児童虐待の防止については、平成12年に児童虐待防止法が成立し、そこでは、1.子どもに対する虐待の禁止、2.児童虐待の定義、3.虐待防止に関する国及び地方公共団体の責務、4.関係機関及びその職員に対する早期発見等の努力義務、5.発見者の早期通告義務、6.虐待を受けた子どもの保護のための措置などの規定が整備された。現在、同法等に基づき、厚生労働省を中心として政府全体で、関係機関が相互に連携しながら児童虐待防止等に関する施策の総合的な推進を図ることとして、その取組が進められている。
このような、児童虐待防止に関する関係機関の中で、子どもを支援するための機関や社会的リソースは多種多様に存在するが、その中でも、学校は、一定年齢の子ども達(学齢期児童生徒)に対して、網羅的に目配りができ、その日常的な変化に敏感に反応し、対応できることが大きな特徴である。
学校が、他の機関や社会的リソースと比べてアドバンテージ(利点)がある点は、
児童虐待防止法においては、学校及び教職員に対して、児童虐待を早期に発見し、虐待の被害を防止するための適切な対策をとり、児童生徒の安全を確保するために、具体的に以下のような役割が求められている。
このように、学校及び教職員に求められている役割は、あくまで日頃から子ども達に接している立場から求められる役割と「教育」の観点からできることである。そして、このような学校等に対して、教育委員会にできる役割は、「学校等の取組への支援及び一般的な家庭教育の充実のための支援」等がある。
その一方で、学校等でできないこととしては、1.虐待が疑われる家庭への立入調査等の介入、2.虐待を受けた子ども又は虐待を行う保護者に対する医療・福祉・保健的な措置等であり、これらの役割を学校や教職員が担うことは困難である。
このように、児童虐待防止の取組において、学校に「できること」と「できないこと」を明確にしていくと同時に、「学校にできること」については組織的な対応を進めていくことが重要である。このようにして、児童虐待の防止に関して、学校及び教職員に過大な責務や負担を負わせないようにする必要がある。
教職員は、与えられた役割のもとで、「児童虐待を受けた者は自分の学校や学級にも存在しうる」という意識を持って対応する必要があり、被虐待児童を発見した場合には、「特別な対応方針を検討し、それを実行する」ことが必要である。
また、教職員は、日常的に子ども達と接する機会が多く、子ども達の変化に気づきやすい立場にあることから、早期発見努力義務・早期通告義務が課されているが、被虐待児童については、多様なケースが考えられるため、当該児童生徒の状況を勘案せずに、一律に他の子どもと同様の対応をしたり、無理に集団に溶け込ませようとすると、逆に当該児童生徒にストレスを付加することとなり、指導がマイナスに作用することがありうるため、特に注意が必要である。
さらに、これらの子ども達に対しては、教育上の指導だけで課題が解決するとは限らず、福祉・医療・警察等の関係機関との連携が必要となる場合がありうるので、他の子どもと同様の指導で対処するわけにはいかない。
このため、教師は、このような子どもがいた場合には、これを「自分だけの力で何とかしよう」、「自分の指導力不足ではないか」などと思って、抱え込むことなく、早期に校内関係者(校長、教頭、生徒指導主事、担任、養護教諭及びスクールカウンセラー等)で共通理解、アセスメント(評価)及び対応策を検討する必要がある。
そのためには、校長は、教職員が上記のような状況に遭遇した時に、安心して管理職や生徒指導主事又は養護教諭等に相談ができ、校内で対応策を検討できるよう、校内の連携・協力体制の整備や教職員間の共通理解を図ることなどについて積極的に取り組む必要がある。
重要な点は、これらの子どもをいかに早く発見し、校内挙げて対応を検討して対応し、必要であれば、関係機関と連携することにより回復措置の取組を実施することである。そのために、あらかじめ、これらの子ども達がいた場合の校内の対処方針を決め、その周知を図るとともに、必要な校内体制作りを行い、さらに、関係機関との日頃からの連携に努めておくことが重要である。
児童虐待の防止の充実に向けて、平成16年に虐待防止法及び児童福祉法の2つの法律が改正されている。
児童虐待防止法における主な改正事項は、
などに関する規定が整備された。
一方、児童福祉法における児童虐待防止対策等に関連した主な改正事項としては、
などに関する規定が整備された。
以上のような児童虐待防止法及び児童福祉法の改正の趣旨及び内容については、既に通知や会議等において周知を図っているが、今回の調査研究で学校への周知徹底が必ずしも十分でないことが示されたことから、今後ともその趣旨の徹底を図る必要がある。
初等中等教育局児童生徒課
-- 登録:平成21年以前 --