長野県教育委員会からの御意見

所属・現職等

長野県教育委員会 教育委員(国立大学法人お茶の水女子大学理事・副学長) 耳塚 寛明 氏

御意見

◇教育機会の実質的保障

 家庭の経済的文化的環境による高等教育進学機会の格差が見られる。その背景には、高校在学時の進路希望、学力達成、在学する高校のタイプ・ランク(高校階層構造が生徒の家庭的背景と密接に関連)等における社会階層間格差が存在し、中学校以前の学校段階における学力格差と連続している。低所得世帯への給付型奨学金の創設、高等学校就学支援金の拡充のほか、幼児教育から高校教育までをカバーする、福祉政策、所得再配分政策と連携した家庭教育支援政策が必要。

◇高校教育の質保証と制度的整備

 高校進学率の上昇にともなう生徒の多様化に対して、高校教育政策は「教育の水準や内容については固定的に考えるべきものではなく、生徒の実態に対応し、できる限り幅広く柔軟な教育を実施」する方針を採用してきた。その結果、高等学校の種別は多様化し、また教育課程の多様化も進展した。加えて、少子化を背景とした大学進学の易化と入学者選抜の多様化政策によって、高校生の学力水準を市場原理的にコントロールしてきたメカニズムも壊れた。高等学校教育の質を保証する仕組みはいまや部分的(高等教育のエリートセクターとの接続部分)にしか機能することなく、高等学校の卒業証書がなにを保証しているのかが不分明な事態を招来した。それは高大接続にも深刻な状況を招いている。
 高校教育は岐路に立つ。選択肢は、1制度としての複線化をはかるか、2単一の高等学校制度を維持した上で質保証政策を進めるかのいずれかである。前者は、これまで高校が高校内部での「機能分化」によって多様化に対応してきたことをあらため、「制度的分化」-すなわち、機能とカリキュラムを異にする複数の水平的に分化した学校へと制度的に再編し、その各々が質保証を図る道。後者は、後期中等教育機関が実質高校一本である現行制度を維持した上で、高等学校教育のoutcomeにおけるミニマムを維持(回復)向上しようとする道である。具体的には、高大接続テストの導入、高校卒業資格の国家試験制などが想定できる。高校教育課程の多様化・自由化が同時になにがしかの質保証制度をともなわないのであれば、わが国の高等学校卒業証書の価値は国際的に低落し、ひいては高等教育学位の国際的価値の低下にも歯止めがかからないだろう。

◇職業世界との接続

 卒業後就職しようとする生徒についても、また上級学校を経由して実社会へ入って行こうとする生徒についても、職業世界との接続をはかる観点からの教育課程の再編が必要である。
 前者については、制度としての複線化を行った上で、職業資格と関連づけた教育課程の再編が(生徒の動機付けの点でも)有効と思う。シンガポールのITEが参考となる。
 後者については、とりわけ高校教育のエリートセクターにおいて、大学受験を越えて、大学に入学後、さらには社会に出た後で有効な教育を構想することが必要である。そのためには、リテラシーなどの学力の国際標準や「活用」力の育成を目指し、大胆な教育方法上の革新(たとえば、大人数の基礎的講義と、少人数ゼミの組み合わせ、効果的な海外研修など)が不可欠となると思われる。

所属・現職等

長野県教育委員会 教育委員(野村ユニソン株式会社代表取締役社長) 野村 稔 氏

御意見

高校卒業後の社会への移行が困難になってきている問題について

【現況】

 経済環境の急激な変化、特にバブル崩壊、金融危機後の長引く不況の世界経済の中で、社会・産業構造が大きく変化した。また、少子・核家族化などにより、家庭や地域の教育力が低下し、生徒の精神的・社会的自立が遅れると共に、様々な体験の機会や異世代交流の減少から基本的生活習慣・コミュニケーション能力等が十分に育成されていないといった背景から、学校における問題点として、
(1)普通高校における組織的・体系的なキャリア教育の取り組みが不十分
(2)キャリア教育に対する教職員の捉え方に幅がある
(3)生徒が「夢」や「有用感」を持って学校生活に臨んでいなかったり、将来的ビジョンを描けない
(4)特に教育弱者・発達障害の生徒の社会的育成が不十分である
といった事などが挙げられる。このような状況の中で、高校卒業者の就職状況は、大変厳しいものとなっており、県内公立高校の22年度就職内定率は85.4%で、私立高校(全日制)は74.8%(いずれも12月末現在)にとどまっている現況である。

【解決策】

<学校で>

  • 学校(特に普通科・定時制)における教育課程に、キャリア教育をしっかりと位置付ける。特に総合的学習・特別活動・HRなどの時間を通して「社会構造」、「職業教育」、「異世代交流によるコミュニケーション能力の育成」を図る。
  • 基本的生活習慣・マナー教育の充実を図る。
  • 普通高校と専門高校との交流などを通し、特に普通科高校生の職業観・勤労観の育成を図る。
  • 普通高校におけるデュアルシステムの導入の検討。
  • 教職員の意識改革を図る。例えば一定期間教職員が学校を離れての、他県や異業種での研修の充実、学校外で地域交流や行事に積極参加の奨励。

<社会で>

    社会全体で学校と社会を繋ぐ仕組みづくり(プラットフォーム化)として、

  • 地域・保護者等のニーズの掘り起こしと、学校関係者(PTA、同窓会など)や地域関係機関(市町村、教育委員会、企業人、関係NPOなど)の人材活用の奨励。
  • 教育弱者・発達障害の生徒に対する教職員の研修の充実と、スクールカウンセラー配置の更なる充実を図る。
  • キャリアカウンセラーの学校への派遣と、教職員のキャリアカウンセリング研修会の充実を図る。

所属・現職等

長野県教育委員会 教育委員(株式会社コミュニケーションズ・アイ代表取締役社長) 伊藤 かおる 氏

御意見

高等学校 普通科におけるキャリア教育に関する提言

  • 国際共通資格・免許の取得  1生徒1資格
    高校普通科卒業生徒が国際的に通用する資格・免許を必ず1つ取得して卒業する

文科省にご検討いただきたいこと

(1) 国際比較可能な資格フレームの整備
    例:EQF (欧州共通の資格フレームワーク)

   高校レベルで導入可能な資格、
   専門学校あるいは大学等で取得可能な資格のうち高校で一部履修可能なものの導入推進
   (単位の互換高校履修単位の資格取得への反映) 

(2) 国際共通資格・免許課程の整備

(3) 国際資格・免許取得にかかわる地域社会人講師登録バンクの整備費用補助

(4) 国際資格・免許取得にかかわる地域産業教育設備(企業内設備を教育に利用させていただく)登録バンクの整備費用補助

(5) 地域社会人講師利用時の講師費用補助

所属・現職等

長野県教育委員会 教育委員 高木 蘭子 氏

御意見

これからの高校教育について考えていること

1.少子化が進む将来を見据えて、学校統合を進めなければならない。

2.高校の教育内容にバラエティを持たせ、子供の進路選択に見合うものにする。
 例えば、総合キャリア教育、職業科、国際文化など海外へ視野をひろげる分野。

3.国民として、社会の一員として、権利と責任、社会に貢献し国を高めていこうというモチーフを醸せるような、教育目標と体質作りを(高校だけのことではないが)一貫して持たせたい。

4.エリート校、進学校の進学率だけでない、本当のエリートを育てる機関として機能する学校になってほしい(大学よりもむしろ高校で人が作られる)。

5.幼児から社会人に至るまで、教育に関して国がすべきことは、教育のシステムを作り社会がそれを支える体勢を作ることで、個々人に金を配ることではない。

基本的には教師の資質を高めることが、教育の基本課題かと思う。効率効果の評価を急ぎすぎないことも。

所属・現職等

長野県教育委員会 教育長 山口 利幸 氏

御意見

〈高校教育の問題点と解決策〉

1 高校教育の義務教育化(特別支援学校高等部も含めて)と質の担保について
(1)・98%の進学率という実態から、実質的に国民教育となっている。
     ・授業料の無償化は同一世代全体に分配されるべきものである。
     ・中退者の中には、「なにもしない家居」という引きこもり予備軍になるケースがある。
(2)「高大接続テスト」で論議されているように、何らかの形で質の担保をすべき。

2 発達段階に見合った多様化をすすめることについて
(1)1-(1)からして、多様化を前提とした義務化とする。
     1-(2)の内容は、多様化を前提とすると、限定的(教科やレベルで)なものとする。

3 教養(普通教育)と実学(職業教育)のバランスと配置について
(1)普通科高校におけるキャリア教育の推進(例えば「産業社会と人間」の全校必修化など)などキャリア形成のベースになる教科目を設定・必修化する。
(2)大学など高等教育の入学期を9月とし、4~8月の間、就業体験期とする。
(3)高等教育段階において、相互に乗り替え可能なシステムを構築し、卒業後、就労に相応しいキャリア形成を図る。

4  学びのスタイルの改革について
(1)一斉講義形式授業の転換:
     課題設定→探究(個・チーム)→(ゼミ形式によるプレゼン)といった授業を中軸にすえる。
(2)教員の養成と研修:3及び4-(1)を踏まえた養成と研修を行う。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --