『生徒指導メールマガジン』 第8号

(平成17年5月27日)
文部科学省初等中等教育局児童生徒課

目次

  1. 巻頭言:「子どもとストレス」(吉田生徒指導室長)
  2. 埼玉県教育局:「エッセイ『家庭に届ける生徒指導』をめざして」
  3. 施策紹介:
    • 「いじめの特質とその防止について」
    • 「高等学校中途退学について」
  4. 主要行事の予定又は連絡事項等
  5. 施策に関する各地域からの提言又はQ&A

1 巻頭言:「子どもとストレス」(吉田生徒指導室長)

  児童生徒の不登校、いじめ、暴力行為といった問題行動等は依然として深刻な状況にある。学校の教職員の方々はこれらの教育上の課題への対応に日夜苦慮されていることと思う。狭き門をようやく通過し、夢と希望を持って採用されたのに若いうちに転職する教員が増加していると聞く。また、指導困難といわれる学校においては、他の学校への異動希望を出す教員が多いとも言われる。教職員の方々のストレスは増加しつつあり、心のケアの必要性が課題となっていることは改めて言及するまでもない。生徒指導を担当する者の一人として、このような話を耳にするたびに実に心の痛む思いを感じるざるをえない。
  ストレスの問題は大人社会の世界ではこれまでも度々指摘されている。民間企業では職員の健康管理は重要な問題であり、管理職の研修会ではストレス・マネジメントや心の問題に関する内容が取り入れられるなど様々な取組みが行われつつある。しかし、近年の経済情勢の悪化などに伴って、職員がうつ病など心の病になったり、自殺に至ったりする場合も指摘されており、平成15年度の警察庁の統計を見ると「経済生活問題」が中年齢層の自殺の大きな要因を占めている。
  子どもとストレス。今やこの言葉が子どもの不登校、いじめ、暴力行為などに関連して語られる一つのキーワードとして登場することが多くなった。子どもにストレスがあるというのは、自分が子どもの頃のイメージからするとピンとこない方も多いかも知れない。しかし、社会構造や家庭の在り方の変化は、その環境の下で育つ子どもの成長に確実にかつ重大な影響を与え、今こうして大きな波となって押し寄せてきているのである。
  しかし、「ストレス」という言葉は日常的に耳慣れしてはいるが、その意味は必ずしも明確でない。国立教育政策研究所の滝総括研究官によると、「心理的に負担がかかり、その結果としてイライラしたり、落ち込んだりしている状態」のことを「ストレス状態にある」「ストレスが高い」と捉えている。そして、ストレスが高くなったときに陥る状態を、1.身体に関するもの、2.抑鬱・不安に関するもの、3.不機嫌・怒りに関するもの、4.無気力に関するものの4つに区分し、いじめ、暴力行為、不登校の発生に子どものストレス度が関連していると指摘されている。
  ある調査結果によると、子どもへのアンケート調査等によりストレスの要因を調べてみると、教師、友人、成績、家庭の問題等が上がってくる。家庭の問題の中には成績について親からうるさく言われることなども含まれよう。子どもを取り巻く様々な環境がストレスの要因となりうる。これらの要因が与える影響の度合については児童生徒の状況、家庭環境、学校の取組等によって異なるであろう。定期的に子どものストレス度をチェックし、その要因を分析し指導に役立てている学校もある。また、学校が楽しいと思う子どもや自己肯定感の高い子どもは、同じ環境下にあっても感じるストレスが低いとの報告もあり、ストレスへの対処法を身につけるための教育プログラムを実践している学校もある。
  子どものストレスを如何に把握しこれを減少させることができるかは、これからの学校にとって教育上の重要な課題として認識する必要がある。このためには、学校だけでなく家庭や地域社会も共通の認識に立ち、相互の理解と協力を深めていくことが不可欠である。このような予防教育的な観点に立った生徒指導の手法は、いくつかの地方公共団体や学校で取り組まれつつあるが、これからの新たな潮流として十分注目に値すると思う。今後の成果に大いに期待したい。

2 埼玉県教育局指導部生徒指導室長高山 次郎:「エッセイ『家庭に届ける生徒指導』をめざして」

  幼児期の虐待体験が学校内でのいじめ・暴力行為に結びついたり、基本的な生活習慣が身についていない子どもに不登校等の学校不適応が多いことなどが、生徒指導研究協議会等でたびたび指摘されている。また、中学1年で不登校等が急増するのは小学校卒業までの間に年齢相応の社会性が育っていないからだという分析もある。
  確かに「子どもに対する社会の教育力が低下している」、「学校教育だけの努力ではどうにもならない」、「子どもは社会の鏡、子どもの問題は大人の問題そのものでもある」という説明には説得力がある。教育力の回復には、学校・家庭・地域が一体となった取組が重要であるが、教育委員会や学校が、家庭・地域に対してどの程度までどうやって働きかけていけばいいのかは、難しい問題である。
  これまでも埼玉県教育委員会では、「彩の国5つのふれあい県民運動」や「彩の国教育の日」事業などを通じて、広く県民に「心の教育」の必要性・重要性を訴えてきた。しかし、不登校やいじめ・暴力行為を示す数値は、依然として厳しい状況であり、個々の家庭に、一人一人の子どもの親に、子どもの教育における家庭の役割の重要性を十分に理解されるようには伝え切れていないのではないかと考えている。
  埼玉県教育委員会に生徒指導室長が設置されたのは平成11年度である。その前身である教育改革室長の時代から、この室には道徳教育担当指導主事をメンバーに加えて、生徒指導と一体となって「心の教育」を推進してきた。道徳教育研究協議会の研究活動やモデル授業の開発などの道徳研究の成果を生かした生徒指導を推進してきたのである。
  この取組をもっと県民の眼に見えるように展開したい。きちんとあいさつができる、静かに話を聞くことができる、履物がきれいにそろえられるなど、ごくごくあたりまえのことを、学校であらゆる機会をとらえて繰り返し繰り返し教えていることを、そのまま家庭に伝えようと思う。「学校ではこのように取り組んだ結果、○○についてはここまでできるようになりました。ご家庭でのお子さんの様子はいかがですか」と。
  埼玉県では、「生きる力」をはぐくむ教育を一層推進するための取組として、小・中学校の子どもたちを対象として、「学力」、「規律ある態度」、「体力」の3つの分野について、学習指導要領等に基づき、その学年で身につけさせたい基礎的・基本的な内容をとりまとめた。平成17年度から本格実施している「教育に関する3つの達成目標」がこれである。保護者や県民に向けて公表することにより、各学校が子どもたちに達成目標の内容を確実に身につけることができるように指導体制や指導方法の工夫改善を行い、その結果を絶えず検証していこうとするものである。
  「知・徳・体」は教育の基本。道徳教育は知力、体力と並ぶ重要な教育テーマである。誰もが必ず身につけるべき基本的な生活習慣の習得に全県で取り組むこととしたのであるが、生徒指導室長が3つの達成目標のうち「規律ある態度」を担当する。「家庭に届ける生徒指導」の具現化と位置づけたい。今、急ぎ検証方法等を検討しているところである。
  (教育に関する3つの達成目標「規律ある態度」ホームページ(※ 教育に関する3つの達成目標「規律ある態度」ウェブサイトへリンク)(※ 別ウィンドウで開きます。)
  もう一つ。「心に残る『言葉』100選」を紹介したい。児童生徒の心に残る言葉や心温まる一言、勇気づけられたメッセージなどを、その『言葉』にまつわる体験談とともに募集し、日めくりのカレンダーを作ろうというものである。
  人を傷つける乱暴な言葉が、いじめや暴力行為などのこころの荒廃の一因となっていることがある。日常生活の中の様々な場面での『言葉』を見つめ直すことを通して、人とのふれあいや関わり合いを再認識し、社会の一員としての自分を気づく機会とすることができる。また、自らの体験に基づいた『言葉』のもつ意味を共有することで、他者を思いやる心の醸成も期待したい。
  どんな『言葉』が集まってくるだろうか。何気ないフレーズに隠された100のドラマが感動を与えてくれたらいい。選定には高校生にも参加してもらう予定である。仕上がりが楽しみである。11月1日の彩の国教育の日キャンペーンでお披露目となる。
  (「心に残る『言葉』100選」ホームページ)
  今回、あらためて埼玉県の特色ある生徒指導の取組みを概括してみたが、全国に先駆けて平成8年度から「さわやか相談員」を配置し、いじめ・不登校問題に対応してきたことや、非行防止担当への警察本部との人事交流などの教育、知事、警察の3部局連携の取組みなども説明できる。しかし、生徒指導に係る諸問題解決にむけての多くの取組みは全国どこも同じように努力しており、抜本的な対策を打ち出すことが難しい分野のようにも感じる。
  「生徒指導とは人格の健康の維持・増進を図ること」と生徒指導の手引きにある。人格(心)の健康のバランスが崩れている原因はさまざまであると思う。診断し、適切に対処しなければならない。歯が痛くなったら治療に行くように、胃がおかしかったら薬を飲むように、悩みを抱えている子どもに合った処方で治療するという視点の指導が必要である。治療というほどでなくとも、運動不足の子には体力増進が、偏った食事の子には栄養指導が有効だろう。それぞれの子どもの、それぞれの悩みに個別に向き合うことが重要と思う。
  だから、できるだけ多くの教員が子どもに向き合う技術・手法を共有していたい。心の健康の定期健康診断とその症状に応じた指導法を明らかにして、すべての教員が実践できるように示したい。そのための「エビデンス(根拠)」がほしい。心のサインを読み取り、それに対処するためにできるだけたくさんの実践例と科学的根拠を集めたい。熱意ある教師の実践経験に科学的根拠でサポートしたい。
  専門的な知識や技術を持っているものが、持っていない者に教え伝えるという従来型の教育の仕組みが壊れかけている。教える技術も、専門知識も保護者を含めた子どもたちの回りの方が良質な情報をたくさん持っている場合もあるだろう。技術や経験を持った専門家が権威的に振る舞う時代も終わった。社会が本物を求めているのだから、教える側も教育の品質保証を意識して、本気で対応しなければいけない。
  基本として身につけるべき「学力」「規律ある態度」「体力」をしっかり押さえた上で、子どもたちの学ぶ意欲を引き出し「学び」「気づき」の喜びを教えること、そのためのコミュニケーション技術を身につけること、専門の知識・技術を常にアップデートすること、教育する側が努力すべき点は多いように感じる。教員がエンパワーメントしなければ「家庭に届ける」は難しい課題である。
  新たな発想で眼に見える生徒指導を展開していく必要を感じている。不登校、いじめ・暴力行為の解消に向けた「数値目標」もその一つである。「家庭に届ける生徒指導」の実践もそうした取組として推進したい。そして、そのために「エビデンス」というパワーを教員に提供したい。自信を持って一人一人の子どもたちとその家庭に、すべての教員が正面から向き合えるように。
  (埼玉県教育局生徒指導室長ホームページ(※ 埼玉県教育局生徒指導室長ウェブサイトへリンク)(※ 別ウィンドウで開きます。)

3 施策紹介

いじめの特質とその防止について

(1)公立小中高校及び特殊教育諸学校におけるいじめの発生件数は、平成8年度以降減少してきたが、平成15年度の文部科学省の調査によると23,351件であり、8年ぶりに増加(前年度比5.2パーセント)した。そこで、我が国におけるいじめの特徴とその防止に向けた教育委員会や学校の特色ある取組事例について紹介することとしたい。
  ところで、平成6年に愛知県西尾市で中学2年生がいじめを苦にしたと見られる自殺事件が起きたのをはじめ、この頃からいじめが多発し深刻化していった。これを受けて、文部科学省ではいじめの状況について把握するための調査を開始するとともに、平成8年7月には有識者による懇談会の報告を受けて、「いじめの問題に関する総合的な取組について」と題する通知を各都道府県に出した。その内容はいじめへの対応についての具体的な内容を示しているので、まずこれについて若干の敷衍を加えつつ説明したい。

  1. 学校はいじめの問題の解決に大きな責任を有している。いじめの背景には学校・家庭・地域など様々な要因が関わっていると思われるが、学校の指導によりいじめの約9割が年度内に解消している。学校の教職員は日頃から児童生徒の状況を把握し、いじめを早期に発見し、いじめによる被害を防止するための適切な対策をとり、児童生徒の安全を確保する義務がある。
  2. いじめは絶対に許されないという認識とともに、いじめをはやし立てたり、傍観する行為も許されないという認識の徹底を図る必要がある。いじめによる被害は精神的苦痛、トラウマ、不登校、心身症、自殺など被害者に重大な影響を及ぼすだけでなく、傷害、暴行、恐喝など刑法に触れる行為もある。また、いじめをはやし立てたり、傍観する者の存在もいじめを助長し、長期化・深刻化させる要因となることが指摘されている。
  3. いじめを他者に伝えることが正しい行為であることを児童生徒に認識させる必要がある。いじめは早期に発見されればかなり解消されることが指摘されており、いじめを受けた者が発見した者が教師や保護者、友人等に知らせる力を育むことが重要である。ただし、いじめを打ち明けたがために、いじめがひどくなったり、教師への信頼感を無くすなどの問題も指摘されており、学校がいじめた者に対し毅然とした態度をとることが不可欠である。
  4. 校長のリーダーシップの下、全教職員が共通意識を持って取り組む必要がある。いじめは同じ学級内や遊び仲間の中で起きることが多く、遊びやいたずらとの境界がはっきりしないため、対応が遅れがちになるとの指摘がある。児童生徒への定期的なアンケートの実施、保護者との緊密な連絡、小学校との情報の共有等を通じて、児童生徒の人間関係の変化等に留意し、その場限りの一時的な指導で解決したとせず、継続的に指導を行うことが必要である。
  5. いじめる児童生徒に対しては、毅然たる姿勢で臨むことが重要である。例えば、他の児童生徒と異なる場所で個別指導したり、教師が注意してもいじめが解消せず、いじめの状況が限度を超える場合には出席停止などの措置をとったり、暴力や恐喝などの悪質ないじめに対しては、警察や児童相談所等と積極的に連携を図ることが必要である。
  6. 学校の対処方針などを保護者に提供し、理解・協力を求めるとともに、学校に寄せられる情報に対し誠意を持って対応することが重要である。特にいじめを教師に相談したのにいじめと理解されなかったり、一時的なトラブルと判断されて適切な対応をとってもらえず、それ以降相談しなくなりいじめが長期化・深刻化した例もある。いじめに関する情報を得たときは、当該児童生徒や保護者等から事情を聴くなどして、その児童生徒に起きている事実関係の全体像を把握することが必要である。

(2)最後に、教育委員会や学校における具体的ないじめ防止の取組みとしては、次のようなものがあるので紹介する。

  1. 児童生徒や保護者への定期的なアンケートやインタビューなどを実施し、児童生徒の学校への不適応感やストレスを把握し、必要に応じ個別指導をしている例がある。また。アンケートの分析に当たっては、学年や全教員などで行うことを通じ、学級担任だけで問題を抱え込むのではなく、全教職員に共通意識を醸成し、学校として組織的な対応を行っている例がある。
  2. 道徳や特別活動等において、いじめ問題を取り上げ、生徒同士で解決策を考えさせたり、いじめ被害者の体験談の活用するなどにより、いじめ行為が許されない行為であるという意識をつけさせるなど、授業内容や指導方法の工夫をしている例がある。
  3. 学校がいじめ追放宣言を設定したり、学校行事ごとにいじめ防止に資するスローガンを設定するなどにより、いじめ問題に対する学校の姿勢・態度を内外に明確に示している例がある。このことは、いじめをはやし立てる者や傍観する者の行為も許されないことを自覚させる効果もあると考えられる。
  4. いじめの予防的な教育の観点から、人間関係づくりや社会性を育むプログラム、ストレス・マネジメント等のスキルトレーニングを活用したり、危険防止教育の一環として、いじめ行為に対して「いやだ」「やめて」といえる力をつけるためのプログラムを導入している学校もある。
  5. 体育祭や文化祭など学校が楽しいと思える内容の行事を適宜に実施したり、上級生が下級生のお世話をする場面を作って上級生に自己有用感を持たせるなどにより、児童生徒の抱える様々なストレスを軽減することにより、いじめの防止につなげようとする例がある。
  6. なお、いじめは小学校高学年のころから潜在的に増加しているという指摘があり、中学校でいじめを受ける恐れのある児童の状況等に関し、小学校と中学校の情報の共有も不可欠であると考えられる。

高等学校中途退学について

1 高等学校中途退学の現状

  文部科学省が実施した「生徒指導上の諸問題の現状」に関する調査によれば、平成15年度の公立・私立高等学校における中途退学者数は、81,799人(全在籍者数に占める割合(中途退学率)は2.2パーセント)であり、3年連続で減少(前年度比8.5パーセント減)している。
  これを事由別に見ると、学校生活・学校不適応(不本意入学、授業に興味がわかない等)が37.5パーセントで最も多く、次いで進路変更が35.3パーセント、学業不振が6.5パーセント、問題行動等が4.8パーセント、家庭の事情が4.5パーセントとなっている。これを、上記調査を開始した20年前の状況と比較すると、学業不振及び問題行動等が顕著に減少(学業不振が19.1パーセントから6.5パーセントに、問題行動等が12.4パーセントから4.8パーセントに減少)し、進路変更及び学校生活・学業不適応が顕著に増加(進路変更が18.7パーセントから35.3パーセントに、学校生活・学業不適応が19.2パーセントから37.5パーセントに増加)している。このことは、社会情勢等の変化や生徒の変容等もあるが、各学校等における生徒指導及び教科指導上の取組みが成果を上げていることを示している。
  一方、「学校生活・学業不適応」の内訳を見ると「もともと高校生活に熱意が無い」が全体の14.6パーセントと最も多く、「進路変更」の内訳を見ると「就職を希望」が16.2パーセント、「別な高校への入学を希望」が10.3パーセントとなっているなどから、生徒達にとって、多様な進路の選択肢が増えるとともに、不本意入学が依然として存在し、これらが中途退学の大きな原因の1つとなっている状況が伺える。
  また、中途退学率を課程・学科別に見ると、全日制普通科1.6パーセント、全日制専門学科2.4パーセント、全日制総合学科2.3パーセント、定時制が13.6パーセントであり、特定の課程に中途退学者が集中している状況が伺える。さらに、学年別で見ると、中途退学者数全体のうち1年生が51.8パーセント、2年生が30.7パーセント、3年生が9.5パーセントとなっており、1年生時の適応指導の重要性が示唆されている。

2 中途退学の原因等

  このような中途退学の原因については、個々の生徒によって中途退学に至る状況や理由が様々であり、しかも、それらの色々な要因が複雑に絡み合っている場合が多く、その原因を特定する事は非常に困難である。しかし、あえて中途退学に至る「消極的な原因」を挙げるならば、中学校の進路指導の問題(中途退学者の多くが「高校での生活や勉強及び将来の職業等についてもっと教えて欲しかった」と回答している)、高等学校の適応指導の問題(中途退学者の約半数が第1学年の1学期までに「授業についていけない」と感じていた)、生徒自身の問題(高校で学ぶ事の意義等に関する認識が不十分で、入学する学校の教育方針等に対する理解や必要となる学力が不十分なため中途退学に至るケースが多い)、保護者の意識の問題(家庭の教育力が低下しているため基本的生活習慣が身についていなかったり、保護者の過度な期待に反発して中途退学に至るケースがある)等が考えられる。
  中途退学の原因や対策を論じる場合、注意しなければならないのは、中途退学は、生徒の「積極的」な希望による進路変更も多く、それ自体が悪いとは必ずしも言えないことである。このため、各学校では、中途退学に至らないよう最大限の努力を行うとともに、当該生徒に対する教育的配慮の観点からも、学校内の課題の改善の糸口を見つけるという観点からも、「当該生徒が、なぜ中途退学をしなければならないのか」について、学校側は十分なアセスメントを行う必要がある。重要なことは、中途退学に至る原因が何であれ、1.生徒自身が、日々の高校生活を充実して過ごすことができるよう、きちんとした目的意識を明確に持つこと、2.中学校及び高等学校等がそのような生徒の目的意識の向上を図るとともに、自主的な希望に対して可能な限りの支援を行うこと、3.各家庭において子どもの自主性を認め、その特性等を勘案しつつ支援することである。

3 中途退学の防止方策

  学校、教育委員会及び国では、「消極的」理由による中途退学を防止するため、以下のような取組みが行われている。

(1)学校における取組み

  学校においては、先ず、1教育課程の多様化・弾力化のために、選択教科・科目を増設したり、多様な類型・コース制を導入するなどの取組みが行われている。また、学習意欲が高まるよう指導方法の改善に努めるとともに、資格取得を目指した学習や習熟度指導等が行われている。さらに、仮進級等の進級認定の弾力化も行われている。次に、2適応指導の充実のために、新入生時に集団オリエンテーション合宿を実施したり、シラバスを作成して年間の学習内容や学習方法等の指導を行っているところもある。また、日常的な教育相談や家庭訪問を実施したり、校内に生徒指導会議を設けて組織として学校全体で生徒指導に取組んでいるケースもある。そして、3これらの諸活動を通じても、どうしても在籍校での学習の継続が困難である場合には、生徒の希望や特性に合った学校や学科に転学又は転科する仕組みがある。転学の許可については、転学を希望する高等学校に教育上支障がない場合に、当該校長が許可することができるようになっている(学教法施行規則第61条)が、「ア:転学先の定員に空きがあること、イ:転学前の学校の教育課程と転学先のそれとにある程度同一性があること及びウ:学力が一定レベルに到達していること」などの場合に、許可されるのが一般的である。しかし、実際には、同一県内における転学や、卒業に要する科目内容等が異なる転科については、容易にはできないのが実情である。最後に、4不本意入学防止のため、中学校における進路指導の充実の一環として、中高連絡協議会の定期的な開催や中学生の体験入学の拡充などが行われている。

(2)教育委員会における取組み

  教育委員会においては、学校での対策を支援するため、1.中途退学対策検討会儀を設置して総合的な中途退学対策の構築、2.教員研修の実施や教師用指導資料や手引書の作成、3.高等学校案内やビデオ等の作成、中学生を対象とした体験入学や中高連絡会の促進等中高連携の一層の推進、4.生徒の多様な能力を評価し、その意欲等も勘案するような高等学校入学者選抜制度の改善、5.転校・転科・編入学等の制度の弾力化、6中高一貫校の設置や総合学科・単位制高等学校等生徒の多様なニーズに対応できる学校の設置等を行っている。

(3)文部科学省における取組み

  文部科学省においては、以上のような学校及び教育委員会の取組みを支援するため、学習指導要領の改訂等教育課程の多様化・弾力化のための仕組みづくり、総合学科や中高一貫校をはじめとした多様な学校形態の制度作り、高等学校教育を一層充実させるための指導方法や内容等に関する指導等を行っている(特に、平成5年4月23日付け文部省初等中等教育局長通知を参照。

4 中途退学における留意点

  上記3のような対策又は各学校の最大限の努力にも拘らず、どうしても高等学校以外の進路を選ばざるを得ない場合には、退学という手段を取ることになる。その際、退学は、生徒の教育を受ける権利や身分上の取扱いに重要な変更を及ぼすものであるため、たとえ自主退学の場合においても、真に教育的な配慮をもって慎重かつ的確に行うことが必要であり、退学時においては「校長の許可を受けなければならない」(学教法施行規則第62条)こととなっている。
  中途退学という行為については、大きく分けて「自主退学」と「懲戒による退学」の形態があり、自主退学には、生徒自身が積極的に望んで退学するものの他に、問題行動等により学校側から自主退学勧告を受けて自主退学するケースがある。中途退学に関して特に注意しなければならないのが、この「懲戒処分としての退学」と「勧告を受けた自主退学」との取扱いについてである。
  懲戒としての退学については、当該学校における生徒の教育を受ける地位や権利を剥奪する行為であるため、学教法第11条を受けて、「懲戒のうち、退学、停学及び訓告の処分は、校長がこれを行う」(学教法施行規則第13条第2項)こととして、処分の責任の所在を明確にしている。また、その処分の事由を「1.性行不良で改善の見込みがないと認められる者、2.学力劣等で成業の見込みがないと認められる者、3.正当な理由がなく出席常でない者、及び4.学校の秩序を乱し、その他学生又は生徒としての本分に反した者」(学教法施行規則第13条第3項)の4つに限定している。懲戒処分における退学については、校長の裁量行為であるが、「児童生徒の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければいけない」(学教法施行規則第13条第1項)と規定されている通り、校長は、当該生徒の日頃からの素行等を勘案しつつ、上記の4つの事由に該当するか否かを、専門的・技術的な教育的見地から総合的に判断しなければならない。また、その手続きについては、特段の法令上の規定は無く、懲戒権者の権限に委ねられているが、教育的な見地から当該生徒又は保護者から事情や意見を聴取し、十分な弁明の機会を与えるなど、処分の客観性や妥当性を確保できるような手続きを取ることが必要となっている。
  一方、懲戒による退学処分が生徒を学校外に排斥することになる重大な処分であるため、学校は通常その処分の発動に慎重であるケースが多く、また、懲戒処分は指導要録上の記録として残るため、当該生徒のその後の進路等を勘案して、自主退学を勧告して、自主退学の形で退学させる例が多く見られる。しかし、本来、自主退学は、本人の自主的な意思表示に基づくものである以上、その勧告が当該生徒及び保護者に対して強制的なものであってはならない。特に、問題となるのは、退学勧告に基づく自主退学が、学校側からすれば「自主退学」であるのに対して、当該生徒達からすれば「学校からの退学処分」と受取られるという認識の違いがある場合である。そこにおいて、両者の十分な意思疎通が図られないままに、当該生徒達に十分な弁明の機会が与えられず、彼らがよく事情を把握しないままに「退学願」の提出を求められるようなことがあった場合には、無用の混乱を招くことがある。学校は、一度受け入れた生徒については最後まで面倒を見る覚悟で最大限の努力を行う必要があり、退学はそのような最大限の努力を以ってしても事態の解決ができず、教育的な見地からも退学を選択せざるを得ない場合に実施されるべきであって、「懲戒処分としての退学」又は「勧告を受けた自主退学」のように学校側の働きかけによる退学の場合には、特に慎重な配慮が求められる。この点を整理したものとしては、広島県教育委員会において指導の留意点等を整理したものがあるので、この場を借りて紹介する。

4 主要行事の予定又は連絡事項等

  (全てを記載しているわけではありませんので、必ず正式文書で確認をお願いします。)

  • 平成17年度生徒指導担当指導主事連絡協議会 6月7日(火曜日)
  • 生徒指導メール・マガジン第9号 6月24日(金曜日)

5 施策に関する各地域からの提言又はQ&A

  今回は特になし。

本件連絡先

  • 文部科学省初等中等教育局児童生徒課 生徒指導企画係
  • メール・マガジン問い合わせ先 <jidou@mext.go.jp
  • 電話:03‐5253‐4111(内線3055)、FAX:03‐6734‐3735
  • ※ 生徒指導及び進路指導上の優れた実践事例を公募したいと思います。全国的に紹介したい事例がある場合には、ご執筆の上、送信いただきたいと思います(その際、執筆者が都道府県・指定都市教育委員会でなくても、学校又は市町村教育委員会の執筆でも可です)。内容を見て、「各地域又は学校の優れた取組みの紹介」の項で紹介していきたいと思います。
  • ※ 教育課題についての質問や提言、他の都道府県教育委員会へ伝えたいニュースや連絡事項などありましたら、上記アドレスまで返信メールの送信をお願いします。なお、恐縮ですが、質問に関しては、全体に周知する事が必要なものについて、本メール・マガジンで回答していきます。
  • ※ メール・マガジンは、文書による通知・連絡とは異なり、あくまでも文部科学省からの情報提供を目的としています。通知・連絡については、従来通りの方法にて行いますのでご留意願います。

お問合せ先

初等中等教育局児童生徒課

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