愛媛県教育委員会 教育委員長(学校法人松山大学経営学部経営学科教授) 松岡 義勝 氏
高校進学率98パーセントの時代を迎え、多様な生徒を受け入れている教育現場においては、かつてない困難な問題を抱えている。それらのうち、二点について述べる。
第一に、基本的な生活習慣が身に付いていない生徒の増加、義務教育段階の学習内容が十分に理解できていない生徒の増加や人間関係作りが下手で孤立したり、逆に、集団で特定の生徒をいじめたりするなどの事例が頻発していることである。そのため、教員は生徒指導に多くの時間を費やし、勤務時間を超えて対応することが多く、多忙を極めている。本来、専門職として、教科指導の充実が肝要であるにもかかわらず、生徒指導に時間を取られ、その結果、健康を害するものも多い。
第二に、保護者の中には家庭教育を放棄し、すべてを学校任せにしようとする者がいる一方、公立高校に籍は置くが、大学進学のために競って学習塾に行かせようとする者もいることである。学習塾に通わせるのは、極端にいえば高校の教科指導が信頼できないからである。信頼や敬愛の念のないところに質の高い教育効果を求めることはできない。こうした状況は大きな問題である。また、高校の授業料無償化が実現されたが、その他の校納金の額が授業料相当額ないしそれを上回る状況であり、経済的に余裕のある家庭でなければ学習塾に通わせることは不可能である。従って、保護者の経済格差がそのまま教育格差に繋がってしまうという問題が生じている。
第一の問題については、学級編制基準の改善及び各種の加配定数の措置による教員定数の増が望まれる。これによって教育活動の根本である、教員が生徒と向き合える時間を確保するとともに教員の異常ともいえる多忙を解消し、健康で安心して教育に取り組む条件を整備することができる。
第二の問題については、教員の資質の向上及び保護者から信頼される教員の養成並びに優秀な人材が経済的理由によって学業を断念することがないよう、奨学金制度の充実(無利子、返還免除等)を図る必要がある。
特に、信頼される教員の養成に関しては、現在議論されている教員免許制度について述べておきたい。経験上、教員としての資質・能力は必ずしも学歴によるものではなく、その人格や研鑽によるところが大きいと考えられる。しかしながら、大半の保護者が高等教育を受けている現状に鑑み、その信頼と尊敬を得て教育効果を上げるためには、教員養成の期間を延長し、専門職としての資質の向上・深化を図るとともに、それに見合った待遇をする必要がある。多くの一般人にとって、待遇や地位は人格・識見とともに信頼や尊敬のバロメーターである。
愛媛県教育委員会 教育委員(株式会社大屋代表取締役会長) 伊藤 剛吉 氏
愛媛県には54の高等学校等があります(別に分校が3校)、その内一学年の生徒数が100名未満の高校が14校あり、その内50名未満の高校が8校もあります。しかも生徒数が年々減少傾向にあります。
小規模校には色々問題が出てくると思います。
(1)
生徒同士の競争心が薄れ切磋琢磨が不足するのでは。
(2) それが学力の低下に繋がるのではないか。
(3)
スポーツの面においてもそれがいえると思います。
(4) 高校生活で友人が沢山出来るのが将来の大きな財産にも成りますがそれが少ない。
(5)
スポーツの団体競技で部が成立し難い。(野球部なら少なくても15名必要)
(6)
内容の濃い教育が難しい。
(7) 運動会、文化祭等においても内容が貧弱に成りがちである。
(8)
1人当たりの費用が掛かりすぎる。
その他小規模校である為の問題点がまだまだあると思います。
県においても小規模校の統廃合は考えているようですが、地域とOB達の猛烈な反対にあい実現できていない状況です。
高校教育は小学校、中学校の様な義務教育では無いので小規模校の必要は無いと思います。
生徒たちに充実した高校生活を送ってもらうためにも一学年3クラス以上にすべきであり、そのためには地域の方々と腹を割って前向きに話し合いをして、理解を得るべきであると思います。
通学距離が多少遠くても、又寮、下宿から通うようにしてでもその方が生徒の為になると思います。ましてや分校などもっての外、即廃止すべき。
宇和島水産高校について、年々生徒数の減少傾向にあり、又卒業した生徒の就職先も水産関係以外が多いと聞いております。と言うことは、今の社会のニーズに合っていないのではないか、然も大変な費用が掛かっていると思われます。
水産高校の様な特殊な教育は愛媛県だけで成り立つのは難しいのではないか、四国四県程度で一校に集約して内容の充実した教育にすべきだと思います。その方が生徒の為にもなると思います。
学校経営にも費用対効果の原則を忘れてはならないと思います。
愛媛県教育委員会 教育委員(セキ株式会社代表取締役社長) 関 啓三 氏
(1) 日本の産業界では経済のグローバル化に伴い、刻々と変化する国際社会の変化に、的確また柔軟に対応できる国際感覚を持った若者を数多く雇用したいとしているが、国際関係情報や外国語に関しての教育が不十分で再教育のロスが生じている。
→ 初等教育から高等教育に至るまで、体系的な国際関係また外国語についての教育が必要であり、国際人として必要な日本国についての正しい歴史観を持ち、日本人としての自覚と誇りを持った人間形成を行うことが必要である。
(2) 高校卒業後に就職した者の約40%が3年以内に退職している。職場の人間関係であったり、就職した仕事に馴染めないのが早期退職の理由である。
→ 高校在学中に自らの将来を真剣に考え、それに必要な情報の収集に努め、実社会で通用する資格や就業体験を支援する履修科目の設置や、地元の企業や施設との協力関係の下で企業実習や職業教育を行い、卒業後に社会で就業する姿を想像する事ができる教育指導が必要である。
(3) 「大学全入時代」と言われるなかで、学生の学力水準、学習意欲の低下とともに、将来に向けた目的意識の希薄化が問題である。また、卒業生の1割強が進学も就職もしない状況にある。
→ 社会人、職業人としての自覚形成と社会で必要とされる能力や礼儀作法を身に付けるために現場実習や就業体験の機会を増やし、必要な能力の育成とともに、キャリア教育授業の充実と意欲の向上を図ることが必要である。
愛媛県教育委員会 教育長 藤岡 澄 氏
これまで、国の動向に沿った教育改革を積極的に進め、本県においても、単位制高校の設置、総合学科の設置、学校外における学修の単位認定の導入、職業学科の改編、入学者選抜の改善、中高一貫教育の導入などを推し進めてきたが、現在、少子化の進行に伴う入学者の大幅な減少や学校の小規模化に伴う教育水準の低下、地域事情の変化や県の財政状況の悪化など、学校を取りまく環境の大きな変化に対応しつつ、どのように教育改革を進めていくかが課題となっている。
また、急速に進む少子化や産業構造の変化、長引く景気の低迷は、深刻な就職難をもたらし、上級学校への進学を含め、高校生の進路状況にも大きな影響を与えており、高校教育には、職業観・勤労観やコミュニケーション能力の育成はもとより、総合的な人間教育の場としての機能を充実し、地域社会や産業を支えるチャレンジ精神と創造性に富んだ人材の育成が求められている。そのためには、多様化した生徒の学習ニーズや進路希望、社会情勢の変化に的確に対応し、生徒がお互いに切磋琢磨しながら目的意識を持ち、生き生きと充実した高校生活が送れる高校教育の在り方の検討が必要であると考えている。
高等学校の小規模化により、教育効果が上がらないことや学校の活力が低下することが懸念されているが、この生徒数の減少を、魅力ある学校づくりを推進する契機として受け止め、地域の要望や意見を取り入れながら、長期的・全県的な視野に立ち、将来の本県教育のあるべき姿を見据えた、適正な学校数や学級数の在り方について検討している。また、各学校における、学校評価を最大限に活用し、生徒や地域のニーズにあった学校になっているかなどを検証するとともに、関連する事業等の実施を通して、次に示す高校教育の質的な充実に努めている。
初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室
-- 登録:平成23年05月 --