平成21年度より,第1学年は年間102単位時間,第2学年では105単位時間の授業時数で実施することになっていますが,指導計画を作成するにあたって,現行の学習指導要領の内容でよいのでしょうか。
移行措置期間中の小学校学習指導要領の特例を定めた告示によれば,移行措置期間中においては,「教育課程の全部又は一部において,新学習指導要領によることもできる。」と示されています。小学校低学年の体育については,新学習指導要領の内容を実施するだけの授業時数の保証がありますので、各学校の準備状況等を踏まえ、適切に判断していただきたいと考えています。
低・中学年に示された「多様な動きをつくる運動(遊び)」について,他の領域との運動の違いを説明してください。
現行学習指導要領の「基本の運動」では,「各種の運動の基礎を培うこと」,「体の基本的な動きを身に付けること」をねらいとしていました。今回の改訂では,低・中・高学年の系統性を重視し,現行で基本の運動の内容として示していた領域のうち「体つくり運動」以外の領域では,特に「各種の運動の基礎を培うこと」を重視しています。また,「多様な動きをつくる運動(遊び)」では,他の領域の学習の中では扱いにくい様々な運動を取り上げ,「体の基本的な動きを総合的に身に付けること」をねらいとしています。例えば,「走・跳の運動」では,「30m〜50mのかけっこ」など将来的に陸上運動につながる動きを主に取り上げて指導しますが,「多様な動きをつくる運動遊び」の「体を移動する運動遊び」では後ろ向きに走ったり,回転しながら移動したりなど,陸上運動など特定な運動に限らず,様々な運動につながる動きを取り上げて指導します。
今回の改訂で新たに示した「多様な動きをつくる運動(遊び)」については,授業づくりのヒントになる資料を作成し,平成20年度中に全国の小学校の教員に配布する予定です。
今回の改訂は,技能の習得のみを重視していると考えてよいのでしょうか。
体育において技能を身に付けることは大切です。新しい技ができるようになったり,記録が伸びたりすることは,児童にとって大きな喜びであり,運動が好きになる重要な要素だからです。しかしながら,「生涯にわたって運動に親しむ資質や能力の育成を図る」ためには,技能だけでなく態度(意欲),思考・判断もバランスよくはぐくむことが不可欠であると考えています。そのため,今回の改訂では,態度や思考・判断についても,技能と同様に,発達の段階を踏まえて身に付けることができるようにすることを重視しています。
低・中学年において指導計画を作成する際には,「体つくり運動」に,年間授業時数の増加分の12単位時間もしくは15単位時間を充てるのでしょうか。
指導計画の作成と内容の取扱いの(2)には,「一部の領域に偏ることのないよう授業時数を配当すること」と示しています。このことは,授業時間数を各領域に均等に配当したり,体つくり運動に授業時数の増加分を全て充てたりすることではありません。児童や学校の実態に応じて,どの領域も「学習指導要領の内容を身に付けられる授業時数を配当する」ということを意味しています。例えば,これまで6単位時間で取り組んでいた領域について8単位時間を配当し,学習内容が十分定着するように計画することが考えられます。
学習したことを家庭で生かすことを重視するとしているが,そのことについても教科指導の評価の対象となるのでしょうか。
学習したことを家庭で生かすことを重視することは,中央教育審議会答申を受け,解説においても,教科の目標を解説する中で示しています。年間105時間の授業の中だけで,体力の向上を図ることは容易なことではなく,普段から運動に親しむことが重要であるからです。しかしながら,学習したことを家庭で生かすことは,指導内容としては示していないので,教科指導の評価をすることは想定していません。
授業で身に付けたことを家庭で生かすことができるよう,学校全体で指導する方向性を示したものです。
保健の授業時数は,変わっていないが,新たな内容を加えて時間内で指導できるのでしょうか。
今回の改訂では,身近な生活における健康・安全に関する基礎的な内容を重視し指導内容を改善するとともに,系統性がある指導ができるように健康に関する内容を明確にしました。
また,新しい内容を加えるだけでなく,これまでの内容を整理しました。したがって,今回の改訂によって,学習指導要領に示された授業時数の中で,より内容を明確にした指導ができます。
第1学年及び第2学年における運動の取上げ方の弾力化について,具体的に説明してください。
体つくり運動と体育理論については,各学年において,それぞれ7単位時間以上と3単位時間以上を配当します。また,保健については,3年間で48単位時間程度を配当します。その上で,B〜Gの領域については,2年間のうちでの必修であることから,領域の取上げ方は,第1学年もしくは第2学年にまとめて配置したり,領域の内容を2年間に分けて履修させたりするなどの弾力的な扱いが可能です。
領域の配置の仕方については,指導内容に応じて,2年間で実施することが効果的か,大きな単元を組んで1年間で実施することが効果的かを検討してください。領域の内容の取扱いについては,例えば,器械運動では,「2年間でア(マット運動)を含む(2)を選択」となっているので,マット運動に加え鉄棒運動,平均台運動,跳び箱運動の中から1種目以上を選択させることとなります。この場合,2年間でマット運動を含む(2)を選択すれば良いので,2年間で実施する場合であれば,1年目にマット運動を選択した場合,2年目にそれ以外の1種目を選択すれば良いことになります。また,1年間で実施する場合であれば,1年間でマット運動を含む2種目以上を選択させることとなります。
内容の取扱いで示しているのは指導の最低基準であり,発展的に学習させることに歯止めをかけるものではありませんので,第1学年及び第2学年までに多くの学習経験を持たせるという理念に立ち返ると,鉄棒運動,平均台運動,跳び箱運動の運動種目等も可能な限り体験できるような教育課程を組む例も考えられますが,領域の内容を発展的にどこまで体験させることが可能かは,各学校で生徒の負担過重にならないよう検討してください。示された内容を確実に教えて考えさせる時間を確保することが大切であると考えます。
選択制の考え方を説明してください。
第1学年及び第2学年では,領域は必修ですが,領域の内容(運動種目等)は選択となります。生徒の学習意欲を高めるためには,可能な限り示された領域の内容が選択できるようにすることが望ましいですが,安全面の確保及び指導の充実といった視点から,指導者の指導が行き届く範囲での展開が条件となると考えます。
第3学年では,少なくとも一つの生涯を通じて継続できる運動やスポーツに出会うことができるようにすることを目指していることから,ある程度のまとまった時間を確保して,その運動のもつ特性や魅力により深く触れることができるようにすることを想定しています。
器械運動,陸上競技,水泳,ダンスのまとまりの中から1領域以上,球技と武道のまとまりの中から1領域以上を選択して履修できるようにすることを内容の取扱いで示しています。
この選択では,生徒が自ら行いたい運動を選ぶという趣旨があるので,保健体育科教員が一人しかいない学校の場合などは,別途配慮が必要と考えますが,領域については,男女共習を原則として領域の選択ができるよう学習機会を保証していただきたいと思います。
球技を型別で示した理由について,説明してください。
球技には多様な種目があり,指導内容の系統性を考える際,示した運動種目のすべてについて種目レベルの系統性を図るとすれば,小学校の早い段階から,種目につながる体験が必要となってしまいます。球技の特性や魅力は,類型ごとに特徴があるので,そうした共通する動きに着目して,指導内容の系統性を考える必要があるとの指摘を受け,改善を図ったものです。中学校以降の球技の選択の課題として,種目レベルの選択では,同類型の選択となっている場合も多く見られることから,最低限異なる類型を体験させ,自らに適した運動を選択する能力の育成につなげていくことが必要であるとの考え方から,型別の選択を示したものです。
武道の必修化に伴う条件整備については,どのように考えていますか。
平成19年5月現在,公立中学校の武道場整備率は47%です。これまでも武道場の整備は,「安全・安心な学校づくり交付金」の交付対象として補助しているところですが,必修化に向けた履修条件整備の観点から,学校の状況や要望を踏まえ,各教育委員会においては,計画的に整備を進めていただきたいと思います。
武道の防具や畳などの学校の備品については,すでに備品費として地方交付税措置がなされていますので,防具等の備品の整備に係る予算の確保に努めていただきたいと思います。
教員の指導力向上に向けては、現在,文部科学省が「学校武道実技指導者講習会」を,教員研修センターが「子どもの体力向上指導者養成研修」を実施しているので,これらの研修への積極的な参加をお願いします。また,これらの研修を受けた教員等が,各教育委員会における伝達講習会等で,講師として他の教員に指導ができるよう,研修機会の充実をお願いします。
また,文部科学省においては,学習指導要領の改訂を踏まえた武道(柔道,剣道,相撲)の実技指導資料の作成を予定しているところです。
(3)傷害の防止に,二次災害が示された理由を説明してください。
二次災害については,現行の学習指導要領解説に「地震に伴って,津波,土砂崩れ,地割れ,火災などによる二次災害が発生することがあることを理解できるようにする。」と示していました。今回の改訂において,個人生活における健康・安全に関する内容を重視する観点から,学習指導要領に新たに明記することとしました。これは,防災の有効性をより高めるためには,災害発生時と同様,実際に災害をもたらしている二次災害を取り上げることが必要と考えたからです。したがって,今回の解説には,二次災害の発生に加えて,二次災害によって生じる傷害の防止についても示しています。
初等中等教育局教育課程課
-- 登録:平成21年以前 --