役山孝志氏(東京都立多摩科学技術高等学校長)意見発表

【役山氏】

 本日は、このような機会をいただきまして大変ありがとうございます。ご紹介いただきました東京都立多摩科学技術高校校長の役山と申します。
 今ほどお話のありました新しいタイプの高校ということで、東京都でいろいろ取り組んできておりますけれども、その中で理系の進学に特化した新しい科学技術科の取組状況について、一つのご参考になればと思いご紹介いたします。
 昨年、開校いたしましたが、保護者との話の中でも非常に期待されておりまして、こういった学校を待っていたという声も多く有ります。また、生徒も非常に意欲を持って学び始めていますので、これからの人材育成の部分でご参考になればという視点で発表をまとめております。
 また同時に、私はいわゆる民間校長です。日産自動車に30年余りおりまして、4年前にこの学校をつくる段階から校長職になっております。民間だから何か新しいことをやらねばということではなくて、学校づくりや経営のいろいろな場面において、民間で身に付いたものの見方や、仕事のやり方が自然に役立つはずだという考え方で取り組んでおります。結果として特徴的になっているところも有りますので、少し意識的に、こんな工夫をしておりますといったようなことも話させていただきたいと思います。
 将来を担う科学技術の人材をいかに育てていくかということが喫緊の課題です。いろいろな先端技術にも力を入れながら、人材づくりという部分では既存の教育内容に対してスーパーサイエンスハイスクールやその他の施策も含め、いろいろな模索が行われているところです。本校の場合は、科学技術そのものに関心を持つ若者をどうやって、大きく育てていくかという取組になります。
 都内には科学技術科を持つ2つの科学技術高校ができているのですが、これらは進学型の専門高校です。科学技術科という科の一科制ということで、全員が同じことを学んでいくという特徴を持っております。こちらにありますように、幅広く科学技術に触れ、学んで、理系の大学において専門性を高めるための基礎力を身に付けるという位置づけであり、進学を前提にしております。そういった部分で進学を前提とした教育課程を組んでいるということが従来の専門学科と全く違う取り組みになっているところかと思います。
 実は、お手元の資料の一番最後にお付けしているのですが、全国に科学技術高校という名前の学校が幾つかあります。この名前をつけたものだけプロットして見ております。しかしながら、大体において就職もあるし、大学受験もありますよという風に、従来のバージョンアップといったようなとらえ方になっております。
 ただ、こちらの東京都を中心としたところでは、完全に内容を切り分けて、進学専門といったところに位置づけていますので、名前が同じでも内容は大きく違うところというところを、ちょっとご承知おきいただきたいと思います。
 専門学科は、従来のタイプ、すなわち社会に巣立てる知識・技術を身に付ける学校としての専門学科が一般的です。これに対して、生徒の強みと関心を伸ばして大学へ進学していく、こういった学校があっても良いいのではないかということで計画されたのが、今、東京都で取り組んでいる新しいタイプの進学型専門高校といっているところになります。
 都立では、科学技術高校という名称をつけ、内容は科学技術科という定義になりますが、2校設置されました。1つ目が、都立科学技術高校です。これは10年前の平成13年に開校しております。それから、平成22年に開校した多摩科学技術高等学校ということになります。東京都では、これらにより都内を大きく東西に分けてカバーしようという計画になっているわけです。
 本校の位置づけということで、この図は大学との関係を中心に書いているのですが、普通高校から大学進学というのが従来の唯一の道でした。例外的な部分はありますけれども、教育課程面からセンター試験対応等を意識したときには、それが唯一ということになろうかと思います。それに対して、多摩科学技術高校は、科学技術に対する興味能力といった資質を伸ばしながら、進学試験にも対応し理系の大学へ入っていくという教育課程を組んでいることが特徴になります。
 このように、技術立国日本を支える科学技術人材を育成するという一連の流れの中に、この学校を組み込んだイメージを持っています。
 ここで、上の部分に開校コンセプトの明確化と書き込んであるのですけれども、こういった学校の位置づけを対外的にも、あるいは生徒にも、職員にも、すべてわかりやすくしたいという思いがありました。それで、こういった位置づけ図を最初につくって、我々の学校の位置づけはここなんですということを、広報、つまり対外的なもの、それから校内職員、それから生徒、こういったところに繰り返し意識的に発信しております。
 おかげさまで、従来の専門高校のイメージから本校内容が少しわかりづらいところがあるのですが、徐々に一般にも、こういった学校なんだなということが伝わってきており、間違って入ってくるといったことも一切ない状態でおります。これが、いわゆるコンセプトをまず明確化して、自分達の居所、学校の在り方、目標をはっきりした効果と考えられます。私の経歴の民間というところが進め方に多少なりと影響しているところかなと思います。
 これは卒業進路ということですが、先行する都立科学技術高校の例です。4年制大学が77パーセントということで、それ以外にも専門学校とかありますが、100パーセントに近いところが進学ということになっております。
 左側は工業高校の通常の進路例ですけれども、就職が50パーセント、その他大学進学とあります。4年制大学については17パーセント程度という平均的な部分が出ているというふうに思われます。
 都立多摩科学技術高校では、教育目標を設定するときに非常に神経を使いました。これも私の民間管理職としての経歴が多少影響している部分かなと思います。通常は、学校目標、学校の校訓というものが非常に大きくとらえた漠然とした表現部分があったりするのですが、なるべく育てたい人間の、あるいは行いたい教育の中身に触れる部分を明確にあらわしたいなというところで、こういった5つにより定義しております。一つには、もちろん科学技術という専門性をという部分での学校ですので、そのような教育を行うこと。それから、進学のための教育。とにかく大学へ進む力を付けること。そういう学校の姿。それから、課題解決力、あらゆる場面で非常に基盤になる力を付けること。それから、社会人の常識、責任感。最後にやはり志ですね。目的意識を持って巣立ってほしいというところをどう与えていくか。このようなことを学校の教育目標として明確化した上で、それを各方策、具体的にはいろいろな活動、それから教育課程、そういったものに落とし込んでいくことが学校の経営になっていると思います。
 今年度入学してきた生徒の志望調査を5月段階で行っておりますが、これはその段階での状況です。左側に将来進路ということで、やはり先行する学校と同じように75パーセント程度が4年制大学ということになります。申し遅れましたけれども、先ほどの先行校の例では4年制大学のうち、国公立大学へは15名から20名程度進んでいるといった実績になっております。
 志望分野については理学系、それから理・工学系、医、薬、医療、農学、こういった部分で非常にバリエーションが広いということです。
 上をちょっとご覧いただいておわかりいただけるように、女子の比率も今年は4分の1程度が入学してきております。
 学校の学習の特徴は、やはり科学技術教育と進学教育の2つの軸ですべてを構成している点です。理系大学に確実に進学できる基礎力、学力を付けようということで、補習、それから授業の形態も非常に工夫をしながら行っております。
 考える力と創造性という部分を伸ばす科学技術教育、これはいろいろな経験をさせます。これから少しお話しをさせていただきたいと思いますが、おおよそ左側(普通教科)が8割、右側(専門教科)が2割ぐらいの時間を、時間数として、これに充てている配置になっております。
 学習の特徴ということで、5つほど印をつけてクローズアップしておりますが、1つ目は、理数英の単位数は普通高校並みに、とにかく大学受験まできちんと実力をつけさせようということです。それから、習熟別授業や少人数ということで、これについてはかなり充実させている状態です。実験、研究を重視した専門科目ということで、このあたりについては右側の図の下のところに、ちょっと濃いブルー色になっているところがありますが、それが専門の領域です。中身は後で出てまいりますが、1年生で広くいろいろなことを経験して、2年生以降、実習、研究ということを行わせていくということです。それから、模試、実力テストを非常に多く行いまして、全国の中での個人の位置づけ、それから個人の進歩、弱み、こういった部分を見比べながら指導するようにしております。補習や講習ということでは、従来の専門高校というイメージでは全くなくて、普通高校のイメージに近くなっております。
 これは数学、英語、理科を抜き出して書いている図です。大きく楕円で囲ってあるところが東京都の西部の普通高校の必修の単位数の状況です。それに比べて、我々の多摩科学技術高校については、棒グラフになりますけれども、数学が普通高校並み、理科はそれをはるかに上回っています。英語も普通高校並み。自由選択はいろいろなところに充てますが、これも同等。社会と国語は、少し少なくなっています。
 これは工業高校との比較、いわゆる専門高校のカテゴリーになりますので、これと比較してみますと、総時数をまず増やしております。その上で、普通科目をご覧のように、通常の専門高校の場合は半分程度ということになるのですが、これを大きく増やして、普通高校並みの内容を普通教科について実施しているということが相違です。
 次に、学習の特徴ということで、これは専門教育の領域ですが、上部に示した4つのポイントがあるかと思います。まず第一に、先端科学技術を広く学ぶということです。インフォメーションテクノロジー、IT。エコテクノロジー、ET。バイオテクノロジー、BT。ナノテクノロジー、NT。という4つの領域をつくりましたが、経産省でも言っている先端技術の領域です。これは従来の旋盤機械加工というところではなくて、日本としてその次の競争力を持たせたいというところで、そういった領域に触れさせ、基礎を学ばせるということであります。
 2つ目に課題研究、卒業研究、課題解決能力を育てるということで、これは実習、研究というところを多くしているということです。
 3つ目に先端設備による充実した学習ということですが、これについては後で少し実例の中で紹介しますが、産振予算等の活用も含めて、こういったところに充実したものを充てることができております。
 最後に、大学、研究機関、企業とのコラボレーションも特徴であります。
 1年生、2年生、3年生の学習の流れを模式的に書いてありますが、基礎を広く学んで、順次、自分の興味、関心に沿って狭く絞り込みながら研究の領域まで経験させていくという流れになります。
 これは、それぞれの領域で、ざっくりどういったことを学ばせているか、経験させているかということを示す図です。考えてみますと、中学生での経験しかないわけですから、ほんとうに何もわかりません。そういった部分を、まずは知らせる、本物に触れさせる、経験させるということです。また、今度進学するに当たって、自分は何に向いているのかを考えさせる。それと広く深く経験させることは無理ですけれども、一つのテーマについて、いわゆるPDCAなり、仮説、実証というところの経験をさせていく。こういったような題材として新しい技術を扱っていきます。
 ITの領域では、プログラミングや画像処理の基本、ロボット技術の基礎知識ということで、簡単な制御プログラムで動かしてみたり、あるいはCGをつくらせたりしています。エコテクノロジーの領域では、フィールドワークで分析をしたり、そういったことをやっております。また、温暖化対策のための科学反応技術というようなことも行います。バイオテクノロジーでは、醸造、それからDNA操作、こういった食品関係も含めた、いわゆるバイオ技術の基礎というところを経験させております。ナノテクノロジーでは、電子線描画装置、こちらがおそらく全国でも非常に珍しいケースと思いますが、私どものところに設置させていただいています。また電子顕微鏡等も複数台あるのですが、こういったものを使いながらナノの世界の感覚を身につけてもらう、あるいは体験するということであります。
 これは校舎ですが、今年、新しい校舎が完成します。2年目に完成するということになるのですが、右下にあるように領域別のフロアで、整然とした学習環境を整えてあげられるということで、ますます学びやすい環境になっていくのではないかと思います。
 科学技術アドバイザーというのは、ちょっと聞き慣れない言葉ですが、これは先端技術を研究している大学、あるいは研究機関、企業の協力をいただきまして、図の真ん中に示してあります特別授業、それと相手方の施設や研究を見学させていただくといった、こういう関係づくりを構築してきております。こういった新しい部分に入っていきますと、教員や学校の現状の力だけでは無理な部分があります。それと本物を知ってもらいたい、触れてもらいたい、刺激を与えたいなどの、生徒に対しての気持ちも大変にあります。こういった部分で、そういったことを日常的に研究している機関とのおつき合いをさせていただく中で、これを達成したいと思っております。
 右上に示してありますが、持続可能な仕組みづくり、外部との調整ということで、これも実は、私の経歴の部分が多少強みになっているかなと思います。やはりどうしてもこういう取組というのは他の高校でもあるのですけれども、例えば人と人との人的つながりに頼っているとか、継続性に欠けるところがあります。何々先生がいたうちはできたんだけどなど…。そうではなくて、いわゆる組織、体制として、きちんと長く維持していきたいなという気持ちが強くあります。そのためには、やはりお互いに負担にならないというところと、それぞれがメリットを持つということ、中でも、やはり負担にならないということが非常に大きいと考えていますのでこんなに数が多いのです。例えば、こういった大学から年間2回程度、講演をいただいたり、特別授業をいただいたりしております。そういったところから始めています。そういう部分を考慮した上で、いわゆる覚書的なものを取り交わしながら、組織としておつき合いをいただくという考え方で、持続可能な仕組みとしていく工夫をしているところです。
 それと、外部との調整ということですが、教職の方はなかなか外との調整が苦手なようです。私はどちらかというと、そういうことを常にビジネスで行っておりましたので、こういったところをお願いするのであれば、こういう流れがあるのではないかといった判断の場面や実際の調整というところで、やはり強みとして今回は出てきているのかなと、振り返りますと思っております。
 アドバイザー制度は、まだまだ間口としては非常に狭いところなんですが、継続的にやる中で、いろんな可能性を引き出したいと考えています。
 その一例ですけれども、昨年の開校以来こういうような講演や特別授業を行っていただきました。こうやって並べてみますと、やはり随分あります。それで、生徒は自分の好きなところを聞きに行く。おそらく何を聞いても感じるところは非常にありますので、こういったところを数多く提供して、あるいは生徒を刺激しながら、彼らの志を高めていきたいなというふうに思っております。いろいろな先端領域にかかわる実例のお話を、大体1時間半ぐらいで戴いています。
 本校を一言でいいますと、普通高校のような授業を主体にしながら、専門の領域の勉強や活動を行う学校です。その上で、授業以外の活動は、もう科学詰めになっている。そういうような感じです。その例ですが、例えば1年生でホームルーム合宿。入学してすぐに合宿し、グループごとに選んだテーマで発表させるものです。科学で興味のあるテーマを選ぶことが条件ですので、太陽はなぜ燃え続けるのかみたいなのから選んできたりするわけです。そういったものを早速1年生の5月に発表させます。それから、科学技術遠足。今回は日本科学未来館など、お台場の方で幾つかの施設を探索するようなことをやってきております。多摩未来祭。これは文化祭ですが、科学をテーマにして条件をつけたところいろんなことが出てきております。また、科学研究発表大会へ積極参加しなさいということで取り組んだところ、昨年は1年生だけだったんですが、早速いろいろな表彰を受けたりして、非常に楽しみな状態です。
 クラブ活動で特徴的なのは科学研究部です。この図のような班に分かれております。例えば、去年はなかったのですが、今年入ってきた1年生により、数学班というのができたのです。見ましたら、女子が2人でやっているわけです。つい先日また見ましたら、男子が1人増えていました。そういうようなことが自然に行われてきているということです。
 これはクラブの参加状況です。左側が通常の都立高校の平均的なものを22年のデータから引っ張ってきております。サッカー部、バスケット部、テニス、野球。吹奏楽、軽音楽などの文化部が左半分になります。
 本学の場合は、まず科学研究部18パーセントというところが非常に違います。2位がパソコン部で12パーセントということで、やはりこういったものを求めている生徒が本学に集まっているというようなことをあらわしていると思います。もちろんスポーツ系も盛んですけれども、そういったところが傾向として出ております。
 科学研究部の活躍例ということで、こちらにありますように、1年生だけでしたが、去年は早速いろんなところで賞をいただいたりというふうなことがありました。今年になってからも、一番上にありますように、ものづくりコンテストの東京大会で優勝しております。女子の生徒です。また、福島での総合文化祭にも特別参加ということで招かれたり、そういったことを行っております。
 あと、苦労の部分では、人材の確保です。やはり従来の職業タイプの授業とは全く違う部分で専門の先生をどう集めるか、あるいは育てるか、こういったところが非常に今苦労しているところです。
 上の半分は進学指導の先生に関してですが、特色のある学校で、しっかりと指導していきたいという先生方も随分いらっしゃるので、ここは確保できています。実は、東京都の場合は新設校では公募の仕組みが有ります。それで集めきれないところが通常の異動ということになります。
 それから、専門指導のところでは、こちらに書いてある部分です。これはそのときの案内PR文章ですが、中ほどに、次のステップに活用できる知識や真理を追求していく姿勢を生徒に身に付けさせていきたいということが書いてあります。それと、一番下に書いてあるように先生自身も新しい道を拓いていこうという意欲を持って臨んでほしいということを書いてあります。ですから、新技術を勉強していくということを、生徒と一緒にしていってもらいたいものですから、ここはこのような感覚、感性を持った高校教育での専門での人材、それは現状の専門教育の枠組みからでよろしいのですが、そういった人たちを、こういった学校の教育目的に沿って育成していく、経験を増やしていくといったようなことができると、生徒に新しい価値というものを与えていけるのかなと思います。
 生徒の通学域ということですが、東京都の小金井市というのは、東京の西部、ほとんど中央部にあります。括弧で書いてあるところは通学者の人数です。2年生までの中で、例えば青梅市から22名、八王子市39名、一番上の東久留米市17名ということです。これは何を申し上げたいかというと、要は広い領域から集まっているということです。こういった学校がどのくらいのニーズがあるかという部分については、まだ不明な部分があるのですが、本校の場合は、東京のようにある程度広い領域をカバーしているので、その広い領域でこういった学校に興味のある生徒が多く集まってきているといったような傾向があるのかなというふうに思います。これから倍率がどんどん増えてきていただくと、また違う視点が見えてくるかなという気はいたしますけれども、現状はこういった形です。
 最後の図は全国の科学技術と名前のついた学校の一覧です。現在、東京、関東を中心に、対象の生徒が集中して集められるということから、進学に特化した科学技術高校が誕生しているようですが、やはり地方では職業高校のニーズの高さなどからこういった進学型専門高校への分化が、難しいのかもしれません。集約しながら感じた次第です。
 私の発表は以上で終わります。ありがとうございました。

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-- 登録:平成23年10月 --