『生徒指導メールマガジン』 第20号

(平成18年5月31日)
文部科学省初等中等教育局児童生徒課

目次

  1. 巻頭言:「トルコでの経験」(児童生徒課課長補佐今泉柔剛)
  2. 北海道教育委員会:「北海道教育委員会と北海道警察本部とが連携した『子どもの健全育成サポートシステム』の取組について」
  3. 施策紹介:
    • 「児童生徒の規範意識の育成について」
    • 「学校等における児童虐待防止に向けた取組について(報告書)」
        (学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究会議)について:
  4. 主要行事の予定又は連絡事項等
  5. 施策に関する各地域からの提言又はQ&A

1.巻頭言:「トルコでの経験」(児童生徒課課長補佐今泉柔剛)

  1.私は、以前(平成10年1月から平成13年1月まで)、在トルコ日本国大使館において文化・教育・スポーツ・人物交流担当のアタッシェとして勤務していたことがありました。その時は、様々な体験をしたものですが、その中でも忘れられない経験の一つに、文化無償協力に関係する話があります。

  2.文化無償協力は、ODA(政府開発援助)の無償資金協力の一環として実施されるものです。外交の本質は、国家の安全保障と国民の生命・権利等の保護にあります。そのための外交の手段は幾つもあるのですが、その1つがODAです。当時、トルコ共和国は、その無償資金協力(文化無償協力)の対象になっておりました。
  トルコは、紀元前2千年頃から東西文明の交差点として繁栄し、オスマントルコ時代には地中海を自国の庭としてヨーロッパ諸国を脅かしたほど大国ですので、もちろん文化レベルの低い国ではありません。しかし、私がいた当時は、インフレ率100パーセント(つまり、1千円で買えたものが1年後には2千円になっている状態。貨幣価値で言えば、1万円のタンス預金が、1年後には5千円程度の価値しかなくなってしまう状態。)で経済が安定しないため、国民の貧富の差が激しく、教育・文化施設の老朽化等が著しく、そこら辺に歴史的価値のある遺産が野ざらしになって風化しているような状況でした。そのため、文化無償という制度は、トルコには非常に喜ばれた制度でした。
  ただ、文化無償にも課題がありました。今は改善されたかもしれませんが、私のいた当時は『もの』の供与だけで、「あげたはいいが、使われていない」という状態が見られたのです。日本側としては、「ものを供与するが、メンテナンスや維持管理のための経費や人件費等は被供与国で行う」ということで契約するのですが、実際、トルコでは、「維持管理する人を雇えない、その能力を持った人材がいない、修理費用がかかる、製品が日本製で予備の部品が手に入らない」などの諸課題がありました。

  3.そういう背景の下で、私の忘れられない経験というのは、私が、トルコの文化省の担当者と文化無償の案件について協議していた時、私から「文化無償協力は、日本国民の税金を使ってトルコのためを思って援助する仕組みです。そのため、最初の『機材の供与』は支援しますが、その後の維持管理はトルコ側の責任でやってもらいたいと思います。」というようなことを言った際、先方の担当者は「日本側が援助したいんだったら、維持管理のための諸経費まで面倒見てくれたらいいじゃないか。それをしないのなら、別に援助してくれなくてもいい。日本に比べたらトルコは貧しく見えるかもしれないが、それでも困ってはいない。それに、以前、日本から援助されたものがあるが、(維持管理まできちんと面倒見てくれないから)現在、使ってない物がある。」と逆ギレされた事があります。
  今から思えば、「より多くのものを引き出そう」とする一種の交渉術だったのかもしれませんし、ただ単に私の態度に怒っただけかもしれないし、その背景は良く分かりません。ただ、その担当者との協議のあと、大使館への帰り際に、同行していた現地職員から言われたことが、「トルコは、国民の大部分がイスラム教徒で、イスラム教徒の考え方では、『喜捨』といって、富める者が貧しい者に施しをすることは当たり前のことで、むしろ、喜捨をすることによって、富める者は『徳』を積んで、天国への近道を手にすることになるという考え方があるんです。そのため、富める国『日本』が、貧しい国『トルコ』に施しをするのは当然のことなのです。その事によって、逆に、トルコは、日本が天国に行く近道を作ってあげているんだ、と考えるのです。」というようなことを言われました。
  優しい現地職員でしたので、私のその時の気持ちを思ってのことだったのでしょうが、それを聞いた時に、はっと思ったのが、「果たして自分は傲慢ではなかったのか。援助の押し付けになっていたのではないか。『援助してあげているんだ』という上から見下ろすような態度や物言いではなかったのか。」ということに気づくとともに、「なるほど。そういう考え方の彼らにしてみれば、むしろ、日本側に『援助させてあげているんだ』、『そうすることによって日本が天国への近道を作ってあげているんだ。』ということか。」ということを考え、世界には、自分の価値観だけでは分からない、様々な価値観や考え方をもっている人達がいることを、実感として学びました。
  日本側としては、日本国民の血税を使って、国内の財政状況が厳しい中なのにも関わらず、トルコのためを思って支援してあげているのだから、当然、「感謝されて当たり前」だし、「それを恩に感じて、日本の味方になってもらいたい」と思ってしまいます。日本の国家公務員としては、「日本国民の血税を使用しているのだから、日本のためになるような使い方を望む」というのは当然持つべき視点です。しかし、そこには落とし穴があって、本来、純粋に「トルコのためを思ってやっている行為」のはずが、その下心があるが故に、トルコ側からは「結局、日本が自分達のためにやっている行為」と思われてしまうことになるのだと思います。

  4.思うに、「他者のために何かをしたいのであれば、自分を捨てて、真に他者のことを考えた行為でなければ、相手の心には響かない。」という当たり前のことがあるのでしょう。そう考えると、そもそも、文化無償に限らず、公務員が日本国民の税金を使って行う支援というものには、自ずから根本的な限界があるのかもしれません。
  逆に、草の根レベルの無償の行為で、トルコ国民の心を捉えた日本人の自己犠牲の気高い行為として、「エルトゥールル号事件」というものがあります。
  この事件自体は、1889年にオスマントルコ皇帝が、明治天皇に拝謁させる目的で、「エルトゥールル号」という船に乗せて、外交ミッションを日本へ派遣し、彼らがその目的を達成してトルコに戻ろうとする途中で、ちょうど9月の台風の時期だったこともあり、現在の和歌山県串本町沖付近で嵐にあい、エルトゥールル号は沈没してしまい、大多数の乗務員も死亡してしまったという惨事です。
  ただ、その時、わずかに生き残った乗務員達を、トルコ語など全く分からず、外国人の存在が身近ではなかった時代にもかかわらず、串本町の住民達が助け出し、まだ農作物の収穫前のため、自分達が食べるために残していた家畜や食べ物を、乗務員達のために提供し、乗務員達を回復させた後、明治政府の軍艦が彼らをトルコに送り届けたのです。この串本町の住民の無償の精神は、日本がトルコにしてくれた事の美談として語り継がれており、トルコの地理の教科書の日本を紹介する部分において記述されており、その行為に対して、いまだにトルコ人から感謝されております。
  一方、トルコ側が日本にしてくれた、自己犠牲の気高い行為として「イラン・イラク戦争時のトルコ航空による邦人救出」があります。
  これは、1985年にイラン・イラク戦争が勃発した時、バクダッドに取り残された2百名の邦人を、日本側でさえ「戦争地域で危険だから」ということで救援機を派遣しなかったのに対して、トルコ政府は「危険だからこそ」ということでトルコ航空機を飛ばして、邦人を救出してくれたことです。戦時中の場所に飛行機を飛ばすのですから、撃墜される恐れだってあるにもかかわらず、トルコ政府は、自国民のためではなく、日本人を救うためだけに、危険を承知で航空機を飛ばしたということは、なかなかできることではありません。それも、トルコ人が「エルトゥールル号」事件における日本側の対応に感謝してのことである、とのことです。
  人の心を動かすような『人のため』の行為は、このような自分を捨てたところで生まれるのでしょう。

2.北海道教育委員会:「北海道教育委員会と北海道警察本部とが連携した『子どもの健全育成サポートシステム』の取組について」

1 はじめに

  平成16年度の北海道における児童生徒のいじめ、暴力行為の発生件数、不登校児童生徒数、中途退学者数はいずれも前年度に比べ減少傾向にあるものの、依然として、4,000名近くの児童生徒が不登校の状態にあることや、暴力行為が凶悪・粗暴化の傾向にあるなど、生徒指導上の諸問題の解決は、極めて重要な課題となっている。
  こうした課題を解決するため、北海道教育委員会では、「北海道教育のめざす姿」や「第三次北海道教育長期総合計画」後期実施計画を踏まえ、「児童生徒の不登校や問題行動等などに適切に対応するための教育相談体制の充実」と、「家庭や地域、関係機関等との連携を深め、一体となった指導の充実」の2点を本年度の重点事項として、生徒指導を推進している。

2 教育相談体制及び関係機関と連携した指導の充実

  本年度の重点事項のうち、教育相談体制の充実については、「スクールカウンセラー活用事業」や「子どもと親の相談員配置事業」等の活用をはじめ、市町村教育委員会による教育相談員等の配置の促進や相談員等の資質の向上を図ることを目的に、北海道独自の「教育相談員セミナー」を開催するとともに、北海道立教育研究所に専任の相談員を配置し、フリーダイヤルによる相談電話を開設している。
  また、関係機関と連携した指導の充実については、特に学校と警察の間で、児童生徒の非行等に関する情報を共有するなど、連携を図ることにより、非行の再発防止や犯罪被害の未然防止を図り、児童生徒の健全育成に役立てることを目的に、平成16年9月から、「子どもの健全育成サポートシステム」を実施している。

3 「子どもの健全育成サポートシステム」について

  以下、「子どもの健全育成サポートシステム」導入の経緯や成果について紹介する。

(1)本システム導入の経緯等

1.背景

  近年、北海道においては、非行の低年齢化や凶悪化をはじめ、少年による薬物乱用や出会い系サイト等をきっかけとした性的被害など、非行や犯罪被害の多様化が進んでおり、学校においては、校内の生徒指導体制だけでは十分に対応しきれない様々な問題を抱えるようになってきていた。

2.目的

  こうした中、学校と警察とが児童生徒の非行等に関する情報を共有するなど、連携を図ることにより、非行の再発防止や犯罪被害の未然防止等を図り、児童生徒の健全育成に役立てることを目的として、平成16年8月10日、北海道教育委員会と北海道警察本部との間で、「子どもの健全育成サポートシステム」について協定を締結し、道立学校と警察署との打合せや保護者等への周知を行った上で、平成16年9月1日から運用を開始した。

3.運用上の留意点

  本サポートシステムの運用に当たっては、個人情報保護の観点から、情報の共有は厳正に行う必要があり、協定書にある限定された連絡対象事案の中から、連絡責任者である道立学校長、警察署長が必要と認めるものについて、最低限必要な情報を、指定された連絡担当者間で速やかに連絡することとしている。
  また、保護者との連携に十分配慮しながら、対象となった当該児童生徒の処遇は、教育的効果を伴った取扱いに留意することとし、協定の目的を逸脱した取扱いは禁止している。

(2)成果

  本サポートシステムの運用開始以降、平成17年末現在で、警察署から道立学校へは、高校生の検挙等にかかわる連絡が99件、道立学校から警察署へは、安全確保等に関する連絡が12件行われている。
  また、現在、北海道内180市町村のうち、103の市町村において、地元警察署との間で協定が締結されており、児童生徒の問題行動の未然防止等に効果を上げている。
  具体例としては、学校が警察署への連絡を行い、連携して生徒を非行グループから離脱させることができた事例や、学校が早い段階で警察署から生徒の非行事故に関する連絡を受けたことにより、迅速に校内の生徒指導体制を整えるとともに、適切な対応を行い、生徒の立ち直りを図ることができた事例などがある。
  また、保護者からは、「問題行動の拡大や深刻化を防止するために大変有効である」、「子どもの犯罪被害の未然防止や安全確保に有効であり、大いに期待している」など、肯定的な意見が寄せられている。

(3)課題

  今後とも、全道14支庁管内ごとに開催している生徒指導研修会等における説明・研究協議等を通じて、本サポートシステムの目的や運用上の 留意点についての一層の周知を図るとともに、本システムが一層実効性あるものとなるよう、北海道警察本部との緊密な連携に努める必要があると考えている。

3.施策紹介

「児童生徒の規範意識の育成について」

  今回のメッセージは、そのメッセージとは、生徒指導においては、「どんな日常的な事柄(例えば挨拶指導等)でも、当たり前にやるべき事は疎かにせず当たり前に行うこと(=凡事徹底)、そして、それができない場合には、『ならぬことはならぬ』として毅然とした指導を、全ての教師が一丸となって粘り強く行うこと(ブレない指導)」をお願いしたいということです。
  そのために、今回、国立教育政策研究所から「生徒指導体制の在り方についての調査研究‐規範意識の醸成を目指して‐」報告書及び文部科学省と警察庁との合同で「児童生徒の規範意識をはぐくむための教師用指導資料(非行防止教室を中心とした取組)」を作成し、5月22日付けで公表したところです。前回のメールマガジンで後者について記述しましたので、今回は、前者について概要を説明いたします。

「生徒指導体制の在り方についての調査研究‐規範意識の醸成を目指して‐」報告書(国立教育政策研究所生徒指導研究センター)

1 報告書の概要について

  本調査研究は、児童生徒の規範意識の醸成に焦点を当て、そのための学校全体としての意識の共有化、そして生徒指導体制の在り方について調査研究を行ったものです。
  本報告書では、生徒指導の対応に関する基準を明確化する必要があること、それらの児童生徒又は保護者等への周知徹底を図った上で、問題行動や非行等に対しては、予め定められている規則や罰則に基づき、「してはいけない事はしてはいけない」と、毅然とした粘り強い指導を行っていくことが大切であるといったことが提案されています。
  その指導方式の一つに、段階的に指導すること(プログレッシブディスプリン)として、例えば、アメリカで実践されているゼロトレランス(寛容の名のもとに曖昧な指導をしない)のような指導方式とも、深く関わってくる指導もあることが示されています。
  加えて、学校・家庭・関係機関・地域等との連絡調整、情報提供などについて、教育委員会が果たす役割の重要性が指摘されています。
  そして、小中高の各学校段階における生徒指導体制の在り方に関することや、生徒指導体制に対する学校評価(自己評価・外部評価)を実施して、積極的に保護者、地域住民に情報を提供していくことの必要性なども提言された調査研究報告書となっています。 なお、調査研究のための資料とするため、各都道府県・市町村県教育委員会の取組状況などについても実態調査を行っています。

2 報告書のポイントについて

(1)生徒指導体制の再構築
  1. 規範意識の醸成のためには、学校内のすべての教職員が共通認識のもと、組織的に一貫性をもって対応するよう、校内の生徒指導体制を整備し、学校全体で一致協力して取り組むことが基本。
  2. 教職員がお互いの役割や業務分担(専門性など)を十分に理解し、助け合い、創意工夫する協働性が大切。
  3. 家庭や地域の協力を得るには、学校が積極的に生徒指導の実態や指導体制に関する不断の情報提供を行うことが重要。
(2)生徒指導の運営方針の見直し
  1. 生徒指導の対応に関する基準を明確化し、積極的に外部への周知徹底を図る。
  2. 指導方針に基づき、「してはいけない事はしてはいけない」と、毅然とした粘り強い指導をすることが大切であり、それが、規範意識の内面化につながる。
  3. 児童生徒の規範意識の醸成については、学校教育だけで展開されるだけでなく、地域社会の青少年の健全育成の観点から実施することも必要。
  4. 指導を通じても事態が改善されない場合には、あらかじめ定められた罰則に基づき、懲戒を与えることを通じて、学校の秩序の維持を図るとともに、子ども自身の自己指導力を育成することは、教育上有意義なこと(※段階的指導、ゼロトレランス)。
  5. 出席停止制度は、日頃の生徒指導の延長として、日頃の指導では統制しきれなくなった場合に行われる生徒指導上の有効な手段の一つであることを、各学校及び教育委員会は改めて認識する必要がある。
(3)教育委員会の役割
  1. 学校の生徒指導の状況について的確に情報を把握し、日常的な指導を行う。
  2. 関係機関等との連携のためのコーディネーター機能を充実し、日頃からネットワークづくりに取り組むことが求められる。
  3. 生徒指導に関する研修の不断の見直しと充実を図る。
  4. 義務教育における出席停止、及び高等学校における懲戒処分の適切な運用。
(4)各学校段階における生徒指導体制の在り方
  1. 小学校の生徒指導体制
    • ア:学級運営と生徒指導の相互支持・促進による生徒指導体制の充実
    • イ:児童理解の深化と規範意識の育成
  2. 中学校の生徒指導体制
    • ア:コーディネーター機能を生かした生徒指導体制の充実
    • イ:生徒個々に対するきめ細かな指導と社会的ルールや責任感の習得
  3. 高等学校の生徒指導体制
    • ア:教職員の共通理解・共通実践の深化と生徒指導体制の充実
    • イ:規範意識の向上と懲戒処分の効果的運用
(5)生徒指導体制に対する不断の評価と改善
  • (1)保護者や地域住民の信頼に応えて説明責任を果たしていくためには、学校評価(自己評価・外部評価)を実施し結果を公表することが必要。
  • (2)生徒指導体制の確立に当たっては、校長のリーダーシップ、教職員の意欲、保護者との信頼関係、関係機関等との連携協力など、学校運営における組織マネジメントの視点からの見直しが必要。

(参考)組織的な生徒指導の実施のための各教職員の役割分担:

  • (1)管理職の役割:
      1.学校経営方針を示す中で生徒指導の指導方針を明確に位置づけること、2.各教職員の役割分担を明確化すること、3.全教職員に対する共通理解を図るための校内研修等を行うこと、4.校外の関係機関との連携を図ること、5.保護者や地域の関係者達への周知等に努めること、など。
  • (2)生徒指導主事の役割:
      1.生徒指導に関する年間指導計画を作成すること、2.生徒指導上の取組に関して、校内の全ての教職員の共通理解を図ること、3.全教職員の共通理解の下、生徒指導に関して全教職員をリードすること、4.地域の関係機関との連携の促進を図ること、 5.非行防止教室の企画・運営を行うこと、6.保護者や地域等に広報活動を行うこと、7.事後の評価・検証を行うこと、など。
  • (3)全ての教職員の役割:
      1.全体での共通理解の下、生徒指導主事に協力して、一致団結して指導すること、 2.学校のあらゆる教育活動の中で、校則の遵守、挨拶、服装、時間の厳守、規律ある集団活動、又は授業中の私語の禁止などの「当たり前のことを当たり前に実施」し、学校内で指導のぶれを生じさせないようにすること、3.教師と児童生徒間の信頼関係の上に、人権が尊重されている環境作りを行うこと、4.定期的に学級の情報等を保護者等に還元すること、など。

3 報告書の留意点について

  (1)本報告書の留意点の1つは、「ゼロ・トレランス」についてです。「ゼロ・トレランス」は、米国の指導方法ですが、それを今回、「寛容(=トレランス)の名のもとに行われている曖昧な指導をしない。」としてとらえております。
  狙いとするところは、生徒指導において、児童生徒の規範意識を高めるためには、子どもたち自身に自己指導能力(自立、自主、自律)を身につけさせることにあります。 そこにおいては、守るべき学校の基準をあらかじめ明確にし、それを指導の前から児童生徒はもちろん保護者等の関係者に周知し、児童生徒自身がそのあらかじめ定められた基準を自主的に守るように仕向け、そのことを通じて子ども達が自分の行動を自ら律することを学ばせ、ひいては遵法意識を自主的に身につけさせることにあります。
  しかし、現実的には、それができない子どもは必ず出てくるから、その場合には、小さなこともおろそかにせず、「ならぬものはならぬ」として、違反行為に対してはあらかじめ定められた罰則を適用し、教師が学校全体で一丸となって指導が「ブレる」ことなく、毅然とした粘り強い指導を行っていただくようにすることが必要です。
  これらは、なんら新しいことを求めているわけではありません。本来行うべき生徒指導を実施している学校においては、当該学校の生徒指導方針の方向転換をもたらすものではないと考えております。

  (2)上記のように、違反行為がある場合には「ならぬものはならぬ」として指導することを求めますが、それと同時に、個々の子ども達に状況に応じて回復措置を講じる事が重要であることも書いております。回復措置を講じる際には、教育相談活動を通じて個に応じた対応に努めることが重要です。このように、心身の健全な成長の観点から、他の子どもに比べて不利な状態にある子どもに対して、より多くの注意を向け、より多くの指導及び支援を与えることは、学校として必要なことであり、決して不平等なことではありません。その観点から、特に、「個別な配慮が必要な児童生徒(障害を持つ児童生徒、犯罪被害を受けた児童生徒、被虐待児童生徒、外国人児童生徒等)」に対する特別な配慮や、「児童生徒や教職員の人権」に対する配慮が必要であることを明記しているのも特徴的です。

  (3)一部の報道で、「出席停止の厳罰化」というものがありましたが、正しくはありません。今回の報告書を読めば明確ですが、今回の報告書で求めているのは、出席停止制度の「適切な運用」です。今回の報告書で求めているのは、他の子ども達の学習権を侵害するような、出席停止に該当する事由が生じた場合には、躊躇することなく適切に運用することを求めているだけであって、「何でもかんでもすぐに出席停止にしろ」というような内容の厳罰化を求めているわけではありません。

  (4)我々の思いとしては、子ども達の社会的な自立を支援するために、学校現場で、当たり前のことを当たり前に実施するために日々頑張っている教職員達に対して、「それで良いのです。そのように当たり前に行うべき指導を教師が一丸となってブレない指導をすることを国は求めているのです」というメッセージを発することで、その取組みの正しさを裏付けるとともに、その頑張りを支援するための学校内外の環境作りを促進することを目指しております。

  (5)我々の狙いとするところは、すべての子ども達の規範意識の育成です。
  今回の報告書でも、規範意識は、家庭において、躾、規則正しい睡眠や食事等の基本的な生活習慣、又は家庭の手伝い等に関する教育を土台とし、その家庭教育での土台のもとに、学校教育において、きまりを守ること及び他者との関わりを大事にするための具体的な活動を通じて育まれるものであることを記述しております。
  特に、学校教育において、規範意識は、生徒指導、教科指導、道徳教育や特別活動での指導及び人権教育など学校におけるあらゆる教育活動の中で養われるものであり、挨拶指導、服装指導、遅刻指導、集団活動に関する指導、清掃指導、授業中の私語の禁止などの具体的な指導を通じて、児童生徒がルールや法の重要性やそれを守ることの必要性を自覚し、実際に守るようにすることによって育まれるものです。
  また、子ども達の規範意識を育むためには、家庭内での信頼関係又は教職員と児童生徒の間の信頼関係を通して、行うことが必要です。
  さらに、規範意識を育むためには、1.家庭内での保護者間、学校内の教職員間又は保護者と教職員間での共通理解が持たれ、2.それぞれが、共通の目的に向かって指導方針に「ぶれ」が生じることがないようにするとともに、3.そのことが日常的なあらゆる活動の中で実施されるようにすることが必要です。
  以上な内容を通じて、「子ども達の規範意識の醸成」のために、子ども達の自己指導能力の「自律性」の育成と、集団生活における全体の「規律の維持」を図り、そのことを通じた、「子ども達の社会性の育成」を図ることを目指しております。

  (6)規範意識の醸成に際しては、学校内の全ての教職員が共通認識のもと、組織的に一貫性をもって行われるようにするためには、校内の生徒指導体制を整備することが重要です。そのためには、校長のリーダーシップのもと、生徒指導主事が中心となって、組織作りを行う必要があります。組織作りにおいて重要なことは、年間指導計画の作成、校内の生徒指導体制の整備、生徒指導に関する校内職員研修等、一貫性の取れた実施、事後の点検・評価を実施し、次年度の活動の工夫に生かしていくことにあります。 全ての学校では、万が一のときのための緊急時の校内体制や教師相互の共通理解と役割分担の明確化、非常連絡網の整備、危機管理マニュアルの整備及び関係機関との日頃からの関係作りに勤め、緊急時には危機管理マニュアルに基づきつつ、かつ臨機応変に対応する必要があります。

4.さいごに

  各学校及び教育委員会においては、本資料及び上記の調査研究の成果をもとにして、日頃からの生徒指導の一層の充実に努めて頂きたいと思います。
  そして、そのことにより、子ども達の規範意識が一層育まれ、彼らの人格が完成され、「平和的な国家及び社会の形成者」(教育基本法第1条)となるための一助となるよう期待するものです。

「学校等における児童虐待防止に向けた取組について(報告書)」(学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究会議)について

  「学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究会議」では、文部科学省からの委託を受け、学校等における児童虐待防止に関する国内外の取組事例を調査研究し、このたび、その報告書を取りまとめ、5月29日付けで公表しました。

1 本調査研究の趣旨

  児童虐待に関しては、大阪府岸和田市での児童虐待事件をはじめ児童虐待の問題は極めて深刻な状況である中、改正児童虐待防止法において、児童虐待の予防及び早期発見のための方策等について、国及び地方公共団体が調査研究等を行うべきこととされております。こうした状況を踏まえ、「学校等における児童虐待防止に向けた取組に関する調査研究会議」では、文部科学省の委託を受け、平成16年の児童虐待防止法の一部改正を受けて、学校等における児童虐待防止への取組の現状と課題を見出だし、学校等における児童虐待防止に向けた取組の充実を図るため、国内外の取組等を分析・検討したものです。

2 本調査研究の背景(平成16年度の児童相談所への児童虐待相談に関する処理件数等)

  1. 児童相談所への児童虐待相談処理件数は、33,408件(前年度25パーセント増。児童虐待防止法施行前に比べ約3倍に増加。)となっており、児童虐待については引き続き予断を許さない状況が続いているといえます。
  2. そのような状況下、児童虐待の相談経路としては、学校が15.2パーセント(前年度約30パーセント増)をしめており、相談経路としては「家族」に次いで2番目となり、学校等において児童虐待防止法に基づく早期発見・早期通告の趣旨が浸透してきていることを示していると言えます。
  3. 児童虐待の内容としては、心理的虐待が前年度比約48パーセントに大幅に増加している。つまり、このことは、専門家でなければ発見しにくい事例が増加していることを意味していると言えます。つまり、学校等においては、外部の専門家との連携がさらに必要となってきていることが示されております。
  4. 主たる虐待者としては、実父母が83パーセントと圧倒的多いのですが、これは、学校等において虐待対応を迫られた際、、保護者への対応の観点で困難が生じる危険性が高いことを示しております。

3 児童虐待防止に関する学校等の役割

  以上のような虐待を取り巻く状況がある中で、児童虐待防止法上の学校等の役割としては、1早期発見のための努力義務、2発見者は、速やかに関係機関へ通告しなければならない義務、3被虐待児童生徒への適切な保護、4関係機関との連携強化、などがあります。
  このような中、1各教職員は、「被虐待児童生徒はどの学校にもどのクラスにも存在しうる」という危機感を持つこと、2学齢児童生徒に網羅的に目配りができ、変化に気付きやすい立場にあることを自覚し、そのような対応をすること、3児童虐待を抱え込む事なく、早期に関係機関に通告すること、4校内体制を整備し、組織的に対応すること、及び5関係機関との連携を強化することが必要となっております。

4 児童虐待防止に関する学校等の取組の現状

(1)現状に関する調査結果

  以上のような状況下で、学校等における児童虐待防止に向けた取組の現状は以下のようになっております。

  1. 「保育所、学校等関係機関における虐待対応の在り方に関する調査研究」(H17年度厚生労働科学研究)
    • 今回の調査結果では、児童相談所への相談処理の内容に比べ、学校等はネグレクトの比率が高く、心理的虐待の比率が低い結果となっております。これは、学校等において、ネグレクトが虐待であることの意識が浸透しつつあることを示していると考えられます。
    • ケースマネージメントは、客観性の確保から、ケース管理は担任以外の者が望ましいのですが、幼稚園では園長(57パーセント)、小学校では校長(43パーセント)、中学校では生徒指導主事(37パーセント)が多いというような結果となっております。
    • 通告は中学校で82パーセント、小学校で77パーセント、連携は中学校で97パーセント、小学校で96パーセントとなり、関係機関との連携の強化が顕著に進展していることが示されております。
    • 学校と教育委員会との連携が5割程度であり、両者の連携が課題となっております。
    • 児童虐待防止のための具体的なスキルの習得に関する研修が必要であると指摘されております。
    • 通告義務等に関して無知な教職員が2~3割程度いることが示されており、虐待防止法の制度に関する一層の周知が必要となっております。
    • ケースに関わった教職員の割合が3割強(平成14年度調査では約2割)に大幅増加しており、虐待を疑う視点が定着しつつあることの現れと思われます。
  2. 「教育委員会における取組状況調査」
    • 教育委員会への報告は、都道府県・政令市より市町村の方が進んでいる結果となっております。
    • 関係機関との連携強化は、都道府県・政令市(85パーセント)の方が市町村(64パーセント)より進んでいることが示されております。
    • 学校単位での虐待防止法の周知活動は、都道府県・政令市が約97パーセント(前回98パーセント)、市町村が約86パーセント(前回75パーセント)。教職員単位での周知は都道府県・政令市が約85パーセント(前回86パーセント)、市町村が約68パーセント(前回84パーセント)であり、周知活動の取組は伸びていない状況が示されております。
    • 都道府県・政令市レベルの広報活動は平成14年度に比べ若干の進展が見られます。
    • 研修は、都道府県・政令市が57パーセント(前回41パーセント)、市町村が11パーセント(前回9パーセント)であり、若干の進展が見られます。
    • サポートチームの形成が進んでいる地域は、学校と関係機関との連携が進み、研修の実施をはじめとして虐待対応の取組が進んでいることが示されております。
    • 市町村の規模が大きいほどネットワークの形成が進んでいることが示されております。
(2)児童虐待防止に向けた各関係機関の具体的な対応

  各学校及び教育委員会等では以下のような取組が進められております。

  1. 虐待防止に向けた学校の組織的な対応:
    • ア:虐待防止に向けて、各関係者の役割分担の明確化と、生徒指導部を中心として保健部や教育相談部が連携し、各学年主任や担任が一致協力して取り組む組織的な校内体制作り。
    • イ:教職員の意識啓発:全体の共通理解を取るための教職員研修の実施(法の趣旨と学校等の役割に関する確かな理解、様々な問題から虐待事例を見極める力量など。)。
    • ウ:早期発見、通告、ケース会議、一時保護、通告後の継続的指導の周知、など。
  2. 教育委員会による学校への支援
    • ア:管理職研修、虐待対応の中核となる担当者の研修、教育委員会関係者の研修、職務や経験年数に応じた研修など、教育委員会による教職員への啓発と研修。
    • イ:支援体制の整備(関係部局との連携、指導助言、機関連携の調整、地域の教育力の向上、指導資料・学習教材の作成、相談体制の確立、人的支援、民間団体・NPOとの連携など)。
    • ウ:広報用啓発資料の作成等。
    • エ:地域ネットワークの活用と調整。
  3. 関係機関による連携と学校への支援:
    • ア:関係機関との連携:学校及び関係機関が相互の役割と限界を理解。
    • イ:関係諸機関とのネットワークによる連携のシステム作り:子ども家庭相談センター等で関係者が同じ場所で仕事する体制作り、関係機関との人事交流、主任児童委員・民生児童委員の活用、関係機関と共同した学校訪問や実態調査、共同での研修、など

5 現状の課題と今後の展望

  1. 教員研修の一層の充実が必要であることが課題として提言されており、これを受け、文部科学省では、平成18年度に「虐待防止のための研修のモデル・プログラム」を作成し、そのことにより各都道府県教育委員会等における虐待防止のための研修が一層推進されるように努めていくこととしております。
  2. 関係機関との連携システムの強化が必要であることがとして提言されており、これを受け、今後、スクール・ソーシャル・ワークに関する研究・検討を進めてまいりたいと考えております。
  3. 虐待防止法の周知徹底の強化が必要であることが課題として提言されており、これを受け、文部科学省では、先ずは、6月5日の「都道府県・指定都市生徒指導担当指導主事会議」等を各種機会を通じて、虐待防止法の周知の徹底に関する指導をすることとしております。各都道府県教育委員会等におかれましても、再度、虐待防止法の周知徹底に努めて頂きたいと思います。

4 主要行事の予定又は連絡事項等

  (全てを記載しているわけではありませんので、必ず正式文書で確認をお願いします。)

  • 都道府県・指定都市生徒指導担当指導主事会議 6月5日(月曜日)
  • 生徒指導メール・マガジン第21号 6月30日(金曜日)

5 施策に関する各地域からの提言又はQ&A

  今回は特になし。

本件連絡先

  • 文部科学省初等中等教育局児童生徒課 生徒指導企画係
  • メール・マガジン問い合わせ先 <jidou@mext.go.jp
  • 電話:03‐5253‐4111(内線3055)、FAX:03‐6734‐3735
  • ※ 生徒指導及び進路指導上の優れた実践事例を公募したいと思います。全国的に紹介したい事例がある場合には、ご執筆の上、送信いただきたいと思います(その際、執筆者が都道府県・指定都市教育委員会でなくても、学校又は市町村教育委員会の執筆でも可です)。内容を見て、「各地域又は学校の優れた取組みの紹介」の項で紹介していきたいと思います。
  • ※ 教育課題についての質問や提言、他の都道府県教育委員会へ伝えたいニュースや連絡事項などありましたら、上記アドレスまで返信メールの送信をお願いします。なお、恐縮ですが、質問に関しては、全体に周知する事が必要なものについて、本メール・マガジンで回答していきます。
  • ※ メール・マガジンは、文書による通知・連絡とは異なり、あくまでも文部科学省からの情報提供を目的としています。通知・連絡については、従来通りの方法にて行いますのでご留意願います。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

-- 登録:平成21年以前 --