岐阜県では,平成19,20年度の全国学力・学習状況調査の結果から,岐阜県の児童生徒の学力面での課題を,「身に付けた知識・技能を様々な場面で活用する力を育成すること」であるととらえた。
この課題の解決に向けて,県教育委員会は,「県学力向上推進会議」からの提言を受け,調査結果の分析と指導改善の冊子を配付して各学校の結果の分析と授業改善の方法を示した。また,「授業改善推進プラン」で身に付けた知識・技能を活用する力を育成するための指導計画や指導方法の在り方を実践を通して検証し,その成果を資料として作成,配付した。さらに,HPにも掲載して県内の各学校で活用することで,各学校の実態に応じた授業改善を図ることができるようにして,学力向上を推進している。
平成19,20年度実施の本調査結果にみられる課題の改善に向けた取組を行う「調査活用協力校」を国語科,算数・数学科それぞれについて小学校2校,中学校2校計8校指定した。各学校で授業改善や児童生徒の学習改善について実践研究を行い,その成果を踏まえて県内の各小・中学校の教科指導の充実・改善を図った。
具体的には,全国学力・学習状況調査の結果から各学校の課題と取り組むべき内容を明確にし,「国語科,算数・数学科における基礎的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成を図る指導」の在り方の具体を実践を通して明らかにした。その過程において,県教育委員会は,次の3つの取組を行った。
国語科,算数・数学科における授業研究会に各教科の担当主事が参加して指導・助言を行い,授業研究を通して実践の成果と課題を明らかにすることで,各学校の研究の方向を明確に示した。
調査活用協力校の研究推進者1名からなる実践研究委員会を,年間3回行った。6月には各学校の結果分析と研究内容について,9月には1学期の実践の成果と課題と2学期に行う研究授業の構想について,12月には2学期の実践のまとめと実践記録についての交流を行い,各学校の取組のよさを取り入れることで,それぞれの研究推進を充実させた。
平成20年度全国学力・学習状況調査の結果分析・指導改善資料と調査活用協力校における8つの実践例を冊子にまとめ,県内の各小・中学校において,自校の結果分析と指導改善に活用できるようにした。
調査活用協力校から1名ずつの委員で実践研究委員会を組織し,取組の趣旨や研究の方向について理解を共有しながら事業を推進できるようにした。
また,有識者等からなる県学力向上推進会議からの意見を参考にし,質的な向上を図った。
A中学校は,教科指導に力点を置き,「確かな学力」の向上を目指して,生徒が分かる授業づくりに取り組んでいる。
現在は,各教科における言語活動の充実を図り,生徒の主体的な学習を通して,全校体制で基礎的・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力の育成に取り組んでいる。
A中学校の「平成19年度,20年度全国学力・学習状況調査」の結果から,国語科のA問題の「書くこと」に関する項目においては,おおむね満足できる状況にあるといえる。しかし,B問題,例えば平成19年度の「資料に表れているものの見方や考え方をとらえ,伝えたい事柄や考えを明確にして書く」や平成20年度の「資料に書かれている情報の中から必要な内容を選び,伝えたい事柄が明確に伝わるように書く」の項目については全国平均を下回った。
その要因として,国語科の書くことの指導において,読むことの学習と関連させて理解を深めることや,生徒の興味・関心を生かした主体的な取組,他教科と関連させて表現や内容を工夫するよさを実感させるなど,表現や内容の工夫についての指導が不十分であったことが考えられる。
そこで,興味をもって書くことに取り組み,表現や内容の工夫について理解を深め,他の学習でもそれらを生かして書くことができる生徒を育成することを課題として,指導計画の工夫改善と指導方法の工夫改善の2点から授業改善に取り組んだ。以下に,第1学年の実践における改善点を示す。
<国語科における実践例:第1学年「レポートを書こう」全12時間>
(単元の目標)テーマを決めて情報を集め,表現を工夫してレポートを書くことができる。
○興味・関心に応じたテーマ設定
生徒一人一人の興味・関心に応じたテーマを設定したことにより,個々の興味・関心に応じて楽しんで調べ学習をしたり,自分が集めた情報を明確な目的意識の中で取捨選択したりすることができた。また,単元を通して「自分が楽しんで作ったレポートを見て欲しい」「仲間の作品を見てみたい」という強い意欲をもつことができた。
○「読むこと」の学習と関連させて書き方を身に付ける単元構成
単元の前半の説明的な文章「未来をひらく微生物」を読む学習を通して,主張を効果的に伝えるには何を工夫したらよいのかを考え,表現の仕方に目を向けて学ぶことで生徒がレポートの構成や叙述を工夫することができた。
単元の中で,生徒が自分のレポートを書くにあたって,いかに自分の伝えたいことと結び付けるかを考えてマッピングする時間を位置付けた。この学習を行ったことで,単元のその後の学習で,生徒が常に伝えたいことに基づいた効果的な表現の工夫を意識することができた。
○分かりやすいレポートを書くための観点の明確化
生徒が分かりやすいレポートを書くための観点を理解することができるように,教材文「未来をひらく微生物」のマッピングしたものを示し,教材文と比較させた。そうすることで,生徒は筆者の工夫として3つの観点「事実の構成」「具体的数値の効果」「引用する写真や図の吟味」に気付き,その後レポートを書く際に分かりやすく書くための観点として意識することができた。
(「未来をひらく微生物」のマッピング)
○ペア,グループによる相互評価
レポートをよりよくするための相互評価を,「テーマ設定の段階」「マッピングの段階」「情報収集の段階」「引用する事実の取捨選択の段階」「最終的に伝えたい主張を構成用紙に書く段階」の5つの段階で位置付けた。
(グループでの相互評価)
相互評価は,ペアやグループで行った。「最終的に伝えたい主張を構成用紙に書く段階」では,お互いのレポートを読み合って,初めて読む相手にも分かる内容や表現になっているかを確かめ合った。構成用紙に書かれている事実や資料(写真や図)から,題材のとらえ方や材料の用い方,根拠の明確さなどについて意見を交換した。生徒は,自分の工夫点について自信をもって説明したり,相手のレポートのよさについて感想を述べたりすることができた。また,内容や表現の工夫について助言し合うことで,より分かりやすいレポートにすることができた。
B小学校は,各教科の指導において,児童が基礎的・基本的な知識・技能を身に付け,それらを活用して児童の思考力・判断力・表現力を育成するよう指導の改善を図っている。
特に,算数科における指導計画と指導方法の工夫改善に全校体制で取り組んでいる。
平成20年度全国学力・学習状況調査の算数科の結果から,「表現・処理」と「知識・理解」の観点では,B小学校の平均正答率はほぼ全国と同様であるが,「数学的な考え方」の観点では下回っていることが明らかとなった。
その要因として,問題を解決する際に,児童が自分の考えをつくりあげる学習活動は行っていたものの,判断の理由を言葉や式を用いて説明したり,一般化して考えたりする学習が不十分であったことが考えられる。
そこで,問題を解決するために必要な情報を,児童自らが「言葉の式」「図」「表」等を用いて自分の考えを分かりやすく説明する活動を通して数学的な考え方を育成することを課題として,指導計画の工夫改善と指導方法の工夫改善の2点から授業改善に取り組んだ。以下に,第5学年の実践における改善点を示す。
<算数科における実践:第5学年「四角形と三角形の面積」全10時間>
(単元の目標)四角形や三角形の面積を求める公式を適用して面積を求めることができる。
○三角形の求積公式を利用してひし形や台形の求積を説明する活動の位置付け
単元の中で,平行四辺形と三角形について学習した後にひし形と台形について学習することで,ひし形や台形の面積を,平行四辺形や三角形で考えてきた求積方法を公式を使って説明できるようにした。この求積活動を通して,これまでの学習内容を繰り返し活用できるよさを児童が感じることができ,単元で付けた力を使って論理的に説明することができるようになった。
(児童の考えを位置付けた板書)
○「式」や「図」を活用するよさを確かめる場の位置付け
本単元では,既習の図形に等積,倍積変形をして導き出すことを考え,説明することが多い。そこで,既習事項を生かして数学的な表現が活用できるよう,単位時間の流れを同じにし,プリントの内容も繰り返し学習を意識できる構成とした。その結果,児童は図に線を引くことで既習事項を使ったり,式を用いて面積の求め方を説明する活動を繰り返して,式や図を活用することで分かりやすく説明できることを実感することができた。
○見いだした特徴やきまりを用語を正しく用いて説明するための素材の活用
平行四辺形の底辺の長さと面積が伴って変わることについて,画用紙をスライドさせて視覚的にとらえることができる素材を用いた。そうすることで,「底辺の長さが2倍,3倍,4倍,…になれば,それに伴って面積も2倍,3倍,4倍…になる。」など,児童は,見いだしたきまりを用語を使って説明することができた。
(底辺の長さと面積が伴って変わる素材)
○公式を基にして□や△等の記号を用いた式を作って説明する活動の位置付け
求積公式を導き出す際には,底辺や高さを□や△を用いて表し,いろいろな数をあてはめて面積を求める学習を繰り返し行った。そうすることで,三角形の求積では,多くの児童が公式を□や△を用いて表すことができるようになった。
1時間の中で,「平行四辺形の底辺と面積の変化の関係」と「三角形の底辺と面積の変化の関係」の2つを扱った。平行四辺形の問題で学んだ「表」や「式」を使って説明したことを生かして三角形の底辺と面積の変化の関係について考えたところ,ほとんどの児童が表に正しく数を書きこんだり,式に表して変わり方を調べたりすることができた。
○交流場面で他の児童の考えと関連付けて説明するためのキーワードの活用
仲間との交流の中で出た意見の同じところや似ているところを「つなげて」をキーワードとして関連付けることにより,仲間の意見を自分の言葉で説明したり,共通する数学的な考え方を見いだしたりすることができた。
(授業記録から)
(前略)
T:C7さん,C6さんの意見の続きで,自分の意見を言ってみてごらん?
全く違う方法で見付けているのでよく聞いていて。
C7:僕が考えた方法は,まず同じように表に数を入れて,底辺が1増えるたびに5増えているので,だから,6の所の30を2倍にすると60になるから,上も2倍にします。そうすると上は下と同じように2倍になって面積が60の時には底辺が12cmになることが分かります。どうですか。
T:すごいね。では,同じようなところをつなげることができるかな。
C8:つなげると,C3さんもC4さんもC5さんもみんな60=○×5をしています。
C9:みんな式の中に数字の5が入っています。
T:数字の5は何を表していたかな。
(後略)
初等中等教育局参事官付学力調査室
-- 登録:平成22年03月 --