インテル株式会社教育プログラム推進部部長 柳原なほ子氏 インタビュー概要

1.実施日

平成22年11月18日(木曜日)

2.インタビュー対象者

インテル株式会社教育プログラム推進部部長 柳原なほ子 氏

3.概要

(新しい学力観)

・従来の学力観は、各教科・科目の内容を体系的に知識として身につけることに主眼が置かれてきたが、こうした学力観を変えなければならない。米国では、これからの子どもたちは、38歳までに10~14の仕事を経験すると言われているし、実際に2010年の上位10位の人気職は、2004年には存在しなかったものがある。また、今世紀の20年の変化は、これまでの2万年の変化に相当するだろうとも言われている。そうした世界では、学校で学んだ内容はすぐに陳腐化していくことになる。これからは、自分が学んだ各教科・科目の内容を、必要に応じて統合し、使いこなしていくことが求められる。

・これからの世界はネットワークで国境を越えてすべてつながっていくことになるが、日本のGDPや国際競争力は年々下がっている。こうした状況の中で、グローバル社会における日本人の競争力はどうなっていくのか、世界規模での高度情報化社会化の中で日本人はどう戦っていけるのかという視点で日本の教育について考えることが必要。

・このような観点から、インテル社では「21世紀型スキル」(ICT活用力、問題解決力、協働力、思考・判断力、コミュニケーション力)を提唱している。

(国の教育戦略)

・世界各国は今、教育を成長戦略と捉え、Education → Entrepreneurs → Employment → Economy と、教育を経済成長へと結びつけるべく真剣に取り組んでおり、ICT教育についても、こうした文脈の中で必要不可欠なものと考えている。日本におけるICT教育はそこまでの位置づけがなされていない。世界では今や、ICT教育の評価手法の標準化を検討するフェーズに到達しているが、日本はかなりの遅れをとっている。

・Intel Teachプログラムは、「教師が教える」から「児童生徒が自ら学ぶ」へ教育のパラダイムシフトを目指して行っている。これからは知識の蓄積そのものではなく、知識の獲得方法や課題解決の方法を身につけることを目指していかなければならない。インテル社が支援している「21世紀型スキル」の評価方法を研究開発する「ATC21Sプロジェクト」は、メルボルン大学が中心となって各国の研究者の参画により進められているが、日本からは東京大学の三宅なほみ教授が参画しているくらいである。この研究成果は、今後、PISAやTIMSSにも反映されていくことになるのだが、日本としての取り組みは不十分と指摘せざるを得ない。

・今後は、高度情報化グローバル社会における国際競争力のある人材を育成していくために、「21世紀型スキル」の育成とその評価システムの形成に向けて、産学官で取り組んでいくことが必要。

・韓国は、国際戦略を持って国としてグローバル化に一体的にかつ、スピード感を持って取り組んでいる。発展途上国への教育支援についても、資源外交につなげるしたたかさがあるが、日本にはそうした国家戦略的視点があまりに欠けているのではないか。

(日本の生徒の特性)

・Intelがメインスポンサーを務めるISEF(国際科学技術フェア)に帯同した公立はこだて大学の美馬のゆり教授によれば、日本の生徒は、研究手法については他国の生徒に引けをとらないが、アイデア(その研究に至った過程や動機)、ビジョン(その研究を行った後どうするのかの展望)、インパクト(それが社会やその分野に与える影響)について質問するとなかなか答えられず、その点が他国の生徒と比較して課題であることを指摘している。しかし、自分のアイデアをもとにビジョンを持ってインパクトを与える研究を進めていく力が、これからのグローバル社会で求められるのであり、そうした力を大学で育てようとしても遅い。高校段階はもとより、小学校段階から鍛えていくことが重要。

(教育内容)

・例えば、韓国では小学校の先生が、これからの韓国の子どもたちは韓国を飛び出してグローバルに活躍するということを念頭において、そうした発想から、韓国と台湾の民話を英語で比較する交流授業を題材とするような教材の工夫を行っている。また、イギリスでは、プロジェクト型の授業を行い、自分が目的を持って行動を起こし、社会を変えていくという体験を積んでいくようにしている。日本の学校教育においてもこうした教育手法が必要で、大学入試のあり方にもかかわるかもしれないが、正解のない課題に子どものころから取り組んでいくということを教育システムの中に取り入れていくことが必要。

(教員の資質向上)

・教員自身が学校という狭い社会に閉じこもっている感があり、高度情報化社会・グローバル社会に対応していくために授業を変えていくという発想をなかなか持ち得ないのではないか。アメリカでは企業での経験をつんだ者が教員になったり、あるいはその逆もあったりと、教員と他の業種との間の入れ替えが多い。日本でも、社会人経験者がもっと教員になりやすくなるような工夫が必要。

・教員研修が地方公共団体に任せられているが、地域によって研修への温度差があり、それが教員の質の格差につながっている。国が責任を持って必要な研修を行わせるような働きかけが必要。

・一方、教員が忙しすぎて研修に取り組めない現状があるのも確かなので、教員の数を増やしたり、ICTを活用して事務作業の効率を高めたりするなど、教員の負担を軽減するための方策が必要。

(地域社会と学校)

・地域社会と学校がつながるシステム作りが必要。

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)

-- 登録:平成23年01月 --