これからの義務教育諸学校の教材整備の在り方について

 
(最 終 報 告)
 
 
平成13年11月5日
 
義務教育諸学校における標準教材品目の在り方等に関する
   調査研究協力者会議
 
 
   
1. これまでの経緯
  (1)    公立の義務教育諸学校の教材費については,昭和28年度から国庫負担の対象とされたが,その後,厳しい地方財政事情等もあり予算措置が伸び悩みを見せていた。このため,昭和42年に,学校に基本的に必要とされる教材(国庫負担の対象とする教材)の品目及び数量を示すものとして,「教材基準」が定められ,昭和42年度から昭和51年度までの第1次教材整備計画及び昭和53年度から昭和62年度までの第2次教材整備計画が策定され,教材整備が図られた。
   なお,昭和53年度の「教材基準」の改訂では,学校において標準的に必要とされる教材とされ,品目及び数量ともに充実された。
  (2)    その後,昭和60年度に教材費の国庫負担が廃止され,一般財源化されたことを踏まえ,平成4年度からの学習指導要領の実施に伴い,学校において標準的に必要とされる教材の品目及び数量を示すものとして,平成3年に「標準教材品目」が定められた。
   これは,国庫負担制度下にあった「教材基準」が,国庫負担により整備すべき教材の対象範囲を示すものという位置づけであったのと異なり,各学校において教材を整備する際の参考という位置づけのものとして定められた。
   また,一般財源化後の財政上の措置としては,平成3年度から12年度までの10年間で,地方交付税により総額約8千億円の財源が措置され,これにより学校や地域の実情に応じた教材の整備が進められた。
  (3)    平成14年度から,小学校及び中学校等において,新しい学習指導要領が全面実施されることから,今後は,この新しい学習指導要領に対応した教材整備を行っていくことが課題となっている。
   
2. これからの教材整備の在り方について
     教材は,教育の効果を高め,児童生徒の基礎・基本的な学習理解を助ける上で極めて重要であり,学校教育の展開のために,その充実は常に不可欠である。特に,今後の教材整備については,新しい学習指導要領が重視する基礎・基本の確実な定着や情報教育の進展に対応するという観点にも十分留意して進めていく必要がある。また併せて,昨今の地方分権の流れやIT革命などの技術革新の進展も踏まえて行っていく必要がある。
   (なお,理科教育振興法による国庫補助対象の設備等については,別途,新学習指導要領に対応した設備の基準改定が検討されているので,本協力者会議における検討対象から除外している。)
  (1) 新学習指導要領への対応
   
学校の自主性・自律性の観点
     平成14年度から新しい学習指導要領が実施され,今後,教育活動を展開する上での学校の選択,裁量が拡大されることとなる。基礎・基本の確実な定着を図るため,「わかる授業」を実現するとともに,子どもの個性を伸ばし,地域に開かれた特色ある学校づくりを実現するためには,教育委員会と学校との関係に留意しつつ,校長が自らの教育理念の下,地域の状況等に応じて,工夫を凝らして特色ある教育課程を編成するなど,自主的・自律的な学校運営を行うことが必要である。この観点から,各教育委員会においても,現在,学校管理規則等の見直し等が行われているところである。
   したがって,これからの教材整備においては,自主的・自律的な学校運営という観点に十分留意することが必要であり,また例えば,市販教材を使用するだけでなく,教員自らの創意工夫により開発・製作した,いわゆる「手作り教材」を授業に取り入れることなどを考慮することも必要である。このため,各学校が地域の状況等に応じて教材を選択し,整備できるよう,各学校の自主的選択,裁量の拡大の促進を図ることが必要である。
   現在,地域の状況に応じて標準教材品目以外の教材を整備している学校も見られるが,現行の標準教材品目を活用している実態は多く,標準教材品目は教材整備に大きな役割を果たしてきたと評価できる。したがって,今後とも,各学校が多様な教材整備を計画的・効果的に進めていくことができるよう,参考となる資料が提供されることが望ましい。
   一方で,現行の標準教材品目には,(2)にも関連するが,かえって各学校の教材整備の画一化,硬直化を招いているのではないかと考えられる側面もあることから,教材整備の推進のための参考資料を国が提供する場合にも,現行の標準教材品目のように標準的な品目等を列挙して数量標準を示すのではなく,各学校の自主的選択,裁量の拡大を促すこととなるようなものとすることが適当である。
「生きる力」の育成の観点
     新しい学習指導要領においては,児童生徒が自ら学び,自ら考える力などの「生きる力」を育成することを大きな目標とし,基礎・基本の確実な定着を図るとともに,体験的な学習,問題解決的な学習を充実させ,知的好奇心や探求心,論理的な思考力,表現力の育成を重視するとともに,コンピュータ等の情報手段の活用を一層推進すること等が重要とされている。
   したがって,今後の教材整備が,「生きる力」を育成するため,児童生徒の学習理解を助けるという視点を重視して進められるよう,各教材の機能的な側面に着目して分類・整理することを促すとともに,児童生徒が自分たちの学習のために教材を使うという観点(発表する,実際に使う,体験するなど)に,各学校が十分に配慮していくことを促すようにすることが適当である。
   また,「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」(平成13年1月15日)において示された,特殊教育の改善・充実のための条件整備の提言を踏まえ,盲学校,聾学校及び養護学校並びに小学校,中学校に設置されている特殊学級等においては,児童生徒の障害の状態に配慮した教材選択や教材整備の一層の充実を図っていく必要がある。その際,盲学校,聾学校及び養護学校は,地域における特殊教育に関する相談センターとして,小・中学校の求めに応じて,教材・教具等の貸し出しや教育用コンテンツの提供など,近隣の小・中学校等に対する教材面での支援の役割を果たすことも期待されている。
   なお,学習障害(LD)児等に対応するため,その指導法の在り方等について,実践研究を踏まえた検討が国や教育委員会において緒についたところであり,それぞれの指導法にふさわしい教材の在り方についても検討することが望まれる。
  (2) 地方分権の推進
       平成12年4月の地方分権一括法の施行により,国と地方公共団体との関係が対等・協力の関係に立つことを基本として,法的拘束力のない指導等で地方公共団体の判断を制約することができないことがより明確にされた。
   もとより,現行の標準教材品目は,地方分権の趣旨に留意し,あくまでも学校において教材を整備する際の参考とするものという考え方で策定されている。しかしながら,学校での教材整備の多くが標準教材品目の中から選定されているという実態の中には,標準教材品目があたかも学校等に対して拘束力があるとの誤解を生じさせている面もあると考えられる。
   このため,国が,各教材の機能的な側面に着目して分類・整理し,各学校が教材を整備する際の留意点を示すに当たっては,このような誤解が生じないよう,名称を含め,その内容が明確に参考資料であると理解されるもの,すなわち,教材整備における教職員の共通理解を助長するためのものとし,地方分権の趣旨を踏まえ,地方公共団体及び学校の自主的な教材整備を促進していく必要がある。
   教材整備の財源措置に関しては,新規教材の導入及び現有教材の償却更新に必要な経費として,平成3年度から平成12年度までの10年間で約8千億円が地方交付税により措置され,平成13年度においても,平成12年度と同程度の額が措置されている。
   各学校における一般の教材費を,地方公共団体が措置することが既に定着しており,今後,地域の状況等に応じてより一層自主的な教材選択が行われること等を踏まえれば,教材の整備に要する経費については,理科教育振興法の補助対象となるもの等を除き,地方交付税による財源措置が最も適切であり,平成14年度以降においても引き続き所要の経費を計画的に確保することが必要である。
   また,各地方公共団体においては,所要の教材費を確保するほか,特色ある学校づくり等の観点から各学校が工夫を凝らした教材整備を推進できるよう,校長の裁量で執行可能な予算措置を講じることなども検討していく必要があると考えられる。
  (3) IT革命等への対応
       世界的なIT革命による社会構造の変革への対応は,我が国においても最重要課題であり,今後ますます急速な変化が予想される。
   情報教育は,情報活用の実践力,情報の科学的な理解,情報社会に参画する態度を育てることなどをめざしており,新しい学習指導要領は,情報教育をより重視したものとなっている。
   平成12年度に策定されたミレニアム・プロジェクト(教育の情報化)により,平成17年度までに,全ての教室からインターネットにアクセスでき,授業に活用することができるようにするための教育用コンピュータの整備やインターネット接続等が計画的に進められている。
   これらの整備の中で,教材としての機能を有する機器(大型ディスプレイ,MIDIシステム,各種センサー,DVD(大容量光ディスク),MO(光磁気ディスク)など)が導入され,また,教育用ソフトウェアも整備されてきている。今後これらのハードやソフトを,教材として授業で積極的に活用することが必要となっている。
   一方,児童生徒の発達段階に応じて,実際に手に触れることなどが有効な教材も欠くことのできないものであり,それぞれの学校において,社会の変化や児童生徒の状況に応じて柔軟な教材選択を行っていくことが必要である。
  (4) 教材の効率的利用
       学校においては,多種多様な教材の中から適切な教材を選定し,その機能や安全性,耐久性等を総合的に勘案して,計画的に購入が行われているが,購入時点においては先駆的な教材であっても,今日の急速な技術革新の中では,4〜5年で陳腐化するものも少なからず見受けられる。また,教材の選定方法が各学校の各教科ごとの担当教員のみで決定される場合などには,学校全体で共通して使用できる教材が教科ごとに重複して購入されることもある。
   このため,教材の整備・活用に当たっては,教材の将来性を視野に入れつつ,全校的な調整を行うなど,校長のリーダーシップの下,各教職員が協力して効率的な教材整備・活用を図っていく必要がある。
   さらに,各学校においては,教材の配置や必要数量(整備目標)を,児童生徒各個人に必要なもの,グループ単位で必要なもの,教室単位で必要なもの,学校単位で必要なもの等に整理してそれぞれにふさわしい管理を行うとともに,これにより使用頻度が年に数回程度しかない教材があれば,地域の実状に応じて,ある学校や教育委員会事務局に配置した上で,複数校で共同で利用することなども効率的な教材整備・利用の観点から有効な方法と考えられる。
   国,地方も厳しい財政状況の中で,各学校においては,住民の貴重な税金により教材整備が行われているとの認識を持って,その効率的な教材整備・利用に十分留意すべきである。このため,各学校での備品管理のしやすさを含め,共通利用が可能な教材と各教科ごとに必要な教材といった観点からの機能の整理を行うことが必要である。
  (5) 教材の評価
       教材整備について,各学校の自主的選択,裁量が拡大されることに対応して,教材の検証・評価の視点が必要になってくると考えられる。授業において各教材が期待どおりの機能を発揮しているか,教材の効率的利用が図られているか,また,各教材の必要数量(整備目標)が計画的に整備できているかなどの点について,教職員の自己点検・評価,学校としての評価,教育委員会としての評価などの取り組みを行い,説明責任が果たされるようにしていくことが望まれる。
   
3. 教材機能別分類表について
     2.で述べた教材整備の在り方を踏まえ,今後,より一層,各学校の自主的選択,裁量の拡大を促進していくためには,現行の標準教材品目のように標準的な品目を列挙して数量標準を示すのでなく,各学校の教材整備が教職員の共通理解の下に,より弾力的かつ効果的に進められるよう,各教材の機能的な側面に着目して分類・整理し,各学校が教材を選択し整備する際の留意点を示した参考資料とすることが望まれる。各教材を機能別に分類・整理するに当たっては,以下の(1),(2)に掲げる事項を重視すべきと考えられる。
   このような考え方に基づき,別添のとおり,参考資料の案として,「教材機能別分類表」(案)を取りまとめたところであるので,文部科学省においては,これらの点を踏まえ,今後,各学校が多様な教材整備を計画的・効果的に進めていくことができるよう,各般の条件整備を行うことが望まれる。
  (1) 教材の機能別分類について
       教材を機能面で分類・整理するに当たり,学習指導要領の改訂の趣旨を踏まえ,児童生徒が自ら学び,自ら考える力などの「生きる力」を育成する観点等を重視しつつ教材整備が図られるよう,以下のとおり,4つの機能に大別することが適当である。
   
発表・表示用教材
     児童生徒が表現活動や発表に用いる,又は児童生徒が見て理解するための図示・表示の機能を有する教材
道具・実習用具教材
     児童生徒が実際に使って学習・実習の理解を深める機能を有する教材
実験観察・体験用教材
     児童生徒の実験観察や体験を効果的に進める機能を有する教材
情報記録用教材
     情報を記録する機能を有する教材
  (2) 教材の分類・整理について
       上記(1)で機能別に分類した教材について,「学校全体で共用可能な教材」,「特定の教科等で必要な教材」とに区別し,その上で,使途・目的が類似している教材を「品目類別」としてまとめるとともに,その例示品名及び整備に当たっての留意点等を挙げることが適当である。
   
 
※「教材機能別分類表」(案)は省略

-- 登録:平成21年以前 --