岩手県教育委員会 「基礎・基本の確かな定着」を目指して‐「活用」に関する指導の在り方の具現化のために‐

はじめに

 本県の学力の状況を、全国学力・学習状況調査の結果から見ると、問い方や出題形式を変えた問題への対応力が低いことや、思考力・判断力を確認する問題の正答率が低いことなどであり、学習内容が確実に定着しているとは言えない状況にあることが課題として明らかになった。
 このことから、昨年度は、全国学力・学習状況調査の結果等を分析・活用し、教育委員会や学校における効果的な取組や課題を明らかにし、具体的な改善につなげるための支援策として、以下の内容から学校改善支援プランを作成し、県内全小中学校が共通の認識に立って学力向上に取り組んでいくことができるよう配布し、その活用を促した。

【学校改善支援プランの内容項目】
1 調査結果からみえた課題
2 学校での取組
3 県教育委員会の取組
4 市町村教育委員会の取組
5 解答傾向分析と今後の取組に関する指導改善リーフレット

1.岩手県教育委員会における取組

1.事業内容について

(1)事業概要

 全国学力・学習状況調査の結果から見た本県の状況は、教科によって多少の違いはあるが、平成19年度の課題であった全体的に正答率の分布の幅が大きく、児童生徒一人一人の確実な定着には至っていないという状況は未だ改善されていない。
 具体的には、下の図に示すように、「活用に関する問題(B)」に関しては、国語、算数・数学ともに正答率の中央値が低く、また分布の幅も大きいことから定着は不十分である(箱の幅も大きく、また下方のヒゲも長い)という状況は、むしろ低下の傾向にある。また、中学校の数学については、「A問題」及び「B問題」ともに正答率の中央値が低く、また分布の幅が大きいという、本県の大きな課題は継続している。

 (小6国語)(小6算数)

(中3国語)(中3数学)

 そこで岩手県では、本事業を活用して、全国学力・学習状況調査等の結果から明らかとなった課題を改善するため、「調査活用協力校」の協力を得て、実践研究を行うこととした。
 学校改善支援プラン等を踏まえ、「主として活用」に関することについて具体的な授業改善と指導の在り方についての研究に取り組み、県が設置する「活用」に関する指導の在り方についての検討委員会(以下、活用検討委員会)において具体的な指導プランを作成するとともに、「調査活用協力校」の取組と関連付けながら、研究内容の検証を行い、直接的に各学校を支援していくために、「活用」に関する指導資料を「教材開発、指導の展開や指導方法等、具体的な指導の在り方」の視点から作成し、学校改善支援プランの共通理解を図る取組を進めた。
 調査活用協力校は、「活用」に関する指導資料作成のモニター校として、「活用検討委員会」の取組内容の試行・分析に協力し、検討委員会の取組内容の検証の補助的な役割を果たした。また、授業改善フォーラムにおける事例発表校として、「主として活用」に関する指導の在り方を中心として研究を進め、授業構想、授業展開、指導方法、教材等について開発するとともに、改善のための組織や体制の在り方、効果的な体制作りの手順等の検討を進めた。
 県教育委員会では調査協力校に対して、検証改善委員会の外部委員である大学や教育委員会から講師を派遣し、当該校の実践研究の内容について指導・助言等の支援を行うとともに、当該校が研究の中で取り組んだ改善事例の収集等を行い、「岩手県授業改善フォーラム」においてその成果の普及を図った。

(2)実施体制

 岩手県では、昨年度の検証改善委員会の体制を変更し、活用検討委員会、調査協力校協議会の2つの会を組織して本事業を実施した。
 この中で、調査協力校協議会では、大学との連携による外部委員を委嘱し、事業全体のアドバイス、活用検討委員会による作成資料の指導・助言、調査協力校への指導・助言をお願いした。
 また、調査活用協力校は、文部科学省の事業である「学力向上実践研究推進事業」の「推進校」を兼ねることで、2つの事業が有機的なつながりをもちながら、双方の研究を深めていくことのできる体制を目指した。

(3)研究成果

1.「活用」に関する指導の在り方についての検討委員会

○「活用」に関する指導資料を作成し、県内全ての小中学校に配布した。

2.調査協力校協議会

○外部委員の講義を通して「活用」に関する学習を進めることができた。

3.調査協力校の役割

○「活用に関する指導資料」のモニターを推進地区に依頼することを通して、指導方法のアイディアの共有を図り、調査協力校において具体的な授業構想の確立を促す素地を作った。

4.調査協力校への支援

○各地区に外部委員、県指導主事を派遣し、研究内容に関わる講義及び協議を進め、研究内容の具体的な部分を検討した。

5.授業改善フォーラム

○調査協力校の取組の発表を通して、県内各校へ事業内容の普及及び考え方や推進方法の啓発を図った。
○研究を推進した地区の特徴(学校規模の違い)を踏まえた取組を紹介することで、どの学校にも参考となる内容を提供した。

2.普及啓発と今後の取組について

(1)成果の普及啓発に関する取組

 「活用」に関する指導の在り方を検討する検討委員会において、作成した「活用に関する指導資料」を、授業改善フォーラムの場において紹介し、参加者全員に配付するとともに、県内全小中学校及び教育関係機関へ配布した。
 県教育委員会では、成果の普及と学校改善支援プランに基づく考え方の共通認識を図るために、「授業改善フォーラム」を開催した。
 フォーラムでは、本事業の趣旨と学校改善支援プランの説明、調査協力校による事例発表、「活用」に関する指導資料の紹介、全国学力・学習状況調査結果を踏まえた今後の取組についての内容を中心とした講演という内容で実施した。

(2)来年度以降の取組

 本事業における取組とは別に、借用している全国学力・学習状況調査の結果ローデータをもとにした県教育委員会における分析結果や、明確になった課題を各校へ周知し、学力に関する課題について、明確な認識を図り、各校が支援プランに基づいた主体的な取組が進められような状況や環境の整備を図っていく。
 そのために、県教育委員会内に学力に関する新しい担当を設置し、調査の分析、指導改善の施策の立案及び指導者の個別訪問(年間100校程度)による授業力向上と指導法向上のための支援ができるよう組織化を図ったことから、この組織の有効かつ効果的な活用を進めていく。
 また、意識調査で明らかになった課題へ対応するため、県PTA連合会との連携した取組(家庭学習について)を進め、学力・学習を考えることを全県的な運動として展開していく。

2.調査活用協力校における取組事例

取組事例1 「自ら学ぶ力を育てる学習指導」に重点をおいた取組 奥州市立水沢小学校

(1)研究主題と取組のねらい

1.研究主題

 「自ら学ぶ力を育てる学習指導」

2.取組のねらい

 全国学力・学習状況調査結果から明らかになった課題を解決するため授業改善を進める。

(2)全国学力・学習状況調査による本校 の課題

1.国語

(1)「読むこと」「読む能力」が低下している。
○問われていることに正しく答える力が弱い。文章理解が弱いために、問題文の意味が読み取れず、問われていることに対する答えになっていないものがある。
○無答が多い。最後のほうは空欄が目立っていたので、時間内に読みこなす力が足りないこと、また、長文に対する抵抗があり意欲が減退していることが理由と思われる。

(2)目的に応じて情報を整理し、わかったことや自分の考えを明確に書く力が劣っている。
○長文を読み取り、要約し考えをまとめる等の字数や言葉に制限がある文章表現ができない。
○「グラフからわかったことをメモする。」「二つの意見文を比べて読み違いを読み取る」などに落ち込みがある。

2.算数

(1)「量と測定」領域が、県・全国より低い。
○生活の中の数量概念が身についていない。(約1kgの重さのもの・約150cm2の面積のものを選ぶ等)

(2)文章問題の読み取りが弱い。
○文章への抵抗、十分な読み取り不足がある。

(3)自分の考えを筋道立てて説明する力が弱い。
○式の意味を言葉で表す・考えを式や図で補足説明することができていない。

(3)課題解決のために取り上げた研究課題

[課題項目]

基礎的・基本的な知識・技能の習得及びその活用により、思考力・判断力・表現力を高めるための指導法の工夫

 国語科・算数科の両面から、本校児童の課題は、「読み取る力」「考えをまとめる力」「説明する力」を高めることであるととらえた。そこで、この3つの力を中心に、「基礎的・基本的な知識・技能とは何か」を明確にし、学年に応じた内容について系統的・横断的な指導法を工夫し思考力・判断力・表現力を高めるための研究を進めることとした。

(4)研究の具体的内容

  1. 国語科における「知識・技能の活用」のとらえを明確にする。
  2. 活用を意識した単元構想及び単位時間の展開を明らかにする。
  3. 研究を支える内容として、各教科における「言語活動」が明確になり、横断的な指導ができる年間計画を作成する。
  4. 研究推進の工夫として、ワークショップ型の研究会の運営を通して、全職員が参加し推進の意識を高め、授業改善を図る。

(5)成果と課題

【成果】
  1.  国語科における基礎的・基本的な知識・技能の習得及びその活用についての方向性が具現化され、単位時間の中での活用や、単元全体を通しての活用が明確になってきた。
  2.  基礎的・基本的な知識・技能の習得及びその活用により、どのような力をつけていきたいのかを教師側で把握し、指導案に既習事項は何なのか、どのように活用させるのかという視点をはっきり明記すること、そして、展開案の中にも「既習事項を活用する場面」を位置づけることで、児童への指導が明確になった。
  3.  指導者の意識が、「前時」「前単元」「前学年」へ向くようになり、全体を見通した、系統的指導を行うようになった。
  4.  指導者の「既習の活用意図」が明確になったことで、児童も「前に習った~を使える。」「~年生で習ったことが活用できる。」「この学習が次の~に使える。」という意識を持つことができるようになった。これは、思考力の深まりにつながると思われる
  5.  教科を横断した言語活動表を作成することで、次年度は、国語科の中での年間を見通した、系統的な指導のみならず、教科を横断して言語活動を意識して組み入れ、指導することにより、効果的な指導が行われると思われる。
  6.  ワークショップ型研究会の推進により、全員参加型の研究会となり、改善点や方向性が明確になり、共通理解が図られた。
【課題】
  1. 「知識・技能」のとらえが曖昧である。活用のとらえを明確にし、その方向性を体系化していく必要がある。
  2. 本校では、4教科での研究を行っている。4教科の中での共通項を導き出し、各教科の中での「既習の知識・技能を生かした学習」を進め、思考力・判断力・表現力を高めることが課題である。
  3. 検証が十分になされていない。今後は、児童の意識の変容や数値化しての比較など、検証方法を明らかにし、指導実践を通して児童の変容と指導の効果を把握する必要がある。

(6)次年度以降の研究推進について

  1. 今年度の指導を継続し、「活用」に視点をおきながら、研究を推進する。
  2. 教科を横断した言語活動表(単元配列表)を活用し、実践を積み重ねる。
  3. 検証方法を明らかにし、児童の変容を検証する。

取組事例2 「一人一人の学びを保障する指導方法の工夫」に重点をおいた取組 奥州市立水沢中学校

(1)研究主題と取組のねらい

1.研究主題

 「基礎・基本を身に付け、主体的に学ぶ生徒の育成」~一人一人の学びを保障する指導方法の工夫をとおして~

2.取組のねらい

 全国学力・学習状況調査結果から明らになった課題を解決するための指導方法を工夫する。

(2)全国学力・学習状況調査による本校の課題

 平成19年度の全国学力・学習状況調査では、全体として数学A以外は全国の平均正答率を上回る結果であった。しかし、国語では「話すこと・聞くこと」やグラフから読み取って文章を書く問題の正答率が低かった。また数学Aでは、「数と式」の領域の正答率が低く、数学Bでは「図形」の領域の正答率が低かった。さらに、国語・数学に共通して「記述式」の問題について正答率が低い傾向が見られた。
 本校は、平成17年から3年間の学力向上拠点形成事業の中で、「基礎・基本を身に付け、主体的に学ぶ生徒の育成~一人一人の学びの成立を図る指導方法の工夫をとおして~」というテーマのもと、「確かな学力」の向上に努めてきた。その結果、学習意欲など情意面での向上は見られ、落ち着きのある学校生活を送ることができるようになってきた。
 したがって、高まっている意欲を基に、基礎的・基本的な知識や技能を定着させ、さらにその活用を図っていくことが課題である。

(3)課題解決のために取り上げた研究課題

[課題項目]

○基礎的・基本的な知識・技能を習得させ、その活用を図る指導方法の工夫
○新学習指導要領における新しい教育内容に関する指導方法の工夫

 本校では「基礎・基本を身に付け、主体的に学ぶ生徒の育成」というテーマで継続して研究に取り組んできている。したがって、これまでの取り組みをより深め充実させ、さらに新学習指導要領に対応するために、この2点を研究課題とした。

(4)研究の具体的内容

 「基礎的・基本的な知識・技能」を習得させ、その活用を図るためには、まず生徒一人一人の学びを保障し、その成立を図っていかなければならない。3年間の学力向上拠点形成事業の取組では、1時間の授業の中に「作業的な学習」「小グループでの学び合い」「発言の交流と共有」の3つの要素を取り入れることで、生徒一人一人の学びを保障し、その成立を図ることが可能となることが明らかとなってきた。
 そこで、この3つの要素をより効果的に取り入れ、生徒一人一人の学びを保障し、その成立を図るために、以下の項目について、さらに具体的に明らかにしていくこととした。その中で、(3)の課題に応えることができるようにした。

  1. 単に理解にとどまることなく、定着やその活用を図ることまでを視野に入れた授業改善
  2. 教科の特性を生かした少人数指導の指導法の工夫と充実
  3. 話し合い・教え合いに終始せず、学び合いが十分にできるような指導法の工夫
  4. 授業を支え発展させる学び方の習得と家庭学習の指導の充実

 その際、一人1回の授業公開を原則とした、全体や学年での授業研究会をもち、全教科・全教師で授業改善に取り組んだ。

(5)研究事例

 グループでの学び合いを生かした指導(1年生)

1.概要

 数学の授業において、グループでの学び合いが最も有効であると考えられる場面は、
ア 計算問題など、誰もが取り組みやすい課題について確認し合うこと
イ ある程度難易度の高い課題について、試行錯誤しながら解決しようとすること
の2つである。本時は、アに関するものであり、9月に「活用」に関する指導の在り方検討委員会から提示された資料をもとに、1年生数学「文字と式」で行った実践事例である。

2.おもな指導の流れ

○下記事例を参照

おもな指導の流れ

3.分析と考察

 本実践は、「文字と式」の最後に行われたものであり、内容的にはかなり難度が高い。生徒たちは、小学校で割合を学んできているが、題意を正確に式にすることを苦手としている生徒が多い。しかし、「○割引き」とか「1本サービス」は、日常生活においてはスーパーなどでもよく見かける光景でもある。そこで、生活の中の事象を数学的に分析できれば数学をもっと身近に感じることができるのでは、と考えた。
 実際の授業では、課題1では生徒は極めて感覚的に選択をしていた。
 次に課題2では、グループでそれぞれの考えを出し合い、「どうして?」「数字で表すとどうなるの?」など、話し合いながら解決していこうとする姿が見受けられた。しかし、半数のグループでは、「1本おまけしてもらうより、代金を安くしてもらった方がいい」と、感覚的なもので判断をしていた。課題提示の場面で、数学的に表現する方法を説明した方が良かったと思われる。
 しかし課題3において、実際に1本50円として値段を計算し比べさせたところ、Bの方が安いと分かったとき、感覚的に判断していた生徒たちから「分かった」という声が多くあがった。
 時間的な制約もあり、課題4については十分に考える時間を確保することができなかった。したがって、課題3と4を一つにまとめた上で、考えさせても良かったのではないかと考える。

4.まとめ

 本時では、グループでの活動をとおして、自分の考えを発表し合うだけでなく、それが妥当なのかということを検討することができた。仮に一斉授業のスタイルで進めた場合、各々が自分の考えをもつことはできたとしても、それ自体が合っているかどうかまで深めることは難しい。数名の意見を取り上げ、全体の場で考えることができたとしても、それを個に返して自分の考えと比較し検討することは、理解度の面からみても困難であろう。
 既習事項を活用し思考し判断させていく上で、グループでの学習は有効であると考えられる。その際、グループでの学習の後に全体でまとめたり、定着を図るために練習問題に取り組ませたりすることなどについて、さらに工夫・改善を図る必要がある。

(6)成果と課題

【成果】
  1.  一人一人の学びを保障しその成立を図るために、「作業的な学習」「小グループでの学び合い」「発言の交流と共有」の3つの要素を取り入れた授業を、教科の特性に応じながら、全校体制=全教科・全教師で取り組むことができたこと。
  2.  その結果、生徒のアンケートからは授業の肯定感や理解度などについて、肯定的な回答をする生徒の割合が高かったこと。
  3.  諸テスト・調査の結果から、学力の伸長が見られるようになったこと。
  4.  何よりも生徒が落ち着いて学校生活を送ることができ、学習面のみならず、運動面・文化面でも活躍することができたこと。
【課題】
  1.  学力の高まりとは逆に、授業肯定感の低下傾向にある1学年について、その要因を探り対策を講ずる必要があること。
  2.  さらに授業改善に取り組み、一人一人の学びを保障する指導方法について、継続して研究を推進していくこと。
  3.  生徒個々の学力・学習状況を的確に把握し、より定着を図るための指導のあり方を工夫ある必要があること。
  4.  年々構成メンバーが替わる中で、継続して同じ歩調で研究を推進していくこと。

(7)次年度以降の研究推進について

 本年度の成果と課題を踏まえ、現時点では以下の3点について考えているところである。

  1. 一人一人の学びを保障する指導方法の工夫を図る継続発展研究
  2. 授業を支え発展させる家庭学習の効果的なあり方の工夫
  3. 定着と補充指導のあり方と日程表の工夫

お問合せ先

初等中等教育局参事官付学力調査室

(初等中等教育局参事官付学力調査室)

-- 登録:平成22年03月 --