心豊かな人作りに向けて
昭和63年度から、兵庫県では全国に先駆けて、「自然学校」という事業名で自然の中での長期宿泊体験を取り入れている。この取組は平成3年には、県内すべての小学校において、5年生が5泊6日の自然体験を中心とした長期宿泊体験を経験するという形で実施されることとなった。
任意参加ではなく、「全員参加」という形をとり、「自然学校」での共同生活を誰もが経験することによって、普段の学校では先生も知らなかったような友達との付き合いや児童の得意分野が浮かび上がり、それを全ての学校で十分把握することができるようになる。このことは、その後の学級経営や学習指導等の教育活動に生かしていくために大変重要なことである。
全県・全員参加を実現するためには、予算の確保もさることながら、全県約5万人の児童を受け入れる施設の確保が問題になってくる。また、食物アレルギー(児童や保護者にとっては大きな問題)などの身体的負担を持つ児童の参加に際しては、施設や専門家からの支援を得たり、活動中は友人からも理解を得て支援してもらうことが重要である。当然、一緒に活動することになる先生や家族にも、心と体の準備が必要である。
何より重要な課題は、教室を離れての1週間で具体的に何をさせるのか、というカリキュラムの問題である。「自然学校」のねらいは何か、具体的なプログラムへどう生かすか、成果はどう評価するのか、ということをはっきりさせなければならない。プログラムづくりでは、児童自身の参画も重要なポイントである。児童自らが、自分の「自然学校」でどんな活動をしたいのか、できるのか。それはどのように具体化するのか。そして、終わってから自分にどんな変化が生まれたのかを自分自身で評価し、一生の思い出とすることが「自然学校」の大切なねらいである。
このようなことを検討するため、県内に多く設置されている青少年教育施設の中でも、「自然学校」事業の中核となる施設として平成6年に開校したのが、「南但馬自然学校」である。
〔利用校から本校〕
〔本校から利用校〕
子どもたちにとって自然学校の5泊6日の体験は、これまで経験のない長期間における仲間との集団生活の場であり、様々な道徳的価値に触れ、感じ、考え、心を動かす豊かな体験の場である。この体験により得た潜在的な価値を顕在化することで体験が自らの未来を拓く価値ある行為へと発展、深化していく。
自然学校のプログラムが教師主導でつくられ、実施されたとき、子どもたちはその一つ一つをこなすことに終始する場合がある。子どもの自主性という視点から自然学校をとらえ、より広い選択の機会をつくったり、子どもがプログラムを考え、実行できる場を確保したりすることにより、自主的な態度が育ち、「子どもたちの自然学校」となっていく。
そこで、特別活動での活動を発展・深化させる過程に自然学校を位置付け、実施することにより、「ゆとり」と「自然・人・地域とのふれあい」の中で学校生活を豊かにするための自主性と実践力を高めていきたい。
身近な集団における自分の役割を自覚し、責任をもってそれを果たそうとする態度を養う。
身近な集団での活動に進んで参加し、自分の役割を自覚し、主体的に責任を果たそうとする態度を養う。
みんなのために
(『みんなの中で君がかがやく』(出典:文部省道徳教育推進指導資料4))
自然学校を終えた子どもたちの心は、多様な経験ができた満足感や自分たちで協力し合い生活できた成就感に満ちている。この機会に、自然学校で味わった感動を共有し、本主題について話し合い、考えを深めることは、今後の集団生活において意義のあることである。この資料は、子どもたちへのメッセージとして書かれたものである。ここでは、自然学校での体験を踏まえて筆者の主張について話し合う。そのとき、筆者の述べていることをよく理解できるように、以前に学習した資料「ごはんがこげる」や自らの体験や身近な事例などを取り上げる方法も考えられる。これら具体的な内容をもとに話し合うことで、価値の自覚を深める。そして、最後に子ども自身の考えを資料を参考にしながらまとめる。あるいは、資料で提案されていることに関わって、これからどういうことをしようと思っているかをまとめられるようにする。
(略)
自然学校初日(入校日)の活動として、施設散策オリエンテーリングを開発し、紹介している。
子どもたちは、ポイントの地図とにらめっこしながら、ポイントを探し当てていく。本館には生きたマムシを飼育しているが、その水槽の前で、頭の形や模様を観察する子どもたちもいる。中には、イラスト地図と実際の建物の大きさやエリアの広さが若干違うので、ポイントに辿り着くのに四苦八苦するグループ(班)もある。それでも、ほとんどのグループ(班)が、完成させた暗号文をゲームで獲得したヒントをもとにして解読し、ゴール地点の大屋根広場で麦わら帽子をかぶった先生と握手をしてミッション(指令)の完了に歓声をあげている。
初日の活動として、施設を散策することで、子どもたちは建物や活動場所のおよその位置関係を把握することができ、また、散策の途中に南但馬の自然に出会ったり、人(友達)とふれあうことで、自然学校で実施する様々な活動に対するモチベーションを高めることができている。
今後も、散策のエリアを朝来山の森(本校の敷地内であり、自然観察路が整備されている)に広げたオリエンテーリングや各ポイントで自然や人とふれあうことのできるクイズ、ゲームを設定したオリエンテーリングなどを開発していきたい。
多くの学校が自然学校のプログラム(活動)として、自然の中から素材を集め、それを使って「自然物クラフト」を実施している。
その「自然物クラフト」にちょっとした工夫を加えることでより深まりのあるプログラム(活動)にできないものかと開発、紹介しているのが『ひのきーホルダー(檜の下枝でアクセサリーを作ろう)』である。
本校の野外炊飯場は杉や檜の林の中に整備されている。そのエリアの除伐、下枝打ち作業で出た檜の下枝をよく観察すると、枝の根本から30センチメートル程のところまで、中心に美しい赤身の部分が確認できる。その下枝を使って「自然物クラフト」ができないかと考え、開発したのがこの『ひのきーホルダー』である。
枝の部分といっても檜の材質は少し堅く、子どもたちは、おおまかな形に整える工程に悪戦苦闘である(特に曲面に加工するのは難しいようである)。サンドペーパーで磨くという工程は、ただひたすら磨くという作業ではあるが、子どもたちは夢中になって磨き、個性豊かなアクセサリーに仕上げていく。活動中の工作室には、檜のとてもいい匂いが漂っている。
今後、施設内の朝来山をフィールドとして整備し、林業体験としての「下枝打ち」の体験から始まり、自分たちが枝打ちをした檜の下枝を使って、アクセサリーを作るという一連のプログラムの流れを開発していきたいと考えている。
-- 登録:平成21年以前 --