第3章 教科書デジタルデータの提供について

1.全般的事項

○ 教科書発行者からデータ管理機関へのデータ提供を迅速かつ効率的に行うためには、当該データ提供に際しての教科書発行者の作業が比較的容易なものであることが必要となる。
 すなわち、教科書発行者が保有する教科書デジタルデータは、大半が商業印刷向けのDTP(※14)ソフトにより作成されており、これを負担なくデータ管理機関へ提供できる方式とすることが求められる。

○ データ管理機関からボランティア団体等へのデータ提供においては、ボランティア団体等が正確に拡大教科書を製作することができるようにすること、及びその製作に係る作業負担をできるだけ軽減することの二点が重要である。現段階においては、ほとんどのボランティア団体等が市販のアプリケーションソフトを使用している状況(※15)にあり、この点を踏まえて前記二点を実現するためには、可能な限り正確で使い勝手の良いデータ形式によるデータの提供が求められる。このため、教科書発行者から提供されたデータを、データ管理機関が、適宜変換してボランティア団体等へ提供していく必要がある。

○ また、これらの教科書デジタルデータの提供が円滑に進むためには、教科書発行者や図・写真等の権利者等が安心してデジタルデータを提供できるよう、本来の用途以外への当該デジタルデータの流用や第三者への流出を厳に防止して、教科書発行者等の懸念に対応する必要がある。データ管理機関においては、このための関連の措置を万全に講じることが求められる。


※14 DTP:DeskTop Publishing

※15 現在、拡大教科書を作成しているボランティア団体は、大きく分類すると、手書きを中心に行うグループ、パソコンを一部使用するがレイアウトを手作業で行うグループ、パソコンでレイアウトまで行うグループの3つのタイプがある。

2.教科書発行者がデータ管理機関へ提供する教科書デジタルデータ

(1)提供するデータの方式

(PDF形式による教科書デジタルデータの提供)

○ 教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータは、PDF(※16)形式とする。PDF形式のデータについては、以下のようなメリットが挙げられる。

(ア)DTPからの変換が比較的容易で、教科書発行者の負担が少ない
(イ)ボランティア団体等が、教科書の紙面と同じレイアウトを見ながら作業できる
(ウ)PDF形式のデータを読み込むソフトは、無料で入手できる
(エ)テキスト形式のデータを抽出することができる(※17)
(オ)文章のデータとともに、図や写真等の画像データも提供することができる

○ また、PDF形式によるデータの中には、図や写真等の画像データが個別に取り出せないものがあることから、教科書発行者がPDF形式のデータをデータ管理機関に提供する際には、必要に応じ、JPEG(※18)形式による画像データも併せて提供することが求められる。

○ なお、アナログで編集されている教科書も一部存在する(※19)が、この場合には、教科書の紙面をスキャナーなどにより読み込み、デジタルデータ化を行った上で、データ管理機関に提供することとする。

(より効率的なデータ形式のあり方の検討)

○ 教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータについては、より正確で使い勝手のよいデジタルデータの提供促進や、一つのデータを多様な用途に使用できる「ワンソース・マルチユース」の実現に向け、文字の大きさ・レイアウト変更やテキスト形式のデータ抽出などが容易にできるXML(※20)やアクセシブルPDFなどの導入の可能性についても、今後、必要な検討を進めていくことが望まれる。

(2)提供するデータの種類・範囲

(種類)

○ 教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータの種類は、原則として、小中学校段階で発行されている教科書の種目すべてを対象とする(※21)。

(範囲)

○ 教科書発行者がデータ管理機関に提供する教科書デジタルデータの範囲は、原則として、教科書本文、図・写真、脚注、表紙など、教科書に掲載されているものすべてを対象とする。

(3)データ提供の方法

○ データ提供の方法は、以下の通りとする。

  1. データ管理機関において、対象となるすべての種目の教科書のうち、データ提供先となるボランティア団体等がデータ提供を希望する教科書の書名等を調査・把握する。
  2. 教科書発行者は、ボランティア団体等からデータ提供の希望があった教科書のデジタルデータについて、CD‐ROM等の光ディスク媒体によりデータ管理機関へ提供する。
  3. データ管理機関は、当該提供されたデータを適切に蓄積・管理するとともに、データ提供を希望するボランティア団体等に速やかにデータが提供できるようにする。

※16 PDF:Portable Document Format(ファイルフォーマットの一種で、特定のオペレーションシステムや機種に依存せずに文書や図画の表示が可能)

※17 教科書発行者は、データ管理機関にPDF形式のデータを提供する際には、それがテキスト形式のデータ抽出など適切な活用ができるものとなっているかを、責任をもってチェックした上で提供することが必要である。
 また、教科書発行者が確認をする際には、いわゆるコピー&ペーストによって変換できず、文字が正しく表現されなくなる可能性のある外字フォント等の箇所を示しておくことも考えられる。

※18 JPEG:Joint Photographic Experts Group

※19 社団法人教科書協会の調査によると、小中学校の現行教育課程教科書のうち、約 3%程度がアナログによって編集されており、新教育課程教科書においても、同程度のものがアナログによって編集される予定である。

※20 XML:Extensible Markup Language

※21 高等学校段階において対象となる種目については、今後、高校における弱視生徒への教育方法・教材のあり方ワーキンググループにおいて更に詳細な検討を行っていく予定である。

3.データ管理機関がボランティア団体等へ提供する教科書デジタルデータ

(1)データ管理機関の役割等

(データ管理機関の役割)

○ データ管理機関は、教科書発行者から、2.(1)において示したデータ形式に変換された教科書デジタルデータを受け取り、中立的かつ継続的に管理するとともに、拡大教科書等の発行をする者に対して当該データの提供を行うことを役割とする。このため、データ管理機関においては、大容量の教科書デジタルデータを安全に一元管理するとともに、それらをCD‐ROM等のメディアに即時にコピー出来る環境を保有していることが必要になるとともに、教科書発行者が安心して当該機関に教科書デジタルデータを提供できるような体制を有することが求められる。

(データ管理機関からのデータ提供対象)

○ データ管理機関からの教科書デジタルデータの提供対象については、拡大教科書を発行するボランティア団体への提供はもとより、これらのデータを障害のある児童生徒への教科用特定図書等の普及促進に有効に活用する観点から必要と認められる者に対して、提供が行われるべきである。
 データ管理機関からデータの提供を受ける対象は、後述する「認定ユーザー」としての登録の手続を取った以下の者とする。

  1. 拡大教科書を製作するボランティア団体や民間事業者
  2. 点字教科書を製作するボランティア団体や民間事業者
  3. 音声読み上げのコンピュータソフトを利用した、教科書に準ずる教材を障害のある児童生徒に向けて製作する非営利団体

○ 今後、データの提供対象については、当該データの活用状況や、他の用途への流用や第三者への流出を防止する措置の機能状況等を踏まえつつ、その拡大を検討していくことが適当であり、特に、特別支援学校(視覚障害)等における教材の作成等に資するよう、当該学校に対して提供する方途についての検討を行うことが望まれる。

(2)ボランティア団体等への教科書デジタルデータの提供方法

(正確かつ使い勝手のよいデジタルデータへの変換)

○ データ管理機関からボランティア団体等へのデータ提供は、原則としてPDF形式(図や写真等については必要に応じてJPEG形式)により行われることとなる(※22)が、PDF形式のデータについては、そこからテキスト形式のデータを抽出したり、文字が正しく表現されなくなる箇所を校正するためのボランティア団体等の作業が従来より増える場合があり、拡大教科書の製作作業が繁雑になりかねないという課題がある。
 よって、文章のデータについては、特に国語、英語などの分量が多い教科を中心に、教科書発行者から提供されたPDF形式のデータから、データ管理機関が一括して、作業上最も望ましいテキスト形式のデータを抽出した上でボランティア団体等に提供するような支援策を講じることが必要である(※23)。

(CD‐ROM等による提供)

○ 図や写真等についてはデータ容量が大きくなることから、現状のボランティア団体等のパソコン使用環境等に鑑み、CD‐ROM等の媒体により提供することが適当である。
 また、提供に当たっては、少ないデータ容量とするために図や写真等の解像度に留意することが必要である。
 なお、オンラインによるデータ提供についても、不正アクセスによるデータ流出の防止への対応等を考慮しながら、CD‐ROM等によるデータ提供の履行状況や流出防止策の機能状況等を踏まえ、今後検討していくことが求められる。

(教科書デジタルデータの流出防止方策)

○ 著作権法上、拡大教科書作成等の目的外で教科書デジタルデータを流出させる行為は権利侵害にあたることとなるが、他目的への流用や第三者への流出を実体面でも防止する仕組みとしては、まず当面の措置として、以下のような仕組みが必要である。

  1. データ管理機関から教科書デジタルデータの提供を受ける者は、当該データの流用等を行わないよう使用制限承諾書に同意、署名することにより、認定ユーザーとしてデータ管理機関の認定を受ける(※24)。
  2. データ管理機関は、当該認定ユーザーにID・パスワードを発行し、教科書デジタルデータの提供を受ける者が著作権法第33条の2に基づく通知(※25)を教科書発行者に対して行った場合には、そのことについてデータ管理機関にも情報提供を行うことを、使用制限承諾書で義務付ける。

○ また、万一、提供したデータが第三者に流出した場合等に備えて、デジタルデータに提供元、教科書名、提供先、提供時期等の個別識別情報を追加することや、違反が発覚した場合には教科書発行者及び権利者等への情報提供を行うこと、違反者に対してはそれ以降のデジタルデータ提供を行わないペナルティを課すことなども考えられる。
 なお、このデータ管理体制の構築については、その万全を期すため、以上に挙げた以外の方策についても順次追加的に実施することにより、システム自体の改善が不断に行われていく必要がある。

(手続の簡素化)

○ 教科書デジタルデータのボランティア団体等への提供に係る具体的な手続については、関係書類の様式を簡素化するなど、ボランティア団体等における事務負担の軽減が図られるよう配慮することが必要である。

(教科書デジタルデータの提供時期)

○ 教科書デジタルデータのボランティア団体等への提供時期としては、ボランティア団体等の拡大教科書等の製作期間等に鑑み、原則として、使用の前年度の10月頃が望ましい。
 また、その後の訂正申請等による記述内容の変更については、必要な情報をボランティア団体等へ提供することも求められる。


※22 ボランティア団体等に、データ変換等を行っていない検定教科書の元データをそのまま提供することとした場合、ボランティア団体等は商業印刷向けの高価なDTPソフトを購入する必要があるとともに、その使用方法を習得する必要があり、また教科書発行者にとっても、教科書発行者の編集ノウハウ等が流出するなどのおそれがある。
 なお、個別の拡大教科書を発行しようとする者がDTPによるデータを必要とする場合は、必要に応じ、教科書発行者と個別に契約を交わした上でデータ提供を受けることが望ましい。

※23 今後、ボランティア団体等に対して提供された教科書デジタルデータの活用状況等を踏まえつつ、ボランティア団体等が作成した拡大教科書のデータをデータ管理機関において一元的に管理し共有を図ることなどについても検討することが望まれる。

※24 認定ユーザーの登録に関しては、例えばボランティア団体等の代表者が署名した使用制限承諾書に、当該団体において教科書デジタルデータを利用する者の名簿を添付した上で、データ管理機関に提出する仕組みにすることなどが考えられる。

※25 著作権法第33条の2においては、拡大教科書等を作成しようとする者は、あらかじめ当該教科用図書を発行する者にその旨を通知することとされている。

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初等中等教育局教科書課

-- 登録:平成21年以前 --