今村久美氏(特定非営利活動法人NPOカタリバ代表理事)意見発表

 【今村氏】

 お招きいただきましてありがとうございます。NPOカタリバ代表の今村と申します。
 20分間お話をさせていただくということでよろしいですよね。ちなみに、今、カタリバのことをすごく御理解いただいていて、大変うれしいなと思ったんですけれども、ここにいらっしゃる方々は活動のことを皆さん御存じということでしょうか。それとも、そんなに御存じの方はいらっしゃらないということを前提にした方がよろしいでしょうか。

【山中初等中等教育局長】

 両方だと思います。

【今村氏】

 ああ、なるほど。であれば、その20分間は、少し映像を見ていただいたりしながら、自己紹介の時間になってしまうかと思います。
 自己紹介じゃない提案をしろと言われても、実は私があまり政策的なことがまだ全体的に理解ができていないという状態ですので、今その提案は既に進んでいるよとか、そういったものもこの後の議論の時間にも出てしまうかもしれないんですけれども、現場に向かい合っている立場から、まずカタリバの活動を御紹介させていただければなと思っております。そういった形でよろしいでしょうか。ありがとうございます。
 まず初めに、何をしているのかということを映像で見ていただくところから始めた方が、きっとわかりやすいかと思いますので、映像を御覧いただきます。

(ビデオ上映)

【今村氏】

 今御覧いただいたのが、カタリバの、特に教育困難校的な位置づけでいらっしゃるような、永山高校という都立高校で行ったときの現場の模様です。これも1つの事例にすぎない状態ではあるんですけれども、私たちはこういう形で、何となくこういう感じで、鈴木先生もまさにおっしゃっているような「ナナメの関係」、親でも先生でもない先輩、利害関係のない第三者との関係性を学校の授業の中に持ち込む、「カタリ場」という授業を行っている団体です。
 今、カタリバでは、高校を卒業したばかりの、まさにこの間まで高校生だった若手の社会人や、大学生のメンバー4,000名が登録をしていまして、そのメンバーと一緒にカタリ場の授業をつくっています。
 今、映像の中でも出てきましたし、こういったデータ的なものはまさに文科省さんの方からいただいているものなので、ざっと流すところではあるんですけれども、「自分はだめな人間だと思うか」という問いに対して、日本の高校生たちはかなり「だめな人間だと思う」と答えているという現状があったり、「人並みの能力があると思うか」と問われれば、「思わない」と答えている子が大変多かったり、じゃあ、「何か自分がやれることがあるか」と聞かれれば、「そうは思わない」と答えている。自信もなくて意欲もない状態が今の高校生たちといいますか、日本人全体に言えることなんじゃないかと、別に子供だけに限った話ではないと思うんですけれども、自信もなくてなかなか意欲もわかないという状態が今の高校生たちの現状です。
 そういった中に、私たちは「ナナメの関係」を活用した授業、キャリア教育の文脈の中では一番初めの動機づけの部分、これから始める何かしらの体験活動――キャリア教育といっても、まともにやっている学校もまだそんなにはないと思うんですけれども、これから始めていく一番初めの動機づけの部分、何かしたいと思う、やりたいと思う内発的な動機をまず引き出すということを、カタリバは担当しています。これは私が10年前に大学を卒業するときに、鈴木先生がまだSFCにいらっしゃったころに立ち上げた団体で、鈴木先生というのは鈴木寛さんですけれども、もちろん御存じだと思いますけれども、お世話になりながら立ち上げてきました。
 先ほど映像で見ていただいたように、まだ未熟な大学生たちがメーンのプレーヤーです。まだ未熟な人たちです。先ほど見ていただいたように、学校をやめちゃいましたって言ってる子は、「学校をやめて私は楽になったから、みんなもやめよう」というキャンペーンを張っているのではなくて、「私は学校をやめたけど、自由って実はすごく自分で責任をとっていかなきゃいけないということに、やめてから気づいた。事の重大さに気づきました。学校に行けるって、勉強ができるってすごいことなんだよ、実は。先生がいてくれるってすごいんだよ。友達が自動的にできたり出会いがあるって、学校ってすごいところなんだよ」という話をしていたり、「僕はちょっと前までひきこもってました」っていう話を親の離婚という事例をもとに話す子がいたりとかするんですけれども、カタリバのプログラムは、こうした形で一般的な素人でいる普通の人を活用したキャリア教育を行っています。
 カタリバのプログラムは1次プログラム、2次プログラムに分かれていて、1次プログラムは、そういうボランティアの人たちにとって、自分自身を振り返り、自分自身は下の世代に伝えられることを言葉にして、自分自身の過去の失敗体験を消化して、それを伝えるに至るというトレーニングです。これによって、大学生たちが、コンプレックスに思っていたけど実はそれが自分を育てたかもしれない経験や、いじめの経験や、いろんな劣等感を1つ1つ捨てていくという効果があり、そこに参加させるということが大学にとって授業になっていたりもするという展開も見せています。
 また、企業の方々には、企業研修としてカタリバにお金を払って参加していただく企業も出てきていて、大人であるという自分が、自分の関係している子供以外の無関係の人に対して、自分の職業の話やこれまでの経験の話をするということを、社員が生き生きとするボランティア活動の場として、今少しずつ、ベネッセさんやグーグルさんや資生堂さんなんかの企業には広がりつつあります。そういう形で、ボランティアとして学校にかかわることが、実は学校にかかわることこそが人を元気にするのかもしれないという機能が、カタリバの一面であります。
 そして、2次プログラムとして高校に行きます。ここからが高校生にとっての「カタリ場」なんですけれども、私たちは今まで10年間、「カタリ場」に取り組んでいく中で、その1次プログラムの方、学校にかかわるということで社会人側が元気になる、大学生側が元気になるというプログラムについては、結構やり尽くしてきました。ボランティアに参加したいという人たちも、1日10人エントリーしてくるぐらいのペースで、相当たくさんの人たちを巻き込むことが今できるようになりました。ただ、これから10年間、本当の課題に私たちはぶち当たっていくんですけれども、まだ私たちの実力では、たった1回高校に行っているだけにすぎません。
 「カタリ場」という授業を高校に行って1回動機づけをしたところで、そこで先生方との関係構築がきちんとできていなかったり、正直、今、先生方の中では、去年もやってた「カタリ場」の授業を、前例があるから今年も継続的にやるかという形で導入されている学校がほとんどですので、意図を持って導入していただいている学校が多いわけではないんです。そういうことも含めて、生徒たちにとって本当に1歩を踏み出すきっかけにするためには、生徒の日常を変えていく、日常の中の何かに接続しないことには意味がないんです。
 なので、本当は私も、立ち上げ当初は、高校生たちのためのカタリバを立ち上げていきたかったんですけれども、その前に、そこにかかわる人のための活動の方が盛り上がってきているんですが、ここから10年間で、とにかく学校の先生方やそれを受け取る保護者の方々にその動機づけの機会をどう引き継ぐかということに、まさに取り組んでいかなければと思っています。
 私たちは、学校外の外部人材として、こうした学校に今やっと入れるようになってきていますし、今、文科省の方々がいろいろと学校支援本部的な、とにかく学校を社会に開いていくということを推進していただく流れもあって、少しずつ少しずつ学校に入りやすくなってはきています。ただ、高校はいまだにやっぱりまだ閉鎖的なところが多いのが正直なところだし、高校だけが悪いのではなくて、町の人たちも高校に興味がないです。小学校や中学校にはみんなかかわろうとしますけれども、高校は放置です。体育祭なんか人が集まりません。
 私たちが行っているような教育困難校と言われているような高校だとか、全日制高校だけれども中堅以下みたいな扱いを受けているような学校によく呼ばれるんですけれども、なかなか地域に愛されないんです。なので、そこに入学することが生徒たちのまず自己肯定感を損なっていて、その上で、だれも関心を寄せてくれない場所なので、関係性が学校の先生しかないんです。しかも、その子たちが家に帰っても、なかなか親御さんとうまく話せる世代でもないということもあって、生徒たちにとって刺激を得たり新しい見識を得たりする機会が、意欲的に持つことがなかなかできないんです。
 私は、やっぱり教育の一番の役割は内発性をともすことにあると思いますので、今とにかく、これからいろんな課題はありつつも、生徒たちが何かしたいと思う、チャレンジしたいと思うその動機づけのところを、たくさんの方々にかかわっていただきながら、これからも展開していこうと思っております。
 まずは以上となります。ありがとうございました。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年06月 --