日本工業大学駒場中・高等学校長 大森和夫氏 インタビュー概要

1.実施日

平成23年6月23日(木曜日)

2.インタビュー対象者

日本工業大学駒場中・高等学校長 大森和夫氏

3.概要

(日本工業大学駒場中・高等学校の現状と今後について)

  •  本校創立104周年になるが、100年間は工業科単独でやってきた。今は普通科を併設している。都内では、工業科と普通科の併設校は全部で8校あるが、そのうち2校は来年募集停止する状況であり、工業系全体として生徒が集まらない。地域に産業がある地域はまだよいが、それでも苦しく、本校は地場産業もなく非常に苦しい状況。
  •  都内の公私立在籍者数の推移を見ると、生徒数全体の減少率に比べて工業科の減少率が高い。

(工業学科からの大学進学)

  •  大学進学率は54.3%であるが、首都圏(1都3県)では59.9%という状況である。多くの場合、保護者も生徒も大学進学を目指す。工業学科は、卒業までに修得が必要な74単位のうち25単位は工業系の科目を履修しなければならず、うち5単位は他の科目で代替することもできるが、20単位は工業系の科目と決められており、残りの単位で大学進学に対応するカリキュラムを組むのはとても厳しい。また、必ずしも工業学科への進学を望んでいないものの入学してくる生徒もおり、そのような生徒のモチベーションを維持することにも苦労する。子どもの資質からしても、またカリキュラムからしても、大学進学に向けた指導するには難しい面がある。

(工業学科と普通科を併設する学校の課題)

  •  大学進学実績をあげるために普通科の入学試験の難易度を上げようとすると工業学科の難易度をあげなければ、生徒は普通科を希望しない。共に学習しようとする環境としてふさわしくないと判断してしまう。一方、工業学科の難易度を上げようとすると、受験者数が減るという結果が生じてしまう。この矛盾を克服しつつ、大学進学と工学教育を両立させていくことが課題と言える。

(ものづくり体験の重要性)

  •  文理、男女、学科を問わず、ものづくりを体験させることが将来の人材立国の実現に繋がると考えている。このため、普通科のうち、教育課程の3分の2を体験授業として積極的に組み込むようにしている。
     また、中学生などの早い段階からものづくりを体験させることにより、将来の進路選択の幅を広げることにつながる。これは「技術的教養」とも言える。
  •  具体的には、ものづくりの過程で自分の工夫を入れることにより、感動を体験し、このことが新しい気づきにつながる。一方、プラモデル作りはマニュアルどおりに作業をすれば完成する経験であり、これでは楽しさ・感動の体験は得られない。
  •  本物のものづくり体験をさせるためには、教員の質が問題になる。ものづくり体験は工学教育の生命線だと思っている。

(キャリア教育について)

  •  キャリア教育とよく言われるが、工業学科は授業それ自体がキャリア教育であり職業教育である。実際の授業と将来の職業を関連づけながら教えており、随分早い時期からキャリア教育を行ってきたと思っている。また、大学進学の特進コースの生徒は、ものづくりを体験させられる時間数は他のコースに比べてどうしても減ってしまうが、それでもバランスをとり体験授業でおもしろいことができるように組み込んでいる。体験授業を通じて、将来の職業や生き方につながる教育を行っていると考えている。

(科学技術立国の実現に向けて)

  •  国は、科学技術立国というが、実態は工業系に人材が集まらない。国をあげて工業教育を支援しようとする体制になっていない。科学技術立国と言えど、大学工学部における養成を念頭においており、中等教育における養成への支援は乏しい。国の方針として、もっと支援する方向性を打ち出して欲しい。

(以上)

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年08月 --