鹿児島県教育委員会からの御意見

所属・現職等

鹿児島県教育委員会 教育委員長(株式会社島津興業顧問) 島津 公保 氏

御意見

1 夢,熱意を育てるための教育の充実

(1)問題点
 経済同友会のアンケートによると,企業が入社してくる学生に求めるものは,まず意欲,熱意であり,次に行動力・実行力,協調性と続く。
 ところが,財団法人日本青少年研究所が実施した日本,米国,中国,韓国の高校生を対象とする「高校生の意欲に関する調査」によると,日本の高校生は具体的な夢や希望を持たず,現状の生活に安住する傾向が強い。「暮らしていける収入があればのんびりと暮らしたい」と考えている高校生の割合が,他の国に比べて際だって高い。「偉くなりたい」と思う生徒は最下位である。
 一方,学力の方は,昨年12月に発表されたOECDの学力到達度調査(PISA2009年度調査)によれば,前回より改善が見られたとはいえ,上海や韓国などアジア諸国には遅れをとった。順位に一喜一憂する必要はないが,課題は各国に比して日本の高校生の学ぶ意欲が低く,その結果学力の二極化が進んでいることであろう。学力向上は,教員の授業における指導力の向上とともに,生徒の学習へのモチベーションをどう高めるかという問題を克服しなければ達成できない課題である。

(2)解決策
 文部科学省は,平成24年度から,すべての公立小中学,高校でキャリア教育の授業を行うための担当教員を指定することを検討しているという報道があった。子どもたちが,小学生の頃から様々な職業を知り,自分がなりたい職業,やりたい仕事の選択肢を広げることは重要である。そういう具体的な夢があってこそ,学ぶ意欲がわいてくる。スポーツ選手になりたいという夢を持つ子供が多いが,世の中の仕事はもっと多様であり,目立たないところで重要な仕事を果たしている人も多い。様々な職種について知り,働く人々の姿に触れ,仕事への思いを聞くことは,学ぶ意欲を形成する上で大きな意味があると思う。高校におけるキャリア教育は,小中学校でのキャリア教育を受けて,社会人として働く意義を,体験を通してより実感的に学ばせたい。学校と企業が連携して,インターンシップの職種や期間など,更に充実させる必要がある。
 「高校までの教育は基礎体力をつけることだ」と,ノーベル賞を受賞した益川敏英教授は述べている。学問を学ぶときの原動力は「あこがれ」であり,授業の中であこがれの種をまくことが必要であるという。教員の質の面から言えば,高校の教員は生徒に学ぶ喜びを伝え,学びへのあこがれを植え付けることのできることが望ましい。今,教員養成課程を6年制とすることなどが話題になっているが,その是非はともかく,そうした質の高い授業ができるようなレベルの高い教員の育成をめざすことが求められていると思う。
 教育行政に求められていることは,子どもたちが夢や熱意を自ら獲得できるように様々な支援を行うことであり,まずは効果的なキャリア教育を実施するための人的,財政的支援を充実させることであり,子どもたちに学びの本質的な喜びを伝えられる資質の高い教員を育てることではないだろうか。
 最後に,私が最近感じていることを述べたい。私は鹿児島に住んでいるが,「鹿児島の中高校生が鹿児島のことについて知らない」と感じることが多い。国際化が進み,あらゆる媒体を通じて海外の情報が飛び込んでくるので,今の若者は海外の情報には詳しいが,反面,我が国の伝統的なことや地元について知るところが少ない。行動範囲が広がっている若者こそ,ぜひ,母国や自分が生まれ育った地域について知り,愛着を深めてほしい。そういう意味で,教育の中に,自分の立脚点である国や地域に目を向けさせる要素がもっとあっていい。鹿児島について言えば,歴史や自然,産業など,学ぶべきことは多く,そこを起点として学びを外へ広げてゆくことは可能であろう。そうした地に着いた学びこそ,まさに学力の基礎になるのではないかと思う。

2  生徒減少期における公立高校の在り方

(1)問題点
 本県では,生徒数が長期的かつ大幅に減少していく中で,公立高校の再編整備を進め,学校の活性化に努めてきた。
 しかしながら,今後も大幅な生徒減少が続くことが見込まれており,小規模校がさらに増加すれば,高校としての専門性の確保や教育水準の維持・向上が困難となり,本県高校教育の充実・振興が図れなくなる恐れがある。
 このため,今後も,公立高校の再編整備を推進していかなければならないが,小規模校の統廃合について,当該地域では,地元の過疎化や衰退を加速するという観点から,高校存続を求める声も強く,推進に当たっては容易でない。
 同様の状況は,生徒減少が大きい県においても共通の課題となっていると考える。

(2)解決策
 生徒一人一人が能力や個性を最大限に伸ばして豊かな将来を築くことができ,我が国の将来を担う人材を育成するためには,高校教育の水準や専門性を確保しながら,多彩な教育活動の中で互いに切磋琢磨できる環境を整える必要がある。
 そのためには,各地域における中学校卒業者数の推移や学校配置及び学科配置のバランス,地域における高校の役割等を総合的に勘案して,学校・学科を適正に配置し,高校としての専門性を確保し,県全体の教育水準の維持・向上を図る必要がある。
 また,小規模校の地元には,地域振興の視点だけではなく,「生徒が夢と誇りを持って高校生活を送り,一人一人の進路実現を図ることができる高校づくり」という視点に立って考えてもらえるよう十分に説明し,地元関係者等に理解を求める必要がある。
 加えて,昨今の経済状況の中では,保護者の経済格差も拡大しており,国においては,授業料無償化に加えて,過疎地域における通学手段確保に資するような手立てがなされることが必要な時期にきていると考える。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --