広島県では,平成14年度から,小学校第5年生及び中学校第2学年を対象に県独自の「基礎・基本」定着状況調査を実施している。
県内各市町教育委員会及び各学校においては,この調査の分析結果に基づき,指導改善計画を作成し,それを公表するとともに,それぞれの課題に応じた指導内容,指導方法の改善・充実に取り組んできている。
こうした取組により,基礎的・基本的な学習内容は着実に定着してきている。しかし,県の学力調査の結果から,思考力・表現力に課題があること,また,全国学力・学習状況調査結果からは,B問題の正答率が低く,知識・技能を活用する力に課題があることも明らかになった。
広島県では,平成19年度広島県検証改善委員会において,全国学力・学習状況調査結果の分析に基づき,「ひろしま」学びのサイクルを提案し,思考力・表現力を育成するための指導のポイントを報告書,リーフレットやDVDにまとめ,県内に普及しているところである。
平成19年度広島県検証改善委員会において,全国学力・学習状況調査結果の分析及びそれに基づいた指導改善支援プランを作成した。このプランでは,「ひろしま」学びのサイクルを提案し,本県における児童生徒の課題である知識・技能を活用して思考し表現する力を育成する指導内容,指導方法を開発している。
平成20年度の本事業においては,開発した指導方法等を調査活用協力校において実践し,その指導方法等の有効性を検証した。また,学力調査(全国学力・学習状況調査,「基礎・基本」定着状況調査)の結果分析を多角的に行うとともに,その分析に基づく国語科,算数・数学科の指導事例の開発及び実践を行ったところである。
【学力向上推進会議】
年間7回の学力向上推進会議を開催し,研究推進担当者へ計画的な指導を行い,調査活用協力校の研究推進を図った。
【学校訪問指導】
年間3回の学校訪問指導で,授業研究を通して教科担当者(国語科,算数・数学科)に対しての指導を行うともに,校内研修を通して全教員に対しての指導を行った。
実践研究を行う調査活用協力校は,次の基準に基づき選定し,以下の体制で取り組んだ。
調査活用協力校の実践によって,次の3点の成果があった。
平成21年1月10日広島大学において,県内教員及び教育関係者等約1,200名が参加する実践交流会を開催し,調査活用協力校4校(小学校2校,中学校2校)の実践発表を行い,研究成果の普及を図った。内容の詳細については,広島県教育委員会ホームページ「ホットライン教育ひろしま」に掲載している。
本事業の研究経過及び調査活用協力校110校の研究報告を広島県教育委員会ホームページに掲載するとともに,研究成果である調査活用協力校の研究報告及び指導事例を「基礎・基本」定着状況調査報告書に掲載し,県内のすべての公立小・中学校に配布した。
平成19年度は,全国学力・学習状況調査結果から明らかになった課題である思考力・表現力の育成に向け,検証改善サイクル事業及び学校改善支援促進事業で,「ひろしま」学びのサイクル(学校支援プラン)を作成し,その普及に努めた。
また,平成20年度は,「ひろしま」学びのサイクル(学校支援プラン)の実現に向け,平成19年度事業で開発した指導方法等を調査活用協力校において実践し,その指導方法等の有効性を検証した。さらに,全国学力・学習状況調査及び本県の「基礎・基本」定着状況調査の結果を多角的に分析し,新たな国語科,算数・数学科の指導事例の開発及び実践を行い,その研究成果の普及に努めた。
しかし,本年度の全国学力・学習状況調査結果をみると,知識・技能を活用する力を問うB問題の正答率が低く,特に中学校数学B問題は,全国平均を下回っているなど,小学校に比べ中学校において課題が大きい。これらのことから,来年度は,各学校が個に焦点をあてた分析を行い,つまずきの大きい児童生徒に対する指導内容,指導方法の工夫改善に力を注いでいく。また,平成21年度から,新たに県の事業として中学校学力向上対策事業を立ち上げ,地域で中学校群をつくり,指導力・リーダー性の高い教員を配置することにより,従来教科の教員が単独で行ってきた授業研究を複数教員で組織的に進めることで中学校の学力向上に取り組むことにしている。
世羅西中学校では,平成19年度より,小学校と連携し,せらにし授業システムを策定し,教師が同じスタイルで授業を行う共通授業スタイルを取り入れるとともに,生徒に学習規律の定着を促すための「学びの7ヶ条」を取り入れて授業に取り組んでいる。そして本年度,「ひろしま」学びのサイクルを取り入れ,校内で授業の基本となるモデルを作成した。
授業研究においては,次の記号を指導案に明記し,共通授業スタイルを意識して取り組んだ。
「ひろしま」学びのサイクルについては,まず,校内研修を通して全教職員で理解した。その後,「ことばの時間」を利用し,生徒の代表が全校生徒を対象に,「学ぶ・考える・表現する」ことの大切さを伝える説明会(プレゼンテーション)を行った。この説明会により,"考える"こと,つまり熟考することの意義を理解させることができた。
○数学科( 第2学年 )の取組
ア 単元「一次関数」
イ 全国学力・学習状況調査結果からみる課題
ウ 指導改善のポイント
エ 指導と評価の計画(指導改善のポイントを計画に明記)
オ 本時の学習(「ひろしま」学びのサイクルのポイントを指導案に明記)
キ 事前及び事後の評価問題
生徒に「新しく習ったことを普段の生活の中で活用すること」についての課題があることが明らかになり,以下の内容を教科で取り扱った。
(国語)情報を正確に伝えることを生活でどう生かすか。
(数学)車の制動距離が2乗に比例している。
7月の教師に対して実施したアンケートから言語技術に対する取組の達成度が低いという結果が出た。さらにその後の取組を経て,11月に生徒に行ったアンケートから,「授業の中で言語技術を用いることの効果を実感していない」という結果が出た。
生徒の質問紙の課題を把握した後,教師は授業の中で日常生活との関連を意識して授業づくりを行ったが,11月に生徒に対して実施した「あなたは授業で学んだことを生活の中で考えましたか」というアンケートから,34%の生徒は生活の中で活用することに対する意識が薄いということがわかった。
ア 読み取る力を付ける
グラフや図表を使ったり,それを関連付けて読み取ったりする問題に取り組ませる。長文や初読の問題にも慣れるようドリル学習を行う。また,観点をもとに読み取る力を付ける指導や複数の資料を比べて読み取る指導も取り入れ,読解力を養う。
イ 「書く活動」を増やす
作文単元だけでなく,文の構成や条件にそった文章を書く指導を行う。国語科だけでなく,個人思考の時間の説明や集団で解決したこと,学習の振り返りなど,「書く」機会を意識してつくる。
ア 付けたい力を明確にした授業を行う
「数学的な考え方」での付けたい力を「類推的な考え方」「帰納的な考え方」「演繹的な考え方」「図式化の考え方」などに分類し,どの考え方の力を付けていくかを明確にした授業を行う。
イ 思考のあしあと・説明のあるノート指導を行う
「ノートづくりマニュアル」にそって思考の流れが分かるノートづくりを学校全体で行う。結論にいたるまでの考えのあしあとが残るよう,図に,言葉や矢印,説明などを記入させる。また,友だちの考え方から学んだことや1時間の振り返りを書かせ,1時間の学びを整理したノートになるよう指導を行う。
ウ 算数的活動の場(算数コーナー)を設ける
本年度の調査結果から,「量と測定」領域で,場に応じた任意単位を選択することが難しいという課題がみられた。そこで,実体験を通して量感を実感できるよう,算数コーナーを設け,児童が実際にかさを測定したり,分度器や三角定規を使って角度を測ったりする体験ができるようにする。「図形」領域の学習が多い時期は,パターンブロックやタングラムを使った形遊びなどをさせながら,実感をともなった理解につなげる。
エ 指導体制の工夫改善を図る
個に応じた指導が行えるよう,少人数指導(同質・習熟度別)・TTなど,指導内容と児童の実態に応じた指導を行う。
ア 思考力のアップ
1・2学期の単元末テストで比較してみると,4~6年生の「数学的な考え方」での得点が伸びてきた。特に6年生では14.9点伸びている。授業の中で考えさせる場面を作ったこと,児童がノートに考えを整理するよう,丁寧にノート指導を行ってきたこと等が,成果につながった。
イ 説明力のアップ
ア 意識の変化
イ 指導方法の変化
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --