「確かな学力」の向上を目指して-「北九州市の学力向上のための提言」に基づく学校改善支援-

北九州市検証改善委員会

はじめに

 本市は、学力の課題解決のため、平成15年度より観点別到達度学力検査を実施し、その検査結果に基づき、各学校で「学力向上プラン」を作成し、児童生徒の学力向上に取り組んできた。また、学力向上推進事業指定校による実践交流会の開催、市費少人数指導加配教員の配置、「北九州夏の教室」の実施等に加え、平成18年度には、「北九州学びチャレンジプラン」として新しい学力向上策を策定し、平成19年度より、家庭との連携を核にした学力向上策に取り組んできたところである。これらの成果と課題を踏まえるとともに、さらに、今回の全国学力・学習状況調査の結果の分析を踏まえ、本市のすべての児童生徒に確かな学力を身に付けさせるために、長期的な展望をもって継続的に取り組んでいくことが重要と考える。
 北九州市検証改善委員会では、これまでの学力向上策を踏まえ、調査結果の分析を基に、「北九州市の学力向上のための提言」(学校改善支援プラン)をまとめた。このプランに沿って、教育委員会は、確かな学力の向上を目指し、具体的な学校改善支援のための事業を展開し、各学校は、自校の課題を解決するための、学力向上プランを推進していく。

1 検証改善委員会の体制について

 北九州市検証改善委員会は、北九州市立中央図書館の西岡幸則館長を委員長、久留米工業大学の岩切稔教授を副委員長として、福岡教育大学教授等の学識経験者3名、市立小学校の校長3名(国語1名、算数1名、特別活動1名)、市立中学校の校長3名(国語1名、数学1名、英語1名)の学校関係者6名、保護者代表としてPTA協議会会長1名、教育委員会より行政関係者2名の計14名の検証改善委員から構成される委員会である。
 7月に北九州市検証改善委員会の第1回会合を行い、1月まで4回の委員会を開催し、調査結果の分析及び学校改善支援プランについての審議を重ねた後、平成20年3月「北九州市の学力向上のための提言」(学校改善支援プラン)をまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 北九州市検証改善委員会では、全国との比較やこれまでの本市の観点別到達度学力検査の結果と比較しながら、本市の全国学力・学習状況調査の結果の分析を次のような視点で行った。

  • (1)本市の全体の学力の傾向とその課題
  • (2)学校ごとの課題の傾向
  • (3)教科の学力の課題の傾向
  • (4)生活習慣・学習習慣等の傾向
  • (5)生活習慣・学習習慣と学力の相関
  • (6)各学校の取組の傾向と学力の相関

 これらの点から学校、家庭・地域、教育委員会に向けた提言を行った。これらの提言に基づき、教育委員会では、「北九州学びチャレンジプラン」などこれまでの学力向上の施策を見直し、その充実を図るようにする。また、学校では、それぞれの課題に応じて策定した「学力向上プラン」の見直しや授業改善に取り組む。さらに、家庭や地域では、それぞれの役割を明確にして、子どもの生活習慣や学習習慣の改善を図るようにする。
 このように、学校、家庭・地域、教育委員会がそれぞれの責任を果たし、互いに協力していくことを通して、「北九州学びチャレンジ宣言」で掲げた「いきいきと学ぶ北九州の子ども」を目指して、学校改善支援プランを、学力向上に取り組んでいくための指針としていく。

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 前項の概要でも言及したが、本市の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。

(1)正答率の分布から

  •  教科に関する分析では、小学校・中学校ともに、正答率が平均近くの層は全国を上回るが、正答率の高い層が少なく、全体的な底上げとともに、「基礎的な知識や技能を活用する力」に関する指導や、習熟の早い児童生徒への指導の在り方が課題であること。

(2)領域や観点から

  •  小学校・中学校ともに、「言葉についての知識」「読む能力」「書く能力」「図形や式・計算などの意味を考える力」「証明問題で論理的に説明する力」などすべての教科の土台となる言葉の力(言語力)が十分身に付いていないこと。

(3)授業の在り方から

  •  言語活動を積極的に取り入れた授業、学んだことを実生活に活用し、学習することの意義を実感させる授業などの取組に課題がある。また、講師の招聘や授業研究を伴う校内研修が、小学校では、全国より多いが、中学校における実施が、全国より少なく課題であること。

(4)生活習慣、学習習慣から

  •  生活習慣に課題がある児童生徒が全国平均より多いこと。
  •  家庭での学習時間は、小学校・中学校ともに、全国と比較して少ないこと。
  •  家庭学習の時間の二極化も見られること。

(5)規範意識や体験から

  •  自尊意識に問題がある児童生徒も、少数ではあるがいること。
  •  学校のきまり(規則)を守っていると答えた児童の割合が、全国より低く、小学生の規範意識に課題があること。
  •  地域行事や地域清掃へ参加している児童生徒の割合が全国より少なく課題であること。

(6)学校を取り巻く状況から

  •  教育環境の一層の充実が必要であること。
  •  家庭で果たすべき役割を明確にしていく必要があること。
  •  市民総がかりで、子どもの学習や体験活動の機会の質・量両面の充実を図る必要があること。
  •  保護者の子育て支援に向けて、地域や企業等の理解が必要であること。

4 学校改善支援プランについて

 このような調査結果の分析を受けて、学校改善支援プランとして、学校、家庭・地域、教育委員会に対して5つの提言を行った。

提言1

 引き続き、基礎的・基本的な知識・技能の確実な定着を図ることに取り組むとともに、知識・技能を活用して、課題を解決するために必要な思考力・判断力、表現力を育成することが必要である。

提言2

 すべての教科等の学習で、言語活動を重視し、「言葉の力」の向上に取り組むことが必要である。

提言3

 学力の向上に向けた小・中の連携を図るとともに、特に、中学校における授業研究を伴う校内研修の充実が必要である。

提言4

 家庭学習や生活習慣の改善に向け、まず、家庭の役割を見直すことが必要である。また、市民総がかりで子どもの学習や、体験活動の機会の充実を図る必要がある。

提言5

 教師が「子どもと向き合う時間」を確保するための条件整備を行うことが必要である。

 これらの提言を受けて、教育委員会では、これまでの取組をさらに充実させるとともに、以下に示すような新たな学力向上策を策定した。

<提言1を受けた取組>

  • 1各学校の授業改善の取組に生かす授業研究の推進
  • 2学力検査等の結果を生かした授業改善のためのPDCAサイクルの再構築
  • 3補充学習、家庭学習で使用する問題集(学びチャレンジ学習プログラム)の活用

<提言2を受けた取組>

  • 1各教科等で、「言葉の力」を高める指導の充実
  • 2「言葉の力」を伸ばす、音読・暗唱活動の充実
  • 3読書活動の充実

<提言3を受けた取組>

  • 1「学力向上のための指導のアイデア」を活用した研修の実施
  • 2小・中連携した学力向上についての研修の充実

<提言4を受けた取組>

  • 1「家庭学習のススメ」などを活用した家庭への啓発活動の充実
  • 2家庭や地域、企業を対象にした講習会等の実施
  • 3地域・企業等との連携による子どもの学習や体験活動の機会の充実

<提言5を受けた取組>

  • 1指導体制の一層の充実
  • 2教育環境の整備による教師の事務負担の軽減

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 学校改善支援のための取組として、授業改善と家庭学習への働きかけを行った。

(1)「わくわく授業塾」の開催

 本市では、今回の全国学力・学習状況調査の方向性を踏まえ、8月25日(土曜日)に、学校関係者、保護者等450名を集めた講演会「わくわく授業塾-子どもたちに身に付けさせたい本当の学力とは」を開催した。
 北九州市国際会議場において、東北福祉大学教授有田和正氏による、小学校社会科の模擬授業と講演会を実施した。家庭や学校で「子どもに身に付けさせたい本当の学力とは何なのか」ということについて、会場に集まった保護者や学校関係者に、問題提起するものとなった。
ステージ上での授業

(2)調査結果の分析及び活用に関する説明会の実施

  • 1 本市の全国学力・学習状況調査の調査結果の概要や、提供された資料の取扱いについての説明を行った。
  • 2 今回の各教科の出題のねらいや各学校における分析と活用のポイントについて、本検証改善委員会委員である福岡教育大学の山元悦子教授(国語)、福岡教育大学の清水紀宏准教授(算数、数学)より指導助言を受けた。

(3)調査結果に基づき、各学校の「学力向上プラン」の見直しと、修正案の提出

 各学校では、修正案の提出とともに、すぐに取り組むことができるものから、早急に指導方法の工夫改善等を進めていくようにした。

(4)学力向上推進担当者講習会の開催

 2月、全市立学校の管理職と学力向上推進担当者等420名を集めた「学力向上推進担当者講習会」を開催した。この中で、本検証改善委員会の委員である、久留米工業大学の岩切稔教授と、福岡教育大学の井上豊久教授による講演と、学力向上推進事業指定校の北九州市立桜丘小学校、北九市立大蔵中学校の2校による実践発表を行った。

<桜丘小学校の実践発表>

 「言葉の力」を高める取組を先行研究している小学校が、音読や読書指導を中心に、言語力の向上を目指した研究の取組の内容を紹介した。
 独自に作成した音読詩集を活用した朝の活動や集会等の取組、読書を中心とした7タイプの授業実践など、今後、各学校が「言葉の力」の育成を図る上で参考になる発表であった。実践発表の概要については以下に示すとおりである。

1 音読を中心とした取組について
  • ア 国語の時間における毎時間の取組
    • 口と脳の準備運動→言語脳の活性化、音読指導のポイント
  • イ パワーアップタイムの取組
  • ウ 低学年音読タイムの取組
  • エ 音読詩集を使った取組
    • 年間計画、全校音読集会
  • オ 取組の成果と課題
2 読書を中心とした取組について
  • ア 授業実践の7タイプの紹介
    1. 音読発表型
    2. 「読書へのアニマシオン」活用型
    3. カード型
    4. 読書交流型
    5. 読み比べ型
    6. ブックトーク型
    7. 調査読書型
  • イ 授業場面の紹介

<大蔵中学校の実践発表>

 家庭と連携しながら進める学力向上策を紹介した。各家庭に配付する「学習の手引」の中に、家庭学習の意義や取り組むに当たっての具体的な留意点を説明するページを盛り込み、家庭の学習環境を改善する働きかけを行ったものである。各学校が手だてに苦慮している、生活習慣、学習環境の改善に対する一つの事例として価値のある発表であった。概要については以下に示すとおりである。

1 校内における取組について
  • ア 学習意欲の持続、向上
  • イ 学力向上推進組織づくり
  • ウ 授業改善、指導の工夫
2 家庭との連携について
  • ア 学級通信等による情報発信
  • イ 学習の手引きの活用

(5)家庭・地域への働きかけ

 学校と家庭が連携して、学力向上に取り組むことの大切さについて、保護者等に広く発信し、理解を深めてもらう目的で、以下のような具体的な取組を行った。

1 家庭学習のススメ2(リーフレット)の作成

 「学力アップは家庭から」をスローガンに、学力調査と児童質問紙調査の結果を関連付けた資料を示す等、生活習慣や学習環境の改善の必要性を訴える内容にまとめた。平成20年4月に小・中学生の保護者へ配付した。また、各地域の市民センターや幼稚園児・保育園児の保護者にも配付した。
家庭学習のススメ2(リーフレット)

2 市民センターにおける出前講演

 リーフレットの配付等に加えて、教育委員会が積極的に広報活動を行うため、指導主事が、各地域の市民センターに出向き、近隣の小・中学校の保護者や学校関係者に対して、「学校と家庭で育てる本当の学力」というテーマで出前講演を行った。
市民センターにおける出前講演

 各会場とも、70~80名程度の参加者が集まり、講演後の懇談やアンケート内容からは、保護者の意識の変容がみられた。

6 学校改善支援促進事業について

 文部科学省が募集した学校改善支援促進事業に応募し、8月に選定された。
 北九州市検証改善委員会は、学校改善支援プランを、「北九州市の学力向上のための提言」という形でまとめ、教育委員会は、この提言を基に、以下のように、学校改善支援促進事業を展開してきた。
 基本的な考え方としては、これまで本市が取り組んできた学力向上のための施策の中で効果的であったものをさらに発展、充実させるとともに、今回の調査結果の分析結果を踏まえた新たな施策(「言葉の力」を高める等)を加えていくようにするものである。

(1)学力調査の結果を踏まえた学校訪問

 教育委員会は、各学校が自校の様々な課題に応じ、年度当初に策定した「学力向上プラン」の推進状況について、学力調査の結果を踏まえ、指導助言に当たる。また、指導主事が学校を個別に訪問して、学校と市教育委員会で課題の共有化を図った。

(2)学力調査の追加実施

 学力向上支援のための学校訪問を実施した学校に対して、観点別到達度学力検査の追加実施を行った。年度末に調査を実施することで、今年度の学力向上プランの効果を検証し、次年度に向けた指導方法等の改善計画を立てさせるようにする。また、これまでの成果が、客観的に捉えられることで、実施した学校にとっては、自校の取組の確かさを実感することができた。

(3)学力向上のための教材及び指導の参考となる冊子の作成

1 学力向上のための指導のアイデア2

 学校改善支援プランを具現化するために、本市が独自に取り組んでいる、「学びチャレンジプラン」の一層の充実を図るとともに、学力向上を効果的に進めるため、教師の指導力を高め、授業改善につながる資料を作成し、各学校に配付する。

2 音読・暗唱ブック

 「言葉の力」を高める教育を全市の小学校・中学校に意識付け、音読指導の内容を充実させるための音読・暗唱ブック(小学校1~4年用)を作成し、配付する。
 朝の活動や国語の学習の中で古典や、名文、漢文などの音読・暗唱を小学校低学年から継続的に実施することで、「言葉の力」を高めることを目指す。

3 学びチャレンジ学習プログラム2

 基礎的・基本的な内容の理解を深めるともに、児童生徒に読解力を身に付けさせるために、補充的な学習資料「学びチャレンジ学習プログラム2」を作成し、各学校に配付する。

学びのチャレンジプラン教師用指導資料「学力向上のための指導アイデア2」

  1. すべての学習活動で言葉の力を高めましょう
  2. 「言葉」を大切にした学級づくりをしましょう
  3. 各教科等の学習の中で言葉の力を高めましょう
  4. 「読書」で言葉の力を高めましょう
  5. 「音読・暗唱」で言葉の力を高めましょう
  6. 家庭でも「言葉の力」を高めるためのはたらきかけをしましょう。

(4)中学校教科別担当教員講習会の開催

 全国学力・学習状況調査や観点別到達度学力検査の結果から、課題が大きかった中学校数学と英語について、教科担当教員の指導力の向上を図るために講習会を開催した。指導方法の工夫、授業改善のポイントに関して優れた取組をしている学校が実践発表を行い、課題解決のための具体的な指導の手だてのヒントを、つかむことができるようにした。

(5)北九州市学力向上推進事業の充実

 北九州市学力向上推進事業指定校における研究内容の充実のために、各指定校の教員を学力向上策の成果を挙げている先進地域や、言語力の向上に取り組んでいる学校等の視察に派遣し、幅広く質の高い情報を得ることで、指定校の研究の厚みを増し、市立学校全体の質の向上を図ることができるようにした。視察で得た情報を、自校の今後の学力向上プランの推進に生かすとともに、全市に発信し成果を還元させる。

(6)「学校大好きオンリーワン事業」の推進

 本市小学校・中学校における教科等教育の研究拠点形成事業として打ち出した施策である。教科等教育における実践研究の推進と専門性の高い指導力のある教師の育成を図る。
 このことで、各教科のセンター校的な役割を果たす学校が生まれ、教育現場に直結した具体的な学校改善支援プランを長期的な展望に立って進めていく。
学校大好きオンリーワン事業

7 おわりに

 今後は、北九州市検証改善委員会の策定した学校改善支援プランの5つの提言を受け、教育委員会では、学力向上プロジェクトチームを結成し、「北九州学びチャレンジプラン」などこれまでの学力向上の施策を見直し、その一層の充実と「言葉の力」向上のための音読・暗唱活動の推進など早急な改善策の策定を図る。
 また、学校では、それぞれの課題に応じて策定した「学力向上プラン」の見直しや一層の授業改善、学力の基盤となる力の育成に取り組む。
 さらに、家庭や地域では、それぞれの役割を明確にして、子どもの生活習慣や学習習慣の改善を図る。
 このように、学校、家庭・地域、教育委員会がそれぞれの責任を果たし、互いに協力していくことを通して、「いきいきと学ぶ北九州の子ども」を目指し、「言葉の力」の育成と生活習慣、学習習慣の改善を2つの柱に、「北九州学びチャレンジプラン」の一層の推進を図り、長期的展望をもって、継続的で効果的な学力向上策に取り組んでいきたい。

-- 登録:平成21年以前 --