茨城県立水戸第一高等学校長 早川源一氏 インタビュー概要

1.実施日

平成23年8月9日(火曜日)

2.インタビュー対象者

茨城県立水戸第一高等学校長 早川源一 氏

3.概要

(本校の現状と課題について)

 高校教育にあっては、今言われているいわゆる「高校教育の質の保証」が重要だと思う。その質の保証の中身だが、単に学力の保証のみでなく、一個の自立した社会人としての総合力がついているかどうかが問われていると思う。その意味で、盛岡北高の池田博男校長の「4つの積み木」は参考になる。基本的な生活習慣、社会規範、人間としての徳目、思いやりや倫理観などの1つ目の積み木をベースにして、その上に「基礎学力」と「社会人基礎力」の2つ目、3つ目の積み木を載せた上で、高校では4つ目の積み木として学ぶ喜びを味わうことをさせた上で意欲と目的をもって上級学校へ進学できる力を付けていくという考え方は、理解できるし共鳴できる。 
 本校では、更に「基礎学力」に自分で計画し学習を進めていける「自学自習力」を加え、「社会人基礎力」に様々な意見を調整し高めて意味ある行動に結びつけていける「リーダーシップ」を加えたものを2つ目、3つ目の積み木としたいと考えている。
 そうは言っても、震災後の約1か月間、交通機関の遮断などで学校生活に空白ができたときに、それぞれ自分で計画的・自律的に学習できた生徒がどの程度いたのかと考えるとき、自学自習力をきちんと身に付けさせることは、なかなか難しい課題だと言わざるを得ないが、生徒が成長する上で重要なテーマだと考えている。
 本校では、社会人としての基礎力やリーダーシップ等を意識的に養成するよう、意図的・計画的に教育活動を展開している。その取組としては、学苑祭や歩く会などの学校行事に対して生徒が実行委員会を組織して自主的に企画・運営したり、限られた時間を有効に使いながら文武両道を目指して真剣に部活動に参加させたりするなど、生徒を厳しい条件下におくように負荷をかけることで、生徒の成長を図っている。今回の震災により、今までどおりに実施できない行事もあり、生徒は今までとは違いゼロから作り上げるなど相当負荷がかかっているが、その分工夫などが必要となり、結果的に特別活動は充実しており、実行委員等生徒の成長が見られる。
 大学受験については、学力向上を目指して、新学習指導要領に即応して60分6時限授業を始めたり、自習時間を作らないよう授業の完全交換や授業研究等により、質・量ともに充実した授業を行うことを基本としている。また、生徒の意欲喚起を目的として、有名講師による「心に火をつけるフォーラム」を開催したり、本校のOB等を活用して、社会人インタビュー、大学模擬授業、医学部実習などを実施し、本校としてのキャリア教育を行い、各自がきちんとした目標を持って学習に取り組むことを求めている。さらに、総合的な学習の時間では、各生徒が自分なりのテーマに向かって探求・追求を行う「課題研究」に取り組ませている。
 ただし、全県的に見ると、どの高校でもこの3つの積み木がきちんと積み上がるかというと実際は難しく、苦慮しているのが実態である。しかしながら、どの学校でもそれぞれ実態に応じて重点を置く箇所は異なってはいても、それぞれ懸命に対応しているのが現状である。特に、基礎学力やコミュニケーション力が付いていることが、社会人としての必須の条件となるので、何としてもその力を付けるための方策をとる必要があると考える。そのためには、各学校と行政が一緒になって条件整備をするべきであり、ノウハウや教材は共有化すべきである。ただ、学力の個人差もあり、どこまでを高校教育の到達点の基準とするか設定することは難しい。私としては、できれば学習指導要領で必修とされている科目をきちんと履修・修得させることがやはり高校教育の責任ではないかと考えている。そのためには、現状を考えると高校だけでの対応は難しく、義務教育との連携・協力が欠かせないと思う。

(今後の高校教育について)

 普通科、専門学科いずれにおいても、序列・差別がなく、どこにいっても同じような教育ができることが理想であるが、全国一律の基準を設けることは難しく、もともと生徒には個人差があることを前提とした、生徒の多様化に応じたカリキュラムを組める制度が必要だと考える。現在、総合学科・単位制などの設置や専門学科の多様化などによって進路希望等の多様化に対応した学校のかたちはできているが、かなり幅が広くなっていると思われる学力や学習内容の多様化に対応したかたちができていないと思われ、これが今後の課題と思われる。
 また、今後は、積極的に高校から義務教育段階に関わっていくことが必要であり、実際に、私立や公立の中高一貫校への需要が高まってきていることを、公立の中学校も高校もしっかり考えるべきだと強く感じている。行政も交えて、高校と義務教育の関係者で今後の中学校と高校の接続等について議論してみることも必要であろう。
 教員については、現在多様な生徒がいる状況を考えると、単に教科指導のみでなく、それ以外の個々の生徒を指導していくために必要な資質を具体的にどう付けていくかという教員養成の課題があると思う。現場において、行政側からも各学校でも様々な研修を通して必要な課題への実践力を付けてはいるが、どうしても付け焼き刃的な印象がぬぐえず、やはり教員養成段階での改善がより求められるだろう。また、教育現場は厳しいので、人間的に強く、リーダーシップのある教員の養成が求められる。
 保護者や生徒については、家庭環境も多様化してきており、教育に対して非常に熱心な家庭がある反面、勉強の必要性をどれだけ訴えてもなかなか理解していただけないケースもあり、一部で家庭教育力の低下が見られる。高校になってきてからでは、状況の改善が困難であり、早い段階で家庭の教育力の向上がなされると良い。
 最近の子どもたちは内向きだと言われるが、例えば、中国や韓国の意欲的な生徒と交流することや海外留学等により、外国人の考え方や生活を直に肌で感じることは、生徒にとっても貴重な経験となり、意欲喚起に大きくつながる可能性があると考える。

(以上)

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年10月 --