終年度である平成18年度には保育所、放課後児童健全育成事業を実施している児童館を対象に調査を実施するとともに、今年度調査を実施した幼稚園、小学校、中学校を含め、それぞれの対応構造や教職員の意識構造を比較・分析し、それぞれの施設種別に応じた対応ガイドラインを作成する予定である。したがって、平成17年度の研究では、調査結果の簡単な分析に止まっていることをお断りしておきたい。
  今回の調査結果を要約すれば次のとおりである。

  1. 虐待種別について厚生労働省の児童相談所統計と今回の調査結果を比較すると、幼稚園、小学校、中学校全体ではネグレクトの比率が児童相談所統計より高く、心理的虐待の比率が低いこと、また、中学校における性的虐待の比率が児童相談所統計に比して顕著に高いこと、などがある。
      児童相談所の統計より今回の調査においてネグレクトの比率が高いのは、ネグレクトは態様や程度が特に多様であり、ケースによっては学校独自で取り組んでいるか、児童相談所以外の関係機関と連携していることがその要因と考えられること、心理的虐待の比率が児童相談所統計において高いのは、児童相談所が虐待以外の他の相談種別で受理したケースで、その後虐待の事実が判明する場合が多いことがその要因として考えられること、児童相談所統計に比して中学校における性的虐待の比率が顕著に高い要因については今後詳細な分析が必要なこと、などが考えられる。
      14年度調査に比して、全般にネグレクトの比率の上昇が顕著であるが、これは学校において「ネグレクトが虐待である」との認識が定着しつつあることの表れととらえることができる。
  2. 情報を集約し進行管理する職種は多様であり、担任がこれを行っている場合も見受けられるが、客観性の確保という観点から担任以外の者がこれを行うことが望ましいと考えられる。また、校内での進行管理にはリスクアセスメントや危機管理、子どもへの関わりなどに関する基本的な視点やスキルが求められることから、研修の充実が課題となる。
  3. 14年度調査に比して、児童相談所や福祉事務所等に通告・連絡・相談するケースが大幅に増加しており、関係機関と積極的に連携していこうという傾向が顕著になっていると考えられる。
  4. 私立幼稚園を除いて教育委員会と協議したのは全体の5割前後となっており、学校と教育委員会との連携システムの確立が課題であること。
  5. 施設種別を問わず、殆どの事例において通告・連絡・相談先との連携が図られている。
  6. 「虐待であるとの判断に自信がない」「家庭のプライバシーを侵害すると考えられた」「子どもが嫌がると思われた」を理由に通告しないケースも見られ、14年度調査と同じ傾向が伺える。これは、「軽率に通告することにより、子どもや家庭に迷惑が及びはしないか」といった教職員の責任感の表れともとらえられなくはないが、児童虐待防止法は虐待の疑いでも通告するよう規定していること、虐待は対応が遅れると取り返しのつかない事態を招きかねないことなどを考慮すると、早期の段階で専門機関に通告・連絡・相談し、連携を図っていく必要があると考えられる。
      また、「子どもが嫌がると思われた」との回答が、児童の年齢が高くなるほど多くなっているが、通告や他の機関との連携の必要性などについて当該児童に十分説明するなど、児童が不安や不信感を抱くことのないように配慮する必要があり、そのためのスキル等に関する研修が必要と考えられる。
  7. 虐待が疑われる事例に関わった経験を持つ教職員の割合は、14年度調査に比して大幅に増えている。これは、虐待そのものの増加に起因すると同時に、学校において虐待を疑う視点が定着しつつあることの表れととらえることができる。
  8. 通告義務について「知らない」と回答した教職員が2~3割、疑いの段階での通告義務について「知らない」と回答した教職員が3~4割存することから、制度の周知に向けた一層の取組が必要である。
  9. 今後、虐待を発見した場合に「必ず通告する」「場合により通告する」といった前向きな回答が大半を占めている。なお、所属長や園内・校内全体の了解がある場合に通告するという回答も見られたが、児童虐待防止法は教職員個人の通告も認めていることから、必要と認めた場合、個人として通告することが望まれる。ただし、個人として通告する場合、安心して通告できるようなシステム、工夫が必要である。
  10. 学校が所在する市町村に虐待防止ネットワークが存在することを「知らない」と回答した教職員が過半数を占めていることから、周知に向けた取組が必要である。
  11. 教育行政に望むものとして、虐待対応についての相談できる専門機関の整備、児童虐待についての研修充実、スクールカウンセラー等専門家の配置や派遣、被虐待児童救済のためのサポートチーム作り、児童虐待に対応する教員の加配といった回答が多い。
  12. ビネット調査では、身体的虐待や性的虐待のみならず、ネグレクトや心理的虐待に対する理解も進んでいることが明らかになった。

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --