淑徳巣鴨中学校・高等学校長 中川武夫氏 インタビュー概要

1.実施日

平成23年2月23日(水曜日)

2.インタビュー対象者

淑徳巣鴨中学校・高等学校長 中川武夫 氏

3.概要

(公立学校と私学の違いについて)

 公立学校における教育は、川の水を徹底的に濾過した水道水にたとえられる。つまり、誰に対しても不都合のないものを等しく提供するものである。
 私学の教育は、井戸水、天然水にたとえられる。つまり、水脈によって違いがあり、いろいろなものが混ざっているが、それを好む者に提供するものである。場合によっては体質に合わない場合もあるが、自分に合うものであれば、わざわざ遠く出向いてでも手に入れようとするものである。
 ただし、地域によっては、水道が十分に整備されずにやむを得ず井戸水を使っているという場合がある。つまり、本当は公立学校に行きたいのに学力が伴わないなどの理由により仕方なく私学を選んでいる場合もある。地域によって使い方や考え方が全く違ってくるものである。
 私学は生徒が集まらなければ学校が成り立たない。少子化の進む今、常に生徒募集のための手段を模索している。そのため、人気校のまねをしようとする傾向が強くなる。そうすると、金太郎飴よろしく、どこの私学でも同じような内容になってしまう。これを横の金太郎飴とすると、縦の金太郎飴という部分もある。つまり、私学は転勤がないため、建学時の精神こそ変わらないが、内容がマンネリ化されがちの部分もある。
 公立学校は缶入りドロップにたとえられる。税金で成り立っているため、教育内容や手法は統制され、枠が決まってくる。これが缶で、当然そこから出てくるドロップは、色の違いこそあれ、本質的にはみな同じものとなる。
 公立学校にも私学にもそれぞれいいところがあると同時に、課題もある。私学はもっと自由に教育を展開していっていいはずなのに画一化してしまっているのは、学校の評判を上げるためという不純な動機で他校のまねをするからである。それが「生徒のため」という動機であるならば、他校の手法を導入したとしても、画一化することはない。一方、公立学校の場合には、うまく行かなくなると制度のせいにする傾向がある。いずれにしても大切なのは、生徒のために何ができるかということである。生徒のためを第一に考えれば、自ずと方向は見えてくる。

(私学の経営及び運営について)

 私学は法人の管理の下、すべての学校において同様の教育がなされるべきという考え方「富士山論」と、経営としては一体だが、それぞれの学校のやり方でそれぞれが運営していくべきだという考え方「八ヶ岳論」がある。現在、本校は後者の在り方で運営されているが、それぞれがライバル心をもって切磋琢磨し合う関係ができている。

(学校改革について)

 かつて埼玉県の私学は、東京の私学や地元の公立学校の受け皿としての位置付けがなされていた。自分がかつて勤務していた高校では、教員の意欲が乏しく、むしろ改革を推進する教員の足を引っ張る者が多いような状況であった。そのような中で、学校改革に取り組んだ。
 まず必要なのは、教員の意識改革である。最初に、若手教員の意識改革のために、合宿形式の勉強会を実施し、生徒のために自分たちのできることを徹底的に話し合った。指導の際に重要なのは、生徒指導にしても進路指導にしても、教員が共通理解をもって全員で取り組むことである。それが徹底すると、生徒の卒業後の就職において結果が出た。更に、進学コースを作り、勉強合宿などを通して徹底的に鍛え上げた。すると生徒の意識も変わり、入学してくる生徒の質も向上し、全体が引き上げられた。もちろん、進学においても実績を残すようになった。
 この取組に刺激を受けた近隣の私学もそれぞれ改革に着手したのである。その結果、埼玉の私学は受け皿であった以前とは違った状況になっている。
 商業高校から普通高校へと転換したばかりの現任校に着任してから、また新たに学校改革に取り組むこととなった。ここでは、学科改編により担当教科の変わったために授業で力を発揮できない年配の教員たちの抵抗が大きいことが問題であった。しかし、その年配教員たちを生徒募集に専念させたところ、休日も返上する勢いで取り組んでくれた。自分たちのやるべきことを見つけると、教員の意識は変わる。
 また、現任校に着任した当時、多くの生徒の目的意識が欠如している状況であった。目標さえはっきりさせれば、生徒の意識は変わる。その目標設定のために、「スポンサー講座」を開講し、外部人材を活用することで、生徒にインセンティブを与えることとした。

(指導の在り方について)

 外部人材を活用して生徒にインセンティブを与えるには、本物にふれさせること、本音で話してもらうことが重要である。通り一遍の美談を聞かせても生徒は食いつかず、意味がない。話す側にも準備をしてもらい、聞く側にもその講座に臨むための準備が必要である。
 準備が十分された状態で本物の話が聞ければ、生徒は必ず感動し、何らかの反応をする。その反応を教員は見逃さずにとらえ、それを伸ばしていくための具体的かつ適切な指導をしていくことが必要になる。それができれば、受け身の勉強から自分のための勉強への転換が図れる。しかし、そのとき思っただけでは十分ではなく、それを持続させるような取組が必要である。そのようにして生徒の意識を変えさせるのが、教員の仕事である。
 また、生徒の学習には、メリハリをつけることが必要である。メリハリのある学習を続けるために、まず、卒業生を活用して、継続的な学習習慣を身に付けることを主眼とした土曜日の学習指導を行った。また、5学期制を取り入れることで、学期を短くし、集中して学習に取り組ませるとともに、区切りとして学校行事に取り組み、新しい学期に入ることとした。他校と休業日の設定がずれるところが出てくるなどの問題はあるが、勉強時間は変わらずにメリハリが出てくる。このようにして、目標をもたせてメリハリを付けてサポートすることが大事である。
 社会人講師にきてもらう際には、ギブアンドテイクが基本であると考えている。受け身ではなく、しっかり準備してその人と向かい合うことが大事である。事前準備をしていれば、生徒は本質に迫る質問ができる。すると、講師にも、また話をしてもいいと思ってもらえる。有名人がきてくれた、ありがたい話をしてくれたというだけでは実りはない。
 また、東京全体をキャンパスと考える「東京キャンパス構想」に取り組んでいる。東京はさまざまな歴史の舞台、学術文化の中心となっているところである。実地でそれにふれることは、生徒にとって大きな意義をもつ。
 私学は地域住民とのつながりが希薄になる傾向がある。地域住民の力を学校教育に活用することもさまざまな面で有効である。

(自助努力による学校の魅力づくりについて)

 私学も公立学校も生徒募集が厳しくなると、コンサルティング会社に相談し、学校経営の合理化を進めようとする。しかし、これは学校法人に企業の経営論理を持ち込むものであり、実態として学校には合わない。
 結局必要なのは、その学校が自助努力により問題点を解決し、満足度を高めていくことである。外部からのコンサルティングだけでは、学校の満足度は上がらない。私学はその特色を生かして、もっといろいろな教育を実現できるとよい。

(高校教育改革の方向性について)

 国としては、特に公立学校に関しては、一定の水準を担保するために、ある程度規制しなければならない部分はあるだろうが、規制しすぎずに「あそび」の部分を設けることも必要と考える。

(以上)

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年05月 --