静岡市は,全国第五位の面積をもっている地域である。山間地校から市街地校のちがいはもとより,児童生徒数が3名という極小規模校から1,000名を超える大規模校までが存在している。したがって,静岡市の改善支援は,教育委員会が何か一つの方策を一律に実施するのではなく「学校が主体となり,地域や児童生徒の実態を把握する一つとして調査を適切に活用し,成果や課題に応じて改善を実施する」ことをねらいにしている。
花は,種や土が違えば育て方が異なり,当然,咲く花も違う。それぞれの実態にあったよりよい花を咲かせるために,教育委員会は支援を実施してきている。それは,学校がやらされるのではなく,学校がやりたいことを支援することを重視することでもある。
静岡市の取組は,平成19年度文部科学省委託研究事業「学力調査の結果に基づく検証改善サイクルの確立に向けた実践研究」から始まった。そこでは,静岡市検証改善委員会(平成20年度「静岡市学力向上専門家委員会」と改称)を設置し,検証改善支援校13校を指定し実践研究を行った。その成果を,「学校改善支援プラン・事例集1」にまとめ,全教職員に配布した。
さらに,平成20年度は検証改善支援校を35校に拡大し実践研究を行い,その成果を「学校改善支援プラン・事例集2.」にまとめ,全教職員に配布した。
調査結果を活用し,改善を実施する主体は,あくまでも学校である。そのため,平成19年度から2年間にわたって,検証改善のプロセスで学校が要求することに応える「静岡市支援システム」を構築した。
全国学力・学習状況調査の結果から,学力や学習状況等に課題の見られる学校の改善に向けた取り組みに関する実践研究を実施し,その成果の普及を図る。
調査結果から課題の改善に向けて意欲的な取組を行おうとする学校を調査活用協力校を指定し,学力向上専門家委員が「静岡市学校改善支援プラン」「静岡市学校改善支援プラン事例集1.」(平成19年度作成)を活用し,学校の分析,改善に対して,指導・助言等を行う。その成果を,学力向上改善報告会の開催,「学校改善プラン事例集2.」の作成・配布により普及を図る。
ア 静岡市学力向上専門家委員会の設置
イ 実践研究の内容
【写真1】常葉学園大学部会(提案授業)
【写真2】地域保護者部会の様子
ア 静岡市学力向上フォーラムの開催
【写真3】ポスターセッションの様子
【写真4】提案模擬授業の様子
【写真5】提案模擬授業の様子
イ 「学校改善支援プラン事例集2.」の作成・配布
調査研究協力校では,校内検証改善委員会を中心に全国学力・学習状況調査を分析,改善目標を等を「改善計画書」にし改善を図った。そこでは,これまでより実証的に成果を計測し(ターゲット層のアンケートや形成的な評価や到達度テスト等)検証が行われた。
このことにより,学校の課題に応じた改善を図り,「このプロセスに静岡市学力向上専門家委員会が支援する」静岡方式が有効であることが確認できた。
静岡市学力向上専門家委員会の支援を希望する学校数が(調査研究支援校)前年に比べて,増加し,内容も教員への講話ばかりでなく,保護者への講話,授業参観や提案模擬授業の依頼等広がりが見られている。
このことにより,全国学力・学習状況調査を活用し,改善に取り組むことが推進されていることが確認された
調査研究協力校における校内検証改善委員が,各校に設置され,特に,次年度教育課程編成に活かされている。このことは,3月に行った「教育課程ヒアリング」により確認した。
各学校の自由参加,保護者・PTA,教育関係者,報道等約100名の参加により幅広い普及を図った。また,昨年度の調査研究協力校のポスターセッションに加えて,「活用する学力を向上させる」というテーマにより,基調講演,模擬提案授業,パネルディスカッションを実施した。様々な観点から具体策が提示され,参観者のアンケートによれば,大変好評であり,各学校の取組を改めて振り返る機会となったことが確認された。
平成19年度「学校改善支援プラン・事例集1.」の配布に続き,全教員に配布をした。事例集2.は,平成20年度全国学力・学習状況調査の静岡市の結果,静岡市学力向上専門家委員会部会の支援の報告,調査研究協力校の事例報告を内容とした。これにより,各学校が,次年度の調査の活用,及び改善方策の参考とすることを期待する。また,同時に教育委員会は,各研修会(教務主任者会,研修主任者会)等において,冊子を使用し,具体的に本事業の成果を周知することに努めていく。
これまで,静岡市では,平成19年度・平成20年度に静岡市検証改善委員会を設置し,各学校の支援を改善事業として実施してきた。学校のPDCAサイクルに即した「学校からのオーダーメイド」に応える支援システム(カフェテリア方式)は「静岡方式」としてシステム化され,学校改善に成果を示している。
この過程で明確になってきた学校及び教育委員会の課題「差への対応と共有の推進」を図るため,静岡市検証改善委員会を改編し,アクションプラン推進協議会を設置・運営するとともに,アクションプラン推進校6校を基本的に中学校区により指定し,市の課題を改善するモデルを構築し検証するとともに,学校のPDCAサイクルのさらなる確立を図る。
このように,平成21年度は,これまでの取組から得られた課題を改善し,アクションプランとして継続発展させ,より一層の推進を図り成果の普及に努める。
静岡市郊外にある学校で,学校周辺は,ベッドタウンであり,集合住宅や一戸建て団地が多い。
全国学力・学習状況調査の結果では,昨年度,同様,家庭などで一人学びの習慣が確立していないことが明らかになった。そのため,個に応じた学習方法・学習習慣を確立するため,三年生を対象に放課後学習,全学年で2日間の一斉学習指導を行い,目的を持って一人で学習に取り組む習慣を養うことに取り組んだ。
1・2年生は,近隣の市の施設である都市山村交流センターを会場【写真6】に,3年生は本校体育館にて2日間,自学自習を行った。本校教員とボランティアの大学生が生徒個々の支援にあたり,学習方法や一人で学習する習慣を身につけさせることに努めた。
<生徒の満足度(生徒事後アンケートより)>
○2日間集中して自ら進んで学習に取り組むことができた。(84%)
○講師の先生(または学校の先生)に進んで質問できた。(52%)
○2日間やってみて,学習への意欲が高まった。(77%)
○今回のように講師を招いての勉強会をやってほしい。(71%)
○今回勉強合宿は充実してできた。(76%)
【写真6】学力一斉学習の様子
【図1】テスト偏差値の変化(一部抜粋)
一斉学習の直前と直後のテスト結果
(1・2年生は6月と9月,3年生は6月と7月に実施)について偏差値を比較したところ,特に数学において,全学年で偏差値50以下の集団が少なくなり,グラフが正規分布に近い形になった【図1】。
3年生を対象に,12月15日(月曜日)~18日(木曜日)(4日間)にかけて,静岡市学力向上専門家委員会専任指導員を派遣していただき,放課後2時間の学習を行った。数学と英語を中心に到達度別のグループを編成して実施した。【写真7】
【写真7】放課後学習の様子
<生徒の満足度(生徒事後アンケートより)>
○基本的な学習内容が理解できた。(97%)
○教科の問題に関する考え方が高まった。(93%)
○学習に対する意識が高まった。(80%)
○家庭学習の量が増加した。(70%)
【図2】テスト偏差値の変化(抜粋)
放課後学習の直前と直後のテスト結果(12月と1月に実施)について偏差値を比較すると,一斉学習と同様,数学において下位の集団が少なくなり,グラフが正規分布に近い形になった【図2】。
静岡市学力向上専門家委員会大学部会(静岡大学)の支援による分析結果の提言と講話を実施した。また,近隣校研修として,分析結果を小中連携に生かし,PDCAサイクル確立の一助とした。
自校の課題である学習方法や学習習慣を確立させるため,「一斉学習指導」や「放課後学習」に取り組んだことで,教育・心理検査(Q‐U検査)で要支援に該当する生徒たちにも成就感や自信を持たせることができた。また,特に数学の分野で,これらの生徒によい影響が表れた。
また,学力向上専門家委員会大学部会の分析をもとに,授業改善の方向性を職員が共通理解することができた。
学力・学習状況調査の分析から,本校の生徒は正答数が上位の生徒が必ずしも授業の満足度が高いわけではなく,逆に下位の生徒でも満足度が高い場合も多いことがわかった。下位の生徒に手厚い支援を行うだけでなく,上位の生徒に対する個別指導や学習課題を設定することも必要である。
また,上位の生徒の満足度を上げることにより,他の生徒により一層の好影響を与えることが期待できる。特に上位生徒の家庭学習の方法や内容について,意図的に全体に示していきたいと考えている。
市内でも全校児童数1023人全学級数30を有する大規模校で,交通の便がよく,公共施設,企業,住宅が多い地区である。
全国学力・学習状況調査から大規模の特性から,個に応じた指導の一層の充実,「たくましさ」「睡眠時間」を中心とした生活習慣の改善が課題となった。そのため,一人一人に「分かった」「できた」を実感することを目標に,特に,特別な課題を持つ児童の指導を充実させた。
全国学力・学習状況調査の校内分析を踏まえ,校内で類似したアンケートを3年生以上の子どもたちに実施した校内アンケートの結果,授業改善と同様に特別な課題をもつ児童が学習に対して興味関心や自信を失いかけていることが浮き彫りにされた。そこで,放課後学習をさらに拡充することで,個人差に応じることとした。
実施方法としては,特別支援を実施している児童の保護者に呼びかけ,保護者の希望に応じたメニュー【表1】を実施することとした。【写真8】
【表1】メニュー一覧
【写真8】学習指導の様子
保護者からは,「国語のプリントを家でもやりました。すんなりと答えが出て,子どもの成長を感じました。」「今回のプリントは,本人のつまずきによく合っていて,家庭でも一緒に教えていきたいと思います。」等の意見が出された。
睡眠時刻が不規則で,睡眠時間も十分とは言えない。テレビ視聴時間やゲーム等の時間も少なめという実態の中で,児童,保護者が話し合い原因と改善策を考えるというねらいで,本校会議室を会場に,静岡市学力向上専門家委員会(学校教育課指導主事等)が主体となり,6年生児童20名による「児童生徒部会」を実施した。【写真9】
【写真9】児童生徒部会の様子
また,保護者11名の参加による「地域保護者部会」を実施し,全国学力・学習状況調査の結果をもとに,原因分析を行い,改善策を練った。
【図3】ノーテレビの実態の変容
大規模校でも,多様な児童に対応していくため,対象児童を絞った長期的な取組が重要であることがわかった。また,生活改善では,PTAとの連係した取組がとても効果的であることが確認できた。
対象児童を絞った放課後指導であるが,保護者からのニーズが高く,より多くのスタッフが必要となりつつある。また,時間も限られているため,児童の実態に応じたより効率的な教材開発が急務である。
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --