山口県立防府西高等学校長 唐松良生氏 インタビュー概要

1.実施日 

平成23年1月14日(金曜日)

2.インタビュー対象者 

山口県立防府西高等学校長 唐松良生 氏

3.概要

(総合学科の課題について)

 本校の場合、入学してくる生徒は、総合学科の魅力、特色を理解して学校を選択している。「産業社会と人間」や総合的な学習の時間などにおいて発表する場面を多く設定するなど、表現力を高める指導を重視しており、大学への推薦入試等でも成果を上げている。その一方で、生徒の安易な科目選択を防ぐことは総合学科ならではの課題だと考えている。
 そもそも総合学科はできるだけ生徒の選択幅を広げることをめざしており、各校においては生徒の実態やニーズを踏まえ、魅力的かつ有意義な科目設定となるよう検討を進めているが、生徒数減による学校規模の縮小もあり、学習のメニューが少なくなってしまう傾向がある。
 また、科目選択に当たり、2年次から使用する教科書の選定・採択及び需要数報告の時期が問題になる。報告の時期から考えると、1年次の10月には次年度の選択科目を決定しなければならない。生徒は入学後にいろいろな体験等を通して進路選択ができると期待しているが、実は1年次の秋には進路の方向性を決定しなければならず、時間的な制約が発生している。更に、講座開設の可否やそれに伴う教員配置の問題等により、途中で科目の選択希望が変わってもなかなか対応ができない。総合学科の良さが、総合学科以外のところのルールで縛られてしまっている。
 もちろんこの問題は総合学科特有のものではなく、普通科や専門学科においても同様に存在するものである。しかし、例えば普通科であれば、文系か理系かといった大きな選択であるのに対し、総合学科ではそれぞれの将来への希望に基づいてかなり細分化されたところまで決めなければならないため、事情が異なる。また、「高等学校で学ぶ中で将来のことを考える」ということを期待して総合学科に入学しているにもかかわらず、実際は「時間的余裕が少ない」という、期待と現実が裏腹になっている部分がその問題を大きくしているように思われる。そういう意味では、総合学科だからこその課題というよりも、総合学科だからより顕著になったものであり、高校教育全体の課題といえるのかもしれない。
 また、大学進学を希望する生徒に対して、一般入試に挑戦するところまでモチベーションを高めること、また、そのための学力をどう保証するかについて、課題意識をもっている。

(課題への対応について)

 希望進路と科目選択のミスマッチを防ぎ、前向きな科目選択をさせるための工夫として、本校では「産業社会と人間」の中でキャリア教育を通して進路についてしっかり考える機会を設けるとともに、科目選択ガイダンスを徹底して行っている。ガイダンスは担任が中心になって実施するが、別にガイダンスカウンセラーを置き、両者が連携しながら生徒の科目選択を進めている。他の方法としては、1クラス二人担任制にするなど、生徒が一人で悩むことがないよう、よりきめ細かい指導ができる体制を整えることなどが考えられる。
 いずれにしても、1年次の「産業社会と人間」の果たす役割は大きい。高校の教員は教科の専門性はもっているが、「産業社会と人間」を担当する際など、専門教科以外の部分を担当しなければならず、その心構えや指導内容等に難しさがある。特に、異動で新たに着任した教員に対しては、蓄積したノウハウを共有するシステムが必要になる。本校では総合学科推進委員会を設置し、キャリア教育の推進や校内の課題解決に向けた取組等について常に協議している。総合学科のスタート時には多くの学校においてこのような組織をもっていたと思うが、ある程度定着したということで廃止されているところも多いと聞いている。しかし、指導する教員を継続的に育てていくためには、このような組織は大きな意味をもつ。中心になる教員を育てるためには、研修、先進校視察なども必要である。
 「産業社会と人間」は、教員全員で取り組まなくてはならない。また、自分の専門以外の部分が中心になるので、教員が負担に感じるのは事実である。そういう意味では、「産業社会と人間」について、指導のためのマニュアルがあるといいかもしれない。普通科でも少しずつ取り入れられているところであるし、教科書のようなもの、取組内容の指針のようなものがあればいい。
 大学入試については、課外授業、学習合宿等により対応しているところであるが、意識を高めるために、進路別クラス編制についても考えていきたい。

(全体を通して)

 総合学科のスタート時における特徴は、選択幅が広いことだけでなく、「産業社会と人間」「情報に関する基礎的科目」「課題研究」の三つを必須としたことであり、他の学科との違いも明確であった。しかし、現在、これらはいずれも総合学科以外にも拡大しており、総合学科の特色が見えにくくなっているのは事実である。
 総合学科の評価を数値化することは難しいが、生徒がどれだけ自分のことを考えたかがポイントになるであろう。本校においては、生徒が期待をもって学校を志願しており、前身の普通科高校の時よりも志願倍率は上がるなど、地域からの評価も高いと感じている。今後も引き続き、総合学科ならではの工夫・改善を進めていきたい。

(以上)

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年03月 --