外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議(第3回)議事録

 1.日時

令和元年11月18日(月曜日)13時00分~15時00分

2.場所

文部科学省東館5階5F1会議室

3.議題

1.今後の音声教材、デジタル教科書等の在り方等について
  ・音声教材等の製作団体からのヒアリング
  ・教科書発行者からのヒアリング

2.その他

4.出席者

委員

齋藤座長、金森座長代理、井阪委員、犬飼委員、小澤委員、河村委員、築樋委員、土屋委員
【ヒアリング協力者】藤堂栄子氏(認定NPO法人エッジ会長)、Burke Alexandra氏(揖斐川町教育委員会外国語指導助手)、黒川弘一氏(一般社団法人教科書協会デジタル教科書政策特別委員会座長)、大関正隆氏(一般社団法人教科書協会情報化専門委員会委員)

文部科学省

中野教科書課長、季武教科書課長補佐、小林男女共同参画共生社会学習・安全課専門官

5.議事録

外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議(第3回)

令和元年11月18日



【齋藤座長】 ただいまから,第3回外国人児童生徒等における教科用図書の使用上の困難の軽減に関する検討会議を開催いたします。
本日は,音声教材とデジタル教科書について,それぞれ製作者の立場から御発表いただくことになっております。
御発表者について,事務局から御紹介いただければと思います。お願いいたします。
【季武課長補佐】 御紹介申し上げます。まず,音声教材BEAMの製作団体であるNPO法人エッジ会長の藤堂様でございます。
【藤堂氏】 よろしくお願いいたします。
【季武課長補佐】 音声教材BEAMを活用されている揖斐川町教育委員会外国語指導助手のBurke様です。
【Burke氏】 よろしくお願いします。
【季武課長補佐】 一般社団法人教科書協会デジタル教科書政策特別委員会座長の黒川様です。
【黒川氏】 黒川です。よろしくお願いいたします。
【季武課長補佐】 一般社団法人教科書協会情報化専門委員会委員の大関様です。
【大関氏】 よろしくお願いいたします。
【季武課長補佐】 以上でございます。
【齋藤座長】 ありがとうございました。本日はよろしくお願いいたします。
続けて配付資料の確認を事務局からお願いいたします。
【季武課長補佐】 配付資料につきまして,議事次第に沿って御説明させていただきます。まず資料が資料番号1から5番までございます。さらに一番下に参考資料を付けております。加えて,教科書協会が作成したパンフレットと,音声教材BEAMのパンフレット,そして藤堂様の本日の発表資料を配付しております。
もし欠けている資料等ございましたら,おっしゃってください。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
それでは,議題に入らせていただきます。
まず,前回会議の御意見等について,事務局からお願いいたします。
【季武課長補佐】 では,資料1に基づきまして,本検討会議における主な御意見,御検討事項等について,前回より追記した部分について特に御説明させていただきます。
資料に黒文字のところと赤文字のところとあり,その赤文字の部分が,前回から修正を加えた部分になっております。
まず,「外国人児童生徒を取り巻く環境」における「外国人児童生徒等の状況」について,「来日直後でまだ十分に文字の読み書きのできない児童生徒の読みの困難度は,日本人の読みが困難な児童生徒と同等若しくはそれ以上である」という文言を,小澤委員の御発表を踏まえて追加しております。
また, 2ページ目に新たに「外国人児童生徒等の教科書使用等に当たり必要な配慮・課題」という項目を設けました。「外国人児童生徒等に求められる支援」のところから,一部こちらの項目に移動しているものがございます。この項目については,また後ほどまとめて発表させていただきます。
次に,「ICTを活用した教材等の現状等」につきましては,前回記載が不十分であると御指摘いただいた箇所について修正しております。
ページをめくっていただきまして,「ICTを活用した教材等の活用により期待される効果」について,1点目に,「ICTを活用した教材の使用は,発音や音・文字合わせに困難がある外国人児童生徒等の言語習得において大変有効であると考えられる」という文言を新たに追加しております。加えて,毎日繰り返し学習するに当たって,「ICT機器を使うことで,誰にも気兼ねすることなく,自分のペースで何度も反復して音声を聞けることは,効果が高いと考えられる」と御発言いただいたものを反映しております。
また,「ICTを活用した教材を利用することで,指導者側に余裕が生まれ,丁寧な指導が可能となったり,教科書の字が読めるようになった外国人児童生徒等自身の学ぶ意欲が高まったりすることで,内容理解にもつながると考えられる」ということを追記しております。
続きまして,先ほど申し上げましたとおり,新たな項目として,「外国人児童生徒等の教科書使用等に当たり必要な配慮・課題」について追加しております。
1つ目の白丸について,日本語指導において音声教材やデジタル教科書を活用できるようにするに当たって配慮・検討するべきことを,3点記載しております。
まず,「音と文字のマッチングによってその対応関係を学ばせるのみならず,漢字や単語の意味を理解し,それを運用する力を高めるということが重要であること。」と記載しております。
また,「認知的な側面で発達の途中にある外国人児童生徒等には,教科等の学習を支える思考力の土台として日本語の力を培う必要がある」ということを書いております。
さらに,「母語と日本語の間における文法の違いや,語の意味範囲の違い,さらには,背景にある文化や社会状況の違いを考慮すること」が必要ということで記載しております。
また,2つ目の白丸について,「外国人児童生徒等が既存の音声教材等を活用できるようにするのみではなく,やさしい日本語にしたり,図像,図や絵を活用した教材等を併せて活用したりすることも重要である」と記載しております。
さらに,3つ目の白丸について 「ICTを活用した教材を使用する等の配慮について,生徒を受け入れる学校や周囲の児童生徒からの理解を得られる方策と併せて進めることが重要」であるということを記載させていただいています。
4つ目の白丸について,「ICT機器の整備や指導に使用する教員への情報提供・サポートが必要」であるということを,前のページの「外国人児童生徒等に求められる支援」という項目から,文言を整えた上でこちらの項目に移動しております。
さらに一番下に,「学校の教室,放課後の指導のみならず,家庭での自習にも使用できることが望まれる」ということを記載しております。
以上でございます。
【齋藤座長】 ありがとうございました。今の前回会議の意見等に関しまして,確認したい点あるいは補足したい点などございましたら挙手をお願いいたします。小澤委員,お願いいたします。
【小澤委員】 最初のページの「外国人児童生徒等の状況」の2つ目の白丸において,「来日直後」という期間の限定がありますが,前回会議において,滞在年数の長い児童生徒においても,読み書きに関して困難が見られるという報告をいたしておりますので,この部分は削除していただけますか。
【齋藤座長】 ありがとうございます。「来日直後」という文言は削除し,「まだ十分に」から始めるということで,よろしくお願いいたします。
【季武課長補佐】 承知しました。
【齋藤座長】 ほかにはございませんか。河村委員,お願いします。
【河村委員】 資料1の2枚目の「外国人児童生徒等の教科書使用等に当たり必要な配慮・課題」というところについて,1つ目の白丸の黒ポチの2つ目に,「音と文字のマッチング」という表現があるのですが「マッチング」というと,別々なものを2つマッチさせるというイメージがあります。むしろ文字と音声,デイジー教科書等においては画像も含め,全て同時に提示できるようになっているわけです。その場合の効果として,どれだけエビデンスがあるかは不明確ですが,共鳴効果,いわゆる「シナジー」というもので,より概念の認識が強化されるということも指摘されております。直感的に,実際に使っている子供たちは,文字や音声等が同時に提示されると非常に分かりやすいと言っているということなのですが,この「マッチング」という表現を,もう少し工夫した方が良いのではないかと思います。
【齋藤座長】 今,河村委員がおっしゃった言葉で言うと,「同時提示」でしょうか。
【小澤委員】 「同期的」でしょうか。
【齋藤座長】 「同期的提示」が良いでしょうか。
【河村委員】 「シンクロナイゼーション」や「同期」,「タイミングを合わせる」といった言葉が規格を作るときの専門用語になっています。それが受け取り手にとっては「マッチング」と一緒に見えているということになるのかもしれません。したがって,「同期」という言葉で伝わるのかは分かりませんが,もし「同期」と言って良ければ,規格の上では「同期した提示」というのが,音声教材等の特徴なので,少し「マッチング」とは違うのではないかという感じがしております。
【藤堂氏】 よろしいですか。
【齋藤座長】 お願いします。
【藤堂氏】 NPO法人エッジの藤堂でございます。その「同期して提示」というのもあるのですが,それ以前の問題として,語彙が頭に入っているということが非常に大事です。文字と音のマッチングの方法については,画像で出るというだけではなく,様々な方法がございますが,それ以前の問題として,まずは音と文字を組み合わせることができる,関連付けて操作することができるという能力を培うことが大事で,次に同期して見せるという段階が出てくるのだと思います。基本的に,まず音と文字が関連付けられて,それを操作する力を培うことが大事であるということは,先に入れておいていただきたいと思います。
「同期する」ということを,音と文字を関連付ける方法として,エビデンスが十分に数字として出ていない段階でここに入れるのはどうかと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございます。資料1は前回までの会議の整理ということになります。藤堂様からいただいた御意見は,報告書において,全体としてどのように考えて提案していくかに位置づけて,今後検討させていただければと思います。
前回は,実際にシンクロナイズド,同期的提示をして実験的に調査研究した結果に関する議論でしたので,会議の記録としては,このまま,言葉を調整しつつ残させていただきたいと思います。
「マッチング」に代わる言葉について,今のところの候補としては,「シンクロナイゼーション」でしょうか。
【河村委員】 「シンクロナイゼーション」というのが名詞です。あるいは「同期」が良いかと思います。
【齋藤座長】 「同期」でしょうか。事務局で,皆様に伝わりやすい言葉を選び,「シンクロナイゼーション」か「同期」という言葉を,「マッチング」の代わりに使っていただければと思います。
また次回,今回の議論を基にして修正したものを提示させていただきますので,そのときにまた御確認いただければと思います。
そのほかございませんでしょうか。
そうしましたら2点,修正の御提案がありましたので,その点を反映させるようにしたいと思います。ありがとうございました。
では,次の御説明に移りたいと思います。今回のテーマである音声教材とデジタル教科書の制度概要について,事務局から説明をお願いいたします。
【季武課長補佐】 資料2と参考資料等を併せて説明させていただきます。参考資料には関連する条文を記載しておりまして,特に資料2で取り上げている部分についてマーカーを引いております。また,マーカーを引いていない下線部分は,直接資料2で取り上げてはいないものの,音声教材やデジタル教科書の作成に当たって関連する箇所として抜粋している部分になります。
では,まず資料2の「音声教材」について御説明させていただきます。音声教材というのは,法令上明確に定義されているものではございませんが,拡大教科書や点字教科書と同様に,教科用特定図書等の中の1種類として位置付けられているものです。
まず重要な点としましては,障害により紙の教科書を使って学習することが困難な児童生徒を対象とした教材ですので,障害のある児童生徒の学習のため,その目的の範囲内で使用していただくということになっています。
製作者は,教科用図書等発行者です。文科省の事業では音声教材製作団体とも呼ばせていただいているところでございます。こちらは,特に国で具体的な基準を定めているものではなく,許認可等の制度もございません。
続きましてデータ提供の流れについてですが,こちらは教科書発行者から文部科学大臣又は文部科学大臣が指名する者にデータを提供することが義務付けられております。今年は,この「文部科学大臣が指名する者」については東京大学先端科学技術研究センターにお願いしているところです。さらにそこからデータを音声教材製作団体に提供することができるという制度になっております。
音声教材の作成に関する法律の根拠につきましては,参考資料の1ページ目にございます「障害のある児童及び生徒のための教科用図書等の普及の促進等に関する法律」,通称,「教科書バリアフリー法」に規定されております。
また資料2に戻りまして,使用可能な者については,先ほど申し上げたとおり,障害のある児童生徒です。使用の制限はございません。
飛ばしておりました「費用負担」については,現在,文部科学省の委託調査事業によって,製作団体の方々に委託して作成していただいた成果物を無償で提供するという形態になっております。
さらに,一番下の著作権関係規定につきましては,参考資料の4ページから5ページにかけて掲載されております著作権法第33条の3等に基づいて,障害のある児童生徒の学習のために教科書を複製することができるということが規定されているところです。
また,営利を目的として複製を行う場合には,著作権者に補償金を支払う必要があること等が,33条の3において定められているところでございます。
続きまして,資料2の「学習者用デジタル教科書」の説明に移らせていただきます。
学習者用デジタル教科書につきましては,教科書発行者が作成する紙の教科書と同一の内容がデジタル化された教材のことを指しております。今年度から,その使用について法令改正によって制度化されたところです。こちらは,レイアウト等も含めて,紙の教科書と同一であることが求められます。後ほど,実際にどのようなものかを実演していただきますので,是非御参照いただければと思います。
学習者用デジタル教科書の製作者は教科用図書の発行者ですので,データ提供についての規定等はございません。
費用負担につきましては,現在学習者用デジタル教科書は無償給与の対象になっておりませんので,実際に導入するかどうかについては学校等で御判断いただくことになっております。ただ,音声教材を利用する場合であっても,デジタル教科書を利用する場合であっても,紙の教科書は無償給与されておりますので,紙の教科書がまず手元にあるということを前提として,併せて音声教材やデジタル教科書を使用するかどうか御判断いただいております。
また,使用可能な者につきまして,学習者用デジタル教科書は障害のある児童生徒に限らず全児童生徒が使用できるという点が,音声教材との特に大きな違いかと考えます。
全児童生徒が使用可能という点が,その下の「使用の制限」につながるのですが,教育課程の一部において紙の教科書に代えて使用可能になっております。具体的には,各教科等の授業時数の2分の1に満たない範囲で,学習者用デジタル教科書を紙の教科書に代えて使用することができるとされております。
一方で,障害や日本語に通じないこと,さらにこれらに準ずる事由によって,紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒については,「2分の1に満たない範囲」という制限がなくなり,教育課程の全部において,紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用することが可能になっております。学習者用デジタル教科書を今後具体的にどのように進めていくのかについては,慎重に検討していく必要がございますので,現在は使用の制限が設けられております。
学習者用デジタル教科書ついては,参考資料の2ページ目と3ページ目にございます学校教育法や,省令,告示等で規定しているところでございます。
また著作権につきましては,参考資料の4ページ目にございます,著作権法第33条の2に基づいて,デジタル教科書の作成に関する規定が設けられているところです。紙の教科書に掲載された著作物を,デジタル教科書,著作権法の条文上ですと「教科用図書代替教材」としておりますが,こちらに掲載して利用することができると定められています。
また,デジタル教科書を作成する場合には,紙の教科書の作成時と同様に,著作権者に対して補償金を支払うこと等が,33条の2で定められているところです。
さらに,ここまでの「音声教材」と「学習者用デジタル教科書」という項目からは少し離れますが,これまでの議論の中でも話が出ておりました著作権の関係について,参考に御説明させていただければと思います。
参考資料の5ページから6ページにかけて記載されております著作権法の37条において,視覚障害者が利用するために必要と認められる限度において公表されている著作物を音声にする等して複製することが可能ということが規定されております。
また,37条の規定により,視覚障害者等のために複製する場合については,47条の6の第1項第5号にございますとおり,翻訳,変形又は翻案することができるとされております。したがって,これまでの議論で御指摘いただいたとおり,視覚障害のある児童生徒が公表されている著作物を利用する際には,翻訳,変形又は翻案をした上で使っていただくことが可能になっておりますが,外国人児童生徒がこちらの規定に基づいて利用することはできない形になっております。
ただ,5ページに記載しております35条においては,「学校その他の教育機関における複製等」に関して定められており,教育を担任する者及び授業を受ける者は,必要と認められる限度において,公表された著作物を複製することができるとされております。
この「教育を担任する者」については,実際に授業を行う先生だけではなく,指示を受けて学校の先生の補助をしている方や,ボランティアの方等が行う場合も含めて考えることができます。
こちらについて,6ページの47条の6の第1項第1号において,35条第1項又は第2項に基づいて複製を行う場合には,翻訳,編曲,変形又は翻案をして複製することが可能と規定されております。35条第1項においては,「授業の過程における使用に供することを目的とする場合」と規定されておりますので,外国人児童生徒に対して,例えば教科書に翻訳を書き込んでそれをコピーしたものや,やさしい日本語を横に書いてそれをコピーしたもの等を,プリントとして渡す等することが,35条と47条の6に基づいて可能ということになっております。
ただ,いずれも必要と認められる限度において複製し,利用することが可能ということになっておりますので,その点については留意が必要となっております。
長くなりましたが,以上でございます。
【齋藤座長】 ありがとうございました。前回宿題とさせていただいたことについて整理して御説明いただいたわけですけれども,何か御質問ございますでしょうか。小澤委員,お願いします。
【小澤委員】 著作権法第35条について,今年の1月に施行された著作権法の一部改正によって,デジタル形式による複製に関しての取り決めが行われました。制度が変更された点について,少し補足して説明していただけますでしょうか。
【齋藤座長】 お願いいたします。
【季武課長補佐】 その点については,次回に御説明させていただきます。
【齋藤座長】 デジタル教材との関連での御質問でしょうか。
【小澤委員】 教室で使うものを紙でコピーする場合は,従来35条を用いておりますが,それをデジタル化し、公衆送信する場合について,補償金の支払いという制度が新設されたのではないかと思います。それについて,詳しく御説明いただきたいと考えております。
【齋藤座長】 紙媒体ではなくデジタル化されたもののコピーについてですね。
【小澤委員】 デジタル図書化する場合の制度が変更されているかと思うのですが,それについて,補足して説明していただけるとありがたいです。
【齋藤座長】 ありがとうございます。詳細についてはまた次回ということでよろしいでしょうか。
【小澤委員】 一部改正された著作権法が1月に施行されましたが,実際にデジタル図書化を申請しようとしたところ,まだ運用されておりませんでしたので,その状況を説明していただけるとありがたいです。
【季武課長補佐】 確認のうえ,次回御説明させていただこうと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
ほかにはよろしいでしょうか。河村委員,お願いいたします。
【河村委員】 御説明のところで少し省かれたのかと思いますが,37条の御説明のときに「視覚障害者」とおっしゃっていましたが,条文には「等」が付いておりますので,その点について御留意いただきたいと思います。
著作権法第37条と第37条の2においては,視覚障害者等と聴覚障害者等に分けて条文化されており,表現としては,「視覚著作物」と「聴覚著作物」に分かれております。デジタル教科書に最初から音声が含まれている場合,聴覚障害者等にとっては「聴覚著作物」になり,視覚障害者等にとっては「視覚著作物」になるという,少し複雑な状況になっているので,37条及び37条の2の解釈について,もう少し詰めていく必要があるのではないかと考えております。
【齋藤座長】 御意見ありがとうございました。この解釈に関して,この会議でどこまで議論できるか分かりませんが,次回,少し整理して情報を提供していただけるということですので,よろしくお願いいたします。
それでは,御発表に移らせていただきます。資料3及び藤堂様からの配布資料に沿って,音声教材について,藤堂様とBurke様から御発表をお願いいたします。
【藤堂氏】 こんにちは。NPO法人エッジの藤堂と申します。
ディスレクシアという,発達障害の中の学習障害の中でも読み書きの困難に関して,20年前からNPOを運営しております。私自身が外国で育ったので,外国に行って新しい言語を学ぶときの難しさを非常に多く経験しております。また,息子が16歳のときにイギリスに留学いたしまして,そこでディスレクシアの傾向を見つけていただきました。そのときに,音声を提供していただいたことで,本の文字と自分の中でマッチングしながら学習することができ,非常に力が伸びまして,今はタイのチュラロンコン大学で建築家として教鞭をとっております。そういうチャンスをできるだけ多くの人に与えたいと思い,様々なサポートを行い,ツールを作っております。
ディスレクシアのメカニズムについて,先ほど「同期化するのが良い」というお話がありましたが,人間は生まれた時から,耳から入ってきたものを音として捉え口でまねするということと,その音が入ってきたときに起きている事象から意味を捉えるということをしております。その後,5歳ぐらいになると記号としての文字が出てきて,その文字と音を結び付けるということを学ばなければならないのです。脳の様々な部位を駆使して,その回路を作っていくという作業をするのですが,ディスレクシアの人は,もともと,その音と文字をマッチングする力が大変弱いということがあります。その上,目がうまく使えない,目から入った情報が揺れてしまう,色によって読みの困難さが変わってしまうといったことや,入ってきた情報を想起して書こうとしたときにうまく書けないといったことがたくさんあります。
もう一つ忘れていただきたくないことがございます。音と文字を結び付けて操作する力を「デコーディング」と言うのですが,配布資料の3ページ目,「読めないが読解はできる」と書いてあるところにございます表における右上の部分は,文字を読みながら理解することができる,ということで多くの方が当てはまります。右下の部分は,文字は読めてしまうけれども,なかなか意味が捉えられないことを示します。音と文字だけを同期して,そのコンテンツに行けない状態ですと,それに近い状態になるかと思います。
そして,左上の部分がディスレクシアの場合です。文字から意味を捉えるのは難しいけれども,聞いたり体験したりして物事を理解し,そしゃくして自分のものにすることができる人たちです。左下の部分は,読むことも理解することも難しいことを示します。こうした特徴の違いにより,対応は異なります。
外国人児童生徒に関しては,音と文字をマッチングさせる能力が,機能的には問題ない場合でも,日本語の文字と音に関しては,環境的な要因により備わっていない状態で日本に来ていることが多いのではないかと思います。
私たちが作っているのはBEAMというソリューションです。これは,人工音声で作っています。初めに耳に入る音が正確なものとなるように,株式会社エーアイが製作している「声の職人」という製品を用いつつ,読み上げのピッチやイントネーション,読み間違えている漢字を正確に直しております。
MP3に落として提供しておりますので,ICレコーダーやPC等,様々な機器で使用できます。クラウド上に置いてありまして,そこからダウンロードできるようにしてあります。
資料の5ページ目について,現在,教科書バリアフリー法の範囲で提供している児童生徒は外国人とは限らないため,「外国につながりのある児童生徒」と言わせていただいています。今BEAMに登録している児童生徒は,外国在住の日本人学校に5名いらっしゃいました。ジュネーブ,ブリュッセル,北京,香港,ジャカルタの日本人学校から申請がありました。それから,日本中華中学校で4名の登録がありました。日本の学校に籍がある外国人が6名います。また,日本の学校に籍があり,国際結婚していて片方の親が日本人であるという児童生徒が6名いらっしゃいます。特にお母様が外国人だと,とても日本語習得に苦労しているということが分かっております。さらに,日本生まれの外国人が10名いらっしゃいます。
資料の6ページ目について,BEAMを提供して良いかどうかの判断基準として,まず日本の教科書を持っているということが挙げられます。それから地域と学校名が明確であることや,その地域の教科書を使っていると分かるということが挙げられます。外国人等で,大人になってから「使用したい」という方もいらっしゃいますが,学習のための教材ですので,児童生徒であるということも基準として挙げております。さらに,読み書きの困難さを具体的に記述しているかどうかも基準としております。「来日したばかりなので読めません」ということではなく,日本語の学習をしてきて,コミュニケーションはとれるが,学習において困難があるということが分かった上で,提供をしております。
資料の7ページについて,外国人に使う際のBEAMの強みは,音声だけであるということかと思います。学習の基本である語彙の習得や読みの確認等を,教科書さえあれば手軽にできます。
また,MP3仕様なので,どのような機器──ICレコーダーやタブレット,電子辞書等,ありとあらゆるものに入れて使うことができるため,経済的な負担が少ないということも挙げられます。外国の方といっても,裕福な方もいれば,そうでない方もいらっしゃいますので,それも大事な点だと思います。
さらに,操作が非常に単純です。教えなければいけないというものではなく,ダウンロードして,再生ボタンを押せば音が出てくるというものなので,外国籍でマニュアルが読めない場合や,保護者や支援する人が不在で勉強を見てもらえない場合でも,一人で使用が可能であるということが強みとして挙げられるのではないかと思っています。
資料の8ページ目に,外国につながりのある利用者から聞いた利用理由を記載しています。「読むのが遅い」,「読むことと理解を同時にできない」,「飛ばし読みが多い」,「漢字が苦手」「難しい漢字が読めない」,「音読が苦手」,「アクセントが分からない」,「逐次読みをしてしまう」等の理由が多く言われています。そういったことを確認した上で渡しております。
次に,資料3についてお話しさせていただきます。日本で生まれた,又はずっと日本に住んでいるが,日本語や学習に困難のある外国人に対して学習支援をしているところに,10月の1か月間,南米からの生徒がいらっしゃって音声教材を使いたいということで,少し実験をしていただきました。
前提として,環境については,BEAMで学習支援を行っている清長さんという方の自宅において,iPadのみで再生しました。閑静な住宅街で,中学校の3年生と2年生に,部屋も時間も分けて,一斉にそれぞれの教科書を見ながら聴取してもらいました。
対象は,日本滞在が14年から15年と長いにもかかわらず日本語での学習に困難さを見せている外国につながりのある5名の中学生です。母語の読み書き,聞く話す,それから日本語の読み書き,聞く話す,さらにアルファベットの読みを事前に聞き取り調査しました。ただし,本来ディスレクシアというのは,きちんとしたアセスメントがあるのですが,そこまでは行っていません。
期間は10月の16,23,30,そして11月6日の4回,18時から21時の間ということで,一斉にそれぞれの教科書を見ながら聴取いたしました。
内容については,中学生の教材は分量が多いので,子供たちの負担を考え,『故郷』の一部と『平家物語』の一部を聞いてもらいました。
結果は,3ページ目に表になったものを付けてございますので,見ていただければと思います。もともと全く学習ができないというわけではなく,コミュニケーションをとれる程度の日本語は習得しているけれども,「周りに漢字を教えてくれるような人がいない」とか,「小学校の間は音読の時間があるけれども,中学校になると音読の時間がない」という事情があり,また,『平家物語』に出てくる語彙をふだん使っていないということもあって,なかなか理解できないところが多いです。BEAMを使用したことで,読み間違えが非常に少なくなる,詰まりが少なくなる,掛かった時間が少なくなるといった効果が見られました。
この子たちはディスレクシアかどうか分かりませんが,ディスレクシアの3つの特徴であるスピードと流暢さと正確さにおいてそれぞれ効果が見られたということは,ディスレクシアのために作ったものも,外国につながりのある子たちに非常に役に立つのだなということが,非常に短い期間のことですけれども分かりました。
資料3の2ページ目の「本人たちの感想」について,「いつでも好きな時に聞けるようにしてくれたら助かる」,「中学校では音読の機会が減るので漢字の読みを知ることができるので助かる」,「内容の理解や登場人物の関係性がわかった」といったことが挙がりました。文字を追っていると,内容まで理解することができないということがあります。学習するうえで内容を理解するということは非常に大事ですので,聞いて,文字とマッチングしながら,「内容理解につながった」という感想が挙がったことから,大事な効果が得られていると感じました。
では,続いてBurkeさんにお話しいただきます。
【Burke氏】 本日はお呼びいただき本当にありがとうございます。私は揖斐川町でALTとして働いております。外国出身の生徒や、外国から日本に来た親を持つ児童生徒がいる教室では,恐らくどこでも同じ問題があります。
私はオーストラリアの首都キャンベラで,18年間連邦公務員として働いていました。特別支援の関係では,1992年に障害者差別禁止法が制定されたことを受け,特別支援を必要とする子の保育が始まったため,その全国的な計画に携わっていました。
また,喫煙や飲酒に関する全国の会議にも出席していました。様々な問題に関して,「誰がサポートできるのか」,「このサービスは誰が使うのか」といったことを研究していました。
平成17年に日本に来日しました。日本語が話せず,非常にショックでした。そのとき次女は5歳くらいだったのですが,幼稚園の先生は,彼女に対して日本語のみで話しました。その後,彼女は家で日本語のトレーニング用CDを使い,自分のヘッドホンで勉強しました。6週間経つと,彼女はカフェでシナモントーストやコーヒーを日本語で注文できました。5歳の子どもが,CDを使うことで,自分の力で学習できたことからも,音声教材は非常に大切であると言えると思います。
娘たちが学校に通うようになると,音読の宿題が出ました。先生たちから,娘たちの音読を聞くようお願いされましたが,学校外では音読や読み聞かせのサポートがなく, CDもなく,私も夫も教科書は読めなかったため,娘たちのサポートができませんでした。
そのため塾へ行きましたが,ほとんどの大手の塾は外国人児童生徒をどのように受け入りたら良いかが分からなかったので,小さな個人塾が頼りでした。ただ,塾の先生の中には,自分独自の教育方法を持っている方もいます。一般的な教育システムを踏襲する、学校や大手の塾が課題の1つであると感じています。
娘たちの塾の先生は,最初の2年ほどは英語と日本語の両方を使いながら娘たちに教えました。その後,娘たちは日本語で勉強しました。しかし,私の長女が日本に来て、小学4年生の2学期にクラスに入ったときには,既に漢字600字程度,学習の遅れをとっていました。この遅れを取り戻すことは非常に難しいことでした。
小学校を卒業した後も困難がありました。多くの外国人生徒は,国・公立高校の試験で合格できないため,偏差値のあまり高くない私立学校に行きます。これは残念なことです。オーストラリアは多文化社会ですので,様々なサポートがあります。
資料の4ページに記載していますが,私は来日してからの14年間,幼稚園から大学まであらゆる教育場面で授業をし,日本における英語教育について幅広い理解を得ようと試みています。
長女が大学に合格したとき,奨学金をもらいました。しかし3か月後,娘が日本で生まれていないことから,「申し訳ありませんが,授業料をお支払いください」と言われました。外国籍の児童生徒が既に日本で暮らしている場合,試験や時間,お金等,様々な障壁があります。私の研究の目的は,資料の5ページ目の図のように,サポートの方法が分からないために生まれている障壁をなくすことです。
外国人児童生徒や,ディスレクシア,自閉症の子たちは,サポートを必要としています。先生たちはサポートしたいと考えています。時には,通常の教室以外の教室で授業が行われる事もあります。通常の学級であっても,多くの日本人の子供はサポートを受けられますが,私の娘たちのように外国人児童生徒である場合,十分なサポートを受けられないまま通常学級に入り,他の子供たちと同じように教育を受けることも多くあります。すると,どんどんと学力に遅れをとってしまうのです。
資料の6ページに書いておりますが,こうした障壁をなくすに当たって,音声教材は大切です。また,「クラスの一員だ」と感じられるようにするためには,教科書や教材等について,デジタルとアナログの両方が必要です。
あるとき,中国語しか理解できない子がいるクラスで,文部科学省作成の小学校外国語活動用教材である「Hi, friends!」のDVDを使いました。外国のじゃんけんを紹介する画面で,日本人の子供たちは皆,「中国のじゃんけんをやりたい」と言って,皆でやり,その後,様々な国のじゃんけんをしました。その子には友達ができ,非常に喜び,教室で安心感を覚えました。
ビデオは非常に大切です。時々,ビデオやリスニング・テストの音声に,本物の大人の声が使われていますが,これは子供たちにとってはおもしろくないので,可能であれば,本物の子供たちの声を使ってほしいと思っております。
また,教員等へのサポートも必要です。オーストラリアでは,多くの学校で,1年生から3年生までは毎日,ボランティアが読み聞かせのサポートをします。私もこのボランティアをやっていました。この活動では,子供たち一人一人に対して本を読むためのサポートを行います。
日本にもボランティアのチャンスは多くあります。高齢者の方で,サポートをしたいと考えている多くの人々がボランティアに参加できることが,非常に大切だと思います。
私の研究対象は,資料の7ページに記載をしている障害です。私の家族は約60年前から,こうした障害のある人々の教育に関する研究をしていますし,私にもこうした障害があります。
教室で外国人児童生徒が感じる学習上の困難は,障害がある児童生徒の困難と同じように大きなものです。私自身,普段は娘が日本語の通訳をしてくれているので,本日のように日本語で長くスピーチをしていると疲労感を覚えます。
音声教材や学習者用デジタル教科書等であれば,誰でも使うことができます。外国の子もADHDの子も,ディスレクシアの子も,ディスカリキュリアの子も,ディスグラフィアの子も、ディスプラクシアの子もサポートできます。
通常学級であっても特別支援の学級であっても,特別な配慮を必要とする子供が,他の子供たちと同じように学習できることが非常に大切です。
資料の8ページは,2週間前に名古屋で行われた全国語学教育学会で発表したポスターです。教育期間による喫煙率の違いを示しています。中学校段階までで教育期間を終えて大人になった場合の喫煙率は,男性が約68パーセント,女性が約49パーセントです。一方,日本の全人口における喫煙率は,男性が約48パーセント,女性が6.6パーセントです。これは日本にとって非常に重要な問題です。
資料の9ページには,同じく全国語学教育学会で発表された宮崎大学の櫛山桐加先生のポスターを載せております。
説明は以上となります。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
今御発表いただいたお二人に御質問等ございますか。
そうしましたら,次の御発表もお聞きいただいた上で,何か思い当たるようなことがございましたら,御質問いただければと思います。ありがとうございました。
それでは,資料4に沿って,デジタル教科書について,黒川様と大関様から御発表をお願いいたします。
【黒川氏】 皆さん,こんにちは。一般社団法人教科書協会から参りました光村図書出版の黒川と大関でございます。本日は学習者用デジタル教科書の現状と課題についてお話しさせていただきます。現在も学習者用デジタル教科書は発行しておりますが,自治体や学校,保護者の皆様には,新学習指導要領の実施に伴って来年の4月から徐々に広まっていくのではないかと思います。まず本日は,学習者用デジタル教科書についてあまり御存じない方もいらっしゃると思いますので,先ほど季武課長補佐からも御説明が多少ございましたが,確認をしつつ,実際に国語の学習者用デジタル教科書の紙面を御覧いただきながら,お話しさせていただきたいと思います。
さて,本日の参考資料に記載されておりますが,昨年の5月,国会にデジタル教科書の関連法案が提出され,学校教育法と著作権法,学校教育法施行規則の改正が行われました。これにより,学習者用デジタル教科書が制度化されました。
資料4の2ページ「制度化されたデジタル教科書」について,まず,紙の教科書と全く同一であることが,学習者用デジタル教科書の条件になっています。そのために検定が不要となっております。また,紙の教科書との併用制となっております。
それから,「デジタル教材と一体的活用」とありますが,こちらについては,4年前に開催されました「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」に私も出ておりまして,デジタル教科書とデジタル教材の一体的な活用が指導上有効であるという議論をしてまいりました。
そして,特に重要な要素として特別支援への配慮が挙げられます。全ての子供たちが使えるものにしていかなければならないということです。ただし,今回は有償での販売ということで,できる限り低廉な価格で提供すべきであるということが国会等でも議論され,決議されました。
いま一度,資料の3ページで紙の教科書と学習者用デジタル教科書・デジタル教材の関係を確認させていただきます。学習者用デジタル教科書は,法律の中では「教科用図書代替教材」と言われております。紙の教科書と学習者用デジタル教科書の大きな違いは,無償か有償かというところにあります。また教科用特定図書とも位置付けが異なり,学習者用デジタル教科書は,実際にお金を払って購入いただく必要があります。
制度の範囲については,先ほど季武課長補佐からもお話がありましたので省略いたしますが,特別支援においては教育課程の全部において学習者用デジタル教科書の使用が可能になっております。また,外国人児童生徒等の日本語に通じない児童生徒についても,教育課程の全部において学習者用デジタル教科書の使用が可能になっております。
また,学習者用デジタル教科書は授業で使っていただくことが前提になっていますので,タブレットの端末等,1人1台の設定が必要で,この整備面が大きな課題になってまいります。
それから,著作権に関しても先ほど御説明がありましたので,詳細は省かせていただきますが,現時点では,紙の教科書と同様の特例措置がなされており,今後状況に応じて対応していくということになっております。
以上が,学習者用デジタル教科書の制度化の概要なのですが,紙の教科書の内容をそのまま記録した学習者用デジタル教科書だけではなく,本日も議論になっております音声や,動画,教材ワーク等,さらに教科書に付いているQRコードの参照先等の教材も併せて使っていただくことが望ましいのではないかということで,来年から販売される学習者用デジタル教科書の多くは,教科書準拠のデジタル教材と合体したものを提供しております。学習者用デジタル教科書単体でも購入することができますが,全ての発行者が単体で作っているわけではございませんので,学習者用デジタル教科書とデジタル教材のセットが一つの基準になっていくのではないかと思っています。
一方,指導者用デジタル教科書(教材)については,学校現場に非常に多く導入されております。ただし,指導者用デジタル教科書は先生方に使用していただくものなので,学習者用デジタル教科書の範囲外の教材という扱いになっております。
資料の5ページを御覧ください。指導者用デジタル教科書は,既に小学校では56.6%,中学校では61.4%となっております。現状,高校は大変低調ですが,この数年で伸びてきております。1校に1つでも指導者用デジタル教科書が導入されていればパーセンテージに入ってまいりますが,現場で定着しているということが分かります。
資料の6ページを御覧ください。学習者用デジタル教科書の発行比率が今後どうなるのかについてです。来年度発行予定の学習者用デジタル教科書については,既に文部科学省から出ている教科書目録に記載されています。現在の学習者用デジタル教科書の発行比率は20%ですが,多くの発行者の努力により,来年度には94%となります。学習者用デジタル教科書を発行しないのは,主に生活科等,低学年の児童が使うものと限られており,来年度からほぼ全ての教科で発行されます。中学校も同じような傾向になるのではないかと思っております。
本日,教科書協会が最近作成しましたガイドブックをお配りしております。学習者用デジタル教科書とは何かということを少しでも御理解いただけるよう,制度的なバックグラウンド等についてやさしく解説をしており,学校現場や教育委員会等にお配りしています。
資料4の7ページを御覧ください。学習者用デジタル教科書の目的を記載しております。学習者用デジタル教科書の目的は2つあり,4年前の「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」のときから文部科学省において議論してきたことです。1つは「新たな学びの実現」です。新学習指導要領のテーマである「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を行うということが,ICTを活用して授業で使っていく上での大前提になっております。まず子供たちにアクティブになってもらうことが目的です。
もう一つは,特別支援の観点です。紙の教科書だけでは学習が困難な児童生徒を支援するために,「誰もが学べる」という前提を踏まえ,各教科書発行者がそれぞれ考えた上で学習者用デジタル教科書の制作を進めました。ただ,学びのツールとしての学習者用デジタル教科書は,特別支援だけではなく,この2つの目的をもった総合的な学習ツールとして捉えております。
1つ目の目的として挙げた「新たな学びの実現」について,この後,実際のものを見ていただきますが,子供たちは授業の中で直接,学習者用デジタル教科書にどんどん書き込んでいきます。資料8ページの写真のような個の学習もありますし,9ページの写真のようにそれぞれが端末を交換しながら学び合っていく対話的な学習もあります。写真の中には,一人で考え込んでいる子もいますが,実証授業ではこういった学びの姿を見ることができます。
資料10ページの写真を見ていただくと分かる通り,紙の教科書よりも書き込みがしやすいので,どんどん書き込んでいきます。書き込んでいくことにより,先生に決められた学びだけではなくて,児童生徒それぞれの発見に満ちたものが画面に残され,保存されていきます。そして,11ページの写真のように,自分が書き込んだ画面を大きな画面に映して,みんなに発表したり,考えてもらったりします。このような流れにより,新たな学びが生まれるのではないかと考えております。
そしてもう一つの目的として挙げた「誰もが学びやすい教科書」について,こちらも実際に御覧いただきますが,特別支援対応のカスタマイズ機能が付いております。学習者用デジタル教科書は,一人一人の子供に合わせて全て完璧にカスタマイズすることはできませんが,どのようにすれば誰もがより学びやすくカスタマイズできるのかということを考えながら,各発行者が制作しております。本格的な導入は来年が初めてですので,様々な観点から御指摘をいただきつつも,例えば文字,色等の視認性の向上や,大きさの変更,リフロー表示は,ほとんどの会社で実現しております。
また初回会議から「外国人児童生徒のためにも整備されると良い」と議論されている総ルビ表示に向けても,取組が行われています。それから,読むところをマーキングで示していくハイライト表示も機能としてあります。
最後の「機械音声読み上げ」については,その質も様々です。今回は多くの発行者がTTSにより制作しています。SSMLという方式によって制作するとより良いものができるのですが,とにかく来年の春に間に合わさなければならないということで,全力で進めております。
説明はこのぐらいにして,実際に学習者用デジタル教科書を御覧いただこうと思います。
【大関氏】 大関と申します。操作の都合上,座って説明をさせていただきます。
(学習者用デジタル教科書の画面をスクリーンに表示)
画面に映っておりますのが学習者用デジタル教科書です。紙の教科書と同一であるということが求められますので,紙の教科書と同じものが表示されております。こういったものが教科書の全ての単元について収録されております。
基本的な操作から簡単に説明させていただきます。その後,特別支援の機能について説明させていただきます。
まず,ページをめくることができます。左右の中ほどに矢印のようなボタンがありまして,そのボタンを押してめくったり,スマホ等で行うようなスワイプという指をなぞる操作でページをめくったりすることができます。
画面の下には数字のバーがあり, 「100ページを見たい」,「この単元の最後まで一気に飛びたい」,「もう一回,今のところに戻りたい」といったときに,ページを簡単に行ったり来たりすることができます。
それから拡大,縮小の機能です。こちらもスマホ等で慣れている方が多いかと思うのですが,簡単に拡大して見ることができます。以上のような機能は,親のスマホで慣れているのか,何も教えなくても,子供たちは簡単に操作していきます。
書き込みの機能としては,フリーハンドのペンで書いたり,マーカーを文字にぴったり引くことができたり,附箋を作ったりすることができ,それを消しゴムで簡単に消すこともできます。
このように簡単に書いたり消したりする機能が,子供たちが主体的に学ぶことにつながっていると言われております。
続きまして資料の12ページに記載されている特別支援の機能を紹介させていただきます。
(学習者用デジタル教科書の画面をスクリーンに表示)
学習者用デジタル教科書には大きく2つの画面があります。今御覧いただいているのは,教科書の紙面をそのまま表示しているものです。もう一つ,リフローと呼ばれている,紙面レイアウトに左右されず,文字そのものを大きくすることができる画面があります。それぞれの画面で特別支援の機能が実装されており,児童生徒にとって,「教科書の紙面で特別支援の機能を使った方が使いやすい,読みやすい」という場合は教科書紙面で,「リフローの方が使いやすい」という場合はリフローで学習できます。
まずは教科書の紙面をそのまま表示した画面で説明していきます。「サポート」というところに特別支援の機能がありますが,総ルビは全ての漢字にルビが振られますので,外国から来た児童生徒に対しては,有効な機能として使われています。
また,日本と台湾の地図が画面上にありますが,総ルビ機能を使うと,このような図版の中の文字までルビを振ることができます。
続きまして,視認性の向上についてです。まず明るさを調節する機能により,画面を暗くしたり,明るくしたり,自分の好きな段階で調節することができます。
それから,色の反転という機能により,黒の背景に白い文字,黒の背景に黄色の文字,緑の文字,といった変更が可能です。視覚等に障害のある場合は,どうしても画面がまぶしいという方が多いので,文字と紙面(背景)の色を反転表示することができます。しかし,写真を反転すると,ネガフィルムのようになってしまうので,写真等の部分は反転せずに,そのまま見ていただけるような形で実装しております。
また,見やすさの向上を図る機能として,色のカバーがあります。紙の本を読むときでも,カラーのフィルムを乗せると文字を落ち着いて読める方がおられるということで,黄色,緑,水色等のカバーの機能を用意しております。
次に,ハイライト表示です。表示をオンにすると,「ウナギのなぞを追って」というタイトルがハイライト表示されました。自分のペースでカーソルのキーを1回1回押すごとにハイライトを送っていくことができます。どこを読んでいるか分からなくなってしまう子供たちにとっては,自分が今どこを読んでいるかが明示的に分かる機能となっております。こちらも緑,シアン,マゼンタ等,自分の見えやすい色でハイライト色を調整することができます。
さらに,機械音声読み上げ機能があります。「聞く」というボタンを押すと,音声再生のモードになります。少し再生してみます。
(音声再生)
【大関氏】 このように,機械音声の読んでいるところがハイライトで表示されます。機械音声の再生には, OSやブラウザが提供している機能を使っておりますので,時に読み間違えてしまう場合があります。今のところは,「にっぽん」と読むのが正しいのですが,機械音声がそのまま読むと「にほん」となってしまう場合があります。教科書会社は,きちんと聞いてチェックして,この場合は「にっぽん」と読むようにコンテンツに指示を入れて,「にっぽんからまみなみに」という正しい読みの提供を目指しております。
画面の下の脚注の部分も読むことができます。
(音声再生)
【大関氏】 教科書で文字になっているところは全部機械で読み上げられるようになると使いやすいのではないかということで,図表に記載されている文字についても機械音声の用意をしております。
また,音声の読み上げ機能においては,速さを段階に合わせて変えることができます。プラスの7からマイナスの5まであります。一度プラスの7にしてみます。
(音声再生)
【大関氏】 プラス7は大分速いのですが,視覚に障害のある方々ですと聴覚優位のために「これぐらいでちょうど良い」,「とにかく早く情報量が欲しい」という方もおられます。もちろん,「ゆっくり聞きたい」という方もおられますので,読み上げの速度を遅くすることもできます。今マイナス1にしてみました。
(音声再生)
【大関氏】 先ほどお聞きいただいた標準的な速度での読み上げよりも少し遅くなっております。日本語に通じない児童生徒は,マイナス1や,マイナス2といった段階を選択して,自分に合ったスピードで読んでいただくことができます。
続きまして,こちらがリフローの画面です。教科書を大きなフォントで表示できるように再レイアウトしております。先ほどと同様に画面の下にバーがあります。87,88,89,90,という数字は教科書のページ番号を表しておりまして,92ページだと大体この辺りということが一続きで表示されています。タイトルのページから同じページに飛びましたので,リフローの画面とそうでない画面で同じ場所が表示されております。
紙の教科書と違う点として,文字の書体や太さ等を変えられることが挙げられます。今表示しているのはゴシック体ですが,教科書体,明朝体等に変更することや,文字を太くしたり細くしたりすること,文字の大きさを変えることが可能です。また,行の間隔を開けたり詰めたりすることができ,自分が読みやすい文字の大きさ,間隔,書体等で読んでいくことができます。
さらに,総ルビの機能の下では,振り仮名の色だけを変えることができます。本文の文字とルビの区別がつかない外国人児童生徒もいるため,ルビは明示的に色を変えて読むことができるようにしております。
また,先ほど通常の教科書の画面でお聞きいただいた音声読み上げの機能は,リフロー画面においても使用できるようになっています。
(音声再生)
【大関氏】 御覧いただいた通り,読んでいるところをハイライトしながら読み上げることも,リフロー画面でできるようになっています。
最後に,教科書の画面にもう一度戻ります。
学習者用デジタル教科書には様々な支援機能があり,基本的に,白と黒の反転した状態でもペンで書くことや,「マリアナの海」が分からなければ図に丸を付ける等,文章を聞きながら単語をチェックすることができます。こうした支援機能と,学習者用デジタル教科書が目指している学習の充実のための機能を両方同時に使っていただけることを目指して,発行者はデジタル教科書を制作しております。
私からの説明は以上となります。
【黒川氏】 今御説明した学習者用デジタル教科書とは別売りの形になりますが,デジタル教材には朗読の音声も入っております。教科書に取り上げられている作品を有名な方が読んでおり,そちら方が良いという方もおられます。
最後に,資料の13ページを御覧ください。学習者用デジタル教科書の普及促進の最大の課題として,現在,政府でも盛んに議論されている環境整備の問題が挙げられます。本来は,1人につき端末1台がベースになるべきですし,端末が揃うだけではなく,学校における無線LAN等の通信環境の整備等,多くの課題があります。
また,先ほどガイドブックを御紹介しましたが,自治体や学校への周知が進んでおりません。学習者用デジタル教科書とは一体何なのかということを,未だ十分には御理解いただけておりません。授業でどのように使用するのか等といった指導面も含め,周知は非常に重要な課題であると考えます。
もう一つ,現在,教科書発行者は,来年に向けて,学習者用デジタル教科書における機械音声再生等の機能の向上のため,日夜全力で取り組んでおります。人的な費用も含めて,低廉化にも取り組んでいるところです。外国人児童生徒等にも使っていただけるのであれば,公的支援としての無償化についても御検討いただければと思います。
以上で終了させていただきます。ありがとうございました。
【齋藤座長】 ありがとうございました。
それでは,質問をお受けしたいと思います。いかがでしょうか。
【河村委員】 特別支援を必要とする子供たちがリフロー画面を使用するに当たっては,ほかの児童生徒がリフローでない標準のモードで使っており,同じ教室でリフローモードを使っている子供がいるという場面が想定されますが,例えば先生が「脚注を見てください」,「巻末注を見てください」,と指示した場所に飛び,また元の画面に戻る等,教科書のあちこちを行ったり来たりしないと,授業についていけないのではないかと思います。特別支援の子供,あるいは特別の支援を必要としている子供が,紙の教科書では授業についていけないけれど,学習者用デジタル教科書を使うと確かに授業についていけるということになれば,学習者用デジタル教科書の無償化にもつながっていくのではないかと思います。
特別支援の機能において一番肝心なところがリフローモードなのではないかと私は思っているのですが,脚注等と元の画面を行ったり来たりできるようにするための工夫,専門用語で言うと「ナビゲーション」をどのように工夫しておられるのか,少し拝見できると有り難いです。
【大関氏】 御指摘の点は大事なところであり,課題であると認識しています。先ほど少し口頭でお話ししましたが,今教科書で開いているページに該当するところを,リフロー画面の下にあるページ数のバーを使って,行ったり来たりできるようにするという配慮はしております。
ただ,脚注や巻末注については,リフロー画面のどこに配置すべきか,また脚注等と本文を行ったり来たりさせるにはどうすれば良いのか,現在検討段階であり,特別な機能は用意しておりません。レイアウトの工夫等については,学習者用デジタル教科書を使用していただく中で,先生方からの御指導を受けつつ,改善を図っていこうと考えております。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
【黒川氏】 もう一点だけ,補足いたします。
【齋藤座長】 はい,お願いします。
【黒川氏】 本日,教科書の紙面をそのまま表示した画面で使用できる機能とリフロー画面で使用できる機能を御説明させていただきましたが,これらは必ずしも全発行者で実現しているものではございませんので,一例として捉えていただければと思います。我々は特別支援の専門の先生方にも入っていただきながら検討する中で,リフロー画面で御覧いただくよりも,通常の教科書紙面で位置を確認しながら拡大縮小できることを重視すべきではないかという御意見を受け,御紹介したような開発を進めました。来年以降,実際お使いいただいて,改めて最適な在り方を考えます。また,河村委員に御指摘いただいた,脚注等をどこに位置付けるかという点は大きな課題で,現在各発行者において工夫しているところですので,今後の課題とさせていただけたらと思っております。是非,御指導いただきたいところでございます。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
ほかに御質問ございませんか。小澤委員,お願いいたします。
【小澤委員】 本検討会議の主たる目標は,外国から来た子供たちに向けての教科書のバリアを解消していくということなのですが,その点に関して,教科書発行者においてデジタル化に当たりどういう努力をされているのか,あるいは外国人児童生徒等のことは念頭にはなかったのか,今後考えていくのかといったことをお聞かせいただいてよろしいですか。
【黒川氏】 是非考えたいと思っています。現在までの経緯としては,4年前にスタートしました「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議」において,デジタル教科書に関する議論が2年間掛けて行われました。その中で,デジタル教科書の制作はICT活用だけではなく,特別支援と一体化していくべきではないかという議論がなされ,ようやく各発行者が,この問題に取り組み始めました。例えば,これまで総ルビの機能に関しては,国語や道徳等については必要性が認識されていたものの,その他の教科についてはそれほど重視されていない等,発行者や教科によってまちまちでした。今回どこまでできるかは分かりませんが,各発行者において総ルビの機能に取り組んでおります。
また,先ほど御覧いただいた,ルビに色を付けることで,文字本体とルビを区別できるようにする機能にも取り組んでおります。まだ十分ではございませんが,研究されている先生方の御意見を賜りながら,現段階において,ここまで間に合わせてきております。導入されるのはこれからですので,是非,御指導いただきたいと思います。
視覚的な障害のある方や,ディスレクシア等については,相当,情報を集めて研究いたしました。音声読み上げの機能に関しても,発行者の枠を超えて,主な学習用語等の読み方を検討し,例えば,数式では「足す」「引く」なのか「プラス」「マイナス」なのかといった議論も行わせていただき,方向性を確定しました。まだまだ不十分な部分もあるかと思いますが,前に進めていきたいと考えているところでございます。
【小澤委員】 積極的な御発言で安心しました。恐らく学習者用デジタル教科書は来年度が元年になると思いますが,それに向けて,本当に頑張られているのだなという熱意を感じさせていただきました。ところでBurkeさんは,日本に来て縦書きの文章を読んだときに,どういった印象を受けましたか。
【Burke氏】 私は横向きでないと読みづらいです。ただ,娘たちは縦書きも横書きも読めます。
【小澤委員】 読めるようになったのでしょうか。
【Burke氏】 私が縦書きの文章を読むときは,紙を読む行の隣に当てます。そうすると読みやすくなります。
【小澤委員】 外国の方は横文字で育ってこられていることが多く,日本の国語の縦書き主義というのは,バリアの一つではないかと思われます。デジタルにすれば横書き,縦書きの変換が容易になります。ただし,現在,特別支援教育向けオプションで学習者用デジタル教科書に様々な配慮が取り入れられているところですが,新たに外国から来られる様々な方たちへの配慮となると,非常に大変な,一言では済まされないような様々な労力が必要になっていくのではないかと思われます。
そうした配慮が反映されて,無償で提供されるということが将来的には望ましいですが,現状は,時間の余裕がなく,現場も非常に大変な思いをされているかと思います。ですから,先ほどエッジの藤堂さんから御報告されたような様々なボランティア,あるいは団体が協力し合って,教科書発行者と連携し合うことが,とりわけ多様なニーズを持つ外国から来られた方たちに配慮・対応するためには必要ではないかと思いました。
それからもう一点,質問がございます。以前関西で開かれました,デジタル関連の催しに出席したときに,教科書発行者がそれぞれのブースで学習者用デジタル教科書を御発表されていました。その中で,国語の教科書の分かち書きに取り組まれて,PDFという形で,別の媒体ではあるけれども提供しているということを聞きました。とりわけ高学年で入ってこられた外国人児童生徒の方たちにとっては,日本語が文節ごとに分けて表示されていると,非常に分かりやすいという意見も聞きます。分かち書きの機能について何か配慮されているというお話も聞いておりますが,詳しく伺えればと思います。
【黒川氏】 紙の教科書そのものも小学2年生までは分かち書きになっております。また,リーダビリティ,読みやすさを重視して,3年生以降についても配慮をしております。現在,光村図書の場合,1年生から4年生の学習指導書には分かち書きのデータ(PDF)を同梱しております。ただ,5年生,6年生には用意されていないという御意見もあると思いますので,来年度からは1年生から6年生まで全て同梱できるよう用意しており,学習者用デジタル教科書にもこれを搭載いたします。
それから,ある発行者では,自動的に分かち書きになるような研究もされています。その正確性について検証しているわけではありませんが,前向きに進んでいるということは御理解いただけるかと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございます。では金森委員から,お願いいたします。
【金森座長代理】 アーレンシンドロームへの対応ができている点は良いのではないかと感じました。分かち書きが将来的にできるということも聞いて安心しているのですが,音声については,聞く限りでは様々な問題があるのではないかと思います。機械音声でも,高い音声を使うと,非常に聞きやすいという児童もいます。そういうことを考えられているのでしょうか。また,アクセント等がおかしいところも全て直した上で提供されているのかということもお聞きしたいです。さらに,将来的には人の声を入れることができるのかどうかということと,リフロー機能の場合,全体を俯瞰するような機能を持たせることができるのかということもお聞きしたいです。加えて,特別支援の機能を見せていただく限りでは,非常にマルチメディアデイジー教科書と似ているところがあるのですが,将来的に連携していくのか,それとも連携せずに全て学習者用デジタル教科書で作られていくのかについても知りたいです。
最後に,私が聞いている限りでは,発行者によって再生アプリケーションと言いましょうか,ビューアーが違っており,例えば光村図書のデジタル教科書を使って,今度,東京書籍のデジタル教科書を使おうと思ったら,もう一度買い直さなければいけない等,そういうところがあると聞いているのですが,将来的に1つのビューアーで,同じプラットフォームで作られる方向になるのかということも知りたいです。
【齋藤座長】 今のことについて,御説明お願いできますか。
【黒川氏】 たくさんございましたので,まずビューアーの件をお話しします。
【大関氏】 では,まず機能について私の方から御説明いたします。
機械音声に関して,先ほどお見せしなかったのですが,声の高さ,低さを調節できる機能を用意して,来年提供しようと思っております。「男性の声のように聞こえる」,「女性の声のように聞こえる」等,段階を分けて,声の高低を選んでいただけるような形で,できるだけ聞きやすいものにしていきたいと思っております。
また,先ほどお話ししたように,読み間違いの件に関しては,一度全て読み間違いがないかをチェックした上で,読み間違いであった場合は,きちんと教科書のルビと同じ読みに直すという作業を行っております。
リフロー画面において全体を俯瞰する機能については,理解しにくいかもしれませんが,リフロー画面の下にページのナビゲーションのバーがあり,単元が何ページから何ページまであって,そのうち今は3分の1ぐらい,あるいは半分ぐらいのところにいるということや,何ページにいるということが視覚的に分かるようになっております。
【黒川氏】 技術的な御説明は以上になります。
規格が統一されていない点については,これまでも多くの方から御指摘をいただいており,教科書協会でも委員会を作って議論をいたしました。公正取引の面からは,各発行者に対して規格の統一を強制できないという事情もあり,業界のガイドラインにおいては「特別支援機能には最低限こういった機能を入れることが望ましい」というトーンを示し,各発行者で取り組んでいただいた経緯があります。
また,ビューアーはお皿,コンテンツはそのお皿に盛るものだと考えていただければと思うのですが,今回の学習者用デジタル教科書は概ね同じようなお皿に乗っていると考えてよいと思います。発行者ごとに大きく方向が異なっているわけではありません。現在,各社とも独自のブラウザを使う形もありますが,IE,Edge,Chromebook等,様々なインターネットのビューアーで御覧いただけるように,ブラウザ形式で作っております。その点に関しては各発行者において共通性がありますので,通信環境の整備が進み,国が進めているクラウド型のシステムになりますと,そこに収れんされ,自ずと調整が進んでいくのではないかと思います。
規格統一の議論は難しく,デファクトスタンダードといって,昔のビデオのベータ形式とVHS形式の規格争いのように,競争の結果,一つの規格が市場を席巻してしまうという標準化もあるのですが,学習者用デジタル教科書の場合はそれには見合わないのではないかと思います。
一方で,デジュールスタンダードと呼ばれるような国際規格,ないしは発行者や各業界等で議論する中で形成されるフォーラムスタンダードがあり,いずれも国からの協力を頂きつつ,民間でフレームを作っていくという標準化のスタイルがあろうかと思います。学習者用デジタル教科書は現状スタート地点におりますので,まだ市場が形成されておりません。令和6年や7年が,次の教科書改訂期になりますが,ここまでに国による環境整備も整ってまいりますし,市場においても「こういうものが良い」という議論になっていくのではないかと予想されます。「それでは遅過ぎる」という御意見があることも重々承知しておりますが,現在答えられるのは,そこまででございます。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
【Burke氏】 1つ質問がございます。
【齋藤座長】 どうぞ。
【Burke氏】 資料の10ページについてです。10ページの写真に写っている3つのiPadの背景画面は白くなっていますが,児童生徒が使用するときには,自分の読みやすい背景色で見ることができます。しかし,先生が研修を受けるときは,背景色が常に白のため、他の背景色を使うという考えが先生にありません。教室では,黒板を見るときは何が書いてあるか分かるけれど,白いワークシートでの作業になると何が書いてあるか理解できず,また書くこともできない,という児童生徒をよく見かけます。そういった児童生徒への配慮をお願いできればと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございます。背景色を変える機能は既に登載されているので,先生方がその機能を十分に理解して運用できるようにという,先生方のトレーニングの問題かと思いました。
【Burke氏】 そうですね。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
それでは,様々な議論をしていただきましたが,今後,本検討会議として,議論をどのようにまとめていくかということを考えなければなりません。これから少し自由討議の時間を取りたいと思っておりますが,その前に,事務局から今後の議論の進め方について御説明をお願いいたします。
【季武課長補佐】 今の予定では,次回,第4回で最終回ということを考えておりますので,事務局にて,今回までの議論を踏まえて,一旦,報告書の素案を作成させていただきます。本日お配りした資料1に今回の議論を盛り込むとともに,これまで会議の中で御発表いただいた内容等,基礎的な情報も盛り込んだ形で報告書の素案を作成させていただきまして,次回の会議までに委員の皆様に御確認いただいた上で,次回の資料とさせていただくことを予定しております。
次回の会議は,報告書の素案を基に議論を進めていただこうと考えております。どうぞよろしくお願いします。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
それでは,今のことを念頭に置きつつ,今後の検討の方向について,あるいは,本日の2団体からの御発表を受けて御意見など頂ければと思うのですが,いかがでしょうか。土屋委員,いかがでしょう。
【土屋委員】 本日は貴重な御発表,本当にありがとうございます。デジタル教科書を初めて実際に拝見いたしました。本当にすばらしい機能が入っていると思いました。現段階では,学校で購入をして,学校の中のみで使用することになっているかと思うのですが,先ほど藤堂さんからもお話がございましたように,中学生になると学校で音読する機会が減ってしまいます。読めると理解が深まるのですが,先ほどBurkeさんからもお話がございましたように,家で読む練習をするにしても,一緒に読んでくれる人がいないことも多くあります。そうなったときに,学習者用デジタル教科書を児童生徒が持ち帰り,学校の中だけでなく家庭の中でも,デジタル教科書の機械音声に沿って練習をする,そんな環境ができると本当に有り難いのではないかと思っております。
機械音声による読み上げ機能は,技術的に非常にすばらしいと思う一方で,音読をする場合には,例えば感情を込めて読む,抑揚を付けて読む等といったところが,現段階ではまだ難しいのではないかと思っております。大変御苦労されているところだとは思うのですが,今後,人間に近いような読み方を,デジタル教科書に搭載していただけると大変有り難いと思っております。本日はありがとうございました。
【齋藤座長】 ありがとうございます。では築樋委員,いかがでしょうか。
【築樋委員】 たくさんの情報を頂いてありがとうございました。まず,様々なことが動いているということがよく分かって,有り難く思いました。ただ,実際に現場で,日本語が分からない子供たちや,日本語に困難がある子供たち,そしてその保護者にどうやって伝えていくか,どのように活用していくかと考えたときに,例えば音声教材は無償で,家庭でも使うことができます。一方で,デジタル教科書は教科書と同じようなもので,非常に活用がしやすく,学校の中で使うことはあり得るかもしれないのだけれど,家へ持ち帰ることができないことや,有償であるために公的なところでお金を掛けていかなければならないこと等を考えると,良いものを頂いても,それをどう活用していくかというところについて少しハードルが高いものもあるのではないかと思いながら話を伺いました。
それからもう一つ,本日,学習者用のデジタル教科書の費用についてはお話がなかったのですが,例えば何教科もの教科を,それぞれの教科書発行者から購入する,あるいは購入する学習者用デジタル教科書のプラットフォームが違うというようなときの費用については,今までどのような議論がなされてきたのかということについても少しお伺いしたいと思いました。
【齋藤座長】 ありがとうございます。黒川さんからの御説明では,廉価でというお話もありましたが,もしイメージがおありでしたらお願いいたします。
【黒川氏】 価格が未定の発行者もございますので,詳細な価格は申し上げられませんが,おおむね紙の教科書の価格と同じか,少し上くらいの価格になっております。弊社の場合,小学校国語ですと1学年800円,それに教材が付くと1,400円です。ビジネスとは考えずに,できる限り廉価で御提供させていただいております。ただし,価格は発行者により様々でございます。
それからもう一点,学習者用デジタル教科書を御家庭でも使用できるようにとの御指摘をいただきましたが,これまでも保護者の方も個人で購入できるようにしてほしいという御要望を多く頂いておりましたので,発行者によって異なるところもありますが,おおむね個人単位でも御提供できるようになっております。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
それでは,犬飼委員,お願いいたします。
【犬飼委員】 本日は御発表ありがとうございました。私も発行者の立場でこの検討会議に参加させていただいていますので,先ほどの小澤委員からのお話にもあったように,外国人児童生徒にも対応した学習者用デジタル教科書の製作に当たっては,現状に照らしてどのような形が一番望まれるのかというところに対応していく必要があると感じています。発行者の立場で一言言わせていただくと,先ほど黒川さんからもお話がありましたけれども,全体としてICT教育が広まっていく中で,外国人児童生徒に限らず,特別な配慮を要する児童生徒等にも学習者用デジタル教科書を使っていただき,様々な御指摘をいただくことで,さらに精度が高く,使いやすいものへと改善されていくのではないかと思っております。
【齋藤座長】 ありがとうございます。では井阪委員,お願いできますか。
【井阪委員】 御発表ありがとうございました。藤堂先生のお話,とても共感しながら聞かせていただきました。
デジタル教科書については,私の市では導入が進んでいないのですが,私がたまたま研修会講師で行かせていただいた大阪の北部では,ほとんどのクラスに導入されておりました。そこで「こんなふうに使います」と教えていただいたときに,これを使って自己学習できる状態になれば,子供の能力が非常に伸びるのではないかと感じることがよくありました。早くタブレットが1人1台になって,紙の教科書は学校に置いておけるようになると良いのではないかと感じております。
また,学習者用デジタル教科書の背景色と文字色を変えられる機能について御説明いただいたときに,当初「赤,緑,青は見えにくい子がいるよ」と思っていたのですが,実際に画面を見せていただくと,色を非常に精選していただいたのかなと,感激しながら拝見しました。
あとは,先ほども御指摘がありましたが,家に持ち帰る等,家庭学習として使える条件やハードルを低くしていただけると有り難く思います。ありがとうございました。
【齋藤座長】 ありがとうございます。
河村委員,お願いいたします。
【河村委員】 先ほど,デジュールスタンダードであれば,その規格で全体が固まっていくので良いかもしれないというお話もあったかと思うのですが,例えば分かち書きについては,今ISOに,EPUBのアクセシビリティに関するISO化を諮っているところですが,ISO化に大体見通しが付きましたので,引き続きJIS化も行う予定です。JIS化を行うと,JISの中で分かち書きの手法というのが確定します。教科書業界において公正取引委員会の関係があるということであれば,例えば文部科学省の方から,「JISに沿って」等,ある程度の基準を示すことが望ましいのではないか思います。そうすることによって,それぞれのブラウザと製作者ごとに食い違うということがなくなっていきますので,規格等の整備状況をにらみながら,課題を収れんさせていくことが特に必要なのではないかと思いました。
【齋藤座長】 ありがとうございます。では小澤委員,お願いします。
【小澤委員】 デジタル化されると,時間と空間を超えて広まっていくし,また作るときも連携ができるという利点があると思いますので,是非,我々や,あるいは留学生等外国につながりのある方たちとも連携していってほしいと思っています。
それから,この検討会議の趣旨とはかけ離れておりますが,一昨年,ブラジルに行って,海外の大学の日本語学科と連携して,日本国内の外国人の子供たちの学習支援ができないか模索をしてまいりました。ブラジルには, 190万人程度の日系人社会がありますが,その方たちの中でも,学習に便利な音声付教材への需要があります。今は,検定教科書をデジタル化しているということもあり,国内需要を考えられていると思うのですが,世界全域をにらんでいただくと,恐らく300万人ぐらいの日系人がいて,その中でもこうした教育ツールを熱望されている方たちが多くいらっしゃると思います。
今後,国際規格に依拠して,デジタル化を進めると,世界各国においてウェブブラウザで見られるようになります。そうすれば、教科書発行者の作ったすばらしい学習教材コンテンツを,世界の子供たちや日本に興味を持つ様々な方たちも使っていただけると思います。そういうグローバルな構想を持つことで,教科書発行者の努力が報われる方向性が見えてくるのではないかと思います。
【齋藤座長】 ありがとうございます。それでは,私から2つだけ感じたこと等を申し添えて締めさせていただければと思います。
今,小澤委員からもお話がありました,「世界の子供たちに目を向ける」というところで言うと,海外の日本人学校や,週に1回しか日本語での授業を受けられない補習授業校のようなところでも,日本の教科書を使っていらっしゃいます。本日お越しいただいた光村図書の教科書も,海外の日本人学校に行くと,よく拝見します。そういうところでの需要もあるかと思いますし,外国にいる日本人の子供たちが,日本に戻ってきた後に学習参加するときにも非常に強力なサポートになるのではないかと思いました。
皆様方の御意見を伺い,本日の御発表をお聞きして,音での教育のすばらしさや重要性を,前回の御発表に引き続き改めて感じているところなのです。一方で,現状,学校で国語教育,あるいは日本語教育を担当している先生方は,音よりも文字の学習を非常に優先しております。文字は残るものであり,目に見えるものなので,子供たちの力を非常に把握しやすいのですが,音での教育の重要性も,言語を教育の内容とする先生方に,デジタル教科書や音声教材の普及とともに伝えていけたら良いのではないかということが1点目です。今回の報告書の中でも,そういった点を強調できると良いのではないかと思います。
2点目に,この検討会議は,教科用図書の使用上の困難の軽減に向けて,基本的には学校の教科で使われる教科書のことを問題にしているわけですけれども,外国につながる子供たちが,日本に来て日本語を学ぶときに,最初から教科学習だけに臨むわけではなく,日本語の基礎的な学習と並行して学習していくこととなります。基礎的な学習が終わってから教科学習をすることとはなっていません。デジタル教科書・教材の導入にあたっては,日本語の基礎的な学習において日本語の音と文字の対応関係や言語形式と意味の対応やその運用方法を学ぶことと,在籍学級で教科の内容を学ぶこととを,どのように関連付けて進めていくのかについて検討しつつ,外国人児童生徒等を対象とする教育の方法として,どのように教材を利用し,あるいは開発していくことが望ましいのかを検討した上で,位置付けていくことが必要だと思われます。この検討会議の最終報告書で,そうした提案ができると良いのではないかと思いながら,伺っておりました。
本日は実際に音声教材を外国につながる子供たちに使用した際の実施結果も拝見しましたし,学習者用デジタル教科書の最新の情報をじかにお聞きできて大変に参考になりましたので,本日の内容を,この検討会議の報告書の中にも十分に反映させていくようにしたいと思います。本当にありがとうございました。
では,最後に次回以降のスケジュールについて,事務局より説明をお願いいたします。
【季武課長補佐】 次回以降のスケジュールにつきましては,資料5に記載させていただいております。詳細な日程は現在調整させていただいておりますが,来年,年明けの1~2月頃に,第4回目の会議を最終回として開催させていただく予定です。
次回会議で,先ほど申し上げたとおり,報告書案について議論していただくことを予定しております。加えて,外国人児童生徒等,日本語に通じない児童生徒が,実際に学習者用デジタル教科書を使用している様子を視察した際の御報告をさせていただければと考えているところです。
【齋藤座長】 それでは,本日はこれで閉会といたします。本日も積極的な御発言を頂きまして,ありがとうございました。次回が最終回となる予定ですが,引き続きよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

―― 了 ――

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