第1章 第5節 「児童虐待に関する学校の対応についての調査研究」(平成14年~平成15年度文部科学省科学研究費補助金・山梨大学教育人間科学部玉井邦夫助教授他)の概要

1 学校の児童虐待防止に向けた現状

(1)学校現場では、すでに教員の5人に1人は、虐待事例に対応した経験があり、教育現場での虐待防止対応は、特殊な課題ではなくなっている。そのための取組の1つとして、教師ができることとしては、子どもが発する信号を鋭敏に感知するとともに、虐待の子どもは、「自分の学校や学級にも存在している可能性がある」という危機感を持って対応することが必要である。

(2)教育行政の虐待防止対応としては、児童虐待防止法の施行以降、法の趣旨の周知活動という形で実施されてきた。その成果は、都道府県や政令指定都市では98パーセント、市町村では75パーセントが、学校等への周知を行っており、その結果、約9割近くの教員が児童虐待の早期発見努力義務や通告義務があることを承知している。

(3)しかし、学校が、児童虐待を発見しても関係機関への通告をせず、可能な限り自力で対処しようとする傾向があることが示された。
  これには「学校が、伝統的に教育的指導の観点から限界まで自力対応の路を探らなければならないとする責任の大きさによるところが大きい」など、「学校ならでは」の背景があり、一概に責められるべきではない。むしろ、これは、誰かの責任というより、虐待対応の社会全体のシステムが未成熟であることに原因があると考えられる。
  学校は、地域において一定の年齢の子どもに対して網羅的に対応できる唯一のシステムであり、「学校」というシステムが持っている特性を活かせるような対応システムが構築されるべきである。

2 学校の児童虐待防止に向けた取組の課題

(1)一方、以下のような課題がある。

  • ア:教師向け指導資料・啓発資料の作成状況を見れば、都道府県等での作成は進んでいるものの、市町村の作成は進んでいないこと、
  • イ:同啓発資料を「読んでいない」又は「存在を知らない」教師が約5割もいること、
  • ウ:教員研修は、都道府県で約4割、市町村で約1割が実施されているに過ぎないこと、
  • エ:被虐待児童生徒の在籍校に対する特別な人的措置を行っている市町村は4パーセントに過ぎないこと、など、児童虐待防止に向けた行政の取組は、「周知徹底」の段階ではかなり進む反面、「具体的な学校現場への支援」の段階ではまだまだ取組が緒についたばかりの状態にある。

(2)また、学校等への児童虐待防止法の趣旨等の周知徹底はかなり進んでいるが、肝心の家庭(保護者)に対する広報は十分であるとは言えない状況にあり、この部分についての行政の充実が必要となっている。

3 学校の児童虐待対応に関する留意点

(1)学校は、担任、学年主任、養護教諭又は生徒指導主事等それぞれ立場に応じて複眼的な視点から子ども達を見ることができる組織であり、このアドバンテージを有効に活用すべきである。
  また、それぞれ虐待を疑う情報源も異なるため、虐待防止対応に当たっては、校内の連携が極めて重要である。

(2)学校の教職員は、職務上、児童虐待を発見しやすい立場にあることから、児童虐待防止法においても、児童虐待の早期発見の努力義務が課されており、学校生活のみならず、幼児児童生徒の日常生活面について十分な観察、注意を払いながら教育活動をする中で、児童虐待の早期発見・早期通告等の対応に努めることが必要である。

(3)教育行政においては、虐待防止関連の研修を実施する際に、職制に応じた内容を検討することが重要である。また、虐待の発見については学校種別による差も認められ、子どもの年齢に即した研修内容や、幼小中高間の情報交換や引継ぎを想定した研修などが必要となっている。

(4)教員は、日頃から児童生徒を見ているため、その言動の変化等を通じて虐待の発見に至る感度が高く、児童相談所等関係機関に通告するが、これら児童相談所等の現状として、人材の不足等があり、軽度の虐待事例に対しては反応が鈍くなる状況がある。
  その結果、学校にしてみれば「児童相談所等はなかなか対応してくれない」と感じ、児童福祉関係機関にしてみれば「学校は通告してその後のケアをしてくれない」と感じるような、相互の実情に関する認識の齟齬が生じる事となってしまう。実際、連携をした場合のデメリットを聞いた場合、「価値観の相違により合意形成されにくい」等との回答があり、連携を経験した教員ほど連携のデメリットを感じている。このことから、学校と児童相談所等関係機関とは、日頃から相互に連携をとり、お互いに顔を合わせ、顔見知りになり、相互の実情について承知していることが必要である。
  このような学校と関係機関との連携に関しては、約9割の教師がその結果について肯定的であったが、連携のほとんどは協議レベルであり、チーム形成にまで至っているのは1割程度に過ぎない。今後は、児童虐待の疑いがあるが、確証がない場合であっても、早期発見の観点から、学校だけで対応しようとはせずに、児童相談所等の関係機関へ連絡、相談をするなど、日頃からの連携を十分に行うことが必要である。

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初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --