奈良市立一条高等学校長 秦俊彦氏 インタビュー概要

1.実施日

平成23年3月3日(木曜日)

2.インタビュー対象者

奈良市立一条高等学校長 秦俊彦 氏

3.概要

 一条高等学校は奈良市立唯一の高等学校で、同じ教員が長く勤める良さとその弊害の両方併せ持っている。また、本校は普通科、外国語科、数理科、人文科学科と4つの学科を設置し、さらに文武両道という理念を持ち特色ある学校づくりを行っている。

(高等学校を経営する者として)

 今、現場は多忙な業務をかかえている中で、最近の教育の流れを振り返ると、学校は外部への評価を意識してか、外を向きすぎているように感じる。実際、学校で働いている教職員の思いをきちんと受け止めなければ良い教育はできるはずがない。
 それには、教職員の不満を受け止めて、さらに不満を解消することが重要であると思っている。今、学校の教職員は精神的にも肉体的にも大変な状況にあることから、それぞれが持つ精神的負担を軽減する方法は一人一人の「納得」だと思っている。教職員を信頼し大切にすることで教職員は管理職を信頼し大切にしてくれる、このことを踏まえ忠実に学校経営を行っている。

(各学科の特徴について)

○外国語科
・公立高校では初(昭和26年)の外国語学科。語学特化型だが、文系のみならず理系にも進めるような設計にしている。
・同志社女子大学等と連携し、出前授業で来てもらっている。
・生徒と教員が小学校英語活動に出向いていったりしている。

○数理科学科
・SPP(サイエンス・パートナーシップ・プログラム)により3大学と連携している。

○人文科学科
・地の利を活かして文化財等を活用した学習を行っている。

○普通科
・普通科以外の3学科がかなりレベルの高い授業を行い、同じ教員が普通科も教えるので、普通科のレベルも高い。
・知識詰め込み型の教育から、興味・関心・意欲を高める教育に転換している。

(学科間連携)

・ユネスコ・アジア文化センターと連携し、アジアの青年と交流したりしている。
 その際外国語科の生徒が人文科学科の生徒に英語を教えたり、数理科学科と人文科学科が一緒に授業を受けて、古地図の観察・分析について学習している。

(生徒の学習に臨む姿勢について)

 今日の子どもたちは、学習に取り組む姿勢が以前に比べて受け身になっており、他の人が準備した計画の中身に則って学習に取り組むことが習慣化されており、自分自身で学習を計画し段取りする力が身についていないのではないかと感じる。例えば、授業で大切な部分を聞き取りメモに取ることや、ノートに整理して書き取っている生徒が非常に少ない。これらの原因のひとつとしては、教員が学習の効率化を図るため穴埋め式の整理されたプリントを作成して授業を進めていることもあるのかもしれない。そういった点から考えても主体的に学習する生徒を育成することこそ今日の大きな課題ではないかと考える。
 これらの課題解決策のひとつとして、本校では、生徒一人一人の学ぶ意欲を高めるため、「一流に学ぶ」「本物に学ぶ」ことを重視し、専門家(ニュースキャスター、救急救命士の資格を作った方、人工衛星の打ち上げに携わった方、映画監督河瀨直美さん等)を積極的に招いて講演会を行い、知識詰め込み型よりも興味・関心を高めて自主的な学習を高めていく生徒の育成を行っている。

(進路保障に向けた取組について)

  本校のクラブ活動は、運動部、文化部ともに奈良県でも代表的な活躍を遂げている。そうは言っても部活動と学習の両立は非常に重要なテーマである。本校では、生徒の学力アップを目標に、これまでの良さ(クラブ活動への取組)を維持しつつ、進路保障についてもさらに力を注ぎたいと考え、学力向上委員会を設置し進路保障をもう一歩前進させるために様々な検討を重ねている。例えば、教職員の指導力アップを柱として
・模擬テストの結果を分析するためのスキルアップ
・生徒のアウトプットの多い授業を心がける
・授業の中心的発問は生徒に考えさせるものに
など、授業実践についてのねらいを明確にして学習指導に日々取り組んでいる。
来年度については「定期学力テストの準備期間の工夫」をテーマにして検討しているところである。
 すばらしい伝統を維持しつつ、今後もいろいろなアイデアを取り入れながら、学力向上に向けて取り組むことで進路保障につなげていきたいと考える。

(不登校生徒への対応について)

 集団への不適応に関する問題として、人には受け入れられたいのだが、自分からは何もしないで、集団にとけ込むのが苦手、自分をさらけ出すことが苦手、その不満が蓄積されて不登校に陥ってしまうタイプの生徒が増えているように感じる。
 本校では不登校生徒の登校に向けての改善策として、毎学期、「子どもの生き方を語る親の会」を開催し、不登校に悩む保護者同士の交流の場を設定し、保護者同士が情報共有したり、互いにアドバイスし合ったりしている。「子どもの生き方を語る親の会」には校長、教育相談担当が出席し、直接保護者の思いを受け止める場となっている。そのためか保護者とのトラブルが極めて少なく、生徒の登校への回復率もかなり高いのが今の状況である。

(その他)

・現代は、絶対的なものはない漠然とした不安感に包まれていると思う。
・子どもたちには、「大人って楽しい!仕事はやりがいがある!」と思ってもらいたい。
・生徒の問題については、命に関わることと人権侵害に関わることには、先に校長の自分が出るようにしている。

(以上)

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --