茨城県教育委員会 「確かな学力」の向上を目指して‐全国学力・学習状況調査等を活用した学校改善の推進を通して‐

はじめに

 本県では,全国学力・学習状況調査から,「知識」に関しては,小学校の国語と算数,中学校の国語では学習内容をおおむね理解しているが,「活用」に関しては,知識や技能を活用することに若干の課題があることや,学習に対する意欲や自尊感情・規範意識は高いが,家庭での学習時間が十分でないなど主体的に学習に取り組む態度が十分に身に付いていないなどがあきらかになった。
 そのため,県では,市町村教育委員会や関係機関・団体等との連携を図りながら,改善に向けて具体的な方策を講じ取り組んでいる。

1.茨城県教育委員会における取組

1.事業内容について

(1) 事業概要

 学力調査等の結果を分析・活用し,学校改善支援プランの推進を通して,各学校の学習指導の改善を行い,本県児童生徒の学力向上を図るために次のような事業を推進してきた。

1.学校改善支援プランの推進

ア 算数・数学学力アッププロジェクトチームの設置

 県の算数・数学担当指導主事(8名)による算数・数学学力アッププロジェクトチームを設置し,県内20市町村の小中学校を訪問指導する。また,残りの24市町村については,市町村教育委員会の指導主事が県と連携して学校訪問を行う。平成20年度,21年度の2年間で,県内全ての公立小中学校を2回ずつ訪問し,学校改善支援プランを推進することで,各学校の学習指導の改善を図る。

イ 拡大プロジェクトチーム協議会の実施

 茨城大学の根本博教授の指導の下,学校改善支援プランを推進するための学校訪問指導の在り方等について,県内44市町村教育委員会代表者による協議会を行った。

2.地区別学力向上研修会の実施

ア 地区別学力向上研修会
 大学教授等を講師に迎え,小中学校の教員を対象とした県内5教育事務所主催の研修会を,年3回実施した。

イ 模範授業及び授業研究会の実施算数・数学の学習指導に優れた教員(22名)による模範授業及び授業研究会を実施した。

ウ 各種情報の発信
 「茨城県教育情報ネットワーク(本県教職員等のためのネットワーク)」により,模範授業の様子を配信した。

3.学力調査結果の分析・活用

ア 全国学力・学習状況調査結果の分析・活用
 全国学力・学習状況調査結果の分析支援システムを作成・提供し,学校や市町村教育委員会による調査結果の分析・活用を支援した。

イ 茨城県学力診断のためのテスト結果の分析・活用
 茨城県教育研究会と共催で学力調査を実施するとともに,分析支援システムを作成・提供し,各学校の調査結果の分析・活用を支援した。

4.学力向上支援事業の推進

ア 年2回の県学力向上支援推進会議の開催

  • 第1回では,今年度の事業計画の説明及び内容検討と各地区学力向上支援推進会議の運営の検討及び視点の明確化を図った。
  • 第2回では,各地区学力向上支援推進会議の報告及び協議,第3回各地区学力向上支援推進会議に向けた支援等を行った。

イ 地区別学力向上支援推進会議の開催

  • 事業の適切な実施を図るとともに,管内の学校に研究成果の普及を図るために水戸地区(水戸市,小美玉市)及び鹿行地区(鉾田市)学力向上支援推進会議を開催した。
  • 地区別学力向上支援推進会議を年3回開催することで,各推進地区並びに各推進校の研究の課題や成果を共有した。会議の中で,互いに意見を交換し合うことで,各校の「学校改善プラン」のさらなる改善を図った。

ウ 訪問指導の実施

  • 研究推進校1校当たり2回程度の訪問指導を実施した。研究主任と研究の方向性を確認したり,研究授業や研究協議に参加したりする中で,授業や研修への指導助言を行った。

エ 地区別学力向上研修会との連携

  • 研究推進校での成果を地域の学校に対して普及するために,3回開催のうち2回を本県が独自に実施している地区別学力向上研修会と組み合わせ,各地区内の状況を踏まえつつ,各推進地区並びに各推進校の研究の方向性や取組についての具体的な手立ての改善につなげた。

オ 市教委との連携

  • 市教委との連携を十分に図り,全国学力・学習状況調査や県独自の学力調査である学力診断のためのテストを分析し,課題を明らかにするとともに,市独自の学力向上研修会での取組に対して,指導助言を行った。

(2) 実施体制

 県教育委員会が,市町村教育委員会や大学などの関係機関,県教育研究会などの団体等との連携により,改善に向けて具体的な方策を講じ取り組んでいる。

(3) 研究成果

  • 基礎的・基本的な知識・技能の習得のために,各授業における具体的な手立てを明確にして指導を行ったことで,教員の指導力の向上につながった。
  • 地区別学力向上研修会との連携などにより,各推進校における研究の方向性が明確となり,各推進校における学力向上に向けての具体的な取組の充実が図られることとなった。
  • 地区別学力向上支援推進会議での研究推進校の取組を共有することで,指導法等に関する情報交換が積極的に行われるとともに,具体的な指導助言を受ける機会となり,指導力の向上につながった。
  • 推進地区主催の推進会議において,大学教授等から指導を受ける中で,
  1. データ分析の目的やデータ分析をする際の視点,方法
  2. 児童生徒に学ぶ意義を実感させることの大切さ
  3. 新学習指導要領の実施に向けての方向性
  4. 改善策の立て方
  5. 保護者や地域への協力の求め方
  6. 成果の把握の仕方等についての研究

などが深まってきた。

  •  地区別学力向上研修会において,学校改善支援プラン等を活用し,各校で指導方法に改善を積極的に図っている実態がうかがえる。

2.調査活用協力校における取組事例

取組事例1 「全教科で取り組む,学び合いによる学習指導の工夫改善」 取手市立戸頭中学校

(1) 学校の状況について

1.生徒の実態からの課題

ア 学力における基礎・基本が十分に 定着していない。
イ 生徒相互のかかわり合い,学び合 う力が弱い。
ウ 課題への意欲的な取り組みの弱さ と自尊感情や規範意識の低さがみ られる。
エ 基本的生活習慣・学習習慣の定着 が十分でない。

2.指導方法における課題

ア 一斉指導的な学習形態が多く,学 習課題や活動内容に応じた学習形 態の工夫が少ない。
イ 教師中心の学習展開となりがちで, 生徒の活動の場や時間が十分に確 保されていない。

(2) 全国学力・学習状況調査の結果等を活用した取組について

1.全国学力・学習状況調査及び学力診断テストの結果分析

ア 学び合いの学習を進めることによる生徒の変容をとらえるため,全国学習状況調査での「学習意欲」「学習態度」の状況に着目した。
イ 国語での授業改善のテーマとして 「話し合い・聞き合うことから表現のよさを理解する学習」を取り上げていることから,県学力診断のためのテストにおける「話すこと・聞くこと」の領域を抽出し,生徒の変容をとらえた。

2.全教科において,学び合いによる学習活動の工夫と改善

ア 生徒が意見を交換したり,確かめ合ったりするなどの生徒相互が学び合うための学習課題,そのための時間と場所を確保した学習展開を工夫した。
イ 全職員が授業を公開し,互いに授業を見合い,授業改善の研究協議を実施した。
ウ グループ活動の充実

  •  グループ活動,ペア活動を学習課題やその展開に応じて活用し,生徒の話し合いの活性化を図った。グループ活動では,進行係・発表者・聞き手など役割を互いに分担し,一人一人が役目をもって活動できるようにした。

エ 話し合いマニュアルの作成と活用

  •  各教科での話合い活動の際,効率よく話し合いを進め,一人一人の生徒が自分の役割を持って学習に参加し,学習が深まるよう「話し合いマニュアル」を作成し活用を図った。

オ T・Tによる指導

  •  数学科で,全学級での週1時間のT・Tによる少人数指導や単元末での習熟度別学習を実施し,小集団での学習活動に対しての支援と個に応じた支援の充実に取り組んだ。

カ G・T(ゲスト・ティーチャー)の活用

  •  家庭科や総合的な学習の時間,道徳で専門的な知識や技能をもった方々を招いての学習を実施し,G・Tとのかかわりをとおして生徒への支援を図った。

(3) 成果について

  • 全教科で,グループ活動による学び合う活動を取り入れた指導を継続して実施したことにより,グループでの話し合いが活発化し,相互に意見を交わしながら学習を進められるようになった。
  • 県学力診断のためのテストにおいて国語の正答率に向上がみられた。特に「話すこと・聞くこと」の力の向上は,学び合ったり,かかわり合ったりする活動による成果の一つととらえられる。
  • 各教科において,生徒相互が考えたり,話合いを進めたりするなどの学び合いをとおして,生き生きと取り組む姿が見られるようになってきた。
  • 全教科において,学び合いを深める学習課題の提示やグループ活動,ペア学習等の授業形態の工夫,話合いマニュアルの活用等から学習意欲の向上が見られてきた。
  • 国語と数学で,「勉強が好き」「内容がよくわかる」と答えている生徒の増加が見られた。
  • 全教師が授業研究を実施し,全員で研究協議を行う校内研修が実施できた。その研修会において,他の教科を相互に見合うことにより,学び合いを深めるための課題提示,発問の仕方,学習形態と場の設定工夫等を参考に,生徒相互のかかわり合いを主とした学習活動への転換が図れてきた。

(4) 来年度以降の課題について

  • 生徒が相互に学び合うことができる授業の改善をさらに進めるとともに,生徒一人一人の学びが深まる学習活動の工夫と改善を図る必要がある。
  • 学習習慣と学習態度の一層の充実を 図るため,小中連携による「学習の手引き」の作成及び,家庭学習に対する支援の在り方を工夫し,学習習慣と学習態度の一層の向上を図る必要がある。

取組事例2 「学びの基礎力を培う~個の学びを紡ぎ,学習の広がりを生み出す集団作り~」 城里町立石塚小学校

(1) 学校の状況について

 全国学力・学習状況調査や県学力診断のためのテストの分析から,本校の課題として,文章や資料から正確に内容を読み取る力や自分の考えをまとめて書く・話すことが苦手な傾向であることが明らかになった。
 また,比較的読書時間は多いが,社会的なニュースや情報への興味・関心が低い傾向にあるため,情報を意欲的に取り入れ,自分の中で分析し発信していくような活動は苦手な傾向があることもわかった。
 そこで,「学びの基礎力を培う~個の学びを紡ぎ,学習の広がりを生み出す集団作り~」という研究主題を設定した。この研究主題に迫るために各教科の基礎・基本となる国語科及び算数科を中心とし,児童一人一人が「自分の考えを持ち(書くことを中心として),自由に表現し,互いに認め合い高め合う(話す・聴く)ことができる力」を学び合う集団作りの中で育てる指導方法について,教科の学習内容を系統的な視点から考えることとした。

 「研究の視点」構造図

「研究の視点」構造図

(2) 全国学力・学習状況調査の結果等を活用した取組について

ア 全国学力・学習状況調査や県学力診断のためのテストの分析を,学年ごとではなく,「データ分析プロジェクト」として,組織に位置付けて全員で行った。分析に当たっては,教科主任を中心として系統的に課題を把握するようにした。

イ 本校の課題を踏まえた上で,本単元で「身に付けさせたい力」を明確化し,指導案に位置付けた。さらに指導案の中に「指導系統図」を明示することにより,どのように指導していくかを確認できるようにした。

ウ 本時の授業の中で,指導系統図を単元全体の「身に付けさせたい力」を具現化するための手立てとしてとらえ,本時の授業の焦点化を図るようにした。

エ 全国学力・学習状況調査や県学力診断のためのテストの調査結果を基に,児童一人一人が生き生きと学習に取り組みながら力を付けていくことを想定し,「学校改善プラン」を作成した。特に昨年度の課題から,今年度の目標プランを細かく作り,常に全職員がこのプランを意識して取り組むことができるようにした

オ 系統性をキーワードに,児童が学ぶ内容はもとより,教師が系統性を意識した指導法を実践できるよう,全職員が共通理解を図り,本校のテーマに迫るための職員研修を実施した。

 また,様々な情報を共有し,日常の指導に役立てるために「H20校内研修について」を随時作成し配布した。この資料をもとに,本校のねらっている方向性や実践することを共通理解しながら研究を進めるようにした。

(3) 成果について

1. 学習習慣の確立と生活習慣の見直し,並びにその定着を目指した指導支援の工夫(学力の定着)
  •  本校では,全学年家庭学習の時間を「学年×10+10分間」として,家庭の理解と協力を仰いできた。4月の調査によると,6年生の一番多い家庭学習時間は,「平日30分から1時間:50%」であったが,12月の調査では,「1時間から2時間:71%」と時間が増えた。
     このことは,家庭学習の内容を,漢字練習プリントや自主学習(自分で計画を立ててドリルを進める)といった内容に改め,主体的に取り組めるようにしたことや,児童ががんばっている姿を担任が認めることで,生活習慣についても改善できる力が身に付いてきたことなどによるものと考えられる。
2.国語科における系統性を踏まえた指導方法の工夫:説明的文章の読解を通して
  •  全国学力・学習状況調査及び県学力診断のためのテストの結果から「説明的な文章の読み取り」の力が不足しているために,他教科においても資料の読み取りや説明が苦手な傾向があることがわかった。
  •  説明的な文章を中心とした教材において,系統的指導法を明確にするために「単元計画」を作成し,説明的な文章の指導方法の焦点化を行い,具体的な指導に役立てた。
  •  調査・環境部で作成した「説明的な文章の学習の進め方・説明文を読み進めるためのポイント」を活用しながら学習を進めた。
  •  文章を正確に読み取るための手立てとして,全文視写した文章に書き込みを加えながら学習を進めたり,拡大教科書で文章を確認したりしながら学習を進めた。
3.算数科における系統性を踏まえた指導方法の工夫:四則演算の指導を通して
  •  算数科では,全国学力・学習状況調査及び県学力診断のためのテストの結果から「数学的な考え方」の理解力が低い傾向にあることがわかった。また四則演算を活用した問題が苦手な傾向にあることも分かった。
  •  算数科においても,四則演算及び図 形を中心として系統的な指導方法のポイントを明確にするために「単元計画」を作成した。
  •  既習事項を活用しながら各単元の学 習内容を学ぶ学習を組み立てた。そして,自力解決やグループ活動の時間の中で,「言葉で説明する」活動を大切にし,問題を解く学習を進めた。
4.自己表現力を育てるためのコミュニケーション力の育成(学び合う力の育成)
  •  基本的な「聞くこと・話すこと」の 力は身に付いているが,自分の主張 をきちんと整理して話をしたり,友達の話に関して自分の考えをまとめて話したりする力がまだ身に付いていない。また,自己肯定感が低く「自分のよさを認めがんばる」ということが苦手である。
  •  コミュニケーション学習や自分のよさを見つめる活動(心のノート・朝の会や帰りの会・学年集会等)を数多く取り入れることによって,自分に自信をもち,さらにがんばっていこうとする意欲を育てられるようにした。
  •  特に,自分を認めてもらうためには, 友達の話をしっかり聞いて話すこと も大切だと考え,コミュニケーショ ン学習を取り入れた。その結果,集 団の結びつきがプラス思考になり, お互いに認め励まし合う姿が見られ るようになった。それにより高学年では,問題解決に向けて自分たちで話し合い,アドバイスをし合いながら活動することができるようになり,学習のグループ活動でも協力して学習を進めることができるようになってきた。

(4) 来年度以降の課題について

  •  学校全体での教師同士の考えを練り上げ,授業の中でどのように指導に役立てるかを話し合う場は設定が難しく,考えを深め,練り上げていく時間が不足している。
  •  授業実践の中で精選された「学び合う学習」が見えていない。今後は,「授業の中で『学び合う学習』をどのように組み立てていくか。そして,教師が『学び合う学習』の中で,ファシリテーターとして児童同士をどのように結びつけていくか。」を考え,このテーマの明確な具現化を図っていく必要がある。

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初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成22年03月 --