平成24年度教職課程認定大学等実地視察について

中央教育審議会初等中等教育分科会
教員養成部会

1.実地視察の目的

 教職課程認定大学実地視察の目的は、教職課程認定大学実地視察規程(平成13年7月19日教員養成部会決定)に基づき、教員の免許状授与の所要資格を得させるための大学の課程(以下「教職課程」という。)の認定を受けた大学について、認定時の課程の水準が維持され、その向上に努めているかどうかを確認することである。

2.概要

(1)総括的事項

 平成24年度は、大学及び短期大学並びに教員養成機関の計51機関に対して、実地視察を行った。

  全体として、多くの大学の教職課程は、教育職員免許法、教育職員免許法施行規則及び教職課程認定基準を満たしていた。また、教職に関する科目を担当する専任教員については、いずれの大学においても、教職課程を履修する学生に対して、熱心に指導を行っている様子が伺われた。

 一方で、本年度も、教職に関する科目について、法令に定める内容を適切に扱っていない事例や、教職指導や履修指導等を、教職に関する科目を担当する一部の専任教員のみが担当しているような事例が確認されるなど、教職課程の質的水準の向上に向け課題が指摘された大学も多数あった。

 以下は、本年度の教職課程実地視察大学に対して主に指摘された事項及び教職課程の質的水準に向け枢要と思われる指摘事項である。

(2)個別的事項(個々の具体的評価、指摘・指導等)

【教員養成に対する理念、設置の趣旨等の状況】

 開放制により教員養成を行う学科等の場合、教職を志す学生は、学科等の専攻分野を修めつつ、教職に関する科目を修めることにより、教科と教職の両方の専門的知識・技能を修得することとされているところ、今回、実地視察を行った大学の中には、カリキュラム改革等の結果、学科の専攻分野と教科に関する科目との関連性が見えづらくなっている事例が確認された。
 このため、このような大学に対しては、教職課程を置く学科等の理念も踏まえながら、学位プログラムとしての専門科目と教科に関する科目の関連性に十分留意をし、教職課程の編成を行うよう指摘を行った。

 教員就職者数はもとより、教員免許状取得者数も極めて少ない課程を有している大学が確認された。
 教員免許状取得のニーズが少ないような大学においては、丁寧な教職指導が実施されなくなる恐れがあることから、このような大学に対しては、教職課程を置くことの意義や位置付けの再検討、及び教職指導体制の充実等を求めた。

【教員養成カリキュラム委員会等の全学的組織の状況】

 過去の中教審答申では、教職課程の運営や教職指導を全学的に責任を持って行う体制を構築するため、「教員養成カリキュラム委員会」等の全学的組織の機能の充実について提言している。
 この点、これまでの実地視察における指摘や、教職課程の実質化に向けた各大学の改革により、ほとんどの大学において、形式的には、教職課程委員会等の全学的組織が整備されていた。

 一方で、各学科等の教科に関する科目と教職に関する科目の体系的な科目編成や各学科等と連携した教職指導・教育実習指導体制の構築等が、当該全学的組織を中心に、機能的に行われていると認められる大学は多くなかった。
 また、教員養成を目的とする学科等と、開放制により教員養成を行う学科等を併置している場合、それぞれで、履修指導方法や教育実習指導体制、教育委員会・学校との連携・協働状況等が大きく異なる場合も確認された。

 このため、全学的組織の役割として、各学部・学科間の調整だけでなく、教科に関する科目を含めた教職科目の内容の確認、教職科目担任教員間の連絡調整、教職科目の履修時期の検討など、その機能強化を求めたほか、教員養成を目的とする学科等を置く場合にあっては、当該学科等の有する資源・機能の全学的活用の取組の推進を求めた。

【教育課程(教職に関する科目等)、履修方法、シラバス及び教員組織の状況】

 教職課程における科目の開設状況及び教員組織については、全体的に、法令や教職課程認定基準を満たしていた。しかし、基準上開設することが必要とされている科目数や必要専任教員数を満たしていないため、早急に改善するよう求めた大学も一部あった。

 また、昨年度に引き続き、中学校又は高等学校の教職課程を有する大学の教科に関する科目の共通開設状況について、いわゆる「全学共通科目」や「学部共通科目」を免許法施行規則第4条及び5条に定める科目区分の半数を超えて「教科に関する科目」に充てている大学も確認された。
 教科に関する科目は、教職課程が置かれる学科等の専門科目で構成されることが原則であるところ、教職課程の科目内容の水準の維持・向上等を図る観点から、各科目区分の半数までは他学科等の授業科目を充てることが可能とされていることから、その趣旨を踏まえた授業科目の開設とするよう改善を求めた。

 また、教職に関する科目の具体的内容について、教員免許状を授与する課程が、大学における養成としての多様性と資格課程としての標準性の両面が求められていることを踏まえると、教育職員免許法施行規則第6条第1項表に定める「含めることが必要な事項」について、適切に扱われていることが、シラバス上、明確になっている必要がある。
 この点、一部の大学では、例えば、以下のような事例が確認されたため、「含めることが必要な事項」が確実に含まれるよう、改善を求めた。

(「教育の基礎理論に関する科目」について)

  • 「幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」の科目において、「障害のある幼児、児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」が含まれていないものが見られた。

(「教育課程及び指導法に関する科目」について)

  • 学習指導要領に掲げる事項に即し、包括的な内容を含むことが法令上求められているが、徹底されていない大学が見られた。
  • 「教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む。)」の科目においては、情報機器の活用又は教材の活用が含まれていないものが見られた。

(「生徒指導、教育相談及び進路指導等に関する科目」について)

  • 「教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を含む。)」の科目においては、カウンセリングの専門的な理論に特化した内容を取り扱っているものが見られた。このため、カウンセリングに関する基礎的な知識を学んだ上で、応用的な内容を学ぶような構成にすることを求めた。

 また、幼稚園教諭の課程を置く学科等の場合、併せて小学校教諭の免許状が取得可能な場合や、保育士養成施設としての指定を受けている又はその他社会福祉に係る資格が取得可能とされている場合がある。
 このような場合、学生の履修の仕方によっては、要修得単位が過剰となり、体系的・実質的な教職課程の履修が困難となる恐れがあり、免許状取得に必要な専門的知識・技能が十分に修得できない恐れもあることから、コース分けやコースごとのカリキュラム編成などを行うこと等について、指摘を行った。

【教育実習の取組状況】

 教育実習については、教育実習先の確保にあたり、地元教育委員会・学校や附属学校等と連携・協力をしている大学、学生が最低限の知識技能を有していることを確認した上で実習に送り出しているような取組を行っている大学が見られた。

 一方で、実習校の選定にあたって、依然として、大学として実習校の確保を全く行わず、母校実習を原則としているような大学もあった。
 母校実習については、過去の中教審答申で、「大学側の対応や評価の客観性の確保等の点で課題も指摘されることから、できるだけ避ける方向で、見直しを行うことが適当である。」と提言され、教育職員免許法施行規則第22条の5においても、教育実習等の円滑な実施について規定しているところである。
 このため、

  • 教育実習の実施にあたっては、課程認定大学は、教育実習の全般にわたり、学校や教育委員会と連携しながら、責任を持って指導に当たることが求められること
  • 大学による教育実習指導体制や評価の客観性の観点から、可能な限り大学が所在する近隣において実習先を確保し、学生が出身地の学校への就職を希望する等により、遠隔地における教育実習を行う場合においても、大学が、実習先の学校と連携し教育実習に関わる体制を構築するとともに、公正な評価となるように努めること

などについて指摘をした。

【学校現場体験・学校ボランティア活動等の取組状況】

 多くの大学では、地元教育委員会が実施する学校ボランティア活動等に関する情報を、学生に提供するなどの取組を行っていたほか、地元教育委員会と多数の事業を実施し、学生が学校現場を体験する機会を積極的に設けている大学もあった。

 他方、教育委員会が実施する学校ボランティア活動等の機会の紹介はしている一方、大学としては、教職指導の一環として積極的に学校現場体験等を促しているとは認められず、教職課程履修者のごく一部しか参加者がいないなどの大学も少なからず見受けられた。

 このため、教職に関心のある学生が、早い段階から学校におけるボランティア活動等を通じて、教職の魅力や教員としての適性等を把握した上で、教員免許状の取得を目指すことは重要であることから、今後、教育委員会や学校とより一層の連携・協力体制を強化し、学校現場体験等の機会の充実に努めるよう求めた。

【教職指導及びその指導体制の状況】

 平成25 年度から開講される教職実践演習に向けて、実地視察を行った全ての大学が、履修カルテの整備をし、教職実践演習の内容等について検討を行っていた。

 履修指導や就職指導については、学生が恒常的に相談等を行えるような設備や人員を整備している大学もあれば、全体的なガイダンスのみで終わらせている大学もあるなど、学生に対するケアが大学によって大きく異なっていた。

 特に、開放制により教員養成を行っている学科等において教員免許状の取得を目指す学生については、教職について情報共有をし、また教職についての理解を深める機会が十分でないことが考えられることから、教職指導体制のより一層の充実を求めた。

【施設・設備(図書等を含む。)の状況】

 各大学において、教員養成に必要な施設・設備、教育機器等は、学生数の規模に応じて概ね整備されていた。

 ただし図書館については、各大学の教員養成の理念等を踏まえた集書計画がなされていない大学が見られた。また、蔵書が古いものばかりで構成されている大学が見られたため、教育の最新事情等に関する図書を充実させるように求めた。

3.指定教員養成機関について

 指定教員養成機関制度は、昭和24年に現行の教員免許制度が創設された際、格段に増加した教員需要に対応するため、大学における教員養成を補完するものとして設けられた制度であり、大学における養成の原則の観点から、教員養成数が不十分な場合に限り指定を行うものとされている。

 また、大学における教員養成の原則を踏まえ、教員養成機関として指定を受ける場合、認定課程を有する大学に附置されるか、大学の指導と承認の下に運営されることが条件とされている。

 この制度に基づき、現在、48の専修学校等において、幼稚園教諭免許状等を取得する課程が置かれているが、平成24年2月15日の教員養成部会において決定された「指定教員養成機関実地視察規程」に基づき、本年度、2つの指定教員養成機関に対して、実地視察を行ったところ、教育課程、教員組織、施設・設備、指導大学の指導状況について、主に、以下の点について確認・指摘を行った。

【教育課程の状況】

 指定教員養成機関の多くは専修学校であることから、必履修科目・単位数が多く、かつ、授業方法は、クラス担任制となっている。このため、生徒が教養科目や専門科目を主体的に選択して履修することは困難な環境となっていることから、リベラルアーツ科目や選択科目を設ける等、教育課程の見直し・充実を求めた。

【教員組織の状況】

 教職課程における専任教員として、常勤の教員ではなく、かつ、日常の教職指導等を担当していない教員を充てている事例が確認された。
 教職課程を担当する専任教員は、給与上の扱いだけではなく、教育課程の編成、生徒の成績評価、履修指導体制の方針等、教職課程を中心となって担い得る者が想定されていることから、現在配置されている専任教員の役割の在り方について検討・改善を図るよう求めた。

【施設・設備(図書を含む。)の状況】

 実地視察を行った2つの指定教員養成機関ともに、独立した図書館ではなく、図書室において、図書等を整備していた。
 図書室に置かれている図書については、教科書及び学習指導要領は置かれているが、最新の教職関係に関する図書・雑誌類が充実しているとは言えない状況であったため、図書の充実を求めた。

【指導大学の指導状況】

 指定教員養成機関は、大学の指導と承認の下に運営されることとされており、特に、教育課程の編成や各授業科目の内容、教員組織の在り方、施設・設備(図書を含む。)の在り方等の教員養成の質の向上に係る事項については、指導大学における丁寧な指導が求められる。
 この点、各指定教員養成機関に対する指導大学の指導が機能的に行われているとは認められなかったことから、今後、教育課程、教員組織、施設・設備等の在り方について、指導大学と緊密に連携をしながら運営を図るよう指摘を行った。

4.まとめ

 平成22年度から「教職実践演習」が導入され、また、教員免許状を取得しようとする者に対する教職指導の努力義務が定められたことにより、今後はより一層、教職を志す学生が体系的・計画的に教職課程を履修することができるような配慮が求められている。
 また、そのために、教職課程の運営や教職指導を、全学的に責任を持って行う体制の構築や、教員養成を目的とする学科等の有する資源・機能の全学的活用の取組の推進が不可欠である。

 今回、実地視察を受けた大学の中には、実地視察への準備を通じて、教員養成の現状、カリキュラム・各科目の現状等について評価・分析をし、十分実施できている点、課題・改善点及び今後の検討課題点の洗い出しを行うなど、自大学の教員養成の在り方の自己検証・改善方策の検討の契機とした大学もあった。
 また、自らによる教職課程の見直しの結果、次年度からの全学的組織の体制強化等を、既に大学として決定し、準備をしている大学も見られた。

 本部会としては、このように、実地視察が各課程認定大学における教員養成の質的水準の向上の契機となるような仕組みとしていくことが重要と考えている。

 一方、教職課程に係る各種改革が進められている中で、実地視察対象大学のみならず、全ての課程認定大学が、自ら、法令や教職課程認定基準に照らしながら教職課程を適切に運営することは、教員養成を担う大学の当然の責務であり、社会に対する最低限の約束であることを、全ての課程認定大学が十分に認識することが必要である。

 各課程認定大学においては、学長及び各学部長はもとより、教職課程に関係する担当教員・担当職員全員が、主体的に、本実地視察報告書の指摘内容を理解した上で、教育職員免許法その他の関係法令や各種答申で提言されている内容を再度確認し、教職課程の改善を不断に行うことにより、教職課程の質的水準の維持と向上を図っていくことを期待する。

 なお、指定教員養成機関においては、教育課程、教員組織、施設・設備、指導大学の状況について、改善すべき点が多く確認されたため、引き続き、各指定教員養成機関における教職課程の運営状況について、教員養成部会として実地視察を行っていくことが必要である。また、本実地視察も踏まえ、指導大学の指導の在り方や指定教員養成機関の在り方等について、検討を進めることが必要である。

平成24年度実地視察大学一覧

<教職課程認定大学>

平成24年

5月18日

田園調布学園大学

5月31日

高千穂大学

6月6日

跡見学園女子大学

6月26日

立命館大学

6月27日

滋賀大学

7月2日

広島大学

7月3日

広島修道大学

7月5日

椙山女学園大学

7月6日

愛知淑徳大学

7月9日

中村学園大学・中村学園大学短期大学部

7月10日

九州女子大学・九州女子短期大学

7月12日

関西国際大学

7月13日

芦屋大学・芦屋学園短期大学

7月17日

聖心女子大学

7月17日

高知県立大学

7月18日

高知大学

7月19日

帝塚山学院大学

7月20日

園田学園女子大学・園田学園女子大学短期大学部

10月18日

國學院大學

11月6日

駒沢女子大学・駒沢女子短期大学

11月7日

国際学院埼玉短期大学

11月8日

東北文教大学・東北文教大学短期大学部

11月9日

東北芸術工科大学

11月12日

桜美林大学

11月13日

成蹊大学

11月15日

宮城学院女子大学

11月16日

東北学院大学

11月20日

新潟青陵大学・新潟青陵大学短期大学部

11月21日

新潟県立大学

11月26日

平安女学院大学・平安女学院大学短期大学部

11月27日

相愛大学

12月6日

鹿児島国際大学

12月7日

第一工業大学

12月10日

桐蔭横浜大学

12月10日

明治学院大学

12月13日

城西国際大学

12月17日

山口県立大学

12月18日

山口学芸大学・山口芸術短期大学

平成25年

1月10日

信州大学

1月11日

上田女子短期大学

(計49大学)

<指定教員養成機関>

平成24年

6月4日

横浜高等教育専門学校

6月12日

道灌山学園保育福祉専門学校

(計2機関)

(総計51大学等)

お問合せ先

総合教育政策局教育人材政策課

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-- 登録:平成25年05月 --