長崎県教育委員会からの御意見

所属・現職等

長崎県教育委員会委員長(主婦) 秀島 はるみ 氏

御意見

 「高等学校」というニュアンスを、国民が、殊に親がどう捉えているか?
 おそらく、高等教育と混同しているに違いない。名称から誤解されているのだろうが、高校は、本来は中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて高度な普通教育及び専門教育を施すことを目的とする後期中等教育段階に相当する学校であり、高等教育を施す学校ではない。英語呼称は一般にHIGH-SCHOOLが用いられるが、これは米国式であり、文科省はUPPER-SECONDARY-SCHOOL(後期中等学校)と表現している。
 よって、小学校・中学校(前期中等学校)は義務、高校(後期中等学校)は任意であるが、不況下で中卒の就職難や高等学校無償化により高校進学率は100%に近くなり、後期中等教育の位置づけが重要となるとともに、親の考え以上に中高一貫教育の脚光が集まるものと思われる。ここで必須と思われることは、小→中→高校または就業先(進学しない場合)への申し送り(学校ばかりではなく親も子の状況を記入)の充実である。
 これは教員のプロとしての責任と親の子育ての責任が問われる。しかし後期中等学校と言われても高校は任意であるため、逆を言えば、「子と親が選んで来たのだから」学校方針にそぐわなければ辞さなくてはならない現実もある。余程相応しくない学校ではない限り、親が学校を非難することは少ない。つまり、高校は親子共に社会の最終窓口(出口?)として同じ方向を向くことになる。義務教育では夢への可能性をファジーな思いで語っていたが、高校は任意でありながらもリアルな可能性を模索し、決定しなくてはならない思いに焦る期間であり、子を社会に捧げる責任を感じないと親子の関係が泡になると言っても過ぎることはない。
 しかし前述したように、種々の理由による進学率の100%化や後期中等学校の認識が高まれば、親や子が持つ高校への思いや期待が変化するかもしれない。いずれにせよ変化は必要なので、今こそ小学校って…中学校って…高校って…どんなものなのか?を各段階の教員が会して議論すべきと思われる。そこには教員が教師たる3要素「Teaching・Leading・Cheering」「教える・導く・応援する」ことの比重を調合するセンスを磨いていただきたい。

所属・現職等

長崎県教育委員会委員長職務代理者(長崎国際大学事務局長) 鶴崎 耕一 氏

御意見

課題:日本人の社会規範意識の希薄化と高等学校における道徳教育の必要性について

 現在、小中学校においては、年間35コマの道徳教育が義務付けられ、実施されている。高等学校においては、社会科の中に倫理の科目があるが、全生徒に履修が義務づけられているものではない。高校生という発達段階は、かなり高度な理解度がついていく段階であるということから考えると、この段階で人間としての「生き方」を学ばせることが必要である。
 小・中学校においては、児童生徒の身の回りで起こるような事象を中心とした授業にならざるを得ない状況であり、先人が積み上げてきた倫理性や宗教性を持つ哲学的考察を教えることは無理である。
 大学においても、人文科学的な教養教育の必要性を説く大学人は多く存在しているが、特に資格取得を中心にした大学の学部や学科では、そのために取得しなければならない授業科目のため、教養にかかる部分を削減している現状がある。しかしながら、大学で学士課程を経てきたという人材を保証することは、大学全体の課題として「質の保証」を担保することが社会的に求められている。
 現在の高等学校における教育課程の中で、社会科のみならず、国語科や外国語など多様な教科で倫理観や哲学的考察の必要性などを展開することは可能と思われる。また、生涯をとおして「学ぶ」という観点からしても、人間社会において「生きる」ための「知」を身に付けさせるには、高校時代というのは重大な時期と言える。
 高校教育における教養教育(道徳教育)は重要なカテゴリーの一つと考える。

所属・現職等

長崎県教育委員会委員(活水女子大学文学部特別教授) 山﨑 滋夫 氏

御意見

○ 今日の高校教育が抱える問題点(大学における指導を通じて感じること)

ア.「自らの在り方、生き方」にかかわる学習・体験の不足

大学に進学してくる学生の多くに、受験科目の学力のみを尺度として自らの進路(進学)を決定してきた者がおり、自分にとっての大学での学業の意味や目的が不明のままに生活するケースや就職をひかえての混迷もみられる。高校時点での教育上の配慮が必要。

イ.日本人としての文化的教養の習得・関心の欠如

国際社会を舞台として活動する力量が大きな教育課題であるが、その根底となる日本国民としての意識・素養への関心が低く、身に付いていない。他国からの留学生と比べて、国民としての自覚・誇りの感情が希薄であり、高校教育での充実を求めたい。

 ○ その解決策

ア.    自分自身を見つめる時間・機会の拡設

  • ロングホームルーム時間等の内容の見直し、「個」と向き合う日誌・ノートの作成など
  • 総合的な学習時間等における「内省」や「倫理」、「自分と社会」などの自己陶冶・点検に関わる学習時間の開設(小中学校での道徳を「自己の在り方」に焦点化して深める)
  • 校外における、職場・地域・各種団体・小学校など、異種の人たちやその生きる姿との交流体験の拡大(自分に何ができるか、何が欠如しているかの発見の場をもつ)

イ.    伝統文化との接触、体験の充実

  • わが国の古典、伝統芸術・芸能等への理解や体感の機会拡充
    特に、地域の遺産・文化財・行事・人材の活用を通じて、郷土愛を育むことと並行する。
  • 伝承すべき行動規範としての礼節・作法・品性を尊ぶ生活態度についての日常的な指導徹底

所属・現職等

長崎県教育委員(元県央農業協同組合代表理事組合長) 野中 彌三 氏

御意見

課題:今日、高校教育が抱える問題点について

 最近の若年層は「叱られる」ことが少ないように感じる。これは「叱ること」ができない、「見て見ぬふり」の指導者(先生)が多いことに起因していると思う。指導者に対して「教育者」であることを認識させるような教育が必要ではないか。
 特に学生時代に体育系部活動をしていない学生は、世代間の接触が少ないことから先輩・上司とコミュニケーションや相談ができない傾向にあり、また、全体的に言葉づかい(敬語)ができず、社会に出てからも先輩や上司に対して「友達感覚」で接してくる。学校教育の中で様々な年代と接するような活動等を行って欲しい。
 大学生については、アルバイト等で仕事の厳しさを体験し、また、自分がどの様な仕事をしたいのか、自分の適性について自己分析ができているが、高校生はそれができないまま社会に出ている。現在でも職場体験は実施されているが、内容を検討し「授業感覚」でなく、「仕事の厳しさ」を体験する必要がある。
 全体的に元気・若々しさがなく活気を感じない。
 大学生や高校生に限らす、卒業したばかりの職員は自ら仕事をせずに、「指示待ち」となることが多い。学生時代に積極性を身につける様な指導を期待する。
 農業関係団体に属していた立場として、近年少しずつ食農教育への関心が高まっているが、特に10代後半から20代にかけて「食」に対する興味が薄いように感じる。小学校から高校まで継続して農業体験等を通じて食農教育を行って欲しい。
 本県の農業高校からJAへ入組した職員について、学生時代に農業に関する新しい技術等を勉強してきているが、それを仕事に活かすことが出来ていない。農業高校生によるJAの営農関連の職場体験等を行ってはどうか(現在の職場体験ではAコープ等しか実施されていない)。

所属・現職等

長崎県教育長 寺田 隆士 氏

御意見

課題:今日の高校教育が抱える問題点とその解決策についての所感

○「新学習指導要領」に期待

 「ゆとり教育」の方針のもと出来上がったこれまでの学習指導要領により小中学校の教育内容がかなり薄くなっていたが、一方で大学が求める学力のレベルはほとんど変わらず、そのギャップを高校側がなんとか埋めてきた感があった。
 今回改訂された新学習指導要領の実施により、小中学校の学力レベルアップが図られれば、本来の高校教育の内容による授業ができるようになり、日本人の知的レベルの回復ができるものと期待している。

○今後の高校再編整備の考え方

 少子化の進行に伴い、本県でも1学年あたりの生徒数はピーク時の3割にまで落ち込んでいる。少子化のままに学校の小規模化を放置すれば教育活力の低下を招き、結局は生徒たちにしわよせがいく。このため近くに通学可能な学校があるような場合、高校の統廃合は避けて通ることができなかった。
 しかしながら少子化の流れは留まるところを知らず、通学上の不便さを抱える地域においては、次善策として、「統廃合」から「(小規模校ながら)できるだけ教育水準を低下させない工夫」へと考え方をシフトさせていく必要がある。
 このため本県では、
 1.「連携型中高一貫教育」:地域の中学生の多くが近くの高校に進学するなど一定の要件を満たす場合、効果が期待できる。
 2.「キャンパス校制度」:隣接地域高校の協力を受け、授業、部活動等の充実を図る、などの取組をおこなおうとしている。人的配置など克服すべき課題も多く、文科省からも支援をお願いしたい。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年11月 --