【青砥氏】
彩の国子ども・若者支援ネットワークの代表をしている青砥と申します。もとは学校の教師でありまして、今は明治大学と埼玉大学で教育学を教えています。
私が今日お話をしたいのは、昨年の秋に『ドキュメント高校中退』という本を書きましたが、ここ数年、高校中退者が多い大阪、埼玉、神奈川、東京などで中退した子供たちと教師、親、福祉関係者、保育士などに聞き取りをしました。児童相談所の児童福祉司にもお聞きしました。
そこで100名ほどの若者たちは最近も会っていますが、聞き取りをいたしましたけれども、高校を中退をした若者が今の日本社会で、学生も高校を中退した若者たちの仕事もほとんどない。一番最近聞いた子も今年20歳になるけれども、女の子で行き場がないので、最後はキャバクラです。女の子の場合、そういうところで働いている子も相当数いる。要するに学歴を持たない子供たち、中卒の子たち、それから高校を中退した子たちがマージナルパーソン化しているという社会で縁辺化しているということが見えてきました。
本来的に国家における公教育の役割の1つは社会統合、国民統合にあると僕は思っています。逆に、それが不平等を再生産しているとすれば、これは大変な事態ですが、事実そういう状況が中退をした子たちの調査からは相当数ある。社会の分断をどう防いでいくかは教育の役割だろうと考えています。
もう1つの問題は中卒の子供たち、それから中退をした子供たちが一体どういう今人生を歩んでいるのか。特に若者層、10代、20代の若者たちがどういう人生を歩んでいるかを実態調査を行うべきだろうと思います。これが第1であります。
それから中退した子たちの調査をしていますと、子供のころからの本当に深刻な貧困がありました。その若者たちの貧困は親の代から続いて、不安定雇用や低賃金の貧困の連鎖からつくられたものでしたけれども、その中で幼児期からDVだとか、家庭崩壊、貧困に伴ってネグレクト、虐待が相当数見えました。それから10代の妊娠も少なくはないと思います。結局は家庭の経済資源のなさが、貧困が親の子育ての意欲のなさと相まって、子供たちの発達にものすごく大きな影響を与えている。それからその一番の問題はやはり学力形成に大きな影響を与えている。低学力のまま、中には九九ができないであるとか、繰り上がりの足し算ができない。小数、分数の計算ができないという子は相当数。これは有名な事態になっておりますけれども、繰り上がりの足し算すらできないという子供たちも相当取り残されて放置されている。それが結局学校に対する意欲を失わせ、それからその子供たちが小学校や中学で不登校を経験し、そして高校で中退をしていく。そして、そのまま貧困の中に進んでいく。そして将来的には生活保護世帯へとなっていく。こういう悪循環が親の代から見えます。
ですから子どもたちがマージナル化しているというのは、貧困というのはやはり社会関係を作る上でも非常に大きな阻害要因となっていて、社会との一体感も帰属感もない。帰属する社会というものを意識できないまま、放置されている。そういう子供たちが大人になることによって、この社会は一体どうなるんだろうか。生活保護世帯が増えて、社会の大変大きな問題になるということだけではなくて、社会の非常に不安定要因になっていく。
女の子はキャバクラと申しましたけれども、男の子たちはやはりいろいろな諸事件を見ておりましても、社会的にアンダーグラウンドの世界で生きていかざるを得ないような子供たちが潜在的には相当数いる。これも僕は低学歴、要するに中卒であるとか、中退であるとか、そういう子供たちの中に相当それが生まれてきているのではないかと思います。ですから、社会階層と連動した日本の社会の中には学校序列、トラックができていないのだろうか、いるのだろうかという研究も真摯にやる必要があるのではないか。これを先ほどは日本の教育制度は不平等を再生産していると申しましたけれども、これは富裕層にとっても親の資産を相続しますけれども、貧困もまた相続するということも我々は考えなければいけないのではないかと思います。
幾つか提案を持ってきましたけれども、ちょっと具体的にパワーポイントを使って、時間がありませんので簡潔に説明したいと思います。
私の調査では高校中退をした若者は毎年大体10万近くになると考えています。この資料は文科省がお作りになったデータであります。2004年までのほぼ十数年間の20年近いデータがありますけれども、大体毎年10万から、最近少なくなったと言いますけれども、大体7万人ぐらい、多いときは12万人を超えております。そういう中退者が出ています。文科省の計算方法では2%ということになっております。
次は中途退学者が何年生のときにやめたかというデータです。多くは1年生の、茶色い棒ですけれども、この茶色いところを見ていただいたらわかりますけれども、1年生でおよそ3.5%から4%近い生徒たちがやめています。ところが、最終的には2%というデータになっておりますけれども、私はちょっとこの計算は現在の実情を反映していない計算の仕方ではないかと思っております。次は私が学校基本調査を基にして計算したデータであります。2005年に入学した全日制、定時制、公立、私立合わせて大体120万人程度の高校生が入学して5月1日の在籍をもとに計算しています。それが3年後にはほぼ10万近い子供たちが卒業しておりません。ですからそのパーセンテージでいえば、学年ごとに追いかけていけば8%から9%程度の高校生が消えているわけです。文科省は転学。つまり定時制だとか通信制に移った子供たちは「転学」として退学にはカウントされていないということが1つあります。それから学校に在籍している全学年の生徒を分母とするという計算方式ではこの8%が約3分の1に減ります。文科省のデータでは。しかし、実態は大体1年間に10万近い子供たちが消えている。高校を少なくともやめている。それからそれが8%から9%程度になっている。大阪の貧困が問題になっておりますけれども、大阪では13%近い子供たちが消えています。私が暮らしている埼玉でも9%から10%の間の子供たちが消えています。ですからこの子供たちの中にはもちろん定時制で卒業する子もいますけれども、全日制を中退して定時制に移って卒業できる子はかなりまれであります。これは非常に困難なことです。ましてや通信制に行って卒業するのはさらに難しい。そういう実態が文科省のデータからは見えてこない。
通信制は高校中退のブラックボックスになっていると思いますが、ほとんど調査されていない。次は埼玉県立のある高等学校です。いわゆる底辺校と言われる中退者がたくさん出る学校ですけれども、これは2004年に199人。1名の欠員でスタートした学年ですが、途中で85人がやめました。卒業したのは113人。ですけれども、入学した中で41人は中学で不登校を経験しておりました。不登校を経験した生徒の41人中38人はやめています。ですから不登校と中退はかなり密接な関連があると言えるのではないかと思います。これはただ1つの学校の事例ですからまだまだ調査が必要だろうと思います。
それからこれは今年の春、2010年、平成22年3月に卒業した埼玉県の南部の2つの学校の中学の事例であります。合計353人が卒業いたしました。そのうちの64人が就学援助・生活保護世帯の生徒であります。それを見ていただいたらわかりますが、公立高校の職業課程、つまり専門学科高校ですね。工業科、商業科に入った生徒がこの2つの中学では15人おりますが、そのうちの10人は就学援助、生保世帯の子供であります。3分の2です。公立の定時制に入った子供は14人中7人。それから公立の通信制に入った子は3人中3人とも生保世帯・就学援助世帯の生徒であります。就職は4人が4人とも生保・就学援助世帯です。100%です。つまり生活が困難な家庭の子供たちがどういう進路を選択しているかが、この中学の2つの事例を見ればわかります。、こういう調査はほとんどなされておりませんけれども、必要なのではないかと思われます。
あとは文書で、これは中退をした子供たちの聞き取りをして、私が忘れられない子供たちの事例をちょっと紹介します。『ドキュメント高校中退』という本にはたくさん書きましたけれども。本当に中退した生徒は子供のころからみんな低学力でしたが、この子たちは一体本当に安心して15歳、16歳まで生活することができたんだろうか。親の保護のもとで温かい家庭の中で生活することができたんだろうかと思います。
常に不安の中で、「いつこの家庭は崩壊するのか」、「うちは壊れていくのではないか」と恐れを抱きながら、それから「自分はいつこのご飯を食べられなくなるんだろうか」という不安感を抱きながら過ごしてきた子たちが非常に多いと、私は聞き取りをしながら感じました。これはたくさんありますけれども、中にはいじめとや不登校という問題も決して貧困とは無縁ではない。特に貧困世帯の子供たちの中でいじめに遭う子は非常に多い。これは小学校、中学の先生方からの聞き取りをしても見えてくると思います。友達ができない。友達というのはいじめから自分を守る、要するにガードになるわけですから、たくさんの友達関係をつくる、社会関係をつくるという能力がやっぱりこの貧困世帯の子供たちには育っていない。社会が、自分の親の社会も狭いけれども、子供の社会も狭い。これは社会的機能を育てる上では、非常にこの子たちはマイナスといいますか、条件を持っていないと思います。
こういう子たちがたくさんいます。生活保護世帯には。、次のこの子は高校3年生ですけれども、お母さんはフィリピン人です。この子は埼玉県のA市に住んでいる子ですけれども。B市まで京浜東北線の5つの駅しかありませんが、この子は18歳になるまでその京浜東北線にすら乗ったことがないということです。これは小学校の先生にも同じような話を聞いていて、とても驚きましたけれども、この子が今まで生きている中で一番つらかったことは水道がとめられて、小学校のときにお母さんのかわりに公園に水くみに行ったのが一番つらかったと話していました。そういう日本語を話せないお母さんを持つ子供たちはたくさんいますけれども、母子世帯の中では外国人は圧倒的にフィリピン人が多いです。そういうお母さんたちのかわりに役所の交渉をしたり、学校との話をしたり、そういう子はたくさんいます。
また、困難なのは家庭の中に複数、支援をしなければいけない子供や親がいることです。お母さんも鬱など精神疾患を持っていて、子供も鬱。そういう家庭が結構あります。次の家族は、4人兄弟の全員がADHDでとか、発達障害とか、情緒不安定とか、そういう家庭の事例でした。これも僕もこの子たちはどうやって支援すればいいんだろうかと悩みました。1家庭に複数の支援対象者がいるということは本当に支援が困難です。
それからこの不登校の問題ですけれども、これは東京都のI区の事例ですが、このI区の事例は、有名な調査ですから御存じだと思いますけれども、生活保護世帯の12%は不登校の児童が発生している。その他世帯の平均は2.41%と。この間には5倍の格差がある。それから全日制高校に行けるのは72%で、東京都の平均は90%と比べると、20%のマイナス。定時制公立へ行くのは被保護世帯の子供たちは何と20%も行っている。平均は4.6%である。未進学という中学で終えなくてはいけないのが6%近く。この事態を、中学で終えなくてはいけない子供が6%いるという事態をどう解決していったらいいんでしょうかという問題提起です。
あとは貧困と不登校の問題の調査を私はたくさんしてきましたけれども、ちょっと時間がありませんので、幾つか私の提案だけを申し上げ、後でまた時間がありましたらこの私が調べた調査についてはお話を申し上げたいと思います。とにかく先ほどのような子供たち、10万人もの中退をしていく子供たちがいる。中卒で終わる子たちがいる。この子たちにはまず社会性であるとか、社会的自立につながるまでのいろいろな日常生活の自立を含めて、これを家庭だけでなく、行政と民間が力を合わせて行う必要があると思います。そんな「居場所づくり」を社会全体の力でネットワークも使いながら考えていただきたいのが1つです。2つ目が、教育から就業につなぐことが大事だろうと思います。教育から就業へ最終的には労働市場へどう導いていくのだということが、教育の役割として必要だろうと。私は高校教育が普通科教育に今は偏しておりますけれども、地域の産業と関連性の強い技能を重視した高校教育、職業教育をもっと重視すべきだろうと思います。お金がかかることですから大変なことですけれどもやるべきだろうと思います。これは成功した事例もあります。例えば山形県の長井工業高校と長井市の関係であるとか、そういう非常にいい事例もありますので、地域連携、産学連携が必要だろうと思います。次に中退を防ぐためには、「学び直し」を学校はそういう機能を持つべきだろうと思います。中等教育の間にすべての子供に読み書き、基本的な計算力をつける。これは生活能力そのものですので、それをつけるような学び直しの機能を持たせるべきであろうと思います。それから補習学級についてなんですけれども、これは学校だけではなくて、是非団塊の世代には大量に今、第一線を引いた有能でやる気のある方々がおられますので、地域の子どもの居場所に補習学級をつくって、そういうやめた教師とか、そういう方々のエネルギーをもっと使って、公共施設や空き店舗などを利用して補習学級などをやって、そういう困難な生活を強いられている若者の居場所づくりをすべきだろうと思います。地域の若者たちのコミュニティーネットワーク、ソーシャルキャピタルと考えてもいいのですけれども、そういうものを生かした居場所をつくるべきだろうと思います。
最後に、教員養成についてなんですけれども、私は教員養成を4年間行い、もう1年追加で行うことについては、基本的に賛成します。ただし、その場合、あくまで地域で補習学級などを学生に担当させて地域の住民など多様な文化を持つ人々との交流体験をする。つまり、教員養成のために、学校だけではなくて、地域の困難な生活を強いられている子どもたちに対する補習学級なども半分入れてはどうでしょうか。是非、免許取得に私は必要な単位として、地域での活動と学校のクラスでの実習等を両方やることも必要なのではないかと思います。まだありますけれども、もう私の持ち時間は来ておりますので、また後で議論に参加をさせていただければと思います。どうもありがとうございました。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成23年06月 --