第4章 今後の普及啓発方策等について

1.普及啓発方策

 これまでに示した具体的方策を円滑に実施し、教科用特定図書等普及促進法の趣旨を適切に踏まえた拡大教科書等の普及充実を図るため、あわせて以下の取組が文部科学省などにおいて行われることが必要である。

(実践的モデル集の作成)

○ 拡大教科書の具体的な作成方法について、実際に標準規格に基づいて作成された拡大教科書の中から優良事例を集めた「実践的モデル集」を作成し、教科書発行者に周知することが必要である。
 このモデル集については、図、表、挿し絵、地図等の書き換え方法やページレイアウトの変更方法について、参考となるものを中心に記載することが考えられる。

(拡大教科書等の使用の手引きの作成)

○ 拡大教科書を用いた指導を充実させるため、教員向けに拡大教科書等の使い方の手引きを作成・配布することが必要である(※26)。
 この手引きにおいては、例えば、弱視や拡大教科書に関する基本的事項を踏まえるとともに、弱視児童生徒においては教科書のどこに何があるかを探すことが困難な場合が多いことに配慮して、その使用に当たっては、教科書の大枠のレイアウトについて、対象となる児童生徒にあらかじめ教える必要があること等を記載することが考えられる。

(教科書デジタルデータ利用の手引きの作成)

○ ボランティア団体等がより効果的に教科書デジタルデータを活用できるようにするとともに、教科書発行者等が安心して教科書デジタルデータを提供することができるよう、教科書デジタルデータの活用方法や、著作権に関する留意事項を示した「教科書デジタルデータ利用の手引き」について作成・配布することが必要である。

(研修会の開催)

○ 教科書編集の実務担当者や全国のボランティア団体等を対象とした研修会・説明会を開催し、標準規格や「実践的モデル集」、各種手引き等について周知を図ることが必要である。

(教科書センター等における拡大教科書の展示)

○ 学校関係者等へ拡大教科書の周知を図るため、拡大教科書のサンプルを教科書センター及び特別支援学校(視覚障害)へ展示することも有効な方策の一つであると考えられる(※27)。また、保護者や弱視児童生徒が事前に確認できるように、各地域の教育センターや特別支援教育に係る教育相談機関に展示することも考えられる。

(契約慣行の見直し等)

○ 教科書発行者と図や写真等の原版所有者との間で、検定教科書の著作・編集以外に図や写真等の使用を行わないこととしている契約慣行について、契約当初の段階から、拡大教科書等を作成する場合にあってはそのデジタルデータの提供が認められるようにするなど、契約事項の見直しを行うことが必要である。

○ さらに、教科書の原版データの提供等が円滑に進むよう、権利者等に対しても、教科用特定図書等普及促進法の趣旨等について周知を図ることが必要である。

(拡大教科書の無償給与の円滑な実施)

○ 教科書発行者による標準拡大教科書の発行体制の拡充に伴って、個々の弱視の児童生徒に対し、その視機能を適切に評価した上で、標準拡大教科書を使用するか、それ以外のボランティア団体等が製作する拡大教科書を使用するかを判断して選択することが、これまで以上に求められることとなる。
 その選択をより適切に行うためには、教科書発行者による標準拡大教科書の発行状況に関する情報が、教育委員会や学校に対して早期に周知されることが重要であり、当該情報を文部科学省が適切に集約して最大限有効に活用できるようにする必要がある。このような視点を含め、今後、拡大教科書の無償給与事務の円滑な実施を図ることが求められる。
 なお、当該情報は、ボランティア団体等がその作業方針を決定するに当たっても重要な判断材料となることから、ボランティア団体等に対しても当該情報の共有が図られることが重要である。

(拡大教科書目録の作成等)

○ 教科書採択においては、採択のための資料として、各設置者に対し、発行を予定している検定教科書の書目を記載した教科書目録が送付されている。
 今後、拡大教科書に関する情報の周知の観点から、教科書目録とあわせて、標準拡大教科書の発行状況に関する目録を作成し、各設置者に対して送付するなどの対応も求められる。


※26 なお、弱視児童生徒への指導においては、個々の視機能を適切に評価した上で、拡大教科書を含めた種々の支援策が効果的に選択されることが必要であり、そのような指導法の充実が求められる。  

※27 特別支援学校では、幼稚園、小学校、中学校、高等学校等の要請に応じて、そこに在籍する障害のある子どもたちやその教員等に対し、必要な助言・援助を行う地域の特別支援教育のセンターとしての役割を果たすよう努めることとされている。特に、障害のある乳幼児やその保護者に対する早期からの教育相談が行われている。

2.中長期的な検討事項等

 以上のほか、今後、文部科学省及び教科書発行者等において、更に中長期的な検討が求められる課題について整理し、以下に挙げることとする。

(検定教科書を編集する際の工夫)

○ 教科書発行者が一般の検定教科書を編集する際に、拡大教科書等の編集を考慮した工夫を行うとともに、障害その他の特性の有無にかかわらずできる限り多くの児童生徒が学習できる検定教科書の普及に向けて適切な配慮がなされるよう、今後、紙面のレイアウトや配色、図や写真の使用方法、ルビの取扱いや紙質など、教科書の体裁・体様等に関する適切な配慮の方策について、必要な検討を進めていくことが望まれる。

(ワンソース・マルチユースの実現に向けた取組)

○ 教科用特定図書等普及促進法の成立により、教科書発行者からの教科書デジタルデータの提供が行われることとなったことを踏まえ、これを拡大教科書や点字教科書に限らず、音声読み上げソフトや電子教科書などのより多様な形態の媒体に展開していく「ワンソース・マルチユース」の実現に向け、教科書デジタルデータの提供先や活用方法の拡大について、今後検討を行うことが求められる。

(電子教科書の導入に向けた取組)

○ 将来の教科書等のデジタル化に備え、すべての児童生徒が障害の有無や程度にかかわらず、効果的に利用できる電子教科書等が開発されることとなるよう、継続的に調査研究を推進することが必要である。

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初等中等教育局教科書課

-- 登録:平成21年以前 --