三重県教育委員会からの御意見

所属・現職等

三重県教育委員会 教育委員長(明光窯代表者) 清水 明 氏

御意見

 本県では、子どもの目線にたって教育が進められるよう、今後10年先を見据えた教育の目指すべき姿として、「三重県教育ビジョン~子どもたちの輝く未来づくりに向けて~」を掲げています。
 今、経済的理由等によって、教育の場が損なわれている児童・生徒が現実にいます。また、不登校、ニートなどの問題も蓄積しています。授業料無償化だけでは、高校に通えない生徒がいます。寮費に困っている生徒もいます。不登校やミスマッチで高校卒業の資格が取れない生徒がいます。
 総合学科や定時制・通信制で救えない生徒に、教育の機会を得るチャンスがある高校が出来れば良いと感じています。フリースクール等もありますが、高校卒業の資格は取れません。
 私の母校の小・中学校でも1割ちかくの児童・生徒が生活保護等の家庭で育っています。児童施設などで、肉親と離れて生活する児童・生徒とよく話をします。また、保護者と隔離して生活したほうが良いと感じるときも、多々あります。家庭の教育力の低下が叫ばれていますが、コミュニティが崩壊し地域の教育力が低下し、個人主義の時代になりました。児童・生徒の減少や統合等で、高校も再編せざる得ない状況にあります。
 すべての子どもたちに学習の機会が持てる高校を、また、農林業を体験できる自然豊かな中で寮に入り、ゆっくり、ゆったりと生活でき、生きる力を学べ、自立できる力を備えた卒業生を送り出せる高校をつくるべきだと考えます。

所属・現職等

三重県教育委員会 教育委員(三重大学教育学部教授) 丹保 健一 氏

御意見

 現代社会の混迷は現在の高校教育が抱える問題につながっていることが多い。例えば、陰湿な執拗ないじめはしばしばその子が置かれた家庭環境によるところが大きく学校の力だけで解決することは難しいと言われている。しかし、学校は、誤解を恐れずに言えば、この益々不安定さを深めている現代社会におかれた子ども達にとってのよりどころとなっていることも事実であろう。
 また、学校が狭い意味の教育(授業)のみに専念し、生徒の生活指導(例えば、保護者がすべきと思われる躾、問題を起こした子どもたちへのケア、生徒が学校以外で起こした事件への対応、様々な保護者への対応等々)をしなければ、社会はそれらに対応するために相当の財政的負担を覚悟する必要があろう。学校が日々あたりまえのように行っている、一見過保護と思われるこのような取り組みのセーフティネット的な働きを理解しておく必要がある。
 学校においてこのような役割の中核を担っているのが教師であることは言うまでもない。しかし、その教師をめぐって最近心配なことが幾つか生まれている。注1
 新聞紙上でも取り上げられ(「代替教員遅れ800件」昨年度「予備軍」が不足「朝日新聞」)、話題にもなっているように教員(予備軍)不足が教育現場に混乱を生じさせている。教員養成系大学に依頼しても代替教員が見つからないことが多く、場合によっては教頭や校長がそれを担うことさえあるという。状況が分かっている教師の中には体調が悪くでも休むこともできず、出産さえ控えているという。注2
 このような現状に拍車をかけるのではないかと、気がかりなのは平成21年度から導入された免許更新制である。現行の免許更新講習に意味が無いと言っているわけではない。講習そのものに対しては受講生からの評価も高いということも聞いている。問題は講習そのものではなく、その制度である。
 免許更新制度では、免許取得後10年後に講習を受けなければ免許が無効になるとされている。これまでは、一度免許を取得すれば、免許が無効になることはなかった。卒業時に免許を取得し10年間教職以外の職にあってもそれまでの豊かな経験を生かし教職の道を目指せたのである。25、6歳で結婚し、10年間教職から離れていても、36、7歳から代替教員として働きながら正規の教員を目指せたのである。
 また、免許更新制度があることによって、とりわけ景気が良くなってきたときに、有能な学生の教師志願者を確保できないのではという指摘もある。
 解決策は簡単である。免許更新制を廃止し、研修制度を充実させればよいのである。

 注1:地域的な課題としては、外国人児童・生徒(日本語を母語としない子ども)の受け入れ、全国的な課題としては、障がいをもつ子どもの受け入れ、就職率の低下、等々もあるが、紙幅の関係上割愛する。
 注2:現在の代替教員不足は、教員養成系大学の学生定員削減(3分の1以下になった大学もあった)、教員構成率が高い高年齢層教員の退職、35人学級化等による教員増の影響が大きいと思われる。

所属・現職等

三重県教育委員会 教育委員(四日市大学地域政策研究所長、拓殖大学地方政治センター長) 竹下 譲 氏

御意見

 高校入学時点での生徒の学力はバラバラである。体力も生徒によって異なる。将来を考えて高校に入学したという生徒も、恐らく、非常に少ないだろう。こういう生徒に、内容がほぼ同じといえる教科書を用いて、ひとつの教室に閉じこめ、画一的に教育しても、効果はないのではなかろうか。学校には来るものの、授業の内容が理解できず、その結果として、興味も持てず、ただじっと座っているだけという生徒が少なくないことであろう。事実、学校の授業を見学に行くと、授業を聞いていない生徒の方が多いという高校すらある。こういう生徒達をどうするか、これが現在の最大の課題であると思う。もちろん、優秀な高校生もいるに違いない。そして、これらの優秀な高校生が将来の日本のリーダーとして活躍する確率が高いということも想像できる。しかし、それ以上に重要なのは、地域で生き、地域を支えていく人々のはずである。教育の目標は、明治5年の『学制』の次のような宣言(前文)に見るように、人々がその人生を全うするためにあると思う。
  「人々自ら其身を立て其産を治め其業を昌にして以て其生を遂る所以は他なし
   身を脩め智を開き才芸を長ずるによるなり
   而て其身を脩め智を開き才芸を長ずるは学あらざれば能はず」

 ここ数十年、生徒の個性を尊重するということがよく言われている。しかし、画一的な教科書、画一的な教育内容をみると、個性を尊重しているとはとても考えられない。少なくとも、授業について行けない生徒の個性を重んじているとは言い難い。高校で授業についていけない生徒を教育する場合には、3年ではとても時間が足らず、3年経過すれば卒業するというような横並びシステムは撤廃する必要があると思う。社会で通用する学力や思考能力が身につくまで何年でも踏みとどまる必要があるからである。小中学校の勉強のやり直しが必要だという高校生も少なくなかろう。この復習教育こそ、人間として生きていくためには重要であり、これを徹底してやる必要があるということすらできる。それが理解できれば、その後の高校教育は意外とスムースに進むのではないだろうか。
 そして、教育の仕方は、上からマニュアルを示すのではなく、各先生、各学校に任せる必要があると考えるが、先生に真剣に工夫してもらうためには、大部分の先生はひとつの学校に永久的に勤めるというようにすることが必要だと判断する。そして、教科書も、マニュアルを全部撤廃し、教育の仕方をすべて、先生・学校に任せるというような仕組みにすれば、生徒達は学校に興味を持ち、誇りを持ち、生き生きするようになるのではなかろうか。いずれにしろ、高校教育を根本から変える必要があり、そのひとつのヒントとして明治5年の法律(学制)の前文を参考にする必要があると判断する。

所属・現職等

三重県教育委員会 教育長 向井 正治 氏

御意見

1 今日の高校教育が抱える問題点

  教育の目的は、子どもたちの可能性を引き出し、その成長を支え、未来づくりを支援することであると考えています。本県ではこの目的を実現するために、制度面での教育改革だけでなく、「質の教育改革」を展開することが大切であると考え、「『誰のため、何のため』に行うのか。」という価値観のもと、「学校経営品質向上活動」に取り組んでいます。
 この視点から、少子高齢化、国際化・グローバル化の進展、経済社会構造の変化など、教育を取り巻く社会環境の大きな変化を見通した時、本県における高校教育の主要な課題として、学力の定着、学習意欲の向上に加えて、厳しい就職状況における進路保障や外国人生徒の増加に対応した教育環境の整備などがあげられます。
 進路保障については、職業に対する意識が未熟なまま卒業を迎える生徒がいることと、求人と求職のミスマッチにより就職先が決まらない生徒がいることと大きく二つの課題があります。また、本県では日本語指導が必要な外国人児童・生徒の在籍率が高く、また、高校進学を希望する生徒が増加しています。日本語習得や学習指導を充実するとともに、将来、社会の構成員として地域で活躍できる力を育成することが課題です。
 また、本県では、平成13年に策定した「県立高等学校再編活性化基本計画」により少子化を教育の環境、条件、内容面における質的向上を図る機会と捉え、適正規模化、適正配置を進め、総合学科や特色ある学科、コースの設置など、子どもたちにとって魅力ある教育環境を整備してきました。今後、さらに中学校卒業者の減少傾向が続き、特に大きく減少する地域があることが予測される中で、「高等学校における教育の質の保証」が大きな課題であると考えます。

2  その解決策

   高校生の進路保障については、職業に対する意識や意欲を育むようキャリア教育の一層の充実を図るとともに、生徒一人ひとりが幅広い職業選択ができるよう、様々な職種や地域の事業所等の情報や知識を得ることができる地域の仕組みをつくることが大切であると考えています。
 外国人生徒教育に関しては、高等学校の授業料が無償化された現在、これまで義務教育段階を中心に進められてきた国の諸施策を高等学校にも広げ、通訳の配置等の環境整備を進めるとともに、多文化共生社会を目指した高校教育を構築する必要があります。
 少子化が進行する中での教育の質の保証については、高校の再編に伴う長距離通学や寮の必要性などの教育環境に関する諸課題について検討するとともに、今後の高等学校のあり方について、国として教育の質の保証という観点から、都市部と周辺地域との教育格差の問題などの諸課題について検討を行い、方向性を示す必要があると考えます。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --