広島市の子どもたちに「確かな学力」を育むために

広島市検証改善委員会

はじめに

 本市においては、広島の子どもたちに、ヒロシマを受け継ぎ、地球的視野で考え、相互の基本的人権を尊重し、よりよい人間社会の創造に貢献し、国際社会に通用する人、地域で平和のために汗の流せる人になってもらいたいと願い、平成13年度から 「心身ともにたくましく思いやりのある人」の育成を基本理念とする広島らしい新しい教育を推進している。
 また、このような子どもたちを育てていく前提として、基礎的な知識・技能の一層の定着や思考力・判断力・表現力の向上など、基盤となる基礎的な学力の向上に努めている。

1 検証改善委員会の体制について

 広島市検証改善委員会は、広島大学大学院小原友行教授を委員長として、広島市教育委員会学校教育部指導担当部長をはじめとする行政関係者4名、公立小・中学校の校長4名を委員とし、指導主事3名を事務局員として構成する委員会である。
 本委員会は、8月に第1回の会合を開催し、3月までに合計4回の委員会を開催し、調査結果の分析を行った後に、課題解決に向けた提言として、学校改善支援プランをまとめた。

2 学校改善支援プランの概要

 全国学力・学習状況調査の調査結果を見ると、本市の児童生徒の各教科の平均正答率は、全国平均と同程度かやや上回っているものの、B問題では、平均正答率60パーセント未満の児童生徒の割合が高いことなどから、小学校、中学校の国語、算数・数学のすべてにおいて、知識や技能を活用する力に課題があるという結果が見られた。
 これらを受け、広島市検証改善委員会としては、課題解決に向けての以下の6つの提言を行い、学校改善支援プランとしてまとめた。

  • (1) すべての教科で、調べ・考え・表現する授業の実践
  • (2) 実態を踏まえ、PDCAサイクルを生かした取組
  • (3) 校内研修会の工夫・充実
  • (4) 生活習慣や学習習慣の改善・定着
  • (5) 「ひろしま型カリキュラム」の推進・充実
  • (6) 少人数教育の推進・充実

3 全国学力・学習状況調査の結果分析について

 本市の全国学力・学習状況調査の結果について、検証改善委員会で分析を行ったところ、以下の点が明らかになった。

(1)各教科の調査の結果から

  •  広島市の児童生徒の各教科の平均正答率は、全国平均と同程度かやや上回っている。また、正答数の分布状況についても、全国とほぼ同様の状況である。
  •  A問題については、小学校の国語、算数、中学校の国語において、平均正答率が80パーセントを超えており、相当数の児童生徒が今回出題されている学習内容を概ね理解していると考えられる。中学校の数学においては、基礎的・基本的な知識や技能を更に身に付けさせる必要がある。
  •  A問題と比較すると、B問題の平均正答率が9.9パーセント~18.5パーセント低くなっていることや、正答数の分布状況を見ると、平均正答率60パーセント未満の児童生徒の割合が高いことなどから、小学校、中学校の国語、算数・数学のすべてにおいて、知識や技能を活用する力に課題が見られる。
  •  問題形式別では、記述式の正答率が低く、この傾向は、算数・数学において顕著である。
  •  国語では、複数の資料を比較して共通点や相違点を整理した上で、自分の考えを表現することや、与えられた条件に沿って書くことなどに課題がある。
  •  算数・数学では、問題解決に必要な情報を整理・分類することや、解決の過程を式や言葉で表現し、根拠を明確にして説明することに課題がある。

(2)質問紙調査との関連から

1 児童生徒質問紙調査の分析から

 児童生徒質問紙調査と各教科の正答率との関連を見ると、次のような質問について肯定的な回答をした児童生徒の方が、平均正答率が高い傾向がある。

◆ 学習に対する関心・意欲・態度
  •  2つ以上の資料や文章を比べて読んだり調べたりしている。
  •  自分の思いや考えを書くことが多い。
  •  学習したことを普段の生活の中で活用できないか考える。
  •  分からないときは、あきらめずにいろいろな方法を考える。
◆ 自尊意識・規範意識
  •  「自分にはよいところがある」「学校のきまりを守っている」など、自尊意識や規範意識が高い。
◆ 基本的生活習慣
  •  「朝食を毎日食べている」など、基本的生活習慣が身についている。
◆ 学習習慣・読書習慣
  •  「家で学校の宿題をしている」「読書が好き」など、学習習慣や読書習慣が身についている。

2 学校質問紙調査の分析から

 学校質問紙調査と各教科の正答率との関連を見ると、平均正答率の高い学校は、次の項目の指導等をよく行っている傾向がある。

◆ 国語科の指導方法
  •  家庭学習の課題(宿題)を与えた。
  •  書く習慣を付ける授業を行った。
  •  様々な文章を読む習慣を付ける授業を行った。
◆ 算数・数学科の指導方法
  •  補充的・発展的な学習の指導を行った。
  •  家庭学習の課題(宿題)を与えた。
  •  実生活における事象との関連を図った授業を行った。
  •  計算問題などの反復練習をする授業を行った。
◆ 個に応じた指導
  •  習熟の遅いグループに対して少人数による指導や個別指導を行い、習得できるようにしている。
  •  習熟の早いグループに対して発展的な内容の指導を行っている。
◆ 教員研修
  •  学校でテーマを決め、講師を招聘するなどの校内研修を行っている。
  •  基礎学力の定着について、研修を行っている。

4 学校改善支援プランについて

 3で述べた課題の把握及び要因の分析に基づいて、課題解決に向けての教員・学校・家庭による学習指導改善の具体的方策を提案するとともに、それを支援する教育委員会の重点施策の重要性について提言を行っている。

【課題解決に向けての6つの提言】

授業改善に取り組みましょう

(1)すべての教科で、調べ・考え・表現する授業の実践

 思考力・判断力・表現力を育むためには、観察・実験やレポートの作成、論述といったそれぞれの教科の知識・技能を活用する学習活動を重視することが大切です。
授業改善に取り組み

組織として学校全体で取り組みましょう

(2)実態を踏まえ、PDCAサイクルを生かした取組

 子どもたちの力を育むためには、個々の教師の力量を高めるとともに、組織として学校全体をあげての取組が大切です。
 全国学力・学習状況調査や「基礎・基本」定着状況調査等を、学校経営計画や学校評価の中に他の指標や評価計画と関連づけながら適切に位置づけ、PDCAサイクルを生かして取り組みましょう
PDCAサイクルを生かした取組

(3)校内研修会の工夫・充実

 学校力・教師力を高めるためには、校内研修の改善・充実が重要です。学校組織には「学級の壁」「学年の壁」「教科の壁」ができやすい傾向があるといわれています。教職員が共通のビジョンのもと、協働して課題解決に当たるために、校内研修の改善・充実に取り組みましょう。
校内研修の改善・充実

家庭と連携して取り組みましょう

(4)生活習慣や学習習慣の改善・定着に取り組みましょう

 「早寝早起き 元気なあいさつ 朝ごはん」運動や生活リズムカレンダーなどを活用し、家庭と連携して子どもの生活リズム・学習リズムの改善・定着に取り組みましょう。

教育委員会の重点的な施策・支援

(5)「ひろしま型カリキュラム」の推進・充実

 「ひろしま型カリキュラム」は、本市の学校教育の課題である、基礎的な知識・技能の一層の定着と思考力・判断力・表現力の向上を目指すものであり、その編成の基本方針として、1小学校と中学校の連携・接続の改善、2「言語・数理運用科」の創設、3小学校英語科の創設の3点を掲げています。

(6)少人数教育の推進・充実

 少人数教育推進のための段階的プラン」は、児童生徒の発達段階を踏まえて、義務教育9年間を見通した少人数教育による個に応じたきめ細かな指導を進めることにより、基本的な生活習慣の確立と基礎・基本の学力の確実な定着を図り、個性や能力を伸長する教育の充実を目指しています。
 平成20年度からは、段階的プラン(第1期)として、小学校1年生から中学校1年生の学年に、順次35人以下の学級を導入します。

【少人数教育のよさを生かした指導方法の工夫】

5 学校改善支援プランを受けた取組について

 4で述べた学校改善支援プランについては、調査結果の分析等と合わせた報告書を全校に配付するとともに、その概要をまとめたリーフレットを全教員に対して配付し、周知を図った。
 また、教育委員会としては、指導主事、校長、教務主任等を対象とした研修会をそれぞれ開催し、学校力・教師力の向上に向けた取り組みを進めるとともに、指導主事の学校訪問指導等により、各学校の取組を支援していく。
 また、学校改善支援プランを踏まえ、「ひろしま型カリキュラム」の開発や少人数教育の推進を重点的施策とし、取り組みを進めていくこととしている。

6 おわりに

 学力向上への近道はないが、力のある教員がしっかりと子どもたちに向き合って丁寧に良い授業を積み重ねて行くこと、それを可能にする学校・家庭・地域の連携とそれを支援する教育委員会の施策は、普遍的に大切なものであると考える。
 学校改善支援プランにまとめた7つの提言に基づき、教員、学校、家庭、教育委員会において、広島市の児童生徒に「確かな学力」を育むための取り組みが推進されることを期待したい。

(参考)

-- 登録:平成21年以前 --