平成19年度の全国学力・学習状況調査の結果から,本市の児童生徒の学力の状況は,基礎的・基本的な知識・技能の定着については各学校の指導の成果が現れているものの,学んだ知識や技能を活用し,思考・判断・表現する力に課題があることが明らかになった。
広島大学大学院教育学研究科小原友行教授を委員長とする広島市検証改善委員会では,これらの課題の要因を分析し,学校改善の重点として,授業改善に取り組み,全ての教科で「調べ,考え,表現し,交流する」授業を実践することやPDCAサイクルを生かした組織的な取組校内研修会の工夫・充実や家庭と連携した取組を提言している。
本事業は,この提言を踏まえ,調査活用協力校において課題解決に向けた特色ある取組について実践研究を行うものであり,この実践を本市小・中学校が目指すべき学校改善の事例として広く普及していきたいと考える。
また,検証改善委員会の提言には,教育委員会の施策・支援についても触れられており,その大きな柱の一つに「ひろしま型カリキュラムの開発・推進」があげられている。来年度は,ひろしま型カリキュラム全面実施の前年にあたり,本事業の成果の普及は,本市小・中学校のひろしま型カリキュラムの導入に際して,大いに参考になるものと思われる。
○ 調査活用協力校を公募により小・中学校あわせて11校指定する。
<小学校>
袋町小学校 千田小学校
吉島東小学校 八木小学校
緑井小学校 原小学校
長束西小学校 口田東小学校
矢野小学校
<中学校>
口田中学校 五日市南中学校
○ 学力調査の結果に基づくPDCAサイクルの確立に向けた実践研究を踏まえ,調査活用協力校の取組に対して指導・助言を行うなど,改善の実践を進める。
○ 平成19年度全国学力・学習状況調査の結果から,学校の課題を明確にし,その改善に向けての取組を行う。
○ 特に,習得した知識や技能を活用し,思考・判断・表現する力を育成するための指導方法の工夫改善に重点的に取り組む。
平成19年度の広島市検証改善委員会の提言を踏まえ,本市の全小中学校において,「調べ,考え,表現し,交流する」授業を目指し,授業改善に取り組んできた。本事業は,6月補正による対応であったが,調査活用協力校の公募に対し,積極的に応じた全校(11校)を指定した。
各調査活用協力校においては,大学教授等や指導主事の継続的な指導のもと,授業改善や学校の組織づくりなどに取り組み,思考・判断・表現する力を育む学校改善が推進された。
本市教育委員会では,各調査活用協力校の取組を支援するため,指導主事を派遣し,指導・助言に当たるとともに,調査活用協力校の実践交流を図るため,平成19年度広島市検証改善委員会委員長であった広島大学小原友行教授を講師とした研究協議会を開催した。研究協議会では,各調査活用協力校の特色ある取組を交流しながら,活発な議論が交わされ,実践研究を深めることができた。
本市の各種指定校とともに調査活用協力校が,校長・教頭や教務主任等を対象とした合同実践発表会や実践発表において実践研究を発表した。
また,調査活用協力校においては,公開研究会を積極的に開催し,多数の本市小・中学校教員の参加者があった。
本事業の報告書,報告書の概要をまとめたリーフレット,授業改善事例のDVDによる普及も行った。
本事業の成果報告書,リーフレット及びDVDなどの指導資料の活用の徹底を図るとともに,これまで本市独自の学力向上推進事業の見直しを図り,より一層の学力向上を図るプロジェクトを推進する。
また,新たに授業の基本的な技術や指導方法などをまとめた指導資料を作成していく。
来年度は,本市独自の教育課程である「ひろしま型カリキュラム」の全面実施に当たるので,その充実に努める。また,本市独自の施策である35人学級による少人数教育の検証を実施し,その効果の普及するなど,本市の行政施策の検証と推進の充実を図っていく予定である。
平成19年度の各調査結果や取組のまとめによると,国語科・算数科については,基礎・基は概ね定着してきている。
しかし,全国学力・学習状況調査のB問題の結果から,資料から情報を読み取ることや,問題の条件を整理して筋道立てて考え,判断したり説明したりすることに課題があることが分かった。また,言語・数理運用科の実践から,各教科の既習内容が充分に定着していない児童は,言語・数理運用科の授業で思考力・判断力・表現力を発揮していくことが難しいことが分かった。こうしたことから,各教科の学習内容がしっかりと定着するように,各教科の指導を改善していくこと及び言語・数理運用科だけでなく,各教科で思考力・判断力・表現力を育てる授業を行うことの必要性を一層感じた。
そこで,今年度も昨年度に続き「言語・数理運用科」の研究開発校として,新教科の研究実践に併せて,各教科の基礎・基本の定着に向けた取組を一層充実させ,児童の思考力・判断力・表現力を育むことにより,「自ら学び,表現する袋町っ子の育成」をめざすことにした。
1.言語・数理運用科の研究開発に向けての取組
2.国語科・算数科の基礎・基本の力の定着に向けての取組
3.担当専科教科(研究教科)の基礎・基本の確実な定着に向けた授業づくりの取組
4.教科を支える力の育成
5年「アストラムラインで行こう!」
(数理)
平成20年11月実践
〔単元の目標〕
アストラムラインの運賃表・時刻表などの情報を読み取り,与えられた条件を考慮しながら四則計算等を活用して数学的に処理し,目的にあったプランを考えるとともに,自分の考えの根拠を明らかにしながら表現する能力を育てる。
第1時 アストラムラインの運賃表・路線図を読む。
(1)アストラムラインについて知る。
(2)路線図から情報を読み取る。
(3)運賃表から情報を読み取る。
本年度,本校では,『豊かな感性を持ち,主体的に活動する子どもの育成~かかわりを大切にし,考える力を引き出す授業づくり~』をテーマに研究を行ってきた。
豊かな感性を持ち,主体的に活動する子どもの育成を実現するとは,次の3つの力を付けることで達成できるのではないかと研究仮説を立て,生活科,社会科,言語・数理運用科を研究教科として授業研究を行ってきた。
また,この3つの力を実現するためには基礎的・基本的な知識・技能の習得が大切であり,学習指導要領改訂の基本的な考え方とも一致しており,研究を進めることが新学習指導要領の趣旨をす進めることになるとも考えられる。
授業からの取り組み
○ 単元名「給食から自給率について考えよう」
対象学年(小学校第5学年)
1時 「食べ残しの多い料理・少ない料理」
2時 「日本がかかえている食糧問題を考える」
児童が自ら問題を発見し,思考・判断する力(問題解決力)の育成。
言語・数理運用科の学習を通して,資料を読み取り,それらを活用して思考,判断,表現する力を育む。それにより,問題解決的な学習を積極的に取り組むことができる。
1.問題を発見し,思考・判断する力(問題解決力)の育成について
低・中学年は,見学など直接体験を通して問題を発見する力,高学年は,グラフ・絵や図・写真,新聞記事等の資料から問題を発見し,それらをうまく活用して課題を解決する力が育っている。また,学年が進むにつれ,学んだことを自分の言葉でまとめたり,発信したりすることができる児童が増えてきた。
2.かかわりを大切にし,ともに高まる力(かかわる力)の育成について
どの学年も,ペア学習やグループ学習を積極的に取り入れ,学習形態を工夫することで児童がお互いの思いや考えを知り合うことができた。そのことが,学習意欲にもつながり,友達の考えにかかわりのある発表をすることができる児童が増えてきた。
3.学習を振り返り自らの考えを明らかにする力(自己評価力)の育成について
各研究教科において,多くの情報から,伝えたいことを選び,表現する学習活動を取り入れた。最初,児童は情報の取り出しにも戸惑っていたが,学習を重ねるうちに,的確に要点を取り出すことができるようになってきた。また,取り出した情報をもとに自分の考えを表現していく力もついてきた。
4.授業力の向上と基礎・基本の学力の定着について
本年度,授業力の向上を目指し年1回の公開授業だけでなく,言語・数理運用科の授業を全員が年1回,5・6年の学級に入り行った。また,後期に入ってお互い国語の授業を参観する機会を設け,授業力の向上に努めた。
基礎的・基本的な知識や技能の定着については,朝学習と昼の帯タイム(計算タイム)の内容を見直し,1年間を見通した指導計画・学校全体としての系統性が図れるような指導計画を作成して実践してきた。
来年度に向けて考えていかなければいけない課題として,次のような点があげられる。
1.問題を発見する力や探求力,問題解決力,表現力といった考える力の高まりには,個人差が認められる。
2.本校が研究してきた「身に付けるべき3つの力」について,全ての児童が一様に力を付けていると言えない。そのため今後も引き続き,体験活動や見学活動などの学習活動を大切にし,「考える力」を引き出す授業づくりについて研究を深めたい。
また,児童の興味関心を高める学習材の開発,指導法の工夫,朝学習や昼の帯タイム(計算タイム)の有効な活用による基礎学力の定着を図ることで,研究主題に迫っていきたい。
研究仮説算数科を中心にして,問題解決型学習を効果的に取り入れることにより「思考力・判断力・表現力」を育成することができる。
方法の工夫例
課題把握 |
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○ 課題提示の工夫 ・ 学ぶ意欲を引き出す ・ 学習のめあてを明確にする |
自力解決 |
○ ねらいを明確にした算数的活動を仕組む ○ 主体的な学習活動につながる指導方法の工夫 ○ 個に応じた指導方法の工夫 |
集団解決 |
○ 自分の考えを相手に分かりやすく説明する。 ○ 友だちの考えと比べながら聞く ○ 個に応じた指導方法の工夫 |
まとめ |
○ 振り返りカードを書く ・ どんなことが分かったか ・ 友だちの考えのよいところ ・ 自分の考えと比べて ・ 身の回りのことで今日の学習とつながっていること ・ もっと学習を進めていきたいこと ・ 自分が一番よいと思った考え方(わけも詳しく書く) |
各過程の学習活動で「思考力・判断力・表現力」を見取ることができる。その場合,それぞれの力のキーワードをもとに3つの力を評価する手がかりとしている。
○ 表現力の育成
・ 自分の考えを相手に分かりやすく表現 し,互いに伝え合う力を高める。
・ 算数科を中心に,全教科にわたり表現 力を育てる活動を設定し,その指導法の
改善に努める。
○ 問題解決型学習過程
《課題把握》
《自力解決》
《集団解決》
本校の課題である活用する力の育成を行うには,自ら考え判断する「思考力・判断力」,そして,それを周りに説明できる「表現力」の育成を基盤に実践を重ねることが重要である。そこで研究テーマを「思考力・判断力・表現力を育成する授業づくり」とした。
【「読む・聞く・話す」活動のとらえ方】
(広島県「基礎・基本定着状況調査より)
本校では,この「読む・聞く・話す」を研究テーマにある「思考力,判断力,表現力」にリンクして捉えている。
○ 単元名「比例・反比例」
対象学年(中学校第1学年)
○ 目標画鋲の数を求める方法を考える。
○ 学習の成果(生徒の活動)
小グループ毎のホワイトボードを活用した表現
◎「思考力・判断力・表現力」の育成に向けた方策の発見
ア ひろしま型カリキュラムの実践
イ 生徒同士のコミュニケーションを通して生徒自身の力で探求が進む授業の創造
<具体的取組>
※授業進度の調整
※小グループ活動の効果的な活用
※教師の役割の確認
※授業展開の改善と工夫
・個人の疑問や意見を吸い上げ,全体に投げかける
→生徒の姿勢の変化(客体から主体へ)個→全体→個,といった流れを授業の中につくること。
「なぜ」(投げかけ)→生徒の「思考力・判断力・表現力」の向上
→一斉授業の根本的な考え方の転換
本校では,言語・数理運用科を,各教科と総合的な学習の時間をつなぐ架橋的な役割を持つ教科として位置づけ,言語・数理運用科の実践を通して,生徒に「情報を取り出す力」「思考・判断する力」「表現する力」を育成するとともに,そのための学習指導の在り方について全ての教員が研修することで,各教科の授業改善を図り,活用型の学習指導を充実させることができると考える。また,この言語・数理運用科で培った力を総合的な学習の時間の探究活動に生かすことで,生徒に思考力・判断力・表現力等を育成することができると考えている。
1年次 言語・数理運用科と活用型の授業の在り方の研究
2年次 言語・数理運用科と習得・活用
・探究型の授業の在り方の研究
○ 単元名「ひろしまの食を守れ!」(3学年C領域4時間)
○ 単元の内容
1)食料自給率を表す資料から必要な情報を取り出し,表やグラフを使って説明する。
2)地産地消の目的を資料をもとに多面的に思考する。
3)地産地消の取り組みのよさを伝えるCMのナレーションを作成する。
○ 単元の目標
写真や新聞記事,グラフや表などのさまざまな資料を,目的に応じて取捨選択したり,関係づけたりしながら多面的に考えたことを,数値やグラフ,絵や文章などで効果的に表現することができる。
○ 思考・判断・表現することの価値を見出す生徒が見られるようになるとともに,自分で考える生徒が増えてきた。
○ 各教科の授業や学級づくりがどうあるべきか,具体的な見直しを図り,授業改善に生かすことができた。
○ 全ての教員が言語・数理運用科に関わる体制づくり
○ 思考を深化させるためのグループの活用の仕方に関する研修
○ 総合的な学習の時間につながる探究的な学習過程を意識した学習活動
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --